3.2 平和隊
3.2.1 チームで働き生活すること
3.2.1.1 チームの構成
チームの規模
チームを派遣する団体は、ほとんどの場合、資金面、派遣できる有能なボランテイアの数の制約があり小規模チームにならざるをえない。しかし、少人数のボランテイアの方が活動に向いていると判断されるケースもある(BPT、WfP等)。
WfPの場合、最大でも現地には40名の長期メンバーの時もあった;現在は一国あたり4人である。このような急激な変化は資金面の制約と重点の変更によるものである。当初の目標は、チアパスで何が起こっているのかを見るため出来るだけ多い人数を置くことにあった。今は、長期派遣者は、調査、分析や執筆を主にやっている。SIPAZは一時期チアパスチームとして10名いたが、資金の縮小のため現在2名のみになっている。
1チームの人数は2人から8人と団体によって異なる。オーストリア・ピース・サービス(APS)は1名のみ派遣するケースもあり、SIPAZやPax Christiは1チーム2、3人、OPTは3人から5人、BPTは1人から4人。CPTは現在、現地チームの人数はそれぞれ4、8、7、3人であり、PBIのチームの人数は2人から25人の規模である。
現在、現地にいるボランテイアの総数は2名から50名である:SIPAZ 2人、CPS Forum 6人、 APS 11人、CPT 21人、PBIが50人以上。
PBI進行中のプロジェクト4(コロンビア、ハイチ、チアパス、東チモール/インドネシア)、CPTも4(チアパス、ヘブロン、New Brunswick、コロンビア)。オシエクは一つのプロジェクトに5チーム投入している。
チームメンバーの年齢
PBI年齢の下限を25歳、SIPAZは23歳である。大多数のチームは21歳以上である。BPTは“まだ大人に成りきっていない”と言う定義で年齢は明確にしていない;チームメンバーは20歳代から40、50歳代であること。WfPのチームの平均年齢は27歳である。CPT Corpでは、現在、7名いる専従メンバーの内、2人は30歳台、4人は40歳代、3人は50歳代2人は60歳代で70歳代が1人いる。最低年齢は21歳である。
文化/国籍/性別
平和隊の国籍を見ると、一方ではWfPやCPTのように(意識的に)米国とカナダだけのところがあり、その反対にPBIのように17の国々から参加しているところもある。CPT Corpでは6名がカナダで13名が米国である。CPTの各チームのメンバーは注意深く選ばれ良くバランスがとられている。メンバーは資質(指導力等)、年齢、性別その他のチェック項目で評価される。性別以外の要素のバランスをとり選べる対象が限られてたため、チームの構成が女性1人に対し男性4人となったこともあった。
BPTチームは大半が欧米からでありオーストラリアから1人で、プロジェクトを実施している国に住んでいる人は除かれる。BPTでは、男性より女性のボランテイアの方が若干多い。オシエク平和隊の各チームは少なくともセルビア人1人、クロアチア人1人その他の国籍のもの1人を含んでいる。メンバーはオーストリア、ドイツ、英国、ユーゴスラビア、ルーマニア、米国から来ている。
SIPAZのチアパスメンバーはフランス、オランダ、ペルー、ウルグアイ、米国、カナダ、ドイツ、イタリア、エクアドル、メキシコから成っている。ドイツのCPS管轄下の幾つかのプロジェクトでは、紛争地域の国籍のメンバーで遂行されている(Living Without Armament in VojvodinaプロジェクトやベルグラードのフォーラムCPSプロジェクト)。
多様性
チームの多様化は複雑で制御しにくいように思えるかもしれないが、チームを良くすることに貢献すると誰しもが認めている。CPTは21歳になろうとする一人のボランテイアと70歳代の女性がいることで、年齢構成でもっとも多様化された記録を持つ。すべてのチームは男女のバランスに努力している。
民族的に多様なチームを編成することは、言語、安全、効率或いは公正な司法等も勘案しなければならないので一層難しい問題である。CPTチームのRey opezはフィリピン出身でハイチの文化に溶け込み効果的であったし、PBIの日本人はスリランカで効果的であった。しかし、PBIのスリランカの或るチームは過去のインドの植民地支配の関係からインド人はチームに加えない方が良いといっていた。
