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労働法制の動き

パートタイム労働と均等待遇の原則
「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」を読んで

はじめに
 第１章　パート労働研究会報告の内容とその批判
 第２章　均等待遇の原則をめぐる動向
 第３章　パート労働に関する「大脇試案」とコメント
 おわりに

はじめに

２０００年６月５日から９日までニューヨークの国連本部で開かれた「女性２０００年会議」において、５年前の北京会議と比べて際立って強調されていた課題は、地球規模における経済のグローバル化が、女性たちにどのような影響、とりわけいかなる負の効果をもたらしているかの議論であった。グローバリゼーションは、労働の分野において、これまで雇用契約を律してきたルールを解体させようという動きとして現れ、完全雇用を想定した社会保障システムも弱体化しつつある。企業は、人件費のコストを減らすために、パートタイム労働者、在宅労働者、短期契約労働者、下請け労働者、派遣労働者など不安定な雇用労働者を増加させ、開発途上国においては、インフォーマル・セクターが、正規の雇用に比べて急激に増大し、先進国にも波及しつつあると、指摘されていた。

採択された「2000年会議」の文書は、平等の障害として「多くの女性がジェンダーに依る賃金格差に直面し」ていることおよび「同一労働または同一価値労働に対する女性と男性の同一賃金は、完全には実現されていない」と述べている（注１）。最底辺において働く人たちの状況を視野に入れて、その権利の確立と保護は、２１世紀における国際的な要請であり、かつ重要な課題である。

日本においても近年パートタイム労働者が増加し（注２）、パートタイム労働者は、多くの企業において、すでに基幹的、恒常的な労働力としての役割を担い、管理職や専門的、技術的職業従事者に職域も拡大・多様化し、勤続年数も長期化する傾向がみられる。さらに、規制緩和による合理化や長引く不況のもとで、企業の戦力としての活用が進み、企業の要請も、「良質な人材の確保」として、パートタイム労働者に対する期待は、当初の「使い捨ての単純労働」と言うイメージを払拭して、正社員に対する期待に近いものとなっている（注３）。

にもかかわらず、パートタイム労働者の仕事の質や量を問うことなく、パートタイム労働者に対する賃金やその他の労働条件と処遇に対する不合理な差別は、数多く存在している。いまではパートタイム労働者の意識にも、多様な変化が生まれ、平等処遇を望む人たちが増加してきた（注４）。国際的な流れを踏まえ、日本における人権の尊重と平等政策、そして人的資源の有効活用という雇用政策の立場からも、パートタイム労働者に対する不合理な差別を是正し、正社員との均等待遇の実現は急務である。

第１章パート労働研究会報告の内容と批判

パートタイム労働者に対する均等待遇にかかる法の整備は、平成5年（１９９3年）６月２０日「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」（以下「パート労働法」という）が制定され、第３条において、「就労の実態と通常の労働者との均衡を考慮して」必要な措置を講ずるよう努めるものとすると規定されている。（注５）。

しかし「均衡な取扱い」に関する「指針」（平成５年１２月1日労働省告示第２８号）は、第二（八）において「賃金、賞与、及び退職金について」均衡等を考慮して定めるように努めるものとすると規定するのみで、その具体的基準は通達に任され、通達では「業務の内容（困難度・複雑度等を含む）、労働時間（所定労働時間の長さ及び時間帯）、所定外労働の有無、配置転換の有無、契約期間、勤続年数、職業能力（技能熟練度、専門知識の程度、免許・資格の有無等を含む）等の、『パート労働者の就労の実態』と『通常労働者との均衡（バランス）』、場合によっては、同業他社の状況を考慮して判断する」とされている。パート労働法の法案の修正と審議の中身は活かされることなく（注６）、かえって通達により法の趣旨は狭められ、行政指導は、均等どころか「均衡」という是正効果すら実現することにはならなかった。ちなみに、通常の労働者と同様の就業実態にあるいわゆる擬似パートについては、指針は通常の労働者として「ふさわしい処遇」をするように努める旨規定している。

平成１２年４月１８日、「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告―通常の労働者との均衡を考慮したパートタイム労働者の雇用管理のための考え方の整理について」が出された。この研究会は、いわゆる「ものさし研」として、平成１０年１２月１４日より検討作業を行ってきた。この報告書を受けて、労働省は、「通常の労働者との均衡を考慮した処遇や労働条件の確保に向けた（労使の）自主的な取り組みに向けて」、関係労使に対する「本報告書の内容についての積極的な情報提供を行う」としている。したがって「報告」は、均等待遇の原則を明記する法改正に直接つながるものではなく、いわば「パートタイム労働指針」を補強するものに過ぎない。この章では、研究会報告までの経過、報告の内容とその批判をのべることとする。

１、婦人少年審議会の建議と政府の態度

平成１０年２月に出された女性少年問題審議会の建議は、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律付則第２条の規定を踏まえ、パートタイム労働者の賃金が「所定内賃金のマクロ数値でみる限り、正規従業員との開きは横ばいからやや拡大の動きが見られる」こと、「賞与制度実施事業所割合はやや低下し」ていることを指摘して、「パート労働法に規定されている『就業の実態、通常労働者との均衡等』を具体的にどのように考慮すべきかが明らかでないことが、対応が進まない大きな原因となっていると見られる」とし、具体的な労使のルール作りが不可欠と判断した。しかし審議会では、ルールづくりについての結論に至らず、専門家と労使をふくめた検討の場を設置すべきであると提言した。

