労働法制の動き
非正規労働者に影響を与える現行労働政策の分析と課題
〜改正労働者派遣法を中心に
1 日本の女性労働者の現状
本年4月1日より、雇用のあらゆるステージにおける女性労働者への差別を禁止する改正均等法、育児・介護等の家族的責任を男女労働者に等しく保障する改正育児・介護休業法、改正労働基準法が施行されました。
女性労働者をめぐる状況は大きく変化し、雇用労働人口に占める女性労働者の割合は、1998年現在で、すでに約4割に達し、ますます高くなる傾向にあります。しかし、女性労働者を取り巻く労働環境は依然として厳しく、とりわけ、バブル経済が崩壊した後に、「超氷河期」と形容された女子学生の就職差別が依然として改善されず、また、賃金や昇進昇格等の男女差別も厳然として存在し、長引く不況下で改正前の均等法の不備はますます明確になっていました。とくに最近の「雇用流動化」の下で、パート労働者・派遣労働者などのいわゆる「非正規雇用労働者」の増大が著しいのが大きな特徴です。
最新の労働白書(1999年7月)によりますと、1998年の雇用状況は次のようになっています。雇用労働人口は、5,368万人で、97年統計から24万人減少しています、その内訳は、女性労働者2,124万人で3万人減少、男性労働者は3,243万人で21万人減少となっており、いずれも不況を大きく反映しています。
また、女性短時間雇用者は、756万人で、97年よりも10万人増加していることに注目したいと思います。雇用労働者全体では、男女ともに減少しているのに、女性短時間雇用者が増加しているのは、まさに企業が人件費コストの削減を行った結果、女性労働者は、賃金の低下、雇用の不安定化にさらされていることを明確に示しています。
さらに、経済企画庁の1997年度国民生活選好度調査による女性労働者の就業状況についてみますと、女性労働者の55.3%が「働きづらい」と感じる状況が続いており、これは、1989年の同種調査時の1.7倍に当たります。そして、育児や介護、看護などの家族的責任の大部分は、相変わらず女性にかかっており、家計をともにする男女労働者について比較すると、男性が家事労働に占める比重は、女性の6分の1という状況が現在でも続いています。
しかも、他の分野においても、男女の平等を阻害する差別的状況が存在しています。たとえば、、政治・経済的分野においても、またあらゆる決定過程においても、男女の平等参画が実現していない状況です。ようやく今年の通常国会で、男女共同参画社会基本法が制定されましたが、いかにこの法律を活かして、社会に定着させるかが問われています。このように、日本における女性の人権保障をより高めるために、多くの課題がありますので、わたくしたち女性は、男女平等社会の実現に向けたエンパワーメントに、地道で広範な取り組みを図っているところですが、労働の分野は、まさにその課題をかかえています。
2 労働者派遣法・職業安定法の改正と課題
1 審議経過
労働者派遣法改正法案は、昨年10月第143回臨時国会に上程されて継続審議となっていましたが、第145通常国会に上程された職安法改正法案とあわせて、審議されました。
衆議院において、与野党の共同修正が加えられて可決され、参議院において、6月30日の本会議で可決成立しました。また、民間職業仲介事業所に関するILO181号条約も7月7日に参議院で批准されました。
2 内閣提出の改正法案の内容
(1)労働者派遣法改正法案
「ネガティブ・リスト化」を原則とし、港湾運送業務・建設業務・警備業務と当分の間製造業について除外したうえで、派遣期間1年を上限とするすべての業務への派遣を可能とすること。なお、現行の専門26業務は維持。
派遣期間1年を超える場合には、派遣先事業主はその派遣労働者を雇用する努力義務があること。
その他プライバシーの保護や違法派遣に関わる苦情処理に関する申告制度の創設が規定されました。また、ハローワークによる派遣労働者等に対する相談・援助がなされます。
(2)職業安定法改正法案
公共職業安定所つまりハローワークに加えて、民間職業紹介事業所があらゆる職種の職業紹介ができることになりました。
有料職業紹介の場合、原則として労働者からの手数料の徴収を禁止していますが、求人側からの手数料には規制がありません。
3 衆議院において、次のように修正されました。
(1)派遣期間制限違反の防止措置を強化するために、派遣元事業主に労働者派遣契 約締結を禁止し、違反の派遣元に対しては30万円以下の罰金を科すること。
(2)派遣先による「事前面接」など、実質的採用行為を排除すること。
(3)派遣先が1年の期間制限を超えて派遣労働者の提供を受けている場合には、労 働大臣が雇い入れを勧告し、従わないときは企業名を公表すること。
(4)「個人情報の保護」(プライバシー保護)のための「適正管理」措置等の追加
(5)派遣先事業主がセクシュアル・ハラスメントの防止措置を講じること。
(6)派遣労働者の労働者・社会保険加入を促進するために、派遣元から派遣先に労 働者の保険資格取得の確認等について通知すること。
4 参議院においては修正されず、次のような論点が強調されました。
(1)派遣先による適正な派遣就業の確保のために、派遣の違反状態の早急な是正、 派遣契約を遵守させるための措置、契約違反に対する損害賠償等の前後処理方策等 の指導を徹底すること。
(2)派遣先での就業における「同一業務」および「継続」の判断基準について、指 針に明確に定め、派遣期間の制限を意図的に潜脱する事態が生じないよう、指導を 徹底すること。
(3)労働大臣の助言・指導は、適切な方法で行い、最終的に勧告を行う前提となる 助言・指導は文書により、期限を設けて行うこと。また、助言・指導から、企業名 の公表までの期間については、「最大限1カ月」を念頭に、できる限り迅速な解決 を図り、公表すべき事項は、通達で定めること。
(4)派遣専用の子会社を作り、労働者を子会社に転籍させ、そこから派遣労働者と して受け入れて、転籍前の業務に従事させることは。許可基準に違反すること。ま た、「専ら派遣」の防止を図ること。
(5)合理的理由なく年齢差別を行うことは不適切である旨を通達に明記し、指導を 徹底すること。
(6)職業紹介、職業指導等の機能の拡充強化、苦情等への対応等において、セーフ ティネットとしてのハローワークの体制整備を図ること。
5 改正法施行3年後の見直しの課題
今回の労働者派遣法と職業安定法の改正法は、労働者の権利を保障するには、まだ重要な点で不十分であり、わたくしは法案採決において反対しました。なぜなら、法案は、派遣労働者による正社員の代替防止が十分でないこと、1年を超えて派遣される労働者が正社員化される担保がなく、多くの女性労働者が派遣労働者化されていう危険があること、パートタイマーの派遣が増加した場合、パートタイマーは地位が二重に不安定になること等からです。
派遣労働を自由化する政策目的は、労働市場の規制を緩和し、需要と供給のミスマッチを解消し、失業を改善するものといわれていますが、政策目的よりむしろ 正社員の派遣労働者による代替化、 身分の不安定な、人生設計ができない労働者の創出、 低い労働条件の労働者の創出という効果を生み出し、女性労働者への影響は大きいと思われます。
今国会で批准されたILO181号条約の内容である差別禁止、個人情報の保護、労働条件の保障、教育訓練を受ける機会の保障、安全衛生、労働者の団結権と団体行動権の保障などに関する内容を真に活かす法改正と政策がとられなければなりません。 私は、参議院労働・社会政策委員会の附帯決議の内容をふまえつつ、法的問題を実態を直視して検討し、ぜひとも派遣労働者のより質の高い権利保障を実現させなければならないと考えています。
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