平和資料協同組合
『印パ速報』 ピースデポ・印パプロジェクトチーム
 第3号(1998年7月11日)
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パキスタンCTBTに署名の意向
 98年7月7日付「ジャパン・タイムズ」はイスラマバード発「フィナンシャル・タイムズ・サービス」伝として、パキスタン政府高官の言として、インドの決定に関係なくパキスタンは包括的核実験禁止条約(CTBT)への調印を決定したと伝えた。
 イスラマバードの決定をニューデリーのそれから切り離すことは、インドが最初に行うことに追随するという何十年も続くパキスタンの外交政策の顕著な変化を示している。
 パキスタン外務省は政府はCTBTの「戦略的な見直し」をすでに始めていたことを認め、「厳密な意味ではインドとの連係はなく、われわれはわれわれの利益に見合う決定をおこなう」と述べた。
 インド政府は、それは「欠陥」条約だとして、現行のままではCTBTへの署名は行わないとしている。ニューデリ−は現行の条約を「核差別」(nuclear apartheid )を温存するものと考えている。
 パキスタン政府高官は「もしインドが(パキスタンの決定に)驚き、多少の変更でCTBTに署名することを決めたとしても、われわれはそれにはとらわれない。インドが突然そうするからという理由だけで、われわれは署名するのではない」と述べた。
  パキスタンの政策変更の理由は直ちに明らかではない。しかし、5月のパキスタンの核実験後にとられた西側による経済制裁に続く経済危機の恐れが、その一因とも分析されている。

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ラホールでの平和集会
 パキスタンの現地の声が比較的少ないので、まずラホールからの平和集会のレポートを紹介しよう。
  1998年6月19日、パキスタンのラホールで「人々の権利のための共同行動委員会」が組織した平和集会が開かれた。三百人を越える参加者が旗やスローガンを掲げ、核兵器や核軍拡競争を糾弾した。彼らは非常事態の中止を要求するとともにカラバ・ダムの建設決定―それによって他の諸州からパンジャブ州が隔離される恐れがあるという―に反対した。彼らはまたカシミール問題は緊急に解決すべきであり、インドとパキスタンの間の話し合いでは宗教的に少数派の保護を特に取り上げるべきことを要求した。
 平和集会への参加者は労働組合、人権や女性の権利を求める組織、教師、経済人、弁護士、劇場、子供の権利を求める組織の代表者たちであった。
 政治集会や政治行動を禁止する非常事態という不当な押しつけを拒否し、集会は午後4時からパンジャブ州議会の向かい側で始まった。約半時間、スローガンを平和的に繰り返した後、デモを行い、再び戻って何人かのスピーチのあと、5時半頃に解散した。
  日本からラホールに「ノーモア ヒバクシャ」の写真展のため来ていたピースボートの人たちが集会に加わった。写真展は6月21日から24日までラホール・プレスクラブで行われ、24日にはセミナーがあった。
 参加者の一人は「われわれは人々の90%が戦争や核兵器を望んでいるとの前提に挑戦する。声は抑えられている。そしてファナチシズム(狂信)が南アジア全体を覆っている」と発言した。 
  また核実験が行われたバルチスタン州チャガイから10マイルの所に住むという一人は「われわれは核実験の影響は無いと言われた。しかし、地下水には放射能の兆候がすでにあらわれている」と訴えた。
 警官の妨害もなく、集会は平和のうちに終わった。

   SOUTH ASIA CITIZENS WEB
   (http://www.mnet.fr/aiindex)