この建議で重要なことは、「法律、税制及び社会保険の適用について、労働時間が短いことに鑑み合理的であると考えられるものを除き、可能な限り通常の労働者と等しくしていくことが必要である」とのべていることであろう。しかし検討の場の設置は、「労使が比較のものさしづくり及び処遇の均衡または均等に取り組みやすくするため、行政として情報提供等一定の支援の場を設けることが必要であり、このため労使もふくめ技術的・専門的な検討の場をもうけることがこの原則を実効あるものにするために必要である」と立法への動きに歯止めをかけるものとなっている。これは、付則の見直し規定の立法論議に反し、時代の要請に脊をむけたものと言える（注７）。こうした政府の態度は、一貫して変化していない。政府は、第８０回ＩＬＯ総会第５議題「パートタイム労働」に関する質問書「パートタイム労働者の報酬率が、労働時間が短いことに基づく差別なしに決定されるべきか」という質問に対する回答（1992年１１月17日）にも、「賃金に関する決定は、労使に委ねるべきものである」として、日本の「指針」を紹介し、待遇の内容について「一律に規定すべきでない」としていた。そして国際文書としては「条約」は不用であり、「勧告」のみにとどめるべきであると主張した。その後1994年6月、政府はＩＬＯ１７５号パート条約の採択には棄権をした（労働者代表は賛成、使用者代表は反対）。

政府が「棄権」した理由については、次のような国会答弁がある。「条約の採択に当たって、その条約が国際条約として、したがいまして開発途上国の現状なども年頭に入れまして、国際的な最低基準として適正かどうか、十分に弾力性があるものかどうか、それからさらには、将来的に我が国が批准をするということを考えた場合に、それが可能かどうかといったようなあたりを総合的に勘案いたしまして、関係省庁と協議の上態度を決定したということでございます」（注８）。

２、研究会報告の内容

本報告書の内容は、概略次のとおりである。

（一）パートタイム労働者の「タイプわけ」

まず、パートタイム労働者の「就業の実態に応じた整理」を行っている。その着目点は、正社員との「職務の同一性（通常従事する作業が同じかどうかで判断するが、その際には、「責任や権限の範囲、職務のレベル」についても考慮する）」である。類型は二つで、「Ａタイプ」は「パートタイム労働者が正社員と同じ職務を行うケース」、「Ｂタイプ」は「パートタイム労働者が正社員と異なる職務を行うケース」とし、パートタイム労働者と正社員との比較は、「『同じ職務を行う正社員』との間で行われることが現実的かつ有用」とする。

（二）「Ａタイプ」に係る均衡を考慮した雇用管理のあり方

(1) 処遇や労働条件のあり方

まず、処遇や労働条件の「決定方式」を正社員と合わせていく方法をあげる。賃金の構成要素、支払形態を例示するが、「合理的な理由がある場合には、決定方式を異にすることはありうる」とする。

処遇や労働条件の「決定方式を合わせられない場合であっても、処遇や労働条件の水準について正社員とのバランスを図っていく方法」をあげる。この場合には、「ただし、正社員と比較して、例えば、残業、休日出勤、配置転換、転勤がない又は少ないといった事情がある場合、合理的な差を設けることもありうる」とする。

「同じ職務を行う正社員に賞与や退職金が支給されている場合には、パートタイム労働者に対しても、合理的な内容により、賞与や退職金に係る制度が設けられることが適切」として、「正社員との処遇や労働条件に差がある場合、パートタイム労働者の納得度を高めるため」に、「決定方式や水準に違いが設けられている事情の明確化及び情報提供」と「相談や苦情に応ずる体制の整備」が必要とする。

(2) 働き方の選択性を高めるための条件整備

「正社員への転換制度を設ける等、採用後改めて選択（乗換え）の機会を付与すること」が、「パートタイム労働者の意欲や納得度を高め、能力発揮に資する」とする。転換制度を設ける場合の例示として、「転換基準の明確化」、「転換後の労働条件の整備及び明確化」、「転換制度の周知・情報提供といった措置を講ずること」などをあげている。

（三）「Ｂタイプ」に係る均衡を考慮した雇用管理のあり方

「正社員との間で具体的な比較を行うことは困難」としつつ、「正社員との均衡を考慮した雇用管理が図られることが必要」としている。

(1) 合理的な雇用管理の構築

「就業の実態に応じ、また、職務やそのレベル、職務遂行能力に見合った処遇や労働条件を考えることが重要」とし、「賃金、賞与、退職金等のあり方について検討していくことが適切」とする。

(2) 働き方に係る納得性を高めるための条件整備

「処遇・労働条件の違い等に関する必要な情報の提供及び相談体制の整備や、選択（乗換え）の機会を付与が、その意欲や納得度を高めることにつながる」とする。

３、研究会報告への批判

研究会報告は、「基本的考え方は支持される」（注９）「これまでの実務を改善する契機を含んでいる」（注１０）「従来のパート観を変えていく可能性がある」（注１１）との見解が表明されているが、次の諸点が問題として提起できよう。

第１に、日本政府が批准をした「ＩＬＯ１５６号家族的責任に対する条約」について、なんらの言及もしていないのは、パート労働法の見なおしの趣旨を歪めるものである。パートタイム労働者の処遇についてはじめてふれたＩＬＯ１６５号勧告は、法的拘束力はないものの、立法政策の指針となるもので、政府が無視してよいものではない（注１２）。また、３年後の見直しの際には、ＩＬＯで現在審議されているパートタイム労働者に関する条約と勧告を踏まえて見直しすることが国会審議の中でも約束されていた（注１３）。建議それ自体が、消極的な方向性を限界づけているとはいえ、あまりにも企業の雇用管理の利便のみを斟酌したもので、国際的な流れからも遅れをとった姿勢と言えよう。

第２に、報告書では、パート労働者と正社員を職務の同一性と職務のレベルで比較して、４つのタイプに分類し、異なる「ものさし」を示している。しかし「職場の実態をみれば、正社員とパート労働者の職務が曖昧なままパートが戦力化されていることが多い」という現場からすれば、タイプ分けそのものに批判がある。たしかに、パート労働者が多い流通やサービス業では、職務が短期間で大きく変化したり、入れ替わったり、新しい職務が導入されたりして、職務の内容や職務の評価は「流動的」である。日本では、いまだ「職務」概念それ自体が明確化されておらず、事業場や企業により異なるため、公正な「職務」分けをどうするべきかどうかは問題である。職務に関しては、「同一価値労働同一賃金原則」が国際基準として確立しているが、パートタイム労働者に適用される「ものさし」は、この原則とどのようにかみ合わせていくのか。「同一価値」を計るとすれば、「職務」は当然に「同種」「同等」「類似」の同一価値の職務を包みこまねばなるまい。「同一の職務」の概念は、均等待遇を同一の職務に限定することにより、比較の「ものさし」を当然に狭いものとし、解釈や運用次第では、事業場毎のものとな業や休日出勤は、それ自体残業手当や休日手当てという割増賃金の支払いと対応すべき問題である（注１４）。勤務地の変更を伴う転勤や配転も、勤務地の変更として、通常労働者の場合も本人の同意と職務上の必要性が問題になるもので、その従事する職務の本質上転勤が不可欠で必要のものかどうかを問われなければならない。またパートタイム労働者が女性によって占められている場合、家事・育児・介護について現実により重い責任を分担している女性が、そうした条件を課すことで結果的に女性に対する間接差別となる余地もある。

