TURMA DA TOUCA
  サンパウロのこどもたちと
    私たちを結ぶ糸



 サンパウロ市のカンポリンポ区。貧しい住民が多く、犯罪も多いこの地域に、トゥルマ ダ トウカ(TURMA DA TOUCA=帽子の仲間)という名前のグループがあります。1974年に、スタートし、現在は7つの保育園を中心に、学童保育、文化・スポーツ活動、職業訓練、成人教育、地域福祉などの活動をしています。



劇団sei:TURMA DA TOUCA 公演
日本の劇団が
  こどもたちに芝居をプレゼント

劇団sei 安藤



日本ブラジル修好100周年の去年、小さな日本の劇団がブラジルへ渡り、多くの舞台で「わんぱく天使」−ブラジルの貧しい少年「ゼゼ」の物語−を日本語とポルトガル語で演じました。そしてこの劇団が トゥルマ ダ トウカの講堂で、つまり「本物のたくさんのゼゼの前で」この芝居を演じたのです。劇団のブラジル公演の報告書の中から、一篇を紹介します。



 ブラジルでの思い出は、きっと語り尽くすことは出来ません。その中の一つカンポリンポで素晴らしい体験をしました。

 そのカンポリンポとは、ファヴェーラという所があって、そこは貧しい人達が多く、一日の食事も満足にとれないというような子供たちがたくさん住んでいるのです。その子供たちが1000人以上も小さな劇場に集まってくれました。

 始めは、まずまず乗りがいいかなという期待を持ちながら舞台にあがったのですが、芝居が進むにつれてなんだかとんでもない状態になっているのに気付きました。子供たちが芝居に飽きてしまって、芝居そっちのけで遊んでいるではないか。劇場が遊戯場と化して、その騒々しさときたらもう芝居どころの騒ぎではない。役者同士も相手のセリフが聞き取れない程で、こんな事は初めてでした。舞台監督や照明さん、音響さん達も悪戦苦闘しているのが分かりました。役者もかなり参ってました。流石にもうだめだ、これ以上続けられないとめげそうになったその時、一番前で観ている一人の子供に目をやると、その子は目を輝かせ、身を乗り出し舞台にかじりついて観ているのです。「あっ!」と思いました。その隣の子を見ると、その子も同じように、そしてその隣の子も、よく見ると最前列にいるほどんどの子供たちがみな真剣に観てくれているのです。その子たちの澄んだ大きな瞳を見た瞬間「よし!やるぞ」と心から思いました。僕はこの子のために演じるんだと、すぐ目の前にいるこの子たちのために。

 役者とはどんなことがあっても途中で芝居を投げ出してはいけない。一人でも観てくれる人がいる限り、と。自分では分かっているつもりだったのに、それがどういう事なのか、今正にそれを体験し実感したのです。それを教えてくれたのは、ブラジルのカンポリンポのファヴェーラのあの子供たちなのです。

 芝居が終わると子どもたちが楽屋の回りに集まりサインを強制するのです。その子たちは、紙やペンなど高価なものは無論持てず、故にその手を示してここにしてくれというのです。その手にサインをしてあげると、それをもう片方の手で大切そうにしっかりと握りしめて帰って行くのです。その姿はなんだかもの寂しくも感じました。でも貧しくても心の豊かさを感じたのも確かです。一人の少女が一輪の野花をプレゼントしてくれました。その花を胸に付けて見せるとその子は照れくさそうに笑ってました。その心のこもった一輪の花はどんな高価な花束よりも僕にとっては、すばらしくありがたく、嬉しいものでした。

 僕はあの芝居で子どもたちからエネルギーをもらい、信じることを教えられたように思えます。正に心で感じた体験でした。あの事がこれからの僕の人生に生きる大きな糧となる事と思います。




プラッサへのご質問、お問い合わせ
および入会・購読を希望される方は
ここからどうぞ


praca@jca.ax.apc.org