『印パ速報』 ピースデポ・印パプロジェクトチーム
第1号(1998年7月6日) |
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●米中首脳会談
1998年6月27日、中国公式訪問中のクリントン米大統領は北京の人民大会堂で江沢民・国家主席と会談、戦略核ミサイルの照準を相互に外すことに合意した。中国は輸出規制品目を化学兵器生産に使用可能な化学薬品、装置、技術にまで拡げることに合意した。米国が核兵器の第一不使用(not
to be the first to use neclear weapons、「先制」不使用と言われることがあるが、先制の意味はとくに含まれない)の誓約を拒否していることに関して、クリントン大統領は「われわれは立場を変えていないし、それに関して変える用意もない」と述べた。中国はまた核への野心をもつ第三世界へのミサイル技術の輸出に関してより厳しい輸出管理を行い、ミサイル技術規制体制(MTCR)の軍備管理ガイドラインの採用を積極的に検討することに合意した。中国と米国はパキスタンとインドにミサイル、ミサイル備品、核兵器運搬用資財を輸出しないことを誓約した。ただし合意は中距離および長距離ミサイルに限られる。両国は生物兵器禁止条約の強化を呼びかけ、対人地雷の輸出と無差別使用の禁止、世界における人権擁護の強化への関与を確認した。
6月29日、クリントン大統領は「中国と米国はいまやインドとパキスタンを更なる核実験から遠ざけ、紛争を解決するための対話へと向けさせる共通の戦略を追求している」と語った。共同声明は両国の核実験を非難し、インドとパキスタンを公認の核保有国として認めないことを確認した。両首脳は印パ両国に包括的核実験禁止条約(CTBT)と核不拡散条約(NPT)とに加盟し、核兵器とその運搬のためのミサイルを作らないことを呼びかけた。
●インド政府の反応
これに対しインド政府は28日、中国と米国が共謀して南アジアの核軍拡競争をやめさせようとする「覇権主義」を批判した。声明は「インドは米中二国が南アジア地域の平和、安定および安全の維持のため共同または単独の責任を負っているかのような主張を絶対に拒否する」と述べた。さらに「これまで直接または間接に近隣諸国での核兵器と運搬システムの拡散に貢献してきた二国が不拡散の規範を処方するとははなはだ皮肉である」とし、「インドは核兵器とミサイルの開発を縮小する呼びかけを重要とは見なさず、自身の安全保障の要求に従う」と述べた。インド、パキスタン間の調停に関する米中の申し出について、声明は「第三者の介入の余地は全くない」と述べた。
●印パは核兵器技術をどこからえたか?
印パ両国は外国からの技術援助を公式および非公式に受けてきた。
インドの1974年の「平和的核実験」はカナダが供給したサイロス研究用原子炉(重水炉)でできたプルトニウムを使った。重水は米国が供給した。プルトニウムはサイロスの使用済み核燃料を米国および欧州の会社の援助で建設された再処理工場で分離したものであった。 インドの発電用原子炉は米国、カナダ、ロシアから供給され、その稼働に必要な重水はカナダ、中国、ノルウェー、ルーマニア、旧ソ連、旧西独から供給された。発電および軍事用原子炉に使う重水の生産のための重水プラントはカナダ、フランス、スイスおよび旧西独により供給された。
パキスタンの核開発計画は中国が全面的に協力した。中国は1980年代初期に試験的な核兵器の設計にも協力した。中国はまた、今年初めから兵器用プルトニウム生産を開始したクサーブ原子炉の建設にも協力した。 パキスタンは1970年代に欧州コンソーシアムのURENCOから盗んだ遠心分離機のデザインを使い、兵器級ウラン濃縮能力を開発した。これらの遠心分離機は今回の核実験に使用されたウランの濃縮に使用された。フランスは再処理技術を提供した。ドイツはトリチウムおよびトリチウム製造技術等を提供した。(以上は
NUCLEAR CONTROL INSTITUTE のS.Dolleyの「印パ核実験:よく出される質問」98.6.9による。なお、資料2を参照。)
こうして見れば、インドの言うように米中とも印パに対してあまり大きな口はたたけない。
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●資料(1) 98年5月28日パキスタン・シャリフ首相の声明
今日パキスタンは5回の核実験に成功した。結果は期待どおりであった。放射能漏れはなかった。全国民はパキスタン原子力委員会、アブドル・カーン研究所及びその他関連機関の業績を誇りにしている。パキスタンの侵略抑止能力を彼等が実証してくれた。インドの核兵器計画によってパキスタンは核の選択を余儀なくされた。それは現存の抑止力を崩壊させ、この地域の戦略的なバランスを根底から変えた。インドはその核実験の直後に、「イスラマバードはこの地域の戦略地政学的な状況の変化を認識すべきだ」とあつかましく要求し、また「インドはパキスタンに確固とした強い態度で臨むであろう」と脅迫した。