第４に、報告書では、職務の同一性やその差別的取扱いを合理化する基準が、どの程度の賃金や労働条件の格差を許容するのかについてなんら検討が加えられていない。すべて労使の自治にゆだねられているということになれば、「正社員とのバランス」という「ものさし」のもうひとつの重要部分についての検討をを欠いたことになる。

第５に、労働省は、研究会報告以降の取り組みについて、「現在、この報告書の概要をパンフレット等にまとめて労使団体に対し配布をおこなうとともに、全国の雇用均等室の行う企業への説明会をとらえまして情報提供をおこな」い、「均衡を考慮した処遇の実現に向けての労使の取り組みを促していくことが重要であると認識しております」と答弁している（注１８）。労働局と２１世紀職業財団作成のパンフレット１０万部が配布されているだけで、通達の見直しは全然視野にはいってはいない。情報提供と相談体制だけで、均衡の実効性はまず期待できないと言えよう（注１５）。現行パート法３条は、あくまで使用者の努力義務規定であり、行政指導の根拠規定にすぎないからなおさらである。

第３章均等待遇の原則をめぐる動向

１、学説と判例

パートタイム労働者と通常労働者との均等待遇の原則をめぐっては、これまで次のような学説が展開されてきた。

第１は、同一労働または同一価値労働同一賃金の原則（労基法４条）に基礎をおくもので、「同一の労働」の要素を「労働の量と質」に求め、異なった取り扱いを認める「合理的理由」を限定していこうとする見解である（注１６）。

第２は、日本的雇用慣行の実態を重視して、パートタイム労働者の低賃金を合理化するのはその低拘束性にあるとして、同一義務労働同一賃金に根拠を置く見解である（注１７）。

第３は、賃金差別は職業的人格権を侵害するとする考え方であり、均等待遇を要求する公序は、労働法上の公序とみる見解である（注１８）。

第４は、現行パートタイム労働法第３条が、「均衡」の理念を明記していることには「重い意味」があるとし、３条の意味ははパートタイム労働者と通常の労働者の違いを認めながら、均衡をとれた公正なものにしようとする趣旨であり、均等待遇原則と連続性をもち、したがってパートタイム労働者の著しい労働条件格差は公序良俗違反として、不法行為を構成する根拠となるとの見解がある。社会的に許容されない著しい格差（救済される格差）の判断基準は、基本的要素としての労働の質と量および補足的要素としての拘束・結びつきの程度によって総合的に判断され、基本的要素が同じ場合の格差の範囲は２０％が妥当と言う（注１９）。

第５は、労働基準法３条の「社会的身分」に雇用形態による差別を含むとする見解である（注２０）。

判例としては、同一労働同一賃金原則に関する日ソ図書事件（東京地判平成４年８月２７日　労判６１１号１０頁）と、「女子であることを理由」とする賃金差別に関する三陽物産事件（東京地判平成６年６月１６日　労判６５１号１５頁）が存在する。パートタイム労働者の賃金に関する均等待遇が争点となったものに、長野地方裁判所上田支部判決「丸子警報器事件」（平成８年３月15日　労判６９０号３２頁）があり、同判決は労基法３，４条および同一価値労働同一賃金の原則の基礎には「人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念」があるとして、公序良俗違反としての不法行為の成立をみとめ、使用者の裁量権を認めて、同じ勤続年数の女性臨時社員が女性正社員に比べて、賃金が８０％以下となる場合には公序良俗違反になるとした。しかし、勤続年数、労働時間、職務内容、会社への帰属意識が同じなのに、なぜ賃金格差として２０％が肯定されるのか理由があきらかでない。この事件は、東京高等裁判所において、平成１１年１１月２９日、①時間給の給与を月給制とする、②月給額を平成１２年１２月より、向こう５年間３０００円ずつの特別増額是正を行う、③毎年４月　パートタイム労働法について抜本的な改正を論議すべきときがきたと思う。

２、諸外国の立法とＩＬＯ条約

パートタイム労働者の均等待遇に関する諸外国の取り組みや法制の例をみると、フルタイム労働者とパートタイム労働者の均等待遇を実現するために直截に原則を明文化しているもの、またパートタイム労働者の大半を占めるのが女性労働者であることから、女性に対する間接差別として、差別を是正する取り組みや法制化をしているものが見られる。

ドイツでは、平等取扱原則と公平原則が考慮されているが、パートタイム労働者に対する保護の法制として、就業促進法がある。この法律第２条１項によれば、パートタイム労働に従事していることを理由に、フルタイム労働者に対してパートタイム労働者を差別的に取り扱うことは、これを正当とする合理的な理由がない限り許されないとする。

フランスでは、労働法典で、パートタイム労働者とフルタイム労働者との平等原則を明文化している。これは、報酬、休暇、企業福利制度の利用、職業訓練など、労使関係上のあらゆる権利に適用される。とりわけ、報酬における平等原則の適用によって、パート労働者には、同格付け・同等職務のフルタイム労働者の報酬を基準に、その労働時間の長さに比例した額の報酬を保障しなければならないとしている。

フルタイム労働とパートタイム労働をうまく組み合わせることにより、夫婦２人で１・５人分の収入を得て、仕事と家庭の両立を実現するという「ポルダー・モデル」として注目されているオランダでは、労使合意に基づいたパートタイム労働促進法制度によって、パートタイム労働者とフルタイム労働者との均衡原則が定められている。具体的には、労働時間法の第３条１項が「正当な事由がある場合を除くほか、労使合意及び採用に際し、労働時間の違いを理由として差別的取扱いをしてはならない。」とし、同条２項が「全項に反する定めは無効とする。」と規定している。この結果、時間当たりの賃金は全く同じで、社会保険も労働時間に比例してカバーされる（注２２）。

