前号「ブラジルの路上の子どもたち」で紹介しました地域プロジェクト「EMAUS」のニュースレター「AEN NEWS」創刊号が編集会に届きました。プラッサ呼びかけ人である冨田さん(サンパウロ在住)が昨年暮ブラジル各地の地域プロジェクトを訪れ、その際、「EMAUS」のニュースレター発刊を知り、定期購読の申し込みをおこなってきました。このプロジェクトはブラジル北東部にある都市ベレンにおいて、ブルーノ神父を中心に、ストリートチルドレンの路上生活からの保護と教育活動を行うとともに、世界へ向けての情報の発信も計画しています。「AEN NEWS」はそうした計画の一環として発行されました。ブラジルからの貴重な情報として、邦訳を掲載します。
《貧困と希望の狭間で》
ベレンの都市周辺部は、都市化によって人口が更に集中している。これらの地域は保健衛生サービス等生活必需インフラが未発達な地域である。段ボールとプラスチックでできたバラックのひしめきあう空間で、大人も子どもも明日を生きぬくため試行錯誤しながら日々生活している。しかし、貧困な生活環境にもかかわらず、住人たちは未来に対する希望を持ち続けている。
都市周辺の人口は増加する一方であるのにもかかわらず、それに対する基本的な生活基盤を供給する都市化計画が不完全なままなおざりにされている。狭く不衛生なバラックに大家族が肩を寄せあい生活している。問題とされるのはどの場所でも共通している。保健衛生設備・学校・警察の取締・保健所などの不足等である。新しいスラム地区の出現は、貧困と、ブラジル全土を襲った経済危機の結果である。多数の人々が小さいバラックで電気設備も水道もゴミ処理設備もないまま生活している。水は、井戸から供給するが、大抵それは下水の近くにあり不衛生である。
人々が、このような厳しい貧困以外に抱えている大きな問題が、暴力である。盗難などの犯罪を恐れて、7時を過ぎると誰も外に出ることはない。去る11月、モデーロ地区は恐怖に満ちた一夜を過ごした。麻薬取引で指名手配中だった4人の男が警察によって殺害された。現場を9台の車両が取り囲み、警察の放火から身を守るため住民は3時間ほぼ軟禁状態を強いられた。マリア・ロペス・ドス・サントスは、銃弾戦の全てを証言している。夫と子どもと床に伏しながら、隣の家で起きている窃盗犯と警察の会話を聞いていた。今でも、あの惨事を思い出すと恐怖に襲われるという。「最近、ぐっすり眠れないんです。少しでも喧騒が聞こえると、誰か家のなかに入って来るんじゃないかと思って。殺されるかもしれないと思うと恐くてたまりません。」更に悪いのは、地域内のどこにでも暴力があることだ。バスに乗るには、30分も暗い道を歩いて行かねばならない。バス停までの道は、殺人や恐喝の危険が満ちあふれている。3人で危険な通行路を歩行中、何人かのグループに囲まれ、縛られたうえ、持ち物を全て盗まれるという事件は、よくある話である。
《路上の労働者》
ベレン市街の大通り、公園、盛り場で路上の労働者が増加している。アイスキャンディや紙袋、野菜などあらゆるものを売って生活している。その中で、独自の活動を展開している「芸術教育者」と呼ばれている人々がいる。彼らは労働せざるを得ない子どもたちの現状に問題意識を持ち、路上に遊び場を設け、ゲームや様々な活動を広げ、労働するには苛酷な年令の子どもたちが本来あるべき姿に戻れるように手助けをしている。これらの活動を通して、芸術教育者であるヴァニアは路上生活をする子どもたちの可能性を認識するようになった。
夜10時。ベレンの代表的な大通りの一つであるアルミランチ・バローゾには、段ボールを布団代わりにし、歩道で眠っている何十人もの子どもたちがいる。次の日もまたその次の日も、彼らはそこにいる。その情景は衝撃的なものであるにもかかわらず、既に日常的なものと化し、人々は何も感じることなく路上を行き来している。
