『印パ速報』 ピースデポ・印パプロジェクトチーム
第2号(1998年7月8日) |
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●抗議の声
印パ核実験に対する民衆の支持は圧倒的と伝えられる中で、抗議や批判の声も上がっている。この誌面でもこうした声をできるだけ多く伝えていこう。
インド核軍縮運動(MIND)は今回のインド核実験後に生まれた反核グループで、ジャーナリスト、研究者、芸術家、労働運動家、人権活動家、女性活動家、学生が集まった。デリーを拠点に、インド各地およびパキスタンにも活動範囲を拡げている。
「5月11日および13日の5回の核実験の後、バジパイ政権はインドは核兵器保有国であると宣言した。この決定はインドの安全保障を高めるものでは全くなく、国民の利益になるものでもない。インド亜大陸における軍拡競争を質的に高めることによって、隣国との戦争の危険をより大きくし、核の交戦によるお互いの消滅の可能性をより現実的にする」「核軍縮をつねに求め、差別的な世界の核体制の仲間になりたくなかったインドは、いまや核兵器クラブへの参加を要求しているにすぎないと見られている。バジパイ政権がとる戦略的な思考によれば、5大国ならぬ選ばれた6大国の差別する側に立つ限り核アパルトヘイトは受け入れ
られるという。核兵器国の地位の獲得と結び付いたインド政府による偽善的な行動をわれわれは強く非難する」と結成の声明で述べる。そして原則と目的を6項目あげている。
1.われわれは全面的な核軍縮に深く強く関わる。
2.核兵器は、いかなる国または政府が保有しようと、国家安全保障を高めることなく低める。
3.インドはいかなる状況においても核兵器を絶対使わないことを宣言すべきである。
4.インドおよびパキスタンは全ての核実験をやめるべきである。
5.インド、パキスタンは核兵器の生産および配備を行ってはならない。とりわけ核弾頭付き航空機、ミサイルおよびその他運搬手段の兵器化および配備を行ってはならない。
6.インドは誠実に、真剣にそして精力的に核軍縮の課題に立ち返らなければならない。われわれの本当の安全保障は核兵器のない世界にこそある。
こうした理性的な声には救われた気持ちになる。ここではもう一つ二百名以上のインドの科学者が署名した抗議声明を紹介する(資料1)。
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●資料1
インド核実験に反対するインド科学者の抗議声明
先日、インドは熱核装置の爆発を含む5回の核実験を実施した。実験はわが国の安全保障に影響を及ぼす戦略的な強制のため必要になったと主張され、また主要な科学技術上の達成であるとも主張された。
われわれ様々な分野からなる科学者は、インド政府の今回の行動に深い失望と不満を表明すると同時に以下のことを指摘したい。
今回の核実験によって科学技術が達成したものの重要性は分別なく自慢されるべきではない。核兵器技術の達成のかなりの部分はその成果にまつわる秘密から出ていることをわれわれは想起する。それはまた他の、しばしばより重要な、計画され建設され安全に運転されている原子力発電所のような技術的な挑戦との関連で見られなければならない。これは今まで長い時間をかけてわれわれが行ってきたことであり、当然そのことを誇りに思う。
今回の実験は南アジア地域の大気を汚染し、この地域の核兵器競争を誘発し、すでに存在していた緊張を悪化させ、この地域の諸国民と諸国家が平和的な共存と協力を達成することをますます困難にするにちがいない。インド政府は今回の実験が軍縮に貢献すると主張しているが、その言葉は核兵器国と同様に冷笑的で
ある。
今回の核実験は核軍縮に関して長年とられてきた首尾一貫した立場を台無しにした。技術的能力をもつことを明確にしながら、しかしインド亜大陸で核軍拡競争を起させないためインドは兵器化へ一歩踏み出すことはなかった。同時に、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)にもそれらの差別的な性格ゆえに確固とした姿勢で反対してきた。奇妙なことにいまや政府やメディアではCTBTの受け入れが議論されている。
国民的な議論なしに、国家は高価な兵器計画に縛り付けられている。教育、保健、インフラ、産業発展などが人々の緊急の必要であるときに、国民の安全へのどんな直接的な脅威がこうした動きを促すのか我々には分からない。現政府は国家の安全保障問題を議論する場を設けると約束したが、実際は最低限の議論もせずに、様々な意味をになう急激な政策転換を行った。
われわれは核戦争の恐怖を強く抱く。我々は一貫して核兵器の導入に反対してきた高名な科学者たちの長い伝統を強く共有する。われわれが科学技術の業績にどれだけ誇りを感じようと、またどれだけ巧妙な計算を行おうと、核戦争の恐怖を忘れることはできない。結局、われわれはいまでも広島への原爆投下に至った戦略的な脅威を耳にする。またアメリカのメディアによって1991年の湾岸戦争が科学技術を誇るショーに変えられたことにわれわれの多くは不快を感じる。まして、すべての国が核兵器能力を誇りとし、核抑止政策を確信するような世界でいったいわれわれは幸福や安全を感じることができるだろうか?