さらに、ＥＵでは、欧州産業連盟（ＵＮＩＣＥ）、欧州公共企業センター（ＣＥＥＰ）、欧州労連（ＥＴＵＣ）が締結したパートタイム労働に関する欧州枠組み協定がある。この第４項は、「差別禁止の原則」を定め、「パートタイム労働者は、雇用および条件に関して、客観的理由に基づいて異なる待遇が正当化される場合を除き、パートタイム労働者であることを唯一の理由にしてフルタイム労働者より不利な取扱いをしてはならない」としている。

なお、イギリスにおいては、他の大陸諸国と異なって、パート労働者とフルタイム労働者との均等待遇を規定する法制はないが、パート労働者の大半を女性が占めることから、フルタイム労働者との差別的取扱いが性差別禁止法に規定する間接差別に該当するという判決がいくつか見られ、労働組合も性差別禁止法にあるいは平等賃金法違反を訴えて、実質的平等の実現を図っている状況である。

そして、パートタイム労働者の均等待遇原則に関してＩＬＯ条約が打ち出している「基準」については、まず、家族的責任に関する１６５号勧告第２１項がある。同項（２）は、「パートタイム労働者及び臨時労働者の雇用条件（社会保障の適用を含む）は、可能な限り、それぞれフルタイム労働者及び雇用労働者の雇用条件と同等であるべきである。適当な場合には、パートタイム労働者及び臨時労働者の権利は、比例的に考慮することができる。」として、「比例の原則」を明確にしている。

さらに、同項（３）は、「パートタイム労働者は、……フルタイム雇用に就き又は復帰する選択を与えられるべきである。」として、選択の権利もあわせて明確にされている。パートタイム労働に関するＩＬＯ１７５号条約は、日本は未批准であるが、「比例原則」に言及している第５条、フルタイム労働者との「同等の条件を享受」する旨言及する第６条等、日本においてもILO１７５号パート条約の批准と多くの立法例を参考にした国内法整備が待たれる（注２３）。

第３章　パート労働に関する「大脇試案」とコメント<

１、パート労働に関する立法化構想

パート労働に関する立法化構想としては、1983年８月27日に発表された社会党「パートタイマー等の不安定雇用労働者の保護に関する法立案要綱」（注２４）があり、その基礎になった宮島試案は、１984年「パートタイマー及び不安定雇用労働者の保護に関する法率（パート等保護法）第2次宮島草案（最終案）＝私案として発表されている。（注２５）

この立法への提案をめぐっては、パートタイム労働者のみならず、当時の不安定雇用労働者の臨時や派遣労働者も含めるべきだとの議論が主流を占め、均等待遇の原則は、同一労働同一賃金の原則の適用として、「労働条件や処遇につき、短期労働者または短時間労働者であることを理由として、同種の労働者と比べて不利益な取扱いをしてはならない。」、「短時間労働者の基本給ならびに家族手当、住宅手当、及び通勤手当（交通費）等の定額給の支払い基準」については、「同種の一般労働者と差別的取扱いをしてはならない」と規定した。これは当時のパートタイム労働者の多くは、女性の擬似パートが占めていて、それを念頭に置いての法案要綱であった。

１９８７年１０月、「女子パートタイム労働対策に関する研究会」は、「今後のパートタイム労働対策のあり方について」と題する報告をだし、「パートタイム労働者福祉法（仮称）」の制定を提案した。しかしこの構想は、パートタイム労働者の共済事業の実施と雇用管理を行なおうとするもので、パートタイム労働者の権利の確立や差別の是正は射程に入ってはいなかった。にもかかわらず使用者側の反対は強く、１９８８年６月「パートタイム労働専門家会議」は、「法的整備の問題については、関係藷法令についての検討を含め、引き続き検討を行うことが適当」とのべて、福祉法構想は頓挫した。（注２６）

その後１９８８年、次官通達（昭和５９・１２・３発基９７号）の「パート指針」が、大臣告示（平成元年・６・２３労告３９号）に格上げされたが、立法の動きは、ようやく１９９３年６月、「短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律」（パート労働法）の制定となる。

法案審議においては、社会党・護憲共同、公明党、民社党等野党の法案が政府案の対案として提出されていて、均等待遇の条項は、「使用者は、短時間労働者であることを理由として、賃金について通常の労働者と差別的取扱いをしてはならない」と規定していた。しかしパート労働法は、第三条において、使用者の努力義務として、「就労の実態と通常労働者との均衡を考慮する」にとどまったことは前述したとおりである。そのため「努力義務規定を前提とした行政指導という手法は、法規範あるいは権利義務関係の希薄化を招きかねない」という的確な指摘（注２７）にみられるように、通達という「国会の論議という民主的な課程を踏まないプロセス」によって、「均衡な取扱い」に関する「指針」の具体的内容が深められることはなかった事実を看過してはならない。

パート労働法があっても、差別や格差の是正に何らの効果を生まない原因は、基本的には、パート労働法が、パートタイム労働者の権利をなんら規定せず、雇用管理上の使用者の努力義務を規定するに過ぎない「行政指導の根拠法」という性格による。本来なら差別を禁止し、違反には罰則をもって望むか、さもなければ差別的な取扱いは少なくとも私法的に「無効」という法的効果をあたえるべきであろう。

２．短時間労働者の労働条件等に関する法的整備について（案）

第１　貸金等の労働条件の改善

１　労働条件についての差別的取扱いの禁止

事業主は、その雇用する労働者が短時間労働者であることを理由として、賃金、休暇その他の労働条件について、通常の労働者と差別的取扱いをしてはならない。

２　賃金水準の明確化

事業主は、労働省令で定めるところにより、単位労働時間当たりの賃金の額について、その雇用する短時間労働者と当該短時間労働者と同一の事業所において同種の業務に従事する通常の労働者との間の均衡を失してはならない。

