労働法制の動き 1999年6月版
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現在開会中の第145回通常国会では、労働政策にかかわる法案として継続審議になっ ている労働者派遣法案に加えて、1本の新規法案と2本の改正法案がかかり、またILO
181号条約の批准も予定されています。
審議予定の法案の内容とポイントは、次のとおりです。
本法案は、近年の社会情勢の変化を背景に労働力の需給調整システムの適正化を進める ためとして第143回臨時国会に上程され、継続審議になっています。
改正法案は、派遣ネットなど派遣で働く女性労働者を中心に、正規雇用の崩壊、雇用の 不安定化を危惧する批判が強い「ネガティブ・リスト化」、つまり派遣労働の原則自由化導
入を柱とする適用対象業務の範囲の拡大や、派遣期間の見直し(3年)、労働者保護につい ての規定などが盛り込まれてます。
政府は、今国会での審議のために、中央職業審議会の議論を受けて、「個人情報の保護」 (プライバシー保護)を目的とする修正案を提出する予定です。
「雇用の流動化」のなかで、正規労働者の代替防止や派遣先の使用者責任の強化など、労働者の権利の「劣悪化」を防ぐには程遠い内容となっています。とりわけ、派遣労働者に対する均等処遇の原則を、雇用関係(派遣元)と指揮命令関係(派遣先)にいかに入れ込むかが重要な課題となっています。
本法案は、1997年6月6日の閣議決定「特殊法人等の整理合理化について」に基づ いて、雇用促進事業団を解散し、雇用・能力開発機構に縮小(役員・職員の人数の削減)・
改編するための法案です。
機構は、雇用管理の改善に対する援助、雇用開発および職業能力の開発を促進し、雇用 の安定その他福祉の増進に寄与することを目的とし、従来の移転就職者用宿舎や福祉施設
に関する事業は地方自治体に譲渡するとしています。スリム化の下で、現在の雇用情勢に 対応する労働者の雇用・能力開発が十全にできるかが重要な課題となります。
本法案は、改正労基法成立時に採択された衆議院労働委員会附帯決議第2項および参議院労働・社会政策委員会附帯決議第8項に基づいて提案され、5月13日に参議院労働・社会政策委員会で可決・成立しました。
大脇は、労働基準法改正法案の審議のおりに、深夜業の規制に関する道筋をつけるために、労働者の健康の維持・確保のための自主的健康診断の受診とその結果に基づき必要な使用者の配慮を提案し、実現したものです。
改正内容は、深夜業に従事する労働者が自発的に受診した健康診断の結果に基づく事業主の措置(業務軽減、配置転換など)等、労働者の健康管理の充実を図るとともに、労働者の健康障害防止の観点から化学物質(約1,000種類)の有害性の情報提供などです。
今後、この施策を実効ある制度にしていくためには、労働者の積極的な活用と使用者の十分な配慮が必要です。
最悪の完全失業率(4.4%)が示すように、厳しい雇用情勢の下で、ハローワークを はじめ、職業紹介の果たすべき役割と意義はますます増大しています。
本法案は、労働力需給の適正、円滑な調整を図り、労働者の職業の安定を確保するため に、批准を予定しているILO181号条約の内容をふまえつつ、公的職業紹介機関であ
るハローワークに加えて、民間の職業紹介事業等について、労働力需給調整機能の強化、 求職者の利益保護を目的として、必要な整備を行うこととしています。
職安法改正法案は、公的職業紹介機関であるハローワークに加えて、民間の職業紹介事業所について労働力需給調整機能の強化、プライバシー保護など求職者の利益保護を目的として、必要な整備を行うこととしています。しかし、求職労働者の真の希望や能力に適した職業紹介が確保され、紹介に伴って労働者が不利益を被ったり権利侵害を生じさせない内容にする必要があり、そのために求人誌紙の内容の適正化、求職における年齢差別の禁止など、確立すべき課題があります。
この条約は、1998年に有料職業紹介所条約(96号条約)の改正を目的に採択され ました。差別禁止、個人情報の保護、労働条件の保障、教育訓練を受ける機会の保障、安
全衛生、労働者の団結権と団体行動権の保障などを規定し、今般の労働者派遣法改正法案 や職安法改正法案に規定されるべき重要な国際基準となっています。
この条約および188号勧告の内容を活かして、雇用の流動化が大幅に進んでいる状況 の下で、わが国の不安定雇用労働者の権利保障を確立するために、条約批准のもつ意義は
きわめて大きいといえます。
不況の影響により企業がますますリストラを進める中、パートや臨時の雇用形態でその 職場で働いている労働者が増加し、とくに女性パート労働者を含め「非正規雇用労働者」
が急増しています。
パート労働者をめぐる状況の特徴として、「正社員」としては雇用されず、企業社会、職 場における待遇や格づけが明確に差別された存在であり、いわば異なる「身分」を与えら
れていながら、最近では、パート労働者に責任ある仕事を任せ、賃金や賞与等で一定報い る雇用管理も登場しており、「基幹労働力」として企業における戦力として位置づけられる
など、ますます多様化しています。また、労働時間の長く、仕事内容も正社員に類似して いる「疑似パート」が多く存在し、契約形態が有期契約であり、景気変動に伴い雇用の調
整弁としての意味をもたされています。
女性少年問題審議会『建議』(1998年2月20日)に基づき、改正パート指針が出され、 労働条件の文書による明示、パート労働者の過半数代表の選出、パート労働者の雇用管理
責任者の選任などが改正されました。しかし、労働契約の締結にあたって「契約期間」を 定めることが、従来に増して「有期契約」のパート労働者の増大に結び付いたり、時間外・
休日労働の有無を明示することから、所定外労働が増加するという事態が生じていること が問題となっています。
さらに、「パートタイム労働に係る雇用管理研究会」が1998年12月14日に発足し、 パート労働者と正規雇用労働者との均等処遇を実現するための、いわゆる「モノサシ」作
りの検討が始まりました。事業所とパート労働者個人を対象に、全国的アンケートを実施 し、ヒアリングの実施もあわせて、労働省は「平成11年度中に取りまとめ」を予定して
います。
パート労働者の権利保障の確立のために、均等待遇原則やフルタイマーへの「転換権」 の確立、法的規制の実効性を確保するための罰則の設定、個人として自立した生き方を選
択する可能性を高めるための所得税や社会保険、雇用保険制度の見直しなどのための法改 正や、ILO175号<パートタイム労働>条約の批准の早期実現がたいへん重要な課題
となっています。
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