2章2項2でふれたエルサルバドルでのKaren RiddとMarcella Rodriguezの逮捕の件を思い出してほしい。二人の女性(Riddはカナダ人、Rodriguezはコロンビア人)は、一方が類似した言語と文化を知っており、もう一人は白人であるが故に安全であり且つ、相方も守ってくれるのではないかーと言う意味で理想的な組み合わせの例である。エルサルバドルのあの事件の折、拘束された37人の欧米人の内、75%は24時間以内に釈放され殆どがそれぞれの大使館に引き渡された。しかしながら、17人の中南米人については、60%もの人が4日間以上拘束され、且つ、正式な手続きもなく国外追放となっている。Riddと同行していた為、Rodriguezはラテンアメリカ人で唯一人その日に釈放された。
PBIは設立当初から多様化と人種的偏りをなくすことを目標にしていたが、その目標は今日まで達成されていない。PBIグループがある国以外では隊員募集のシステムがなく、PBI-USAは評議会に非白人の席を用意しているが、それをうめることが出来ないでいる;アフリカ大陸での活動が成功していない為である。
WfPの初期の段階では、目標の一つであった米国の方針を満足させる為にチームは米国人でなければならないと決められていた。しかし、Phyllis Taylorは、例えばイスラエル/パレスチナのように、政治的中立性を明確に打ち出す為には平和チームは確実に多様化されていなけらばならないと信じている。同じことは、オシエクチームにも言えることだとIFORのPete Hammerleは言っている:各チームにセルビア人とクロアテイア人両方が居ることが必須であると。
アメリカン大学の国際平和と紛争解決関係助教授Mohammed Abu-Nimerは、NPチームは、その目標の表明として、文化的に多様化されていることが不可欠であると言っている。彼は、チーム内で言語が意思疎通の障害になるとは思っていないー言い換えれば、チームは、例えば、英語やフランス語に習熟しお互いに意思疎通するスキルを持っていなければならない。そのため、訓練にはチーム内での異文化理解や人間関係から生ずる争いの解決などが含まれなければならない。
3.2.1.2 意思決定、意思疎通、特殊技能(専門分野)SPECIALIZATION
コンセンサス造りの過程は全員一致を目的とするものでもなく、下される決定について全員が完全に満足することでもない。それは全員の理解と支持を得る為である。
調査した全てのチームは意思決定を行う際、チーム内のコンセンサスに信頼を置いている。コンセンサスを得るための十分な時間がない時、緊急事態にどう対処するかについて、全てのグループがそれなりの計画を持っているわけではない。
SIPAZは、組織の全てのレベルでコンセンサスのモデルを持って活動している。チームにはコーデイネーターがおり、緊急事態には彼の指導力が尊重される。全ては役員会(評議会)の決定に委ねられる。
WfPのチームや派遣団はコンセンサスにより決定するが、危機の際は、リーダーが決定を下しても良い。Managuaでは現地のスタッフが派遣団やチームに対し戻るよう要請することもある。
PBIにおいては、コンセンサスは最重要視される一つである。それは、組織のあらゆるレベルにおいて制度化され(義務付られ)求められている:“PBIでは、コンセンサスによる意思決定は唯単に役に立つからだけでなく、又、組織としての使命と目標を達成する為の多くの有効な手段の一つと言うだけではない。むしろ、組織と所属するメンバーが実現しようとしているある種の社会を分かりやすい形で表現し、更には、予知的に具現化して見せるものであると理解されている。”時間的制約がある場合、民主的な投票の制度もある。最高の意思決定機関は3年ごとに開かれる総会である;その間は、国際評議会が権限を持つ。
BPTのクロアチア・チームの二つの事務所は、2、3ヶ月に一回集まって、いわゆる“Otvoreneサミット”を持つ。彼らは第三国に集まって、それまでの活動を評価し、次の期間の戦略を更新しそれぞれのチームメンバーの人事評価を行う。そして、調整委員会に提出するレポートを作成する。全てのBPTチームは同じような会合を持っていた。
CPTの各チームは、コーデイネーター1名、書記1名と各専門家からなる。チームは全員意思決定に参画する;チーム全員と協議する余裕がない緊急事態においてのみコーデイネーターが決定を行う。CPTの訓練では、現地派遣要員は、“勤務中の意思疎通のやり方のスタイル・プロフィール”と呼ばれる勤務スタイル評価を受けることが要求される。この評価手法は“自分自身や他の人々或いは物事を観察し、思考する際の各人の特徴”を定義づける“スタイル”の判断基準となるものであり、ストレスのある時と無い時でどのように仕事をするかを客観的に記述し分類するものである。CPTの局長Gene Stoltzfusはこの情報を用いてストレスの多い時でも指導力を発揮できる者をチームに加えてバランスの取れたチームを編成している。少なくともチームに一人“目的に向かい/指示を与える”者がいることが必要不可欠であることが分かった。
