<目次に戻る>
はじめに
ここに提出された研究報告は、非暴力平和隊の調査段階の一部としてピースワーカーズから委託されたものである。 その課題は、組織された大規模な国際的市民組織による非暴力介入の実行の可能性についての徹底的な研究をおこない、調整することであった。この研究の中で扱われるいくつかの点はかなり一般的な類のものであるが、この研究の出発点は非暴力平和隊(以下NPと略す)によって作成された次の使命声明である。すなわち「常設の 国際非暴力平和隊を組織し、訓練すること。平和隊は、紛争地域に派遣されて、殺戮と破壊を防止し、人権を保護することによって、地元のグループが非暴力的に取り組み、対話により、平和的解決を追求できる環境をつくりだすことを目的とする 。」
この研究はそのような平和隊の有用性と実現についての問題に焦点を合わせている。 したがって、私たちは「暴力紛争に対処するためにはどのような戦略が最善だろうか?」あるいは 「最善の介入手段は何か?」というような問題はとりあげなかった。 これらの問題はいずれも答えとして必ずしも「NP」につながるというわけではないことを強調する必要がある。 恐らく、地元に平和地区や同じような施策を構築している地元の平和創造者や平和構築者を強化するような他のアプローチの 方が、NPによってなされる国際介入アプローチよりもすぐれているのであろう。この研究の目的はまた、世界中の多くの国々に見られる公正と平和を求める多くの非暴力闘争を、より良く記述し理解することではない。そうではなくて、主要な問題は、紛争介入の中で NPが果たすことができる役割があるか? その任務、そのユニークな貢献とは何だろうか? 一つの外部団体として、非暴力闘争をどのように支援できるのだろうか? これまでに機能すると立証されたのはどのような戦略、どのような戦術なのか? チームを組むなどして活動している地元のパートナーとの関係を、NPはどのように作り上げ、維持することができるのだろうか?NPは新人募集とトレーニングをどのように組織するのだろうか?
私たちのアプローチは、既存の組織と過去のプロジェクトの経験から学ぶことであった。紛争介入についての既存の研究から多くの情報が得られた。さらにインタビューにより文献では判らなかった情報が得られた。
ここに提出された研究の大半は、2000年10月から2001年7月までの9カ月間におこなわれた。研究成果の草稿版は、アメリカ合州国セントポール市において2001年7月の終わりに非暴力平和隊によって開催された研究成果検討セミナーに提出された。 そのセミナーでの討論結果は、この研究の中に部分的に包含されている。
ここに提出された研究の他に、ここには含まれていない独立した文書になっている他の研究があった。退職した平和研究者のケント・シファードは、NPについて考えられる構造モデルばかりでなく、兵站問題も研究した。ピアス・ウッド中佐は「不吉な宿命を負った不釣り合いな組合せ:平和維持とアメリカ軍」についての論文を書くよう委託された。 ディヴィッド・ハートソー、クリス・ベックマン、ディヴィッド・グラント、およびジヤン・パッションは、南側諸国においてNPに対する要望と支援の可能性があるのかどうかを探るために広く世界各地を回った。 そして、リチャード・テイラー、パット・キーフェ、およびブラッド・グラブズは組織問題を調査した。
調査チームは、非暴力の活動家であり、カトリックの労働司祭でアメリカのダルースに住むドナ・ハワード、ロンドンのピースワーカーズUKの職員であり、ヨーロッパNPの代表であるティム・ウォリスとマライケ・ユンゲ、非暴力平和隊カナダの議長カール・スティーレン、長い間東欧のNGOと政府機関で活動して来たカナダ人のコウリ・レヴィン、ドイツ人の調査担当理事クリスティーネ・シュバイツアーで構成されている。
私たちは、この調査研究に寄与していただいた多くの方々に感謝を申し上げなければならない。すべての方のお名前を挙げることができないほど非常に多いのだが、私は少なくとも何人かの主な方々のお名前を列挙したい。 モハメッド・アブ・ニメル、スティーブン・ベネット、ヘィガン・バーント、クレア・エヴァンス、エッケハルト・フリッケ、ピート・ヘムマーレ、ジョン・ヘイド、ロバート・ポゥン、ジル・スターンバーグ、ステラ・タマング、フィリス・テイラー、サンドラ・ファン・デン・ボッセ、クリスタ・ウェーバー、およびステファン・ウィルムッツには、インタビューのための時間を割いていただいた。リアム・マホニィ、イェシュア・モーザー・プアングスワン、オリオン・クリーグマン、N・ラダクリシュナン、およびアルノ・トルーガーには、資料提供者として研究成果検討セミナーに参加するために長距離の旅行をしていただいた。 ごくわずかしか列挙できないが、エリーズ・ボールディング、バート・ホーマン、バーバラ・ミュラー、マイケル・ナーグラ、およびヘルガ・テムペルには、論文などについて書面によるコメントをいただいた。セントポール事務所からのパット・キーフェや、メァリアン・シン、サンドラ・フーンレ、ジュディス・コウツ、およびダフニィ・ディビィは、校正作業に何日も費やしてくれた。 メル・ダンカン、ディヴィッド・ハートソー、ドナ・ハワード、ティム・ウォリス、マイケル・ナーグラ、メアリィ・ルウ・オト、ヤンネ・ポールト・ファン・イーデン、N・ラダクリシュナン、クラウディア・サマヨ、およびハンス・シンは、7月の集会におけるNPの暫定運営委員会のメンバーであった。そして最後に、指導スタッフのディヴィッド・ハートソー、特にメル・ダンカンのお二人の関与と支援なしにはこの報告書は完成できなかったであろう、ということについてとりわけ言及しなければなるまい。
この報告書は共同作業の賜物ではあるが、この刊行物の中に表明されている意見、所見および結論あるいは勧告は、著者(たち)のみのものでありまして、必ずしも非暴力平和隊の見解を反映しているものではないし、もちろんのことだが、その資金提供者であるアメリカ平和研究所の見解を反映しているものではない。
最後に陳謝を申し述べて終わりたい。 研究の大部分は英語のネイティブ・スピーカーではない者によって書かれた。 そして、テキストは一度