外国人研修・技能実習制度に関する質問主意書

2000年11月30日

 本年3月24日に策定された『第二次出入国管理基本計画』は、「日本人と外国人が心地よく共生する社会の実現を目指す」としており、また、今後の日本における少子高齢化の進行を見るとき、外国人労働者(移住労働者)の受入れ問題は避けて通れない。
 しかし、外国人研修・技能実習の実情にかんがみると、これらの制度には、なお多くの問題点が存している。これらの制度の趣旨を活かすために、その内容の見直しを早急に図るべきと考え、以下質問する。

1、関係省庁連絡会議について
 昨年11月18日の参議院労働・社会政策委員会において、私は、外国人研修・技能実習制度に関する関係省庁による連絡会議を設置して体制を強化してほしい旨の質問をしたが、当時の牧野労働大臣からは、関係各省の協議会をつくり、連携に万全を期す旨の答弁を得た。
1)この「関係省庁連絡会議」の具体的活動の内容は、現在どのようになっているか。
2)今後、関係省庁の連携はどのように強化されるのか。
3)将来的には、外国人研修・技能実習制度を一元的に担当する責任ある政府機関を設立すべきと考えるがどうか。

2、外国人研修生・技能実習生に関する具体的問題の発生について
 現在、日本における外国人研修生・技能実習生に関しては、次のような問題が生じていると聞いている。そこで次の(1)から(8)までについてどのように事態を把握しているか。また、その問題の実情によっては、人権侵害問題として、ガイドラインを策定する等の早急な対処が必要であると考えるがどうか。
(1)受入れ機関や受入れ事業主によるパスポートの取上げ・保管
(2)研修生に対する非実務研修の未実施
(3)技能実習生の時間外・休日労働とこれらに対する割増賃金の不払い
(4)管理費などの名目による賃金の実質的ピンはね(送り出し機関への送金のために事業主が行っているとされる)
(5)合意の形をとりながら実質的には強制となる預貯金(通帳・印鑑は事業主又は第三者が管理しているとされる)
(6)賃金支払いにおける日本人労働者との差別的取扱い
(7)送り出し機関による違約金の定めと徴収
(8)事業主の監視体制下や劣悪な状況にある研修生・技能実習生が生活する場所(寄宿舎・アパート等)

3、外国人研修・技能実習制度に関する立法について
 現状及び今後の外国人研修・技能実習制度に関する問題の発生とこれらの制度をより有効なものとする必要にかんがみ、外国人研修・技能実習制度に関する「基本法」を制定して、将来に向けて有効な法制度を構築すべきと考えるがどうか。

4、外国人研修生・技能実習生の送り出し機関について
 例えば、中国出身者の違約金・保証金問題、インドネシア出身者のパスポート取上げ問題、ベトナム出身者の保証金問題などが指摘されている。これらの問題は、日本国内だけで解決できるもめではなく、外交ルートによる誠実な交渉に基づく「二国間条約」の締結等によって解決を図るべきと考えるがどうか。

5、外国人研修生・技能実習生に対する相談体制の整備について
 外国人研修生・技能実習生が、これらの制度趣旨に基づき、安心して研修を修了し、技能を習得できるよう、その過程で生じた人権問題や生活上の問題について、しかるべき公的機関による相談体制の整備確立が急務と考えるがどうか。

6、外国人研修生・技能実習生の「負担」問題について
 研修及び技能実習において、何らかの問題が発生した場合には、帰国措置等、外国人研修生・技能実習生の負担において「解決」したとされることが多くある。また、外国人研修生・技能実習生が受入れ機関における問題点を指摘したり、あるいは病気にかかった場合に、受入れ機関が恣意的に帰国させる例も報告されている。
 これらの事態は、日本に対する悪感情・憎悪に結び付く可能性が高い、非常に深刻な人権問題である。直ちに外国人研修生・技能実習生の権利保護に留意した解決策を講ずるべきと考えるがどうか。