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日本のヒバクシャ、ポカランとケトライ村訪問

 6月17日と18日、ヒロシマのヒバクシャを含む3人の日本の市民がインドの核実験場近くのポカランとケトライを訪れ、核戦争の破壊的な影響を伝えるため集会をもった。
 17日午後9時30分、一行はポカランに到着、数百人の住民が迎え、夜中近くまで集会が続いた。人形劇と広島原爆の短い映画のあと、武田靖彦さんがヒロシマの生き残りとして自身の個人的な経験を語った。「安全は国家間の平和的な関係からのみやってきます。子どもたちやそのまた子どもたちが幸福に暮らせるように、平和な世界をのこすことが、われわれ大人の責任です」と述べた。聴衆は共感し、核廃絶の訴えには大きな拍手で応えた。
  翌18日には一行はケトライ村に行き、同様の集会をもった。大部分の村人はこの地域で行われた核実験の影響を心配しており、一行の目的に共感していた。実際、村長代理は「もっと早く来てほしかった」と述べた。プログラムの終わりに村人たちは、核軍縮と全ての核実験を直ちに止めることを求める決議文を起草し、全員の拍手で承認され、多くの村人がサインした。
           Jean Dreze
     (jean@cdedse.ernet.in)

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国連安保理決議に対する印パの反論

  印パ核実験に対して1998年6月6日、国連安保理決議が全会一致で行われた。これに対し印パは直ちに反論した。ここに両国の立場の異同が
よくあらわれているであろう。今号にインド首相の声明を掲載し(資料1)、次号にパキスタンの声明を載せる予定である。

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資料1 国連安保決議に対するインド首相の声明(1998年6月8日)  (抜粋)

 われわれは、安保理がその追求すべき目的に関して全く無用な決議をしたことを残念に思う。決議は核不拡散について多く言及している。決議はわれわれが核爆発実験を行わないことを強く迫っている。われわれは既に自発的なモラトリアムを定めているのだから、インドにとって、このような催促は余分である。また、この約束を法律上の義務に転換する方法と手段の検討を行う意思のあることをわれわれは示唆している。さらに、われわれはジュネーヴ軍縮会議において兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約に関して多国間交渉を行う用意があることを明らかにしている。しかし、われわれはこれらの交渉に先だって、兵器用核分裂物質の生産を一方的に禁止するつもりはない。核不拡散にわれわれとして関与するために、われわれは核物質・技術の輸出に対して厳密な管理を維持する。
 しかし、われわれは核兵器計画やミサイル計画を中止すべきであるとの安保理決議の要請は受け入れられない。この点に関する諸決定は、われわれ自身の評価と国家安全保障の要求とに基づいて、政府の合理的で責任ある態度によって行われるであろう。われわれが主張するこの権利は新しいものではない。それはすべての主権国家の権利であり、過去50年間、わが国のすべての政府が堅持してきたものである。
 決議の著しい欠陥は、核不拡散問題は地域的な問題ではなく、差別性のない、グローバルな文脈において対処されなけれはならないという認識を全く欠くことである。最高の国際司法機関である国際司法裁判所が核兵器の合法性に異議を唱え、その削減ために緊急の交渉を求めた判決を、国連安保理の決議が反映していないことは残念である。欠陥のある不拡散体制の失敗のせいで、われわれの核実験は必要となった。それ故に、われわれはこれらの実験が地域的またはグローバルな安全を脅かしたとの見解をわれわれは断固として拒否する。
 われわれはこれまでパキスタンとの直接的な二国間の対話にこだわってきた。これは、二国間の関係が前進できるのはただ持続的で建設的な態度による直接的な議論を通してのみであるとの国民の確信と信頼を反映している。われわれはまたパキスタンとの対話の過程においては、どのような性質のものであれ外部からの介入の余地がないことを明らかにしてきた。国連安保理は、二国間対話がインドとパキスタンの関係の基盤でなければならないこと、そして
カシミールを含む主要な問題について双方が受け入れ可能な解決策が見出されなければならないことを認識した。これはわれわれと立場を同じくする。    (訳:吉田ゆき)

