平和資料協同組合
『印パ速報』 ピースデポ・印パプロジェクトチーム
 第6号(1998年7月28日)
もどる

ギャップは埋まらなかった米印会談
 ジャスワント・シン首相特使とタルボット米国務副長官は2日間(7月20日および21日)の会談を終え、8月半ばに再びワシントンで会談をもつことになった。これまでの協議で双方の立場は明らかになったが、ギャップは埋められないまま終わった。
 8月終わりが打開のための期限である。米政府はクリントン大統領の今年中のインド亜大陸訪問の計画をそれまでに決定しなければならないからだ。アメリカはインドが核不拡散体制に入る過程の里程標―特に包括的核実験禁止条約(CTBT)に関して国内の反対を覆して国家的コンセンサスをいつ、いかに打ち立てるか―を示すよう求めた。アメリカ政府はインドに法的拘束力ある決定を求めたのに対して、インドは核実験のモラトリアムの一方的実施を繰り返し言明し、それを法律化する用意があると述べたに止まった。これまでインド(およびパキスタンに)にCTBTへの即時、無条件の加入を求めてきたが、米国は今や新たな対応を考えざるをえなくなった。米国務省のスポークスマンは20日、「インドとパキスタンがその立場を変え、CTBTおよびその他の条約に加盟するなら、制裁措置を棚上げする権限を大統領に与えることを追求する」と述べた。しかし、インドは立場上、制裁措置を問題としてとり上げなかった。
  20日に行われたタルボット国務副長官のバジパイ首相への訪問は、積極的に協議をする目的からではなかった。副長官はクリントン大統領の親書を首相に手渡した。
   (THE HINDU,July 22,1998)

ページの先頭に戻る
 

CTBTをめぐるかけ引きに終始―米パ会談
 タルボット米国務副長官は23日、シャリフ首相と会談した。首相はアメリカ代表団に対して、「南アジアにおける安全保障をめぐって悪化する状況の中心はカシミールである」と述べた。首相はまたインドとの対話を求めるパキスタンのイニシャティブに言及し、来週のコロンボでのインド首相との会談が「この中心問題に対処するのに意味ある方法で前進がみられることを期待している」と述べた。シャリフ首相は「国際社会はカシミール紛争の解決に重要な貢献ができる」としたのに対して、タルボット副長官はクリントン大統領は「パキスタンと米国との友好関係の強化」を望んでいると答えた。副長官はまた、大統領は「南アジアの平和と安定のためにパキスタンとの協働」を望んでいると述べたのに対して、シャリフ首相はこの地域における安定した安全保障へのクリントン大統領の関心と強力で繁栄するパキスタンへの米国の援助を歓迎した。首相は政府としてパキスタンの経済発展に焦点を当てていることを強調した。米代表団に対してシャリフ首相は、政府は現在の困難を乗り越える決意であることを表明するとともに、米国主導で行われている経済制裁を非難した。 
 米国代表団との協議を通じて、ワシントンが制裁を解除し、イスラマバードに実質的な経済援助を供与するとの条件のもとで、パキスタンはCTBTやその他の核不拡散の課題に柔軟に対処するむねを米側に示した。
 米国はパキスタンにCTBT調印へのスケジュールを与えるよう求めたのに対して、パキスタンは米国に核不拡散への関心をこの地域の全体的な安全保障と切り離さないよう求めた。
 タルボット副長官は3日間の集中的な協議を終え、イスラマバードを去るに当たり、「われわれの仕事はまだ終わっていない。1月以内に再び協議することで合意した」と述べた。そして来週のコロンボでの印パ両首脳の会談への期待を表明した。
  (The News International 
   Pakistan,July 23,24,1998)

 ところで、米国は印パ両首脳の会談に何を期待するのだろう?

ページの先頭に戻る
 

米科学誌が印パの核実験を特集
  第1号で紹介した「終末時計」で有名な米科学誌 The Bulletin of the Atomic Scientist の7/8月号では、印パの核実験の特集を組んでいる。各論考の印象的な部分を引用してみよう。印パの核実験のもつ意味が多角的に検討されていて、参考になる。

 『世界中に衝撃が聞こえた』(D.Albright ):「インドの5月11日および13日の地下核実験は世界を驚かした。何年もの間、世界の情報収集機関がポカラン実験場を監視していたにもかかわらず、彼らはこれらの実験の準備を見逃し、情報収集の失敗だと批判された。」

 『紙のうえの痕跡』(S.v.Moyla-nd & R.Clark):「世界中の地震計は5月11日には跳ね上がった。しかし、13日には跳ね上がらなかった。インドの核実験は無防備な世界を捉えた。このことからCTBTは果たしてうまく検証されるだろうかとの疑問を呈する批判者がいた。彼らの懸念は間違っている。というのは、第一に条約の国際モニターシステムおよび国際情報センターは完全には出来上がっていない。第二にインドの最初の実験の日の5月11日の事象は検波された。インドが核実験を発表しなくても、実験はほぼ間違いなく検証されていたであろう。第三にインドは条約に加わっていない。検証体制に未加入の国を対象に検証システムの性能をテストするのは合理的でない。」