われわれの安全およびこの地域全体の平和と安定はこのように深刻な脅威を受けた。自尊心ある国民としてわれわれには選択の余地はなかった。現インド指導部のむこうみずな行動によりわれわれは手を下さざるをえなかった。全ての選択肢について十分な審議を重ね、慎重に検討した結果、われわれは戦略上の均衡を再建する決定を下した。国民は何よりも強い指導力を求めていた。過去三〇年間、インドの核および核弾頭ミサイルの増強に対してパキスタンは繰り返し国際社会に注意を促してきた。われわれの警告はことごとく無視された。パキスタンの防衛環境の悪化が続くなか、われわれは最大限の自制力をもって対処してきた。われわれは南アジア地域での核不拡散の目標をできる限り真剣に追求した。南アジア地域を核兵器や弾道兵器のない地域として維持するとのわれわれの主張は拒絶された。インドの核実験に対する国際社会の反応もわが国の領土安全保障に役立つものではなかった。パキスタンに自制を求める一方、インドの核武装を既成事実として受け入れる声も強かった。パキスタンの安全保障に対する当然の懸念は、核兵器使用と核恐喝を被った後でさえも公にされなかった。我々は自国の安全保障に対する脅威に無関心でいるわけにはいかなかった。脅威の大きさを無視するわけにはいかなかった。
いかなる状況下においてもパキスタン国民は命と生存に関する事柄には妥協できない。核選択の決定は国家の自衛のために行われた。核であれ通常兵器であれ、これらの兵器は侵略を抑止するためのものである。新たな現状を踏まえた上で、パキスタンはひき続きジュネーブ軍縮会議において核軍縮と核不拡散の実現を支援し続ける。核兵器化した南アジア地域に対する世界的な核不拡散体制の適用性と妥当性についてわれわれは再評価を試みる。われわれは新たな状況のもと、こうした目標を進める方法と手段について他国とくに主要核保有国と建設的な対話を行う用意はできている。パキスタンは一貫して最大限の自制と責任をもって行動してきた。今後もそうするつもりだ。パキスタンは、中心的な争点であるジャンム、カシミール問題を含む平和と安全保障のすべての主要な問題についてインドとの対話を再開する用意ができている。核の安定化のための相互自制と公平な手段を築く緊急措置もこうしたことに含まれる。パキスタンはすでにインドに対してジャンム、カシミール紛争の公平な解決に基づいた不可侵条約を提案してきた。私はこの提案を繰り返し申し上げたい。われわれは効果的な指揮管理体制を設けた。われわれは最高の責任感をもってこれらの兵器システムを扱う必要性を十分自覚している。我々は機微技術をいかなる国家や団体にも移転していないし、今後もそのつもりはない。
同時に、パキスタンは自衛もしくは平和目的のために様々な科学技術を開発する自国の権利の行使を妨げるすべての不正な禁止措置に反対する。パキスタンの核兵器システムは自衛のためにのみ存在し、この点について何の不安や懸念もないことを全ての国に重ねて確約したい。パキスタンの人々は団結して、国家独立と主権と領土保全を守るため、どんな犠牲もおしまない。科学者、技術者達の偉業に対してわたしはパキスタン国民にお祝いの言葉を述べたい。彼らによってパキスタンの人々は自信と確信をもって新世紀へ踏み出すことが可能となった。 (訳:金場美幸、吉田ゆき)
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●資料(2) インド・パキスタンの核開発への外国からの技術移転
インド
供給国 |
項目 |
備考 |
カナダ |
Cirus研究用原子炉
Cirus原子炉燃料
CANDU原子炉
重水プラント |
74年の核実験に抽出されたプルトニウムが使われた[Cirus:「サイラス」重水炉]
ラジャスタン1号機[CANDU:カナダ型重水炉、1973.12商業生産開始]
コタ |
中国 |
重水
LEU燃料(1995年以降) |
タラプール1&2号機用[LEU:低濃縮ウラン] |
フランス |
LEU燃料(1982-1994)
重水プラント
高速増殖炉技術 |
タラプール1&2号機用
バロダ、ツチコリン
カルパカム |
ノルウェー |
重水 |
不法移転 |
ルーマニア |
重水(ノルウェー原産) |
不法再移転 |
ロシア |
発電用原子炉 |
クダンクラム1&2号機[PWR:加圧水型軽水炉、98年6月21日印ロ間で建設契約が結ばれた] |
ソ連 |
重水 |
ラジャスタン原子炉用 |
スイス |
重水プラント |
バロダ、ツチコリン |
英国 |
研究用原子炉燃料 |
アプサラ |
米国 |
重水
発電用原子炉