7、受入れ機関へのチェック体制の強化について
 研修及び技能実習について、受入れ機関が適正に実施しているか否かを把握するためのチェック体制の強化が必要であると考えるがどうか。具体的施策を講じるために国・地方を問わず、公的機関が連携して当たるべきではないか。

8、受入れ事業所における労働安全体制について
 研修生及び技能実習生が、受入れ事業所において研修及び技能実習中に、業務上の負傷や疾病にかかる事態が発生してはならないことは言うまでもない。現在日本が受け入れている研修生及び技能実習生に関する労働安全について、どのように把握しているか。体制強化の施策が必要と考えるがどうか。

9、研修・技能実習制度の目的と意義について
 研修及び技能実習で獲得する技能・技術等が、相手国の必要とする技能・技術等と見合っていないことが多いとの指摘があるが、今後どのような改善策等を講じてこの制度を充実していく考えか。
 また、研修生及び技能実習生の帰国後の状況について、どのように把握しているか。問題点として対応すべき課題について具体的に考えていることは何か。

10、JITCOについて
 現在、研修及び技能実習制度について、JITCO(財団法人国際研修協力機構)の果たしている役割・機能をどのように位置付けているか。また、今後の研修及び技能実習制度の発展と充実のために、JITCOの位置付けをどのように考えているか。

11、在留資格の見直しについて  技能実習については、『第二次出入国管理基本計画』で、新たに独立した在留資格として創設することを検討することになっているが、その進捗状況はどうか。

 右質問する。

外国人研修・技能実習制度に関する質問に対する答弁書

2001年1月16日

1及び10について
 外国人研修生の受入れの拡大及び円滑化を図ることを目的として平成3年に設立された財団法人国際研修協力機構(以下「JITCO」という。)については、外国人研修・技能実習制度(以下「研修・技能実習制度」という。)に関し、研修から技能実習への円滑な移行を促進するための在留状況評価等の業務、研修生及び技能実習生を受け入れる我が国の団体、企業等(以下「受入れ機関」という。)や研修生を送り出す諸外国の団体、企業等(以下「送出機関」という。)に対する啓発、助言、支援等の業務、研修生及び技能実習生に対する相談の業務等を行っており、今後とも研修・技能実習制度運営の中核的機関として位置付けることとしている。
 法務省、外務省、厚生労働省、経済産業省及び国土交通省(以下「関係五省」という。)は、研修・技能実習制度の発展及び充実のため、各省の所掌事務に応じ、諸課題に適切に対処するとともに、JITCOを共同で所管する省庁としてJITCOがより効果的に研修・技能実習制度への支援等を行うよう連携して指導してきたところである。また、関係五省担当課長等をメンバーとする連絡会議を毎年二回程度開催し、研修・技能実習制度に関する連絡・協議を行うなどしてきたところである。
 研修・技能実習制度の発展及び充実のため、今後とも関係五省は、JITCOに対して連携して必要な指導を行うとともに、右連絡会議等の場も活用しながら、各省間の連携の一層の強化を図ってまいりたい。