( 1998.5)
(訳:吉田ゆき)
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●日本の政党の核政策は
7月12日の参議院選挙を前に各政党の核政策を列挙してみた。
自民党:インドに続きパキスタンが核実験を強行したことは許し難い暴挙である。政府に対し実効ある経済制裁を行うよう求める。わが国として、国連の場などを通じてでき得る限りの外交努力を重ね、核不拡散体制の危機を回避しつつ、唯一の核被爆国として、核兵器のない世界を実現できるよう、一層危機感をもって取り組んでいく。以上、加藤幹事長談話(5月29日)より。その他では同党は、カットオフ条約の交渉を早期に開始するよう国際社会に働きかける、としている。
民主党:印パ両国に対して、全ての核実験・核兵器開発を停止すると共に、NPT、CTBTに無条件に加盟することを求める。印パの核実験は、核保有国、とりわけ米ロ二大核保有国に、核軍縮・核不拡散に特別の責任を負わせるという現在の体制が限界に来ていることを明らかにした。ジュネーブ軍縮会議や国連などの枠組みの中で、核軍縮・核不拡散のための3つの提案を行う。第一、核軍縮促進のための具体的な目標の設定。第二、精神規定にすぎないNPT第6条の改正または新条約締結を含む核保有国に対する義務の強化。第三、兵器用核物質生産禁止(カットオフ)条約の締結を含む実効性ある核拡散防止体制の確立。(「核軍縮・核不拡散をめざして―3つの提案―」6月29日の要約)
社会民主党:インドの核実験に対し秋葉政審会長は11日、「非同盟外交の旗手として国際社会に道義的影響力を発揮したインドが、軍事力、なかんずく核の力に屈してしまった」と失望感を表明。13日の核実験に対しても伊藤幹事長は談話を発表し、インドへの支援凍結・見直し措置を「厳しく辛い選択」とした上で、被爆国民として「核兵器の開発競争がいかに悲惨な結果をもたらすかを、何よりも非暴力を訴えたガンジーの祖国インドの国民に訴えたい」と述べた。具体的には、東アジア非核地帯設置、核先制(第一)不使用宣言の条約化、カットオフ条約、核兵器廃絶条約および武器輸出禁止条約の締結を世界各国に働きかける。
日本共産党:核兵器保有国が核兵器廃絶への責任ある決断をしてこそ、新たな核保有国の誕生をふくむ核軍拡の悪循環を断ち切り、地球の平和な未来への道をひらくことができる。貴国政府が、ただちに次の措置についての検討を開始されるよう決断を求める。第一、期限の決定をふくめ、核兵器廃絶を主題とする国際協議の開始。第二、未臨界実験をふくむすべての核実験の中止、核兵器開発の中止。第三、核兵器の先制不使用の宣言、先制的核攻撃を軍事戦略にとりいれている国はその戦略を放棄する。(不破委員長から核保有五カ国に宛てた書簡、6月4日付の要約)その他、非核地帯設置、核兵器廃絶の流れを北東アジアをはじめ、全アジア・太平洋地域に拡大するとしている。
公明:パキスタンの核実験強行は、冷戦時代の核軍拡競争の論理に逆戻りするものであり、NPTやCTBTなど核の軍備管理体制の全面崩壊に導く危険性をはらんでいる。核兵器は、人類の生存の基盤を破壊する絶対悪である。両国に対しNPT参加およびCTBTの速やかな批准を強く働き掛けていくべきである(以上、公明新聞5月30日付より)。具体的政策としては、核保有国に今世紀中の核兵器廃絶を求める、NPT未締約国縮小、非核地帯化条約拡大、CTBTの早期の発効を図る、未臨界核実験も含めた全面禁止条約の実現を図るとしている。
自由党:インドが地下核実験を24年ぶりに実施し、さらに再び核実験を強行したことは、世界の核軍縮・核管理の流れに逆行した行為である。
インドの行為はNPTに基づく核不拡散体制に対する挑戦と受け止める。NPTへの信頼を崩壊させることのないよう、国連安保理で対応策を協議するよう日本政府として外交的イニシャティブをとるべき。また円借款の凍結等の制裁措置を断固として講ずるべきである(以上、野田幹事長談話5月15日)。より具体的には
国連を改革し、その機能を強化する、
とくに安全保障、核軍縮・軍備管理および地球環境保全を図るための体制強化に努める、としている。
新党さきがけ:印パ双方の核実験実施によって、両国が際限ない軍拡競争を繰り広げ、南西アジア地域を危機的状況に陥れること、更には潜在的核保有国に波及することを憂慮する。今回の実験は、CTBTやNPT体制を危機的状況に陥れ、これまでの核軍縮の努力と核廃絶を目指す人類の宿願を踏みにじった。怒りを込めて強く抗議する(武村代表談話、5月28日より)。
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●印パ核実験をめぐる各国の動き(1998年6月16日−6月30日)
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16日--- 欧州連合(EU)首脳会議は、印パの核実験について「南アジアの緊張と不安定を削減するため、両国が早期に手段を講じるべき」との議長総括を発表。
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バングラデシュのハシナ首相、インドを訪問、バジパイ首相と会談した。印パ両国の核実験によって高まった緊張緩和が目的。
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朝鮮中央通信は、北朝鮮のミサイル輸出の目的が外貨獲得にあると述べ、米国に対して制裁の早期解消を要求し、「ミサイル輸出中止による経済的保障をすべき」と主張した。印パの核実験後、北朝鮮は米国との交渉にミサイルを利用できると判断した。
