日本で働く出稼ぎ外国人は沢山いますが、なかでも日系ブラジル人の間で多く見られるのは、親についてきて一緒に働く子どもたちがいることです。15才を過ぎていれば合法的に働けるため、家族総出で移住してくる日系ブラジル人は今や日本各地でコミュニティを築く程大規模なものとなっています。
それに加え、義務教育の年令で日本にきた子どもたちは日本語の全くわからない状態で小学校に(しかも年令と一致しない学年に)入学することになります。彼らのなかにはそのまま日本に住み続ける道を選ぶ人も増えてきています。この様な状況の中で日本で暮らし始めて5年になる浜田マリエさん(20)に日本の生活についてのお話を聞いてみました。
日本へ来て
― マリエちゃんのこと、まず。小さい時から働いていたんだっけ。
マリエ そうですね。5才のときから家の仕事とか手伝って。
― 小学校入る前ですよね。私が小学生ぐらいのときは、うちの母が働いていたから、お手伝いしたりお掃除したりしていたけれども、今の子どもたちはぜんぜんやらない。育てかたが悪かったかなぁと思って。
マリエ 今、若い人っていうか、わたしも若いんだけど、なんかねぇ昔より変わりましたよね。お母さん一人で頑張って、子どもたち手伝ってくれないからね。遊びばっかりやりたいみたいで、妹とよく話するんです。学校休みのとき、遊びに行って、お母さん家の掃除とか一人でやって、妹、帰ってきたから、「ずっとそのままではだめだよ。君ももう15才だからお母さんのこと少し手伝ってあげたら」って話したの。妹そのまま部屋行ったんですよ。次の日ね「やっぱりお姉ちゃん、そう思う」って。「当たり前でしょう。お母さんだって仕事してるから可哀想じゃん。疲れてるから」「そうねー」って。次の日家はきれいになってる。やっぱりお話するといいですね。妹はいい人だから、お話すればなんか変わる。
― お姉ちゃんのこととても信頼してるんですね。後ひとつはおたがい、相手をとってもほめるんですよ。本当に。日本人だと逆に謙遜してしまうけど、ね、とってもいい妹だし弟だしっていうふうにね。それは本当に日本人は見習わなければならないと。
マリエ 1年のときは「お姉ちゃんお母さんよりうるさいじゃない」って。「だって本当のことだけしか言わないでしょ」っていうと、「そりゃそうだけど」って。だから「黙って聞きなさい」って言うの。でもお話すれば解ってくれるし、それが一番いいことだし。
― やっぱり、長女で一番上で妹と弟が4人もいると大人になっちゃうよね。
マリエ そうですね。ちっちゃい頃から大変だったから。
― 世話を、別にしなさいって言われてるわけじゃないんだけど、やっぱり面倒見ちゃう訳ね。マリエちゃん、15才の時日本に来たというと、もう5年になるけど、ブラジルににいたときは普通に学校に行ってたの?
マリエ はい。普通の学校。日本語は、公民館みたいな所によく行ってたんだけど、やっぱり、なんか自分だけ違う言葉話しても意味がないなぁって感じて。だからそこはやめて、ブラジルの学校だけ行ったの。皆日本人だったんですよね。
― お父さんが行けって言った訳じゃないですよね。
マリエ 自分で行きたいから。けどやっぱり、行ったらなんか、やっぱり意味がないって感じだったんですよね。もし日本に行ったら向こうで勉強すればいいと。
― 皆で日本に行こうかとお父さんが言ったのは、結構前から?突然だった?
マリエ お父さんね、私たちが小さいときは日本行かなくてもいいと思ってて、だから勉強もやりたくなければ別にやらなくたっていいって言ってたんだけど、考えが変わったみたい。日本に行く人は多かった。近所でも。
― 日本に来るって決まった時、行きたくないなぁってことはなかったの。
マリエ 自分で、ここでやることないから・・・。学校だけしかないから。今ブラジルでも、仕事してない人多いんですよね。仕事ないからね。
― 学校とか出てもね。
マリエ 最後まで勉強してもね、今の人、例えば学校の先生とか病院の先生になっても、仕事探してもなかなかないんですよね。学校はあっても、やることないし、日本で何とかやってみようかなと思って・・・。で、来たら、うん、やっぱり来てよかったなぁって感じ。
― 家族全員で来ることができたしね。
マリエ むこうはいい所なんだけど、仕事があればいいんだけど、ないからなぁ。けど、うん、とてもよかったと思います。日本来て。自分は遊びばっかりだと思ってたけど、やっぱり来てからなんか、そういうことじゃないから少し頑張らなくちゃなぁって。ずっと遊びではいけないから、仕事もしなくちゃ。やっぱりなんか、仕事やってからなんか、自分がなんか変わるんですよね。なんか大人になった感じ。なんか子どもじゃない。
日本っていい国?