LEU 燃料
再処理技術
|
Cirus研究用原子炉
タラプール1&2号機[BWR:沸騰水型軽水炉、1969.10商業生産開始]
1982年までタラプール原子炉用
トロンベイ/BARC(バーバー原子力研究センター) |
西独 |
重水
重水プラント
ベリリウム |
不法移転
ナンガル、タルシェル
米国原産で不法再移転のものあり |
パキスタン
供給国 |
項目 |
備考 |
ベルギー |
重水プラント
再処理技術 |
ラワルピンジ |
カナダ |
重水プラント
CANDU 核燃料成型・加工プラント設計 |
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中国 |
核兵器設計
PARRU研究用原子炉
クサーブ原子炉
核燃料成型・加工プラント(?)
重水
濃縮ウラン工場(リング型磁石)
発電用原子炉
再処理技術 |
クサーブ
カヌプ[PARRT]原子炉用
カフタ
チャスマ[PWR、93.8建設開始]
|
フランス |
再処理技術および部品
発電用原子炉 |
SGN[サンゴバン社が77年COGEMA(核燃料公社)に吸収されたもの。76年パと再処理工場の協定を締結したが、米の圧力により破棄] |
オランダ |
遠心分離機設計 |
URENCO[独・英・オランダのウラン濃縮合弁会社]から盗み |
スイス |
ウラン濃縮技術 |
|
英国 |
再処理施設設計 |
ラワルピンジ |
米国 |
PARRT研究用原子炉 |
[CANDU、71.8臨界、72.10発電開始] |
西独 |
ウラン転換プラント
ウラン濃縮技術
トリチウム
トリチウム精製プラント
トリチウム製造炉計画
ウラン運搬コンテナー
遠心分離機用アルミニウム
その他 |
不法移転
不法移転
[トリチウム:三重水素、水爆開発に必要]
不法移転
不法移転
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Steven Dolley、Nuclear Control Institute,June 5,1998。
備考のカタカナは地名。[ ]内は訳者注。
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●印パ核実験をめぐる各国の動き(1998年5月31日−6月13日)
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5月31日--- イスラム諸国会議機構は印パ両国に対し、相互不可侵条約の締結を求める声明を発表した。
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6月1日--- インド原子力委員長のチダムバラム博士は「もし必要な場合にインドは核大国がすでに実施している未臨界核実験をするだろう」と語った。
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2日--- ロシアのプリマコフ外相は、国連安保理常任理事国外相会議ではカシミール問題などについて両国間の緊張を緩和する措置の協議が必要だと述べた。また経済制裁は相手国を孤立させると反対を表明した。
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3日--- クリントン大統領はワシントンでの演説で、印パ両国の核開発を止めるため国際社会の一致した行動が必要と強調した。CTBTについて米上院に批准承認の審議に入るよう求めた。
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4日--- 国連安保理の常任理事国外相会議がジュネーブで開催。印パを核兵器保有国として認めず、CTBTに即時、無条件の署名を求める共同声明を発表した。
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イランのハラジ外相は「イランは核兵器開発に反対である。NPT を順守し、強化していく」と述べ、中東における非核地帯設置の重要性を強調した。
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5日--- インドは国連安保理常任理事国外相会議が出した共同声明を非難するとともに、名指しを避けたものの中国のパキスタンへの核技術供与を非難する声明を発表した。
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6日--- 国連安保理では日本などが共同提案国となり「1995年の NPT延長・再検討会議で採択された『核不拡散と軍縮の原則と目標』文書を想起する」「両国をはじめ各未加盟国に対し遅滞なく無条件で
