Vuela!
とんでごらん!
ストリートチルドレンと過ごした夏



文:工藤律子
写真:篠田有史
発行:JULA出版局
定価:1850円



 豊かさに慣れてしまった私たち日本人とって、ストリート・チルドレンの問題は言葉としての理解のみになりがちでしょう。終戦直後、「浮浪児」と呼ばれていた子どもたちが存在していたことも、私たちは忘れてしまいがちです。若い世代にとっては、その事実すら想像することもできないでしょう。全く異なった困難な環境の中で生活せざるをえない子どもたちと理解しあうということの難しさ。しかしそこで立ち止まっては、私たちは何も見ることができずに過ごすことになります。「とんでごらん!―ストリートチルドレンと過ごした夏」は、私たちが共通の問題として、ストリート・チルドレンたちと向合うための一つの方法を示してくれていると思います。

 日本人の高校生サトルくん。その彼が、夏休みを利用して、父親の任地メキシコへ旅行します。そこで出会ったのがバスターミナルを生活の場としている少年マルセリーノです。二人の間に友情が生まれます。なぜでしょうか。単に子供同士ということではなく、彼らの間の共通性がそのことを可能としているのです。受験という枠組に組込まれているサトルくん。路上生活を余儀なくされているマルセリーノ。共に不条理さのなかで生きるということをを強制されているからこそ、互いを理解しあうことが可能なのでしょう。そこに一つの可能性が見えます。同情や押しつけではなく、「理解しあう」ということが。サトルくんは、マルセリーノの紹介でほかの多くの子どもたちとも出会います。日本から来ている留学生の未知さんとも出会います。そうした出会いによってサトルくんは大きなものを得ていくのです。

 ストリート・チルドレンという重いテーマを持ちながらも、この作品には優しさが漂っています。それは、作者工藤さんの分身として登場している未知さんの、子どもたちへのやわらかいまなざしにあるのでしょう。工藤さんの想いがみごとに作品となっています。また、工藤さんとともに何度もメキシコに行かれている篠田有史さんの写真も、表紙カバーをはじめとして豊富に盛り込まれ、撮る側と撮られる側との関係の距離としての近さが、子どもたちの表情を生き生きと捉えています。

 同情や憐れみではなく、ストリート・チルドレンの素顔を知るために。また私たち自身が内包している問題であることを考えるためにも、ぜひ、特に若い世代の方々に読んでいただきたい作品です。

小池 彰



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