― 日本に来て、会社で働いて、いろんな人がいたでしょ。嫌なこととか。
マリエ 「悪い人」がいなくても、いけないと思います。会社でもほら悪い人も、いい人もいるでしょう。けど、やっぱり皆いい人だったら、仕事にならないんですよね。ほら、お話とかばかりして。いい人のときね、なんかずっと近くにいるとなんか仕事にならなくて、お話ししたいとか。けど、悪い人ってずっとこのままではいけないなぁといって、ほら、そういう人から見たら真面目にやらないとって。あっそれは悪い人と言わない?
― 厳しい人ってことね。
マリエ 厳しい人がいればいいと思う。べつにいろんな人がいる、いろんなこと考えてるひと。悪い人。「オーム」の人。みんな生きていたいのに、なんでそういうことするのかなって。私、そういう人は本当に悪いって思う。
― 信じられないよね。
マリエ なんかね、日本来た時ね、悪い人ないなって思ったんですよね。でもそれ見たらやっぱり何処でも同じだなと思ったんですよ。ブラジルだけじゃなくて、アルゼンチンや何処でもそうですよね。けど、ほらブラジルよりこっちのほうが、安心じゃないですか。
― そうだけど、でも、あるんだなぁ。ただやっぱり銃とか少ないからその分は。だけど何処も一緒だよね、やっぱり。
マリエ そうですね。
仕事、学校、家族
― 妹さんのカズエちゃんは15才で今中学校3年生だよね。学校楽しいって?勉強は大変なのかな?
マリエ いや、今はそんなことないですね。覚えてから面白くなったみたい。
― 高校には進学するの?
マリエ 高校生に、高校に入りたくないって言ったんですよね。お父さんは別に入らなくてもいいよって。入りたくないのは別にいいんだけど。自分で、いいんだと思ったら。
― じゃマリエちゃんにしてみれば、カズエちゃん高校行った方がいいなぁって思う?
マリエ 私は、行ったほうがいいと思ってるんだけど、やっぱり、ね、自分で行きたくなきゃ、勉強にならないんじゃないんですか。やっぱりやりたいことは自分で気持ちを持たなければ。行ってもしょうがないんですよね。ただお金もったいないだけっていう。行きたい気持ちがあれば、行ったほうがいいんじゃないかな。それがないなら、行かないほうがいいと思う。妹は、高校にもし入るんだったら、アルバイトやりたいって言ったり、やっぱり入らないで、仕事した方がいいかなと思ったりしてるみたいだけど、「君さぁいま仕事してないから、そういうこと言うけど、仕事始めたら、やっぱり高校入った方が良かったんじゃぁないかって思うよ」って言ったの。仕事は大変ですよ。「けどおねえちゃんいつも元気だ」って「面白いんじゃないかな」って。けど、面白くないよ。でもずっと大変大変って、家に帰っても怒ったままじゃいけないでしょう。会社のことは会社のこと。家に居るときが一番いいと思うから。家族と一緒だから。面白いこと話したりして。
― 今お父さんは一緒に住んでるの?
マリエ 千葉に勤めてて、毎週土曜日来てるんです。お父さん大変だけど、お父さんもやっぱりあっちのほうが仕事いいってと思っているから、別に一番いいとこにしたほうがいいんじゃない。お母さん、いつも「ね、お父さん、こっちに一緒に来ればいいんじゃないですか」っていう。大変な仕事だけど、やっぱり好きならいいんじゃいかなぁと。好きなことやればいいんじゃないかなぁと。
― そうだね。
マリエ それで、幸せだといいんじゃないかと。やっぱり、人間ってさぁ、やりたいことやればいいと思う。やりたくないなら、ただ時間もったいないだけじゃないかな。別に幸せになるためにだったら、なんでもいい。
― じゃぁ、土曜日の夜とかは楽しみね、いつも。みんな揃うもんね。
マリエ はい。お父さん毎週土曜日帰ってくるんですよね。でも、次の日の日曜日もたまに仕事あるんですよね。で、土曜日こないと、そういうときね、なんか土曜日じゃないって感じですよ。妹なんか、テレビ見ながら「えー、お父さん来なかった土曜日じゃないって感じ」って。やっぱり。やっぱりそうだなぁって感じで。
言葉が通じない「学校」で
― 学校の先生とかもいい人なの。
マリエ はい。始め、入ったときね、広島先生って人、とても優しかったですよ。妹も、そういう先生だからよかったと思って。だからすぐ、勉強覚えて、言葉とかも。むこうから来て、すぐ言葉わかんないから、本当に優しくしてくれたんですよね。ゆっくり話して、わからない時は、絵で描いて、これはこうって、ね。
― カズエちゃんとか、てる君とか、始め来たときは日本語よくわからなかった?