 『ヒンドウー爆弾』(K.Sharma):「インド人民党(BJP )とその前身のジャンサン(インド大衆連盟)は40年もの間、その選挙公約の項目に核抑止力の開発を掲げてきた。実際、その最も強力な唱道者がバジパイ首相であり、1964年の中国最初の核実験の直後にインドは核兵器を作るべきだと要求した。国会でバジパイは言った、
『原子爆弾にこたえるのは原子爆弾であり、それ以外はありえない』と。しかし、これまでの政権が躊躇したこと、すなわち国際的に許されない危険を犯してまで、公然とインドを核兵器国にすることを、BJP 政権はなぜこの時点で行ったのか。国内の政治的圧力が一つの明白な理由である。」 

 『パキスタン、核クラブに入る』(A.Khan):「経済力は死活的であるとの認識のもと、パキスタンは最近、インドと前例のない平和構築の話し合いに参加した。1997年のはじめ、外務次官級協議の3年間の中断のあと、インドのグジラール首相とパキスタンのシャリフ首相は、カシミール以外の分野の協議再開の合意に達した。昨年、外務次官は3月、6月、9月に会合をもった。協議では、漁船と船員を両国から出す合意に達し、ビザ発給の制限を緩和し、首相間のホットラインを再構築し、敵対的な宣伝や挑発的な行動に制限を加え、そしてカシミールを含む主要問題に取り組む姿勢を見せた。歴史上はじめてパキスタンは今年、インドとの平和構築のため軍事支出を実質10%削減した。…しかし、強硬路線のBJP が権力をとったこの4月のインドの政変はこうした動きを阻んでしまった。」

 『上院:核実験禁止の見通し揺らぐ』(J.Isaacs):「5月中旬に5個の核爆発実験を行ったとのインドの発表は、ワシントンにおける2次的な爆発を引き起こした。その結果は、上院が今年中にCTBTの批准を行うとの希望に少なくとも一時的なダメージが与えられた。しかし、爆発はまた、核兵器の拡散に対する懸念を高めることによって、条約の長期的な見通しをも損ねた。」

 『ロシアから―無言の反応』(I.Khripunov & A.Srivastava):「インドの中にロシアは、アメリカが支配する現行の秩序を覆す多極化された世界というロシア的未来像の熱狂的な支持者を見出している。ロシアはインドをその多極化計画の戦略的なパートナーと呼び、インドを特別な関係を維持すべき最も重要な国の最上位に位置づけている。」

 『インド亜大陸のミサイル』(A.Koch & W.P.S.Sidhu):「インドの5回の衝撃的な核実験は各種核兵器の製造能力を確認したものの、それは話しの半分にしかすぎない。本当の核抑止力は、確証された運搬システムに裏打ちされた確証された核弾頭を含むものである。陸、海、空のこれらの運搬システムは抑止力の方程式のもう一方の項である。抑止力が完全であるためには、それらは実験され、配備されなければならない。同じことが一層強くパキスタンの場合に当てはまる。」

『大きな科学―小さな成果』( E.Arnett):「5月11日の核実験のあと、インドから1億1900万ドルの開発援助を引きあげるスウェーデンの決定を発表しつつ、援助大臣のP.ショリーは「多くの貧しい人を抱えるインドのような国が、大量殺戮兵器に大きな資源を投下する選択を下すのは悲劇的で、驚くべきことだ」と述べた。ショリーはしばしば見逃されることがらを強調した。インドは絶対的な諸条件ではもはや貧困国ではない。経済発展よりも巨大科学への投資を選択する比較的裕福な国である。このような認識は他の援助国をも―インドを制裁するという考えに不快感をもつヨーロッパの国々をさえ―対インド無償供与または借款の金額の再評価に導くかもしれない。アフリカやラテン・アメリカの国々のように本当に援助を必要としている国があるからだ。」

 『非常に政治的な爆弾』(P.Bidw-ai & A.Vanaik ):「インドのエリートたちの自己認識の変化や、この十年の間にインドが経験した深い変貌に決定的な重要性を与えなければ、インドがなぜ核のルビコン川を渡ったかを理解できない。こうした変貌は、セクト的、非民主的そして好戦的な政治勢力であるBJP の勃興とともに起こった。」

 『失われた伝統』(A.Makhijani):「5月11日、ブッダの誕生日に、BJP 率いるニューデリーの新しい連立政府は、3発の核爆発実験によって、30年以上にわたるガンディーの伝統の腐食過程の最後の仕上げを行った。」