（注）２の労働省令で定める事項

単位労働時間当たりの賃金の額の算定方法等を定める。この場合、定期払い賃金のみならず、臨時賃金、賞与等も含めることとする。ただし、所定労働時間外の割増賃金等は除いて計算する。

時間給のみの場合は、当該時間給の額が単位労働時間当たりの賃金の額となる。時間以外のものによって定められる賃金については、当該賃金の額を定める基礎となる期間（日、週、月、年等）における総労働時間数で当該賃金の額を除した金額を単位労働時間当たりの賃金の額とする。

３　１及び２に関する労働大臣の指針

(1)1及び2に関し事業主が講ずべき措置は、労働大臣の指針において定める。

(2)（1）の事項を定め、又は変更するに当たっては、あらかじめ、女性少年問題審議会のほか、関係行政機関の長の意見を聴かなければならないものとする。

(3)（1）により指針で定める主な事項は、次のとおりとする。

１について、短時間労働者であることを理由とした差別的取扱いの基準を示す。
２について、均衡の範囲についての目安基準を示す。
３いわゆる疑似パートタイム労働者については、次のような取扱いを求める。
・事業主は、短時間労働者の一週間当たりの平均労働時間その他の就業の実態が同種の業務に従事する通常の労働者と近似している場合においては、当該短時間労働者に対し、賃金、休暇その他の労働条件について、当該通常の労働者と同等の取扱いをするように努めなければならない。

第２　労働者のライフスタイルに応じた通常の労働者又は短時間労働者への転換

第１により短時間労働者への差別的な取扱いを是正した上で、労働者が自らのライフスタイルに応じて安心して職業と家庭、学業等との両立を図れるよう、雇用を継続しつつ、必要に応じ、通常の労働者と短時間労働者との間の相互転換ができるようにする。

１、　通常の労働者又は短時間労働者へ転換するための措置

事業主は、その雇用する労働者について、その申出に応じ、当該労働者の雇用期間を短縮することなく当該雇用期間の一部において、短時間労働者から通常の労働者へ又は通常の労働者から短時間労働者へ転換することができるようにするための措置を講ずるように努めなければならない。

３、試案に対するコメント

（１）差別の禁止

労基法3，4条と同様の規定のしかたをした。わが国の場合、パートタイム労働者は、短時間労働でであることを理由とする差別というより、パートタイム労働者であることによる不合理な差別（身分的差別　注２８）が多い。いわゆる擬似パートについては、当然に通常の労働者と「ふさわしい処遇」をしなければならないと指針に明記されているのに、パートタイム労働者と呼ばれるだけで差別されている現状は改善されていない。この規定は、擬似パートの差別と格差を是正するのに直接的に有効に働くに違いない。

パートタイム労働者であることによる差別または異なった取扱いの存在は、労働の質と量が基本的に同一また同種、類似であることが必要であろう。この基準は労働大臣が「指針」でしめすことになる。労働の質は従事する職務内容と熟練度、資格で足り、勤続年数は熟練度を構成する要素と解釈されよう。短時間性となじまない絶対的平等原則が要請される労働条件（産前産後休暇、育児時間、生理休暇等の母性保護）、福利厚生や住宅の供与、貸付制度の利用等は、この条項により差別は禁止される。教育訓練は、ＯＪＴを含めて均等な取扱いが求められる。採用手続きは、職務とのかかわりが直接ない限り考慮すべき要素とならない。企業貢献度または企業拘束性については、その内容を個別具体的に検討しなければならない。企業との結びつきは、すでに実態としてパート労働者も通常の労働者も、雇用は個別的関係化しており、パートタイム労働者と通常労働者というタイプによる区分が不可能なものとなりつつあると言えないだろうか。時間外労働は、通常労働者の契約上の義務としても無制限でなく、本来割増し賃金で対応すべきものでである。

労働時間設定の自由度は、本来雇用管理上の問題であり、裁量労働が増加していく時代に、一律に拘束性の枠を絶対視することはできないのではないか。後述する様に、ライフ・ステージに合わせて、労働時間の長さと時間帯を労働者が選択するという自己決定権が、21世紀の働き方の基軸に据えられなければならないという立場に立つと、その「自由度」を理由とするのは妥当ではない。解雇に関しては、労働契約の有期性の問題でもあるが、反覆更新又は更新手続をとらず、又は形骸化したかたちで雇用関係が継続した場合は、契約満了又は雇止めは実質的な解雇として、パートタイム労働者の解雇は、業務の性質上、有期が合理性をもつもの以外は、正社員と同じ取扱いを求められる。有期契約については、業務の性質上有期性がある場合を除き、有期契約が１年を超えて更新された時は、期間の定めがない労働契約とみなす旨の立法措置が必要である。（注２９）

差別または異なった取り扱いがある場合、労働者は、それが差別または異なった取扱いのあることとパートタイム労働者であることを立証すれば足り、使用者は、職務に必要不可欠の配転や転勤の有無、均等待遇ができない職務の評価等、差別または異なった取扱いに合理的理由があることを反証または立証しなければならない。

（２）賃金等の比例原則と指針

大脇試案では、「均衡」の範囲を労働大臣の「指針」で示すことになる。和田私案は、パートタイム労働者の労働時間の長さに応じて、通常労働者の労働時間と比較して8割以上の場合は格差を20%以内とし、5割以上で8割未満の場合は格差を3０％以内とし、5割未満の場合は４０％以内とする。和田試案の目的は、容易に縮小しない格差に一定の指標を与えることによって、現実の格差を改善することにあると思われるが、賃金を時間に比例して支給するという国際原則に理解を欠くものと思われる。パートタイム労働者の賃金は、働いた時間に比例して支給されるが、時間当たり賃金は、通常労働者と差別があってはならない。働いた時間に比例するのは、総賃金額であり、同じ働き方をしながら、格差そのものが労働時間の長さに比例するわけではない。さらにこの数値は、個別具体的な裁判における現実妥当な解決として線を引くものとしてはともかく、一般抽象的な規範（立法）の普遍性の根拠が説明できない。さらに法律により数値以上の正当な要求の足を引っ張りかねない。ドイツの規制方法の曖昧さをさけるためにも、大脇試案は、規定の仕方を純化し、かつ徹底した社会通念の形成をはかるためにも、「時間当たり」を基準に設定した。なお「指針」では、「均衡の範囲」を、格差の現状を考慮して、当面丸子警報器事件が形成した「格差２０％以下」が「社会的コンセンサス」があるものとして、そこから出発し、順次均等の処遇に限りなく近づけることとすべきである。それ以下の数値が妥当性をもつことはないのではないかと思われる。それ以下の数値が妥当性をもつのは、一項の問題もしくは職務評価の問題であろう。