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印パ核実験をめぐる各国の動き

  • 6月30日:日本政府は核不拡散・核軍縮政策について野党議員が提出していた質問主意書への答弁書を決定した。日本と南北朝鮮の三カ国で非核地帯をつくる「北東アジア非核地帯」構想については「現実的環境はいまだ整っていない」とし、未臨界核実験を含めた核実験禁止についても「今後の核軍縮に向けた国際社会の取り組みの中で検討されていくべきもの」と賛否を明らかにしていない。
  • 7月1日:原水爆禁止日本国民会議(原水禁)などによる被爆53周年原水爆禁止世界大会の概要が固まった。8月1日、2日に東京で開かれる国際会議にはインドとパキスタンから知識人を招き、新たな反核運動を協議する。
  • パキスタン政府は現地紙に、同国の核戦略を見直し、包括的核実験禁止条約(CTBT)に対する立場などを再検討すると語っていることが明らかになった。既にアハメド外務次官は先月末、ワシントンでのタルボット米国務副長官らとの会談で、核戦略の再検討、未署名のCTBTや兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約への対応の見直しを示唆した。
  • 核不拡散条約(NPT)調印30周年の7月1日、タルボット米国務副長官や当時のNPT会議の米代表団員などが、印パの核実験後の軍縮問題について共同会見を行った。かつての対ソ交渉に関わったディーン元大使は「核弾頭とミサイルを恒常的に切り離す『警戒態勢の解除』に米国が率先して取り組み、核保有五カ国に印パ両国とイスラエルを加えた八カ国の動きに広げるべきだ」と提唱した。しかし一方、現在の対ロ交渉の責任者のタルボット氏は「いまはロシアとの核削減交渉を優先させたい」と反論した。
  • 7月3日:「中央アジア非核化構想」を議題とする中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンによる五カ国首脳会議が、カザフスタンのアルマトイで開かれた。五カ国外相は中央アジアを非核地帯化する構想に「積極的な評価」を表明し、専門家レベルで検討を進めることにした。中国の江沢民国家主席は印パの核実験による南アジア情勢の緊張に強い懸念を示し、「中国は核を第一使用せず、核実験も再開しない」と述べた。
  • 7月4日:米国のオルブライト国務長官は、小渕外相と共同記者会見を行い、今月下旬に予定されている橋本首相とクリントン米大統領の会談の内容を明らかにした。印パの核実験後の核不拡散問題、日本の経済政策・アジアの金融危機、環境問題等が議題に上る。
  • 7月6日:クリントン米大統領は9月初めにロシアを訪問することになった。それまでにロシア下院が第2次戦略兵器削減交渉(START2)の批准を承認する見通しは依然厳しいが、米が訪ロの招待を受けたのは最近の米ロ関係の重要性を認識してのこと。
  • インドの新聞「タイムズ・オブ・インディア」は、インド政府が核保有五大国の数カ国とCTBTをめぐって対話を開始し、汎用の核技術の移転禁止などが条約に盛り込まれればインドはCTBTに署名する用意があると伝えた。
  • ロシアはクリントン米大統領が9月初めにロシアを公式訪問すると発表した。エリツィン大統領との首脳会談の議題は、1)START2の扱い、2)ロシアの経済改革への支援、3)印パの核実験後の核不拡散体制になる。ロシアは3日に開かれた安全保障会議で、START2の批准承認実現を改めて確認した。しかし、そのためには米国による弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の順守およびSTART3交渉の進展が、下院の承認を得る条件との立場を打ち出した。核不拡散体制については、ロシアからイランへのミサイル技術の供給疑惑、インドへの原発建設計画などの対立点があり、首脳会談の行方に暗雲を投げかける。


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     藤田明史(専任スタッフ)、中野克彦、吉田ゆき、萩原重夫、川崎哲、笠本丘生、梅林宏道(チーム代表)
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  ●この「速報」はインド・パキスタンの核実験をめぐる一次情報と分析を発信するレポートです。
   第1期として、7月1日から31日までの間に10回ほど発行します。
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