共同声明

米国のテロ報復戦争に反対し、日本政府の戦争支持の撤回を求める

 

2001年9月18日

 

 9月11日、米国の経済・軍事中枢にたいして、何者かが、ハイジャックした旅客機を武器とする「道連れ自爆攻撃」を行い、大量の死と破壊をもたらした光景を目の当たりにし、私たちは強い衝撃を受けました。数千にのぼる罪のない人びとが生命を奪われ、夥しい数の人びとが肉体と精神に深い傷を負いました。暴力のない世界を求める私たちは、実行者の目的が何であれ、この行為を許すことはできません。私たちは、犠牲者とその遺族、縁者の方々に深い哀悼の意を表し、傷ついた方々の回復を心から願うものです。

 だが私たちはいま、この事件への「報復」として米国が開始した対応にいっそう大きい衝撃を受け、深刻な危機感にとらわれています。ブッシュ大統領とその政府は、この攻撃をアメリカ合州国への「戦争行為」であると宣言し、報復のために「テロリスト」にたいして世界中を巻き込んだ「21世紀最初の戦争」を発動すると決定したのです。今回の「アメリカへの攻撃」の実行主体をオサマ・ビン・ラディンの率いる「イスラム過激派」と特定した上で、全世界にちらばった「テロリスト・システム」を殲滅する本格的戦争を開始しつつあるのです。世界最大国家が、国家でない敵に宣戦を布告したのです。ウオルフォウイッツ国防副長官は、テロリストとそれを庇護する国家にたいして軍事作戦を行い、「テロ支援国家を終結」させる(〔終結〕はNHKの訳語)ことがこの戦争の目的であると説明しました。大統領は「戦争は大規模かつ継続的なもの」になると言明し、フライシャー報道官は、「あらゆる選択肢を排除しない」と発表しました。アメリカの上下両院は、大統領に対して「必要なすべての武力行使の権限」を与える決議を採択し、400億ドルの戦費支出を決めました。NATOは、同盟国が攻撃されたケースとして集団安保条項を適用し、この戦争に参戦を決めました。ブッシュ大統領は、このアメリカの戦争に同盟国ばかりでなく、「国際社会」全体を巻き込もうと懸命に努力を続けています。

 戦争をもってテロに報復する、というのは異常な対応です。一般市民に対するこのような大量殺戮は、国際犯罪として、人道への罪を構成します。米国国内法とは別に、国連など国際社会が国際刑事法廷を設置して、その実行者や共犯者を国際法に基づいて公正に訴追し、処罰すべきです。その手続きもなく、アメリカはすでに戦争状態に入りました。当面タリバン支配下のアフガニスタンへの軍事侵攻が差し迫っていますが、テロリスト壊滅という戦争目的からして戦場は特定されないのです。

 私たちは次のような理由からこの戦争に力を込めて反対し、ブッシュ政権がこの戦争計画を即時廃棄するよう要求します。

 第一に、この戦争が問題の解決をもたらすどころか、世界を暴力と憎しみの果てしない応酬の連鎖に引き入れることが確実だからです。なにより、国家の正規の軍事行動で、不定形のネットワークを根絶やしにすることなどは、事柄の性質上、不可能なことです。テロを生み出す社会的土壌があるかぎり、一つの組織を壊滅させても次の組織が生まれるでしょう。そして9月11日の事件そのものが、今日の「先進国」社会の傷つきやすさを、そしてそれをこの種の攻撃から完全に防衛することなど不可能であることを衝撃的に例示したのです。米国の報復戦争は、テロと無差別な報復攻撃、そしてさらに規模を拡大したテロと報復攻撃という、いたずらに市民の犠牲のみを伴う出口の見えぬ泥沼の中に世界を引き入れることが予見されます。それを防ぐためには世界社会の隅々まで、個人の自由とプライヴァシーを奪い民主主義を根底から破壊する完璧な監視システムを導入するしかないでしょう。この方向への不吉な動きはいま急速に推進されています。