（３）相互転換

現行の指針では、通常の労働者に空席があったときは、パートタイム労働者を優先的に雇用することとし、行政もそうした情報をパートタイム労働者に提供しなければならない。たしかに非自発的パートタイム労働者が増加している現状では、優先雇用制の法文化は意味があり、通常労働者からのパートタイム労働への転換は、正社員から非正社員へと契約の変化を伴うものとして労働条件の低下となり、リストラの効果をもたらし好ましくない。しかし、ライフ%スタイルに応じて自由に労働時間の長さと時間帯を選択し、夫も妻もどちらもが稼ぎ手で、主たる稼ぎ手、従たる稼ぎ手の区別もなく、育児も介護も分担して仕事が出来たら、どんなにか人生は豊かになるだろう。失業率が増加し、ワーク%シェアリングが進まない現状でこそ、均等待遇原則を立法化することを前提に、相互転換制度を確立する法改正を提案したい。この場合、正社員とパートタイム労働者ともに、正規社員として、制度の適用について平等な取扱いをなされるべきであることを強調したい。パートタイム労働者に対して、入り口や身分が別であることを理由に差別することがあってはならない。社会の活力と労働の喜びは、どうしても両立しなければならない課題であり、グローバリゼイションのもとで、国際競争力の強化と少子化を克服するテーマに取り組むためには、サービス残業と過労死と性別役割分業の日本的雇用慣行にしがみついていては国の未来も労働者の未来もない。2人で2人分の収入ではなく、2人で１．５人分の収入という働き方を作り出すことはどうだろうか。働く人達の完全雇用と生き甲斐の夢を紡ぎ出す「働き方の革命」こそ、いま求められているのではないか、と私は考えている。この法案は、究極において男女労働者の性別役割分担を解消し、アンペイド%ワークを女性のみが負う現状を改善し、雇用における男女平等を実現することになろう。時間短縮と車の両輪として進められる必要がある。残念ながら、あまりにもラディカルなため、権利義務化や制度化は難しいと判断して、当面使用者の努力義務にとどめた。

おわりに

残された立法課題は、パートタイム労働と税制問題がある。妻を被扶養者へと誘導しない性において中立的な制度改革が必要である。配偶者控除制度も見直しが必要であろう。社会保障に関しては、極めて短時間（例えば週１０時間以下）のパートタイム労働者を除き、厚生年金や健康保険に原則加入する制度を整備して労使への周知徹底、年金や保険のポータブル化を図る必要がある。さらに雇用保険法の見直しも視野に入れたい。とりわけ行政改革の中での公務員のパートである臨時職員、非常勤職員等の不安定な地位の改善と労働条件の均等待遇という大きな問題がある。公務パートとして制度化して労働条件の向上をはかっていくのか、民間のパート労働法の準用を雇主である国や地方自治体に求めていくのか、いずれにせよ、人権問題として、現在のような状態のまま放置して良い問題では決してない。

なお、均等待遇の原則の立法は、かえって「パートは単純定形労働へ、正社員は非定型的判断業務へ、という経営側の対応を招いて、結局、全体としてのパートタイム労働者の地位向上にはつながらない」という見解（注３０）がある。しかしこの見解の立論については、次のような疑義がある。

まず、パートタイム労働者の賃金は、主として主婦パートを中心にした「地域労働市場の需給関係」（外部労働市場）により決まること理由としている点については、、内部労働市場を構成する大企業において，終身雇用制はくずれつつあるか極めて少数の従業員にのみ適用されるように変化が起きつつあること、パートタイム労働者も基幹的恒常的労働化または専門的化して、内部労働市場に位置している者が少なくないこと、IT革命の進む中で、内部労働市場と外部労働市場との境界は曖昧化しつつあることから、雇用管理上も、普遍の定理と言えなくなってきたことに留意しなければならない。（注３１）また入り口が外部市場であったとしても、同一労働に従事しながら企業内での均等待遇を排斥する合理的理由にはなり得るのであろうか。パートタイム労働者の「低拘束性」も、それぞれの職場における当該パート労働者の個別具体的な仕事の量と質を検討する必要があり、パートタイム労働一般の特性として「低拘束性」は、もはや特徴となり得ない実態があるのではないか。特に労働時間の自由選択性は、21世紀のおける「働き方」として、男性も女性も、そのライフ・スタイルにあわせて、育児や介護をにないながら働くことになっていくことからも、男性の正社員の働き方を固定的モデルにする立論は、時代にそぐわない、と思う。

また労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」（平成１１年）によれば、非自発的パートタイム労働者は全体の２４，９％を占め、不況のなかでこの数値は増加しつつある。またパートタイム労働者が主たる生計の維持者であるものも23．4％、労働省「パートタイム労働者総合実態調査」（平成７年）によれば、税制または社会保険上の被扶養者で就業調整しないものは２７，８％、所得税以外の理由で年収の調整をしないとこたえている労働者は５１，３％ある。かつ男性のパートタイム労働者も３２，１％を占めるようになり、パートタイム労働者のプロファイルも変化しつつある。パートタイム労働者は、パートタイム労働を任意に選択したという立論は、もはや実態上も十分な検証なしには妥当しない、と思う。またたとえ任意にパートタイム労働を選択したとしても、なぜ現状の差別や不合理な取扱いや雇用管理を受忍しなければならないのか。公正な取扱いを求める権利は働く者の人権にほかならない。