それぞれの得意分野は、ボランテイアが分担するというよりも、しばしば、チームの中で彼らが持っている得意なスキルを生かして提供される。APSは、例えば、ability in editing or dramaは必要になることがあるが、それらはチーム内で育成されると報告している。
NPのチーム構成や意思決定の先例は、まったく同質の小さなチームの調査事例に頼るわけには行かない。従って、何故うまくいかなかったのかの前例を見てみよう:より規模の大きい多民族からなるグループで極限のストレスと機能不完全なメンバーが如何にコンセンサス形成の妨げとなるか等。
ガルフ・ピース・チーム・キャンプのメンバーは、グループが小さかった時は、コンセンサスの手法を上手に活用していた。しかし、人数の増加と共に、英語を殆ど或いは全く話せない人たちがでてくるとか、会議のあり方に問題があるなどの理由から、コンセンサス形成に参加する人は少なくなった。そこで、約70名からなるメンバーが、それぞれが推進委員会を持った幾つかのアフィニティ・グループを作った。しかし、コンセンサスが得られない時に意思決定をどの様に行うかについての解決策は見出されなかった。
ガルフ・ピース・キャンプでは、アフィニティ・グループは余り機能しなかったのである。アフィニティ・グループ間の共通の言語がなく、アフィニティ・グループについての経験が不足しており、或いは非暴力の活動の経験がなく、共有する文化的アイデンテイテイや思想的に共通するものもなく、そして、驚くほど多くの人がserious psychological needsを持っていた。このような状況にもかかわらず、Robert Burrowsは“歴史的に見て、非暴力活動を有効的に行う為には、アフィニティ・グループが組織単位として優れていることは明確である。”と結論付けている。
同様の問題はキプロス再定住プロジェクトでも経験された。多国間にまたがって活動するチームの性格が、目的、アプローチ、役割その他様々なテーマについてのコンセンサス作りをより困難にした。
ミル・サーダはプロジェクトと言うよりはむしろ事件(行事)であったので、望ましい意思疎通や意思決定のあり方を見つけるには時間的制約があったが、にも拘らず、この事件での様々な困難さは、NPにこれらの分野についての教訓を示唆している。主要言語はイタリア語で、会合ではたえず翻訳されたにも拘らず、非イタリア人は不利であった。メンバーはアフィニティ・グループに分けられたが、代表者会議は、権限を委託されておらず、どちらかと言えば議会のよう機能であり、代表者会議の決定を覆す主催者側の意向に従った結果、組織は民主主義的な機能を停止した。
3.2.1.3 滞在期間、引継ぎ、(新しいメンバーの着任時の)オリエンテーション
グアテマラでの同行の要請がピークに達したとき、PBIは長期滞在メンバーと短期護衛の2段階構成の実験を行った。数百人2週間或いは1ヶ月の護衛要員を募集し現場に送り込み、相手方との接触を維持し、現地情勢を分析し、仕事の優先順位を決定する等の任務を持つ長期滞在チームに合流させた。長期滞在チームメンバーは、護衛ボランテイアにオリエンテーションを行い支援する責任を持つ。
短期護衛の為のちゃんとしたオリエンテーションのマニュアルがある。ボランテイアは定期的に会合を持ち現地情勢やリスクを分析した。ボランテイアの顔ぶれがどんどん替わる中で継続性と組織として記録を維持する為に、脅し、監視、或いは偶然の出来事の連続などの記録が保持された。PBIは、1989年、短期派遣者が十分な準備がなされていないこと、そして、長期滞在者にとって大変な重荷になっていた為、短期護衛の制度を打ち切った。これにより毎年、100名のボランテイアを失ったが、“PBIとしては、現地での相互信頼関係、質の高い判断力、分析力、チームの一貫性とaffinityに対する強い意識等を維持することにより関心を持っており、短期護衛によって、それらが壊されつつあったからである。”