2について
 JITCOが、平成11年度に技能実習の実施企業延べ5268社に対し巡回指導を行ったが、そのうち平成12年3月末までにJITCOの地方駐在事務所から本部に報告がなされた延べ4074社について集計した結果によれば、技能実習生からの依頼がないにもかかわらず旅券若しくは預金通帳を保管し、又は技能実習生からの要請があるにもかかわらず旅券若しくは預金通帳を返還しないとして指導した事案は113件であった。また、時間外及び休日の労働に係る労使協定の届出を行っていないとして指導した事案が667件、時間外、休日又は深夜の割増賃金が適切に支払われていないとして指導した事案が6件であった。
 また、JITCOが、研修生の在留資格の変更又は技能実習期間の延長時に受入れ機関における研修又は技能実習の状況を実地に調査した際に、宿泊施設の居住環境が不良であるとして指導した事案がある。
 労働省において、平成10年度に技能実習生を受け入れている2725事業場に対して労働基準関係法令上の問題があるか否かの総点検を実施したが、これら事業場のうち集団指導等を実施した後も問題がないこと又は問題が改善されたことが確認できなかった160事業場に対して個別に監督指導を実施したところ、8事業場において労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条の違反が認められ、そめ是正をさせた。
 そのほか、研修生に対して非実務研修を全く実施していなかった事案、労使協定を締結せずに貸金の一部を控除して技能実習生に支払っていた事案及び送出機関が研修生又は技能実習生に対して日本での研修等における遵守事項に違反した場合の違約金の支払を規則等で定めている事案を把握しているが、技能実習生に対する国籍を理由とした賃金差別の事案は把握していない。
 研修生及び技能実習生の受入れの適正化を堆進するため、法務省において平成11年2月に「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」(以下「指針」という。)を策定し、また、同月にJITCOが「外国人研修・技能実習生における研修手当、賃金及び管理費等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を策定し、研修生又は技能実習生の受入れ機関に対し指導しているところであるが、今後、法令違反を含め不適切な事案に一層的確に対応していくため、関係行政機関及びJITCOが連携を図りつつ、出入国管理法令、労働基準関係法令、指針及びガイドラインに基づく指導の徹底を図ってまいりたい。
 なお、送出機関による違約金の定めとその徴収については、送出機関と研修生本人等の当事者間の契約によるものであり、基本的には当事者間の話合いにより解決することが最も適当であると考えているが、送出機関における改善が必要であると考える場合には、受入れ機関から申入れを行うよう指導するなど、必要な対応を図ってまいりたい。

3について
 御指摘の点については、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)、労働基準法等既存の法律を適正かつ厳格に運用することで有効に対処することができると考えている。

4について
 御指摘のような問題については、我が国の受入れ機関と相手国の送出機関との間で、また、JITCOと送出国政府等との間で、問題解決に向けた様々な話合いが行われてきているものと承知している。
 このような状況にもかんがみ、基本的には研修生又は技能実習生の受入れにかかわるこれらの関係者の間で話合いにより解決することが最も適当であると考えており、今のところ、政府間の協定締結は時に検討していないが、政府としても、これまで必要に応じて送出国政府に諸問題の解決あるいは改善の申入れを行ってきており、今後とも外交ルートを通じて送出国政府へ申し入れることが適切であると考える場合には、随時、必要な働きかけを行ってまいりたい。

5について
 1及び10について述べたとおり、JITCOにおいて研修生及び技能実習生に対する相談の業務を行っており、特にJITCOの本部においては研修生又は技能実習生からの相談に対し、中国人及びインドネシア人の職員により母国語で応じている。また、地方駐在事務所が技能実習生受入れ企業に対して行う巡回指導時には、技能実習生に対して面談を行い、技能実習生の近況を把握し、必要な助言等を行っている。
 今後とも、JITCOを通じて行っているこれらの相談業務について、研修生及び技能実習生に対し周知するとともに、その内容の充実を図ってまいりたい。

6について
 5について述べたとおり、JITCOは研修生及び技能実習生に対する相談の業務を行っているところであり、相談の結果、問題があると思われる事案については、研修生又は技能実習生の意向にも留意しつつ、受入れ機関に対して必要な改善指導を行っているところである。
 また、受入れ機関において不適切な研修又は技能実習の実態が判明した場合には、地方入国管理官署において改善指導を行うほか、必要に応じ、研修生又は技能実習生の受入れ停止等の措置を講ずるとともに、研修又は技能実習の続行が困難となった研修生又は技能実習生については、事情に応じて適切な研修又は技能実習の期待できる受入れ機関への移籍を認めており、今後とも、これらの措置により、研修及び技能実習におげる問題の適切な解決に努めてまいりたい。

