NGO紹介   ネットワークのためのネットワーク
〔ストリートチルドレンを考える会〕
与えられる満足の時代に生きて

会長  相川 民蔵



 人生とは喜怒哀楽の歴史であるといいます。私たちは日々喜んだり、悲しんだり、感動したりしています。楽しいことばかりならいいのですが、そうはいきません。時として、信頼していた友人に裏切られた悲しみや、不正に対する激しい憤りに襲われたりします。そんな時、人は妥協こそが生きていく上での知恵であるなどと言います。が、どうしても勘弁できないことはあるのです。それは社会の弱者といわれる精神的、肉体的なハンディを持つ人々や、社会的経験に乏しい子どもに対し、愛情やいたわりを置き去りにした非情な行いや差別が行なわれることです。しかも、それらの行為が、社会の発展や生活の豊かさのために、といった言い訳の下で押し進められることは許せません。憎むべきことに、社会はいつの時代にも、弱者に犠牲を強いて発展してきたのです。

 今の日本では、食べてゆくことに不自由はありません。お金さえ出せばどんな美味しいものでも手に入ります。が、その結果、米や、野菜などの作物や料理にかけられた人々の苦労や努力を気にせず食べ残し、捨てることに何の抵抗も覚えなくなっているのではないでしょうか。「惜しい」とか「勿体ない」といった、ごく自然な良心や感動がいつのまにか遠くなっています。ものを大事にすることや大切に扱うことを考えない日本のような社会が本当に「発展した豊かな国」なのか、と疑問を抱き考える時、私はこの国の子どもたちのことが心配になります。

 「未来への希望・夢」といった、かつて私たちが子どもの時に抱いたごくあたりまえのものが失われた今の日本は、子どもたちにとって余りにも夢のない社会です。子どもたちは「与えられる満足」というレールの上を大人たちの運転する列車で運ばれており、とても幸せであるとは思えません。

 そんなことを考えていた1988年の夏、私は国連難民高等弁務官の緒方貞子さんが、国際人道問題独立委員会の報告「都市が生んだ小さな犠牲者たち」の日本語による出版企画をされていることを知り、その制作、出版に係わりました。当時、国連は子どもの保護を恒久的に確立するため、熱心に子どもの権利条約の成立を目指していました。私はこの制作、出版にたずさわりながら、人類の進歩、発展、豊かさを目指しているはずの地球のあちこちで、農村が崩壊して人口が都市に集中し、結果、子どもが路上に溢れていることを知りました。ストリ−トチルドレンです。親から見捨てられ、社会も手を差しのべてはくれず、ひとりぼっちで街に出る子どもたち。暖かい家庭や、大人になったときの夢といったものが最も大切である筈の5、6歳の子どもが、「生存」のための努力に明け暮れなければならない姿は、私に敗戦直後の日本を思い起こさせました。

 今から50年前、小学校の上級生であった私は、当時の東京の街の姿をはっきり覚えています。街角で浮浪児がどんな生活をしていたのかを決して忘れることはできません。だからこそ、現在の子どもたちの悲惨な状況を許すことができないのです。果して自分に何ができるのか、必死で考えた私は、この見捨てられた子どもたちを多くの人に知ってもらうために、彼らを主人公にしたアニメーション映画を作ろうと考えました。そして、台本を書いてもらい、企画書を作りました。それを多くの企業に持ち込みましたが、残念ながら断わられ続け、いまだ実現に至っていません。

 しかし、この過程で中南米の人々を撮りつづけている写真家の篠田有史さんと知り合い私の考えに共鳴してもらうことができました。そこで、今度は映画の前にまず路上で生活する子どもたちの現状を伝えるために、ストリートチルドレンの本の出版をしようと考えました。印刷会社をやっている私にとっては専門の領域です。取材は篠田さんと彼の友人でジャーナリストの工藤律子さんに頼み、彼女に文をお願いすることになりました。工藤さんは大学時代から中南米のスラムで生活する子どもたちに愛情を持って接してきたことを知ったからです。こうして、1993年の夏「とんでごらん!−ストリートチルドレンと過ごした夏」(ジュラ出版局)は出版されました。このとき快く出版を引き受けてくださったジュラ出版局の大村祐子社長や出版社の人々、それに篠田さんや工藤さんと共に、この年の暮れ「ストリートチルドレンを考える会」を発足させたのです。

 考える会は、世界中の国々において、困難な状況下にある子どもたち(例えば戦禍によって家族を失い、焦土のなかに放り出された子どもたち、第3世界の多くの国々で失業や生活苦から起こる家庭崩壊によって放りだされた子どもたち、先進国の複雑な社会構造のなかで生きていくうえでの価値観に狂いが生じ、その犠牲となって放り出された子どもたちなど)、つまり世界に1億人はいるだろうといわれるストリートチルドレンを考えることを通して、経済的、物質的な豊かさのなかにありながらも、精神的貧困のなかに置かれている日本の子どもたちのことをも考えていく、ということをメインテーマに上げました。さらに、困難な状況下にある子どもたちのことを考え行動している他の団体とも情報を交換したり、一緒にやっていくことができれば、と思いました。

 1994年2月には、プロレスラーをして稼ぎながら150名の孤児の世話をしているメキシコの神父さん、セルヒオ・グティエレスさんを迎え、弁護士の木村晋介さんとのトークと地球音楽を追求するバンド、ロス・ネリモスのチャリティコンサートのイベントを成功させました。新宿の西戸山小学校の子どもたちは神父さんの生き方に感動し、クラス討論をし、みんなでカンパを集め、作文をかいて届けてくれました。これが縁となって子どもたちはメキシコの150名の子どもたちと文通をしたいといってきています。

 考える会はその後もいくつかのイベントを開催し、会員は増えています。設立以来、月1回の会報の発行、定例会を持ち、昨年末からは勉強会も開いてきました。

 これからも会の主旨であるストリートチルドレンを考えることを通して、日本の子どもたちのことを考えていきたいと強く願っています。また、共通の思いと考えを持って活動している多くのNGOの皆さんと情報を交換し、一緒に行動できるような輪を広げていきたいと考えています。


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 〒171-0033 東京都豊島区高田3-3-22
 JULA出版局内
 ストリートチルドレンを考える会
   TEL:03―3200―7795
   FAX:03―3200―7728



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