ページの先頭に戻る
 

印パ核実験をめぐる世界の動き(1998年7月20日−7月25日)

  • 21日:日中両共産党首脳会談で日本共産党の不破委員長が「いま核兵器をめぐる情勢を打開するには、核兵器国の中からイニシアティブが発揮される必要があり、中国こそそれを発揮できる立場に立っている。適切なタイミングをとらえて役割を果たすことを希望する」と述べたのに対して江沢民総書記(国家主席)は、「中国は核保有国だが、もっている核兵器の数は非常に限られている、核兵器廃絶、核の第一使用(相手より先に核兵器を使うこと)への反対の立場を最初から表明し、核実験にも反対している」と説明したに止まった。
  • 米国務省のルービン報道官は、米国はパキスタンに対する国際通貨基金(IMF)の融資実行を協議する
  • 理事会では棄権すると語り、融資を事実上黙認する姿勢を示した。米国の制裁は緩めないが、国際機関の援助には反対しない方針を明らかにした。
  • 23日:米政府はイランが中距離ミサイル「シェハブ3」(流星の意)の発射実験を行ったことを確認、このミサイルが北朝鮮の「ノドン」の技術を取り入れていることを明らかにした。射程約1300キロ。イスラエル、サウジアラビア、トルコ、ロシアの一部まで射程に入る。
  • 外務省幹部によると、日米欧の主要8カ国(G8)は、核実験を理由に延期してきたパキスタンに対する
  • IMFの融資を再開する方向で調整に入った。同国の外貨準備減少で懸念される対外債務不履行を回避することが目的。
  • 24日:東南アジア諸国連合(ASEAN)第31回外相会議がマニラ市内のホテルで開幕。インドネシアのアラタス外相は、印パが核実験を実施したことに失望を表明しつつ、「核不拡散条約(NPT)無期限延長から3年たったいま、われわれ非核保有国にとっては、この条約が信頼できる不拡散体制をもたらさないものであることが明らかになった」と指摘した。さらに「核保有国が核兵器削減のための多角的とりくみを拒否していることは、核兵器廃絶という最終目標に逆行している」と核保有国を批判した。
  • 25日:ASEAN外相会議が閉会、共同コミュニケが発表された。「東南アジア非核兵器地帯条約付属議定書への核兵器保有国の調印が核軍縮と非核兵器地帯への支持の表明になることを繰り返す。南アジアにおける最近の核実験が東南アジア非核兵器地帯の全面的実現の助けにならないとの見解を表明する」「全ての国、とくに核兵器保有国が核不拡散条約(NPT)第6条に関する義務と誓約を果たすよう求める。期限を切った枠内での核兵器完全廃絶の段階的計画にかんする軍縮会議(CD)での交渉の開始の要求を繰り返す」「地域の緊張を高め、核軍拡競争の亡霊をよみがえらせる、南アジアで最近行われた一連の核実験を遺憾とする。核不拡散条約と包括的核実験禁止条約(CTBT)に加入していない全ての国が、非核の世界の創出という抗しがたい利益を求めて、これらに加入するよう求める。核兵器保有国が核不拡散条約にそって、核兵器廃絶に向けた具体的で適時の措置を講じるよう強く要求する」。
  • イラン国営テレビは、シャムハニ国防省の話として、同国が中距離ミサイル発射実験に成功したと報じた。


ページの先頭に戻る


    ●発行:平和資料協同組合(ピースデポ)
    ●ピースデポ・印パプロジェクトチーム:
     藤田明史(専任スタッフ)、中野克彦、吉田ゆき、萩原重夫、川崎哲、笠本丘生、梅林宏道(チーム代表)
    ●この「速報」の内容についての問い合わせ先:
      藤田明史  Fax 0798-66-9128   E-mail  gr261953@kic.ritsumei.ac.jp
    ●この「速報」の予約申し込みなど事務的な問い合わせ先:
      平和資料協同組合(ピースデポ)
      Tel:045-563-5101  Fax:045-563-9907  E-mail:peacedepot@y.email.ne.jp
      〒223-0051 神奈川県横浜市港北区箕輪町  3-3-1 日吉グリューネ 102
  ●この「速報」はインド・パキスタンの核実験をめぐる一次情報と分析を発信するレポートです。
   第1期として、7月1日から31日までの間に10回ほど発行します。
  ●ピースデポ・印パプロジェクトを支えるカンパをお願いします。一口10,000円以上。
   郵便振替:00280-0-38075
   加入者名:「平和資料協同組合」(通信欄に「印パ・プロジェクト」と明記してください)
    ● 宛名を明記せずに一斉にファックスと電子メールでお送りします。ご注意下さい。


ページの先頭に戻る



トップページ E-mail: peacedepot@y.email.ne.jp