1月4日、8時。ヴァニア・バルボーザは仕事を開始した。4ヵ月前から路上で芸術教育を行なってきたヴァニアは子どもたちについて語るとき感動せずにはいられない様子である。「路上で生活する人々は、暴力に慣れており、麻薬は現実的なものであり、秩序が存在しない社会のなかで毎日を過ごしている。このことは決してこのまま放置してはいけない社会問題である。」と彼女は断言する。困難を伴いつつも、彼女の活動は子どもたちに対し良い影響を与えており、何人か路上から家に戻ったケースもあるようだ。子どもたちに近付き信頼されるようになるため、芸術教育者は路上において、ちょっとした劇や、遊び、ゲームなど様々な活動を行ない、子どもたちが希望や夢のあふれる時期である「幼年時代」を取り戻せるよう試みている。路上で生活する子どもたちは束縛されることを嫌うので、何か活動をするために集まらせることが困難であることが多い。70人の子どものうち2人だけが路上の生活から脱したことを、彼女は大きな成果だという。大切なのは人数ではないと考えているからである。
苦しみ、衝突、絶望に打ちあたるとき、いつもその原因をつきとめる。「この衝撃的な現実こそ、路上教育者の活動を支える原動力となるのですから。子どもたちの可能性と、この仕事を続けることによって得られる喜びが私の支えです。」
《アルコール中毒》
大都市では、バー、飲み屋やディスコ等において青少年が飲酒することはアルコール中毒に繋がることであるとして問題視されている。「一種無害と思える一杯のキューバ・リブレ(ラム酒をコーラで割ったカクテル)が後にアルコール依存症を招くこともある。」と、青少年がアルコール依存症を克服できるよう活動している団体は断言する。法律で禁止されているにもかかわらず、アルコール飲料はあらゆる監視を逃れて販売されている。
少年少女が、そのような場所でラップ、レゲエやハウスミュージックのリズムに酔っている情景は日常的なものである。ラム、ウォッカ、ビールの一杯が更に楽しい一夜を約束してくれる。この様にして12才から18才の青少年はアルコール中毒への一歩を踏みだしてしまう。青少年の飲酒経験率は、99.9%という悲劇的数値を示している。暴力・窃盗・殺人といった犯罪はアルコールの過剰摂取とドラッグの併用、さらには薬品成分が相乗効果を与えるなどして起こることが多い。「ベレンにおける暴力団体の活動は縮小傾向にあるにもかかわらず、アルコール過剰飲用による犯罪は増加する一方である。」と、警察署長のパトリシア・ミラーリャは嘆息する。
青少年のアルコール飲用が問題化されてきたのは、今に始まったことではない。ジョゼ・S.D.は8才の頃からワインを飲み続け、青少年期から成年してからもずっとアルコールに依存した生活を送ってきた。30年の年月を経て彼は、家族と仕事、経済保障と愛情を失った。現在彼は43才で、「アルコール依存症から自立する会」のおかげでアルコール中毒が病気であることに気付いた。宗教も、社会的財政的地位も、職業も、政党も、「アルコール依存症から自立する会」においては何の意味も持たない。人々の生活にアルコールが及ぼしている影響は同じである。友人の支援、仕事、希望を失ったことの無いものは一人としていない。マルコス・B.F.は20才であるがアルコールが引き起こす様々な症状(健忘症、めまい、痙攣、暴力事件など)について熟知している。マルコスは14才の時、好奇心と友人に誘われて飲酒を始め、18才の時授業と働いていた場所から逃げ出して友人と飲酒に耽っていた。「ある日、家に帰って窓ガラスを始めあらゆるものを壊したことがある。あの時の自分は、人間不信の固まりだった。次の日目覚めた時は何も覚えていなかったが、腕は傷だらけだった。」
現在アルコール依存症に苦しむ青少年の比率は、最高値を示している。「アルコール依存症から自立する会」は、年長者のためだけでなく青少年、女性など全ての人々に対し開かれている。この様に多発する犯罪の原因となっているにもかかわらず、公共機関は違法なアルコール飲料の販売を厳しく取り締まる活動が緩慢なため、アルコールは一種の自由に摂取できるドラッグと化している。ベレンでは、警察がバーなどにおいて違法なアルコール飲料販売をしていないか巡回している。年少者に対するアルコール飲料の提供はもはや日常と化してしまっている。アルコール飲料摂取が青少年に悪影響を与えることすら忘れられているのが現状である。