 第二に、報復を叫ぶ米国政府と世論のなかに私たちは恐るべき傲慢と憎悪の響きを聞き取るからです。「文明と野蛮」という植民地時代の露骨な図式が大手を振って復活しています。テロリストから「文明を守る」戦争(パウエル国務長官)、「悪にたいする善の戦い」(ブッシュ大統領)が公言されています。アメリカからの報道はアラブ人への憎悪が掻き立てられている状況を伝えています。ヨーロッパの世論もこの図式に当然のように同調しているかに見えます。文明をアメリカ・ヨーロッパと等値するこの傲慢さこそが、イスラム世界を傷つけ、のけものにし、ついにその中から敵対者を作り出すにいたったことの自覚は、そこには一片もないのです。

 「ショック、怒り、悲しみはいたるところに満ちている。だが、なぜ、人びとが、これほどの残虐行為を、自分の生命を犠牲にして行うところまで追い詰められたか、あるいは、なぜ米国が、アラブやイスラム諸国だけでなく、途上国のいたるところで、これほどひどく憎まれているのか、という認識はかけらほども存在しない」(シューマン・ミルン『ガーディアン』9月13日)。

 まさにこの認識の欠如にこそ、テロという絶望的な反抗形態が生み出される根源があります。米国がこれまで、ベトナム戦争や湾岸戦争で、南米やアジアの独裁政権援助で、スーダンや旧ユーゴ爆撃で、そして、何よりパレスチナを不法占領し続けるイスラエルを支援することで、直接、間接に今回の犠牲の何百倍、何千倍の数の非戦闘員の人命を奪ってきたことを世界の人びとは記憶しています。そして、現在アメリカの権力的一極支配は、未曾有のものに達しています。米国は、途方もない貧富の格差や環境破壊を引き起こすグローバル化を世界の圧倒的多数の人びとに強権的におしつける世界的な権力として振舞っています。とくにブッシュ政権は、「単独行動主義」(ユニラテラリズム)を公言して、地球温暖化や核拡散や国際刑事裁判所や人種差別反対国際会議などさまざまな国際的取り決めを、「米国の国益」を振りかざして、つぎつぎと一方的に破壊してきました。このような米国に対して、世界中の民衆の中に怒りと批判が渦巻いています。米国自身が作り出したこのような世界状況こそが、今回の事件の歴史的な背景になっているのです。この意味で、今回のテロで犠牲になった人びとは、米国政府の世界的な権力支配の犠牲者であると私たちは考えます。

 

 小泉首相はいち早く、「日本はアメリカの報復を全面的に支持する」と米国への無条件の忠誠を宣言して私たちを驚かせました。これを受けて、日本政府は、アメリカの「報復戦争」にどのように自衛隊を参加させるかを脱法行為から法改正を含めて汲々として探し求めています。さらにこれを好機とみて、危機管理体制の強化、社会の軍事化を全面的に進めようとしています。政府与党は、米軍基地を守るための自衛隊法改悪を決定し、有事体制や治安出動を公言しています。国家主義的な勢力は、米国の報復戦争を、日米ガイドライン体制を発動して、米国の軍事行動に協力する好機到来と、戦争のできる国家への試運転を狙っています。

 私たちは、米国の報復戦争開始の前夜にあたって、日本のなすべきことはまったく逆の方向にあると考えます。国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使を国際紛争を解決する手段として永久に放棄した日本ならば、日本政府がなすべきことは、アメリカに武力行使を思いとどまらせ、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して問題解決の方策をさぐるよう堂々と、自信をもって、説得することでなければならないはずです。そして、今回の事態は、そのような方向のみが悲劇の再発を防ぐ道を切り開くことができることを強く示唆しているのです。

 私たちは、日本政府に、日本国憲法の平和主義にしたがって、報復世界戦争というブッシュの計画への支持を取り消し、参加・協力を拒み、ブッシュ政権に、報復戦争を思いとどまるよう申し入れるよう要求します。

