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2001年10月10日発行163号ピースネットニュースより

【連載】反グローバリゼーションの運動のいま(7)

グローバリゼーションと私たちが
生き残ることのできる道

環境と金融リサーチ 田 中 徹 二

高揚する反グローバリゼーション運動への打撃
 本紙9月号で、9月29〜30日には米国ワシントンでIMF(国際通貨基金)と世界銀行総会に抗議する10万人規模の大集会が開催され、さらなる反グローバリゼーション運動が――20万人以上が結集した7月の反ジョノバサミットに引き続き――高揚すると書いた。
 しかし、9月11日の想像を絶する「米国テロ事件」のため、行動は中止となってしまった(総会そのものも中止となったが)。しかも、今回の行動でも大動員をかけていた労組のナショナルセンターであるAFL─CIO(労働総同盟産業別会議)会長のスゥニー氏は、ブッシュ政権の報復戦争に支持声明を出したのである。また、米国のみならず世界各地での行動が、中止・自粛を余儀なくされた。これらのことは、反グローバリゼーションの運動にとって大きな打撃となった。
 しかし、同日反IMF・世界銀行行動に替わって、反戦・反人種差別連合体が「新しい戦争」に反対する1万人以上の集会とマーチが行われた。
 翻って、今回のテロを誘発したのは、他ならない弱肉強食の極端な経済であるグローバリゼーションであるといって過言ではない。この経済が貧しい国をいっそう貧しくさせ、民族排外主義や原理主義を生み出す社会的土壌を作ってきたのである。私たちが真にテロを防ぐためには、それを誘発しているグローバリゼーションの動きを止めることである。

私たちが生き残ることのできる道は何か?
 このように、9月11日の「米国テロ事件」は、運動の風景を一変させたといっても過言ではない。この想像を絶するカミカゼ攻撃は、「国家と国民を同一視し、罪のない数千の人々を殺害するいう最悪の形をとった」(ATTACフランス声明 2001年9月12日)。実際、このテロによる死亡者や行方不明者は、世界貿易センタービルでは“米帝国主義”を支える「金融・白人エリート」だけではなく、ビル清掃やレストランなどで働く途上国出身の労働者も多くおり、48の国と地域の人々が犠牲になったと伝えられている(9月17日朝日新聞夕刊)。
 「米国金融街がテロの対象となったのは、グローバル化した先進国の市場経済や多国籍企業などが、途上国から搾取した富の象徴とみられているから」(ニューヨーク州立大学ウォーラーステイン名誉教授 9月16日朝日新聞)だが、想像力を働かせれば、このテロの刃はグローバル化した先進国の市場経済、つまり米国だけでなく豊かな国全体に向けられていることが分る。ニューヨークのウォール街に次ぐ金融センターであるロンドンのシティーでは半ばパニック状況になっていると伝えられたが、狙われているのが米国だけではないということを人々が察しているからにほかならない。また、そうであれば東京の兜町が狙われても決して不思議ではない。
 運動の風景の一変と言ったのは、ありていに言えば、経済的・政治的エリートのみならず私たちのようなグローバリゼーションに異議申立てをしているものでも、先進国の金融・経済の中心都市にいるというだけで、テロの標的にされてしまう時代を迎えたと言えるからである。これはまったく不条理であり、“私たちが生き残るためにも”真剣にテロリズムをなくすことを射程に入れなければならなくなった。
 テロリズムをなくすためには、ブッシュ米政権や先進国指導者(G8)のように、テロの黒幕と名指しされているビンラディンと彼の組織を証拠もなしに報復することではなく、まして既に350万人といわれている難民を出し困窮きわまっているアフガニスタンに戦争を仕掛けることでもない。「生き残る確率をできるだけ高くするためには、テロリズムの根源にあるものを見いだし、そこに立ち向かって行くしかないのである」(パキスタン・カイゼアザム大学教授ペルベース・フットボーイ 9月27日朝日新聞)。
 その根源とは何か。限りない貧困(経済的にも自然環境の面においても)と飢餓、内戦と難民キャンプ、そして次代を担う青年の絶望ないし逃避、等々が上げられる。こうした社会環境こそ民族排外主義や宗教的原理主義の温床であり、暴力とテロリズムの温床である。しかし、これは弱肉強食の市場経済であるグローバリゼーションの結果、引き起こされていることではないだろうか。実際、貧困ひとつとっても、世界の最も豊な20%の人が住む諸国と、最も貧しい20%が住む諸国の1人当たり所得の格差は、20世紀初頭ほぼ10対1だったが、1960年に30対1、90年に60対1、97年に74対1、それがいまや150対1と加速度的に広がりつつある。87年と比べて絶対的貧困(1日1ドル以下の収入)で暮らす人々は2億人以上増えている。
 一方で、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏個人の資産は、人口1億人を超えるバングラディッシュやナイジェリアの年間国内総生産を超え、世界の大金持ち225人の資産は、世界人口の半数の年収に匹敵する。
 かつて、自由貿易や金融の自由化は貧しい国も恩恵を受け貧困から脱出できると、先進国政府やGATT(関税及び貿易に関する一般協定)とそれを引き継いだWTO(国際貿易機関)、IMF(国際通貨基金)・世界銀行などの国際経済機関はかまびすしく宣伝を行ってきた。しかし、この30年間富める国々はますます富み、貧しい国々はますます貧しくなってきたという歴史的事実こそ、そうした宣伝がまったくのデタラメであったということを雄弁に物語っている。このような経済のあり方、つまりグローバリゼーションの進行こそが、その対極に憎悪と絶望のテロリズムを生み出しているといって過言ではない。
 とすると、私たちは“運動の風景の一変”などと評論家的に言っている場合ではない。グローバリゼーションに異議申立てをする運動をさらに強力に推し進めること、換言すれば途上国に貧困を強いる経済構造を根本的に変革していくこと――このことこそが、真にテロリズムをなくしかつ“私たちが生き残ることのできる”道でもある。

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