リアム・マホニィは短期のボランテイアにリスクがあると考えている。ゆとりを持って訓練を受けることが出来なければ間違いを起こし易く、危機を招く可能性があり組織の評判を傷つけることにもなる;文化的無知は相手を傷つける行為にもなり多分、同行しているグループとの信頼関係を傷つけることになる;そして短期の滞在は自然と好奇心を高め、同行者としての役割に必要な相手との一定の距離感を越えてしまう。マホニィは、「成功する」短期、長期ボランテイアの組み合わせは、継続して情勢の分析を行い、相手方との長期にわたる信頼関係を築いている現地スタッフや長期滞在メンバーによる短期ボランテイアの一定の指導が必要であると結論づけている。このような指導とともに、明確な行動についての指針、はっきりとした役割の定義、注意深いボランテイアの選別が必要である。「全く上手くいかないのは指針やきっちりとした指導なしに単に短期ボランテイアを送り込んだり、組織に全く所属しない経験のないボランテイアが入り込むことにある。勿論、多くのボランテイアはすばらしい成果(同行の)を挙げるが、例外が紛争解決当たっているその他全ての同行者達の信頼と働きを台無しにしてしまう。このようなリスクは指導や訓練によって少なくすることは出来るが完全に無くすことは出来ない。」
パット・コイは頻繁にメンバーが変わることはチームの全員参加型コンセンサス運営の能力を妨げマイナスの影響を与えるものと分析している。即ち、討議や意思決定の繰返しや効率の悪化を招き、コンセンサス形成の過程で苛立ちや不満を増長する。更に、チーム内の人間関係を阻害し、必ずとは言わないまでも、しばしばコンセンサスの過程で有害を及ぼしチーム・パワー・ダイナミックスを変えてしまう。
SIPAZでは滞在期間は1年である。WfPの場合2年、CPTは3年である。これら3つの組織ではかなりの確率で当初の任期の延長が行われる。Sipazの1人のボランテイアはもう4年になる;WIP理事Steven Bennettは今では殆ど募集の必要がなく又、極めて厳しく採用できていると言っている。Sandra van den Bosseは、新たなメンバーが到着した際の見過ごし易い問題の幾つかを明らかにしている;「メンバー交代の際のマニュアルがあるにも拘らず必ずしも遵守されていない。時には、任期を終えたメンバーが交替を渋り問題を起こす;又、ある時は、早く帰りたがり新しいメンバーをないがしろにする・・・・時には、新しいメンバーは自分は既に全部知っており指導(introduce)されることを拒絶する。」
CPTでは、専従メンバーと予備隊員の混成チームの場合は、現地への着任をずらすことが重要である。専従メンバーは3ヶ月滞在したあと暫く現地を離れ更に3ヶ月滞在するとか、或いは、6ヶ月以上滞在する。時には、チームが2人の長期滞在者と2人から3人の予備隊員から構成される。
キプロス再定住プロジェクトのKate Kempによればプロジェクトの初期の段階では着任がずれるのは良くないとのことである。全員が同時に着任していれば、始めのオリエンテーションで問題点の議論がなされ、後々の諸問題が克服されていただろう・・・・多くの時間の無駄(そして混乱も)を無くすことが出来たであろう。
十分で行き届いたオリエンテーションは新しいメンバーがグループの目標と任務を遂行するに必要なスキルと情報を身に付けることに役立つ;仲間(neighbourhood)を紹介し、紛争やチーム内の連絡網を紹介する;“カルチャーショック”による混乱や情緒不安定を緩和し;新しいグループに加わるとき何時も生じる自己の見直しの過程をスムースに行わしめるなど。例えば、チームの任務が手一杯であったり内部対立があったりすると、しばしば、新しいメンバーに対するオリエンテーションは疎かになる。その結果、新しいメンバーが戦力になるのに時間がかかり、質問の応答に余計な時間がかかり新しいメンバー信頼の欠如から任務にもチームの意思決定にも十分な参画意識を持てず会合は非効率となりコンセンサス形成過程で妥協が図られることになる。
3.2.1.4 チームとしての一体感(Team Compatibility)と内部衝突(対立)
人は皆、それぞれの資質や、技術や能力を持っている。この点について、ここでは簡単に触れるが、NPの訓練計画のところで掘り下げて検討されねばならない。チームを派遣する団体(organization組織)は参加するメンバーの資質に大きく依存しているという事と、紛争解決、チーム造り、多文化に対する理解(配慮)当の特別なスキルは訓練期間中、もっと広範囲に教えられるべきである。国際的非暴力に参画したいという善意は、必ずしも、問題解決や関係つくりの為の対人折衝のスキルを共なっているとは限らない。訓練ではその点を考慮に入れなければならない。
決意を持ってチームの一員として働く人達はお互いに補い合い又、影響を与え合いシナジー効果を出すものだ。
この一体感(Compatibility)が平和部隊を構成する際の重要な規準になるのである。
Katarina Kruhonja
CPT内の紛争と苦情処理についての手順