また均等待遇の原則は、「産業社会における同一労働同一賃金（職種による産業横断的賃金）の社会的基盤の上になり立つもの」で、西欧のように、日本では公序として成立しないという。たしかに立法政策は「相対的」である。しかし日本も、ILO１００号条約、同1５6号条約、国債人権規約A/Bを批准しており、憲法１４条、労基法３，４条、民法９０条の国内法もあり、現在同一労働同一賃金の原則が実態として「認知」されていないとしても、国際的にこれらの条約の要請する法理を日本における平等政策や雇用政策において無視することは出来ない。グローバリゼイションのもとで、いずれは公正な職務評価制度の確立は日本でも不可避であり、パートタイム労働者という理由だけで、これらの国際法理の適用が除外されるていいわけはない。ILO175号条約が採択されていることをみても、均等待遇は国際的な法理と考えてよい。労働市場における「契約の自由」に復帰するするのではなく、21世紀の平等政策と雇用政策の機軸は、職場における均等待遇の原則の確立でなければならない。パート労働法による行政指導が効果を挙げていない実態を考えるとき、もはや立法による規制しかない。「雇用機会均等法の強化」「職業と育児の両立支援施策」とりわけ「パートタイム労働者への教育訓練が重大な鍵となる」との結論については異論はないが、立法と重量的に整備充実すべき雇用政策であろう。

最後に、この法案は相変わらず「均衡」に留まる点において、現実対応型の漸進的法案との批判があると思う。しかしその批判を甘受して、立法への論議が始まり、立法への「コンセンサス」を得ることが出来たら―――――と願っている。

（注１）「北京宣言及び行動綱領実施のためのさらなる行動とイニシャテイブ」（「女性2000年会議」のいわゆる「成果文書」）

（注２）『働く女性の実情』（平成１１年版）　日本におけるパートタイム労働者は、就業時間が３５時間未満の短時間労働者は１，１３８万人となり、雇用者数の２１．８%。女性雇用者全体でみると３７．４％、７７３万人。男性より女性の増加率が高い。労働省「平成１１年就業形態の多様化に関する総合実態調査」（平成１２年６月）よると非正社員は、全労働者の２７．５％となり、１０年前の１．９倍となっている。

（注３）労働省『パートタイム労働者総合実態調査』（１９９７年２月）によれば、パートなど労働者の就業分野は、販売・営業２５．５％、技能工・生産工１９．０％、サービス１７．６％、事務１３．２％などで、人件費コストとの関係で、正社員と非正社員との組み合わせで、現在の不況に直面している経営環境の乗り切りを図る企業が、ランク付けによる評価形態を導入しつつ、「基幹部門」にもパート労働者を活用しながら、多様な人事戦略をとっている。

さらに、パート労働者を雇用する企業の理由をみると、「人件費が割安だから」３８．３％、「１日の忙しい時間帯に対処するため」３７．３％、「簡単な仕事内容だから」３５．７％となっているが、「経験・知識・技能のある人を採用したいから」１３．２％（前回調査では９．９％）となっている。そして、部長・課長、主任・班長等の「役職」についていたパート労働者の割合も、パート労働者の全体では３．３％から４．６％（男性４．８％から６．０％へ、女性３．０％から４．２％へ）と確実に増加していることに注目したい。

（注４）「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」のアンケート調査に依れば、正社員と「職務内容がほとんど同じ」パートタイム労働者に付いては、約半数の事業所が正社員との処遇の格差を縮める必要性を認識しているのに対し、パートタイム労働者の正社員との格差に対する不満のほとんどが、「職務内容や責任の重さが同じ」や「職務内容や責任の違いにみあっていない」ことによる。女たちの欧州調査団「なくそうパート・契約労働・派遣差別―均等待遇は世界の常識」（２０００年２月９日）

（注５）大脇雅子「パート労働法の概要と問題点」季刊労働法１７０号６頁以下参照。法文上「均衡」の文言を用いている例として、中央省庁等改革基本法（平成１０年法１０３号）第４条１項２号ハ「各省の行政機能及び権限は、できる限り均衡のとれたものとすること。」をはじめ、介護保険法（平成９年法１２３号）第１２９条３項など本年７月１日現在で３４の法規定の例がある。また、用語例として検索できたのは２０７例である。

（注６）参議院の審議において、修正案の「均衡」の定義について、修正案提出者の永井孝信衆議院議員の答弁は、次のようであった。

「『均等』と『均衡』との間には一定の前提条件を踏まえた場合には大きな差異があるものではないものと理解をしているわけでありますし、例えて言えば『均衡』は、多少幅をもった均等、あるいはやわらかい均等だとも言えると思うわけであります。……均衡とは、バランスするとか、つりあいがとれるということ、換言すれば、同じかるべきものを同じにするということで、その意味で理念的な概念である。したがって、いかなる姿がバランスか、どうなったら同じかるべきものが同じになったといえるかは、結局社会通念だということになる」（平成５年６月１０日参議院労働委員会議録第１３号４２頁参照）。

（注７）パート労働法の附則をめぐっての参議院の質疑は、国際基準と日本の状況を合わせ斟酌するとしながら、日本の状況に偏りすぎているのではないか。平成５年６月１０日参議院労働委員会会議録１３号４１頁以下参照。

（注８）平成７年３月１６日衆議院外務委員会議録第９号１３頁参照。

（注９）山田省三「身分による処遇から職務による労働条件決定へ―労働省「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」を読んで」労働法律旬報１４８６号８月下旬号６頁。

（注１０）和田肇「パートタイム労働者の『均等待遇』」労働法律旬報１４８５号８月上旬号１８頁

（注１１）日本経済新聞２０００年６月９日夕刊。研究会のメンバーの一人は「パートと正社員の均等問題の中でも先鋭部分にひとつの解決の枠組を示した意義は大きい」と語っている。しかし、どこまでが「合理的な範囲」とでの差別が妥当視されるのか、「拡大解釈を生む余地がある」と警告を発している。

