英国防戦略見直し(SDR) 第4章(核戦略)全訳 第4章 抑止力と軍縮 60. 抑止力とは、戦争を戦うというより防止することに関連している。英国軍はすべて重要な抑止任務をもっているが、核抑止力は、核戦争の性質ゆえに、とくに困難な問題を提起している。英政府は、核兵器の居どころがないようなより安全な世界を望んでいる。したがって、軍備管理の進展が外交および国防政策の重要な目的となる。にもかかわらず、大量の貯蔵核兵器と核拡散の危険がまだ残っている以上、最小限の抑止力がわが国の安全保障の必要な要素であることに変わりはない。 61. 「戦略国防見直し」は、わが国の抑止力の必要性を厳密に再検討した。それは、他の国の貯蔵核兵器の量に依存するものではなく、わが国の致命的な利益を脅かす脅威を抑止するのに必要な最小限のものである。その結果われわれは、核兵器の数においても日々の作戦態勢においても、冷戦レベルから相当量の削減をさらに進めても安全であると結論づけた。核兵器保有についての透明性もまた、軍備管理の一部をなすが、われわれは抑止力のすべての面の正確な詳細を明らかにすることはできないが、いくつかの分野における公開性を相当に高めるつもりである。 兵器
63. 同様に、こんにちそれがいかにありそうになくても、トライデントの艦齢中に出くわすかもしれない最悪の状況にも備えて、わが国の兵器の要求について判断しなければならない。抑止力の信頼性はまた、全面的な核の撃ち合いに自動的に発展しないような限定攻撃の選択を残すことによってえられる。ポラリスやシェバリンとちがって、トライデントはこの「非戦略(戦略以下)」の任務を遂行できるものでなければならない。 64. このような背景のもとに、トライデントのポラリスに勝る正確度を考慮して、「戦略見直し」は作戦用核弾頭は200発以下でよいと結論づけた。それは前政府が公表していた300発以下という数字の3分の1の削減となる。また、冷戦終結以来、抑止力の爆発威力の70%以上を削減したことになる。 65. また、われわれは、戦略的環境の好転にかんがみ、われわれがすでに購入している58基のミサイル本体で、信頼性のある抑止力を維持するのに十分であると結論づけた。 作戦態勢
67. われわれは、48発の弾頭を装備した潜水艦を一時期に一隻のみパトロールさせる。これに対して前政府は96発という上限を発表していた。これは、ポラリス時代と比較して大きな変化である。トライデントは、われわれのもっている唯一の核兵器であり、戦略、非戦略両方の任務をもつものであるが、一隻のトライデント潜水艦に配備されている爆発威力は、シャバリンを装備したポラリス潜水艦より3分の1小さい。 68. 潜水艦のミサイルは標的に照準を合わせていない。通常、数日間の発射態勢(発射命令を下してから数日かかる状態)におかれる。この緩和された警戒態勢によって、弾道ミサイル潜水艦は、他の軍艦との共同演習、装置の試験、水深調査といった二次的な任務により多く利用することができる。同様に、こんにちの脅威のレベルにおいては、抑止力を護衛するために通常戦力を大量にはりつけておく必要はない。しかし、必要となればいつでも、高い警戒態勢を回復することが確実にできるようにしておくであろう。 軍備管理
70. 核軍備管理に関して言えば、英国は米ロが戦略兵器削減条約(START)プロセスを通して二国間の戦略兵器の削減をいっそう進めることを期待する。また、ロシアの何千発もの短距離ミサイルの削減が進むことを期待する。上述した削減ののちのわが国の貯蔵核兵器は、近未来のわが国の安全保障に必要最小限のものであり、主要核兵器保有国と比較してはるかに少量のものである。 71. 核拡散防止条約(NPT)と包括的核実験禁止条約(CTBT)は、核軍備管理の鍵となる要素である。わが国はCTBTを批准した。そして、CTBTが発効するよう、とりわけインド、パキスタンを含めた他の国々が、わが国のお手本に早期に続くことを期待する。核プログラムの透明性を拡大することもまた、国際的な信頼と安全保障を高める。本章ですでに述べた措置は、この方向への重要なステップである。 72. われわれはまた、核分裂性物質について、公開性をいっそう高めることができる。われわれの現在の国防用の貯蔵量は、プルトニウムが7.6トン、高濃縮ウランが21.9トン、他の形のウランが15,000トンである。計画通りの核兵器数の削減の結果、0.3トンの余剰の兵器級プルトニウムを(非兵器級の余剰物質とともに)国際査察下に置くことができるであろう。また、保障措置下に置かれている貯蔵核物質から、核兵器用に核分裂物質を引き抜くことができるというNPT下で核兵器国に与えられている権利を行使することを、われわれは止めるであろう。今後の引き抜きは、兵器目的には適さない少量の物質に限定される。そして、その詳細は公表される。保障措置から引き抜かれる物質が、核兵器に使用されることはない。また、将来計画されている再処理は、すべて保障措置の下で実行され、過去の国防用核分裂物質生産に関する最初の報告書を2000年までに発行する予定である。 73. 軍備管理協定の有効性は、検証に大きく依存する。わが国は、核分裂物質や核実験の監視に特別な専門技術を開発してきた。このうえにさらに、わが国はアルダーマストンの核兵器施設での専門技術を生かしながら、核兵器削減の検証に利用できる能力を開発する計画である。その最初として、必要とされる工学、熟練技能、技術を洗い出し、わが国に存在するものを特定するための18カ月かけた調査を行う。 費用
75. これらは、きわめて高額な費用であるが、全体的な視野から見る必要がある。(過去のプログラムからくる継続的費用を含めて)年間費用は、全国防予算の3%強にすぎない。国家安全保障に対する致命的な重要性のある能力を考えると、不釣合いな投資ではない。(訳:梅林宏道)
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