《その他情報コーナー》
☆論点
労働省と労働検察局長は、14才以下の子どもを「教育的側面を持つ労働」という形で労働者として認定する許可の緩和策を検討している。労働検察局長、ジェファーソン・L.P.コエーリョは、現在ベレン・フォルタレーザ・カンピーナスにおいて社会プログラムに参加している15,000人以上もの子どもが今この時も路上に蔓延している状況を説明し、この緩和は必要だと述べている。これらの地域で地域検察局は子どもたちが現在教育的効果なしの労働を強いられているとの報告を受けている。検察員であるジョアン・P.F.パッソスは「ブラジルが国家としてこれを認めることは国際的な児童労働の承認という問題に絡んでくる」という理由により否認の意向を示している。現在、労働検察局にはブラジル全体において14才以下の子どもを雇用している会社・団体に対し抗議している4つの市民活動団体がある。
(Gazeta Mercantil-SP)
☆ニュース
ニューヨークやモスクワなど世界の様々な地域から、インターネットを通してリオの子どもたちにアクセスでき、援助もできるというシステムが現在開発されている。このプログラムはリオデジャネイロ連邦大学と裁判所付設情報課の共案によるもので、青少年の生活状況についての情報を提供する。興味を持った人はネットを通して写真を見たり子どもの生い立ちを知ることができる。又、今まで調査がなおざりにされてきた行方不明になった子どもたちの資料なども情報として流す予定である。
☆開発
14才以下の400万人のブラジル人の労働に従事する子どものうち70%が法律に定められている基準に反して、1/2の最低賃金しか受け取っていないことが報告された。その他の30%は、市場においては事実上の無報酬労働を強いられている。これらのデータは、子どもの権利協会のアブリンク基金による調査で明らかにされた。
IBGE(ブラジル地理統計院)の調査によるとブラジルでは10才から17才までの子どものうち750万人の子どもたちが働いており、国内労働者数の約11.6%を占めている。その内70%が最低賃金の半分しか受け取っていないことになる。未成年労働問題を解決するために、アブリンク基金は2年前に「エンプレーザ・アミーガ・ダ・クリアンサ(子どもの友だちの会社という意味)」プログラムを設立した。
※ 訳注: 「エンプレーザ・アミーガ・ダ・クリアンサ」は正当な賃金や雇用保険を受けられない子どもの労働状況を解決するために、子どもたちが学校へ行けるように、又、将来の仕事に役立つような職業訓練が受けられるように国内の様々な企業に呼び掛けている団体である。企業が学校の建設や維持、子どもに対する職業訓練を正式な形で運営するように働きかけ、またそれらの活動を通して「児童労働問題」に対する意識を養うこと、更に子どもに権利と未来を保障することを目的としている。
〈訳者あとがき〉
「児童労働」は、国際労働機関(ILO)条約138号により禁止されています(ただし15才未満)。しかし、ブラジルのようにこの条約を批准していない国においては当たり前のこととして子どもが働き、更に政府の法律的対応が曖昧なため無報酬であったり強制的な雇用形態が横行しているのが現状となっています。本来遊び盛りの子どもたちが家庭の経済的な原因によって働かざるを得ない社会状況はもちろん深刻な問題ではありますが、かといって児童労働を即禁止し、全ての子どもを学校に入れることが唯一の解決方法なのでしょうか。次号以降、児童労働についてプラッサの紙面上で考えていきたいと思っています。皆様のご意見をお寄せください。
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