7について
 JITCOは、研修生の在留資格の変更及び技能実習生の技能実習期間の延長時に受入れ機関における研修及び技能実習の状況を必要により実地に調査し、指導を行っているほか、技能実習を行っている企業に対しては、技能実習が適正に行われていることを確認するため巡回指導を行っており、平成11年度においては、延べ5268社に対して実施したところである。
 また、地方入国管理官署は、商工会等の団体が研修生を受け入れて研修を実施する場合、当該団体が定期的に地方入国管理局の長に対して行う研修の実施状況の報告によってその実施状況を確認するとともに、必要に応じて、受入れ機関に対して実態調査を実施し、出入国管理法令等に違反する事実が認められた場合には、改善指導、研修生又は技能実習生の受入れ停止等の措置を講じている。
 なお、労働基準監督機関は、技能実習生を受け入れている事業場に対して監督指導を実施し、労働基準関係法令に違反する事実が認められた場合には、事業主に対してその是正を求める等的確に対処しているとこるである。
 これらの措置の実施に当たっては、法務省、厚生労働省等の関係行政機関及びJITCOは国、地方のレベルを問わず、必要に応じ連携を図っているところであり、今後とも研修及び技能実習が適正に実施されるよう実施状況の把握及び指導に努め、また、各機関の緊密な連携を図ってまいりたい。

8について
 研修生の研修中及び技能実習生の技能実習中の負傷や疾病については、その正確な数は把握していないが、技能実習生を含めた外国人労働者の労働災害の死傷者数(死亡者数及び休業四日以上の負傷者数の合計)は、平成11年においては779人であり、そのうち10人が死亡となっている。
 厚生労働省においては、技能実習生を含めた外国人労働者の安全衛生を確保するため、平成5年5月に策定した「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」に基づき、外国人労働者を雇用する事業主に対し、安全衛生教育の実施等について指導しているところである。
 また、厚生労働省においては、研修生の研修中及び技能実習生の技能実習中の負傷及び疾病の発生を防止するため、JITCOを通じて、平成9年度から安全衛生相談員による受入れ企業に対する巡回相談及び助言、安全衛生セミナーの開催、安全衛生ニュースの作成及び配布等を実施しているが、平成11年度からは、これらに加え、メンタルヘルス相談員による受入れ企業に対する相談及び助言並びにメンタルヘルスに関するセミナーを開催しているところである。
 今後とも、これらの施策を通じ、研修生の研修中及び技能実習生の技能実習中の負傷や疾病の防止対策の推進に努めてまいりたい。

9について
 研修生及び技能実習生の帰国後の状況については、平成9年度以降、JITCOが研修生及び技能実習生の帰国後の状況について調査を実施しているところである。
 研修は、出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)により、申請人(研修生)が住所を有する地域において修得することが不可能又は困難である技術等を修得しようとすること、申請人(研修生)が国籍又は住所を有する国に帰国後本邦において修得した技術等を要する業務に従事することが予定されていること等の基準に適合するものであることが要件とされているところであり、今後とも、当該基準の一層の適正な運営を図り、研修生及び技能実習生の送出国への有効な技術等の移転が行われるよう努めてまいりたい。
 また、技能実習制度については、開発途上国への技術等の移転の観点から、送出国のニーズも踏まえ対象職種の見直しを行う等、適正かつ円滑な推進に努めてまいりたい。  

11について
 御指摘のとおり、平成12年3月に公表した出入国管理基本計画(平成12年法務省告示第119号)において、「既に技能実習が定着を見つつあることから、独立した在留資格の創設を含め必要な法改正等を関係省庁と協議をして検討し、これら制度の法的な基盤を整備していく」こととしたところであり、政府としては、その実現に向け、努力してまいりたい。


HOME| 重点政策| 護ろう憲法| 労働と福祉| 立法活動| 現場に立つ| トピックス| プロフィール| ひとこと| 著作紹介| 論文紹介
大脇雅子国会報告Internet版