NPTとCTBTに加盟するよう求める」などが全会一致で採択された。
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9日--- ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、スロベニア、南アフリカ、スウェーデンの非核8ヵ国の外相はストックホルムで共同宣言を発表、核保有5カ国と印パ及びイスラエルの3核兵器能力国に対し、直ちに核廃絶の誓約を行うよう求めた。
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クリントン米大統領は、金大中韓国大統領との共同記者会見で「インドとパキスタンによる核実験問題を話し合い、懸念を表明した」と述べた。
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10日--- オルブライト国務長官は、米上院によるCTBTの早期批准、核保有国の核軍縮義務の履行のためロシアとのSTART3交渉を始める、携帯型地対空ミサイルの輸出管理を強化する国際協定を結ぶなどの軍縮・核不拡散政策を示した。CTBTの批准を米国は済ませておらず、同氏は批准が遅れれば米国の指導力が問われると懸念を示した。
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ゴルバチョフ元ソ連大統領は印パの核実験に関し「米ロが核軍縮にぐずぐずしていることが悪例を作り、両国を核開発に向かわせる一因になった」と指摘。
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イラクのフセイン大統領は印パ両首相への書簡で「実験は主権に基づいて実施したものだ」と理解を示し、両国への制裁の動きに対しては「不当なもの」との見解を示した。
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11日--- 橋本首相は印パ両国に対する日本政府としての核軍縮・廃絶政策を表明、内外の有識者を集めた「核軍縮・核不拡散に関する緊急行動会議」を一年以内に開催する事を強調した。
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12日---ロンドンで開催されたG8の緊急外相会議は、「印パ両国にCTBTへの即時、無条件加盟を要請する」「両国を核兵器保有国とは認めない」「われわれは核軍縮への決意を再確認し、核廃絶を究極目標として組織的で前向きな核兵器削減努力を行う」などの声明を発表した。
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オルブライト米国務長官はG8の緊急外相会議の後、「両国を孤立させたり見放したりすることもできない」として核不拡散体制に組み込んでいくとの見解を示した。今後はG8が設置を決めた高級事務レベルの作業チームで、両国の緊張緩和のための体制づくりを進める。
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国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は、印パの核実験を非難する議長総括を承認。IAEA理事国のメンバーである両国はこの議長総括を不当とした。
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13日--- 印パは、両国の核実験に対して示されたG8共同声明について非難する声明を発表。
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●発行:平和資料協同組合(ピースデポ)
●ピースデポ・印パプロジェクトチーム:
藤田明史(専任スタッフ)、中野克彦、吉田ゆき、萩原重夫、川崎哲、笠本丘生、梅林宏道(チーム代表)
●この「速報」の内容についての問い合わせ先:
藤田明史 Fax 0798-66-9128 E-mail
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●この「速報」はインド・パキスタンの核実験をめぐる一次情報と分析を発信するレポートです。
第1期として、7月1日から31日までの間に10回ほど発行します。
●ピースデポ・印パプロジェクトを支えるカンパをお願いします。一口10,000円以上。
郵便振替:00280-0-38075
加入者名:「平和資料協同組合」(通信欄に「印パ・プロジェクト」と明記してください)
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