（注１２）条約と勧告の関係について外務省高野幸二郎政府委員と河野洋平外務大臣は、次のように答弁している。「まず条約につきましては、これは批准した場合、その当該国、批准国に法的義務を課すというものでございます。他方、勧告のほうは法的義務を課すものではない、むしろ各国における政策立案とか、法令制定に対しまして、一定の指針を与えるものであるというふうに理解しております」「ただいま政府委員からご答弁を申しあげましたように、本条約を批准するということに相なりますれば、勧告の精神も踏まえながら、本条約の趣旨に沿った施策の充実に向けて努力をすると、こういうことが政府としての考え方でございます」。平成７年４月１１日参議院外務委員会会議録第８号６頁。これに対し労働省岩田喜美枝政府委員は、勧告は「参考資料」と後ろ向きの答弁をしている。

（注１３）ここで指摘したパート労働者の時間外・休日労働のとらえ方について、浅倉むつ子「疑似パートに対する賃金差別と不法行為―丸子警報器事件の鑑定意見書」労旬１４３６号６頁以下、とくに２２頁、山田省三「パートタイマーに対する均等待遇原則―法律学の視点から」日本労働法学会誌９０号（１９９７年１０月）１２２頁、渡寛基「パートタイム労働法改正の課題」労旬１４４１号４頁以下、とくに８頁など参照。

（注１４）平成１２年８月９日参議院労働・社会政策委員会会議録第１号１４頁。

（注１５）本多淳亮「第四章　パート労働者の現状と均等待遇の原則」『企業社会と労働者』大阪経済法科大学出版部１０３頁以下（１９９６年）所収、浅倉むつ子「パートタイム労働と均等待遇原則（下）」労旬１３８７号４２頁

（注１６）水町勇一郎「『パート』労働者の賃金差別の法律学的検討―わが国で採られるべき平等法理はいかなるものか」法学（東北大学）５８巻５号（１９９４年８７２頁以下。

（注１７）山田省三「前掲書」１１９頁以下。

（注１８）土田道夫「パートタイム労働と「均衡の理念」」民商法雑誌１１９巻４・５号５４７－５７３頁。

（注１９）松村文雄「丸子警報器事件と均等待遇原則」労旬号３９頁以下、渡寛基「パート労働法改正の課題」労旬１４４１号６頁以下。

（注２０）島田陽一「正社員と臨時社員との賃金格差の違法性―丸子警報器事件」ジュリスト１１１３号　平成８年度重要判例解説１９７頁。井筒百子・三井多美子「ドキュメント新しい扉開いた二八人の熱きたたかい」学習の友社（２０００年）、安枝英、西村健一郎「労働判例この１年の争点」、日本労働研究雑誌No.４３９（１９９６年１１月）２頁は、８０％と公序良俗の関係についての議論は、使用者の裁量の幅として、社会的コンセンサスの問題という議論がされている。判例研究・評釈として、次の論稿を参照。水町勇一郎・ジュリスト１０９４号９９頁、中窪裕也・ジュリスト１０９７号１７７頁、黒川道代・労働判例６９５号７頁、石井保雄・季労１８１号１７８頁、安枝英　・日本労働研究雑誌４３９号２２頁など。また、浅倉むつ子・今野久子『女性労働判例ガイド』有斐閣（１９９７年）１０２頁以下参照。

（注２１）和田肇前掲書１８頁以下。

（注２２）「ヨーロッパのパートタイム労働」海外労働時報１９９８年６月号８７頁、長坂寿久『ユーロ・ビッグバンと日本のゆくえ』（２０００年、集英社親書）など参照。

（注２３）外国のパート労働立法については、次の文献資料を参照した。

労働大臣官房国債労働課編著『平成１１年版　海外労働白書』（１９９９年、日本労働研究機構）、国債交流基金編『女性のパートタイム労働』（１９９９年、新水社）、水町勇一郎『パートタイム労働の法律政策』（１９９７年、有斐閣）、『諸外国のパートタイム労働の実態と対策』（１９９４年、日本労働研究機構）

（注２４）宮島尚史「パート労働法の立法化の必要と構想について」月間社会党329号（1983年10月）69頁。当時民社党、公明党も政策を発表していた。

（注２５）宮島尚史「パート労働法の立法論（構想、過程、技術）と私案について」日本労働法学会誌63号（1984年5月）１４１頁。

（注２６）大脇雅子「パートタイム労働者の保護法制の問題点とその展望」労働法律旬報１２１２号（１９８９年３月２５日）

小嶌典明「パートタイム労働と立法政策」ジュリスト１０２１号（１９９３年）４０頁は、立法が見送られた理由は、「なぜパートだけについて立法するのか」という立法技術とかかわるテクニカルな問題が法制化に待ったをかけたのが真相と述べているが、それは内閣法制局の問題提起であったとしても、労働省の熱意があれば克服しえたはずであり、使用者団体の意向を受けた政府与党の反対が強かったことが最大の原因である。

（注２７）和田肇前掲書　労働法律旬報１４８５号（２０００年８月１０日）

（注２８）大沢真理「『パートタイム』労働と均等待遇原則―経済学的アプローチ」日本労働法学会誌９０号（１９９７年１０月）１０９頁。

（注２９）1999年9月有期労働契約の反復更新に関する調査研究会「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」は、３６の判例を分析して、実態が多様であり、有期労働契約の締結、更新、雇止めに対する一律の制約は現時点では適当でないが、改善すべき問題はあるので、「トラブルの未然の防止」と「紛争の解決のために助言・指導」の措置が必要であるとしている。相変わらずの行政指導中心の施策を追認し、現状の前進的改革の志を欠く報告である。

（注３０）菅野和夫・諏訪康雄「パートタイム労働と均等待遇の原則―その比較論ノート」現代ヨーロッパ法の展望、東大出版会118頁（1998年）、菅野和夫「労働法　第５版補正版」1８７頁以下、諏訪康雄「パートタイム労働者と法」秋田成就編著『日本の雇用慣行の変化と法』（法政大学出版会、１９９３年）213頁。労働省「パートタイム労働に関する調査研究会報告」（１９９７・８・１）

（注３１）石川経夫・出島敬久「労働市場の二重構造」石川経夫編『日本の所得と富の分配』１６９頁（東大出版会、）鈴木宏昌「内部労働市場の再吟味」季刊労働法１８２号１２５頁。古郡とも子『非正規労働の経済分析』８７頁。

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