マリエ 全然わからなかった。だからたまに学校行きたくないときもあったんですよね。「なんで」って言うと「もう全然わかんないから」って。「だってわかるために行くんでしょう。勉強しなければわかる訳ないんですよ」って。一番弟の、てるひこ君なんか始めっから行きたくないときもあったみたい。「何もわかんないから行きたくない」って言ったの。けどねー、「行かなくちゃね、ずっとそのままだよ」家じゃ、ポルトガル語だけ。だから、覚えるために。今は、みんな、日本人と話すときも大丈夫。やっぱり、学校行ってよかったと思ってるんですよね。でも、ポルトガル語は少しずつ忘れていきますね。テレビを見るとき、ニュースとか、お母さんは全然わかんなくて、「てるちゃん教えてー」っていうと「えーとね、お母さん、日本語で全部わかってるんだけど、ポルトガル語で答えるの大変だよー」って。
― 小学校の低学年で、ポルトガル語でも難しい言葉っていうのはまだ、使ってない年頃で日本に来ちゃってるからってのもあるんだろうね。
家族と故郷
― マリエちゃんの場合には、ブラジルっていうのが自分の国でしょ。
マリエ うーん、そうですね。
― やっぱり日本にいるっていうのは、こう、仮に来てるっていう感じ?
マリエ けどね、私来た時なんかここ私の家だなぁって思ったんですよ。私やっぱり何処でもいいっていうかな、向こうでもいいし、ここでもいいし。けど、向こうはほんとに大事。私、向こうで生まれたから。みんなね、言葉少しずつ忘れてくるんだけど、やっぱり生まれた所は忘れないんじゃない。ね、故郷(ふるさと)だから。今、知ってる人はねぇ、皆、早くお金作って帰りたいって。やっぱり、家族みんな向こうにいるから。家族と一緒にいたほうがいい。でも、家族で一緒にいるときに、けんかもあるし、やっぱりちょっと、お父さんとお母さんと一緒にいたくないってたまに思うんですよね。だからやっぱりたまに別れたほうがいいんですよ。それで、わかるんですよ。お母さんの言ってることが、私たちのために、幸せになるために、そういうこと言ってるって。だからそれから、お父さんとお母さん大事にすると思う。そうじゃなくちゃ、ちょっと大事にしないと思う。ずっと一緒に近くにいるから、大丈夫と思うから、やっぱり少し別れて、それで大事にした方がいいと思う。やっぱり、お父さんとお母さんと、大事にしなくちゃなぁと思うと。
― マリエちゃんの家族はみんなずっと日本にいてくれるといいなぁ。
マリエ そうですねぇ。でも、お母さんは帰りたいから。私は、お母さんがいるから大丈夫だって思うけど、お母さんは、自分の家族は向こうにいるからやっぱり寂しいんじゃないですか。子どもたちもいるんだけど、やっぱり。自分のお母さんとお父さんは生きているから、もうちょっと一緒にいたいんじゃないかなと思って。それもわかってくるんですよ。でも、私は帰りたくはないから。やっぱり人が、結婚するときなんか、やっぱり一番大変なときがくるんじゃないかな、家族と別れて新しい家族つくるために、お母さんとお父さんと別れて、それが一番、悲しいっていうか。けど、しょうがないかな。子どもと親、ずっと一緒じゃないから。もし、ずっと一緒だったら何にもできないからね。
― 今日はマリエちゃんに会えて嬉しかった。
マリエ 私も。
― マリエちゃんみたいに、そうやってすごく積極的に日本人と友だちになりたいって思わない人もやっぱりいるんだよね。きっと、マリエちゃんと同じぐらいの年の女の子とか、男の子だったら、来た時19才とか20才だと、すぐ働きだしちゃって、働いた所にブラジル人しかいなかったりするとね、ぜんぜん日本人と友だちになろうとか思わない人もいるのね。私から見ると、それってすごくもったいないような気がするのね。言葉は難しいかもしれないけど、話するだけで、いろいろとね、友だちになれるじゃない。日本人の方にも問題あると思うけど。
マリエ それで勉強になりますよね。
― うん。いいなぁって思う。
(聞き手:プラッサ)
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