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17日--- オルブライト米国務長官は政府として初めてイランとの関係改善の重要性を強調。米政府は同国に制裁政策をとってきたが、欧州やロシアの企業の相次ぐ進出や中東の核不拡散にイランの協力を取り付ける必要性が高まったため。
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18日--- 橋本首相は印パの核実験について「核兵器のない世界を目指す国際社会の努力に逆行する」と改めて批判。
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英政府は印パの核実験による国際社会の緊張の高まりを受け、来月にも戦略原潜に搭載するトライデントミサイル核弾頭の半減を発表する。
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19日--パキスタンのシャリフ首相は「一連の核実験が終わった以上、近い将来にわが国が核実験をする意図はない」と語った。
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21日--クリントン米大統領は印パの核実験後、制裁法が「大統領の外交の手を縛っている」としてルーガー共和党上院議員らが提唱している制裁手続きの見直しを支持する考えを示した。
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22日--- 米商務省は、制裁を実施している印パに対する米企業のコンピュータ等民生用については輸出を認める方針を発表。
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ロシアとインドが原子炉2機の建設協定を結んだ問題で、米国務省はロシアに契約の再考を要請。
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23日--98年度版「防衛白書」は、印パの核実験や弾道ミサイルの開発が南アジア地域の安全保障に「深刻な影響を及ぼすことが懸念されている」と記載。
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26日--- ジュネーブ軍縮会議は、印・パ核実験への対応にとくに成果のないまま終了。
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印パ核兵器開発の中止のため主要8ヵ国(G8)が設置したタスクフォースの初会合が7月上旬に開かれることが決定。8カ国のほか、ブラジル、アルゼンチン、ウクライナ、豪州が参加を表明。
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27日--- 中国訪問中のクリントン米大統領は江沢民・国家首席との会談で、印パに対し「責任ある大国」として米中両国の協調を確認。
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28日--英国のオブザーバー紙は、インド核実験のあと「パキスタン軍部がインドに対する核兵器先制攻撃を検討していた」との亡命科学者の証言を報道。
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29日--パキスタンのシャリフ首相がクウェート、カタール訪問に出発した。欧米日による制裁措置に対して経済援助を求めることが目的。
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印パの核実験を受けて日本政府が提案した「緊急行動会議」の初会合が8月末に東京で開催されることが外務省により発表された。核軍縮・核不拡散の道筋の探求が目的。核保有国および核軍縮・核拡散問題に関心が高い十数カ国に専門家らの参加を呼びかけている。外務省の外郭団体の日本国際問題研究所と広島市の広島平和研究所が主催。4回程度の会合を開き、提言をまとめる予定。
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●発行:平和資料協同組合(ピースデポ)
●ピースデポ・印パプロジェクトチーム:
藤田明史(専任スタッフ)、中野克彦、吉田ゆき、萩原重夫、川崎哲、笠本丘生、梅林宏道(チーム代表)
●この「速報」の内容についての問い合わせ先:
藤田明史 Fax 0798-66-9128 E-mail
gr261953@kic.ritsumei.ac.jp
●この「速報」の予約申し込みなど事務的な問い合わせ先:
平和資料協同組合(ピースデポ)
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E-mail:peacedepot@y.email.ne.jp
〒223-0051 神奈川県横浜市港北区箕輪町
3-3-1 日吉グリューネ 102
●この「速報」はインド・パキスタンの核実験をめぐる一次情報と分析を発信するレポートです。
第1期として、7月1日から31日までの間に10回ほど発行します。
●ピースデポ・印パプロジェクトを支えるカンパをお願いします。一口10,000円以上。
郵便振替:00280-0-38075
加入者名:「平和資料協同組合」(通信欄に「印パ・プロジェクト」と明記してください)
● 宛名を明記せずに一斉にファックスと電子メールでお送りします。ご注意下さい。
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