 私たちは、日本政府が、この戦争に便乗して、「戦争のできる一人前の国家」として伸し上ろうなどという企てをはっきり棄てることを要求します。すなわち有事法制、米軍基地の防衛のための自衛隊法改定、ガイドライン関連法規の脱法的適用などを行わないよう要求します。

 私たちは、日本政府が、全世界で社会的緊張と軋轢を耐えがたいところまで高めているグローバル化政策を根本から再検討し、WTOその他グローバル化推進のための国際機関で地球的規模の社会的緊張、底辺の人びとの排除、自然の破壊などを和らげるための方向転換を提案するよう要求します。

 民衆の安全が問題なら、この方向に歩むことが、アメリカの市民たち、日本列島に住む人びとも含めて、世界の民衆の安全を高める唯一の道なのです。

 いまこそ暴力と憎悪の悪循環を断ち切らなければなりません。9月11日の悲劇が、そのための出発点になるのか、それとも悪循環の全世界的な拡大の引き金になるのか、それは、アメリカ合州国の目覚めた人びとも含めて、この戦争の勃発と拡大を阻止する国境を越えたしっかりした結びつきを作り出し、それを力に変えていけるかどうかにかかっています。

 私たちは、悲しみに打ちのめされたニューヨークを始め米国の人びとの間から、「復讐でなく平和を!」という声が次第に湧き上がっている知らせに励まされています。マンハッタンの惨禍を味わった多くの人びとは、衝撃と悲しみの中から、戦争とは何か、爆撃とは何か、を身に引き付けて感じ取るなかで、圧倒的軍事力で復讐し、アメリカの怖さを見せつけるという姿勢が、悲しみをつぐなうにそぐわないと感じ始めたようです。米国の平和運動や知識人の間から「報復戦争」に反対する声は次第に高まりつつあります。この声は世界のいたるところで高まりつつあります。

 私たちもこの声に加わり、報復戦争を止めさせ、テロを生まない世界をつくるため、ともに行動しましょう。

 

よびかけ

秋山眞兄(日本ネグロス・キャンペーン委員会)

天野恵一(戦争協力を拒否し、有事立法に反対する全国FAX通信)

石崎暾子(草の実会)

鵜飼 哲(一橋大学教員)

大島孝一(キリスト者政治連盟)

太田昌国(民族問題研究者)

大津健一(NCC総幹事)

大橋由香子(SOSHIREN女(わたし)のからだから)

小笠原公子(日本キリスト教協議会平和・核問題委員会)

小田 実(作家)

小河義伸(キリスト者平和ネット)

木邨健三(カトリック正義と平和協議会)

小倉利丸(ネットワーク反監視プロジェクト)

栗原幸夫(編集者・評論家)

杉本理恵(地域科学研究会)

立山紘毅(山口大学教員)

俵 義文(子どもと教科書全国ネット21)

遠野はるひ(APWSL)

冨山一郎(大学教員、インパクション編集委員)

富山洋子(日本消費者連盟)

中山千夏(作家)

花崎皋平(さっぽろ自由学校「遊」)

福富節男(市民の意見30の会・東京)

松井やより(VAWW‐NET・ジャパン)

水島朝穂(早稲田大学教授)

水原博子(日本消費者連盟)

武藤一羊(ピープルズ・プラン研究所)

山口泰子(婦人民主クラブ)

山口幸夫(原子力資料情報室)

吉川勇一(市民の意見30の会・東京)

渡辺 勉(国際労働研究センター)

(2001年9月20日現在)


「共同声明―米国のテロ報復戦争に反対し、日本政府の戦争支持の撤回を求める」に賛同します。

 

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共同声明の仮集約先

ピープルズ・プラン研究所

〒169-0072 東京都新宿区大久保2-4-15-3F

TEL/FAX: 03-5273-8362

e-mail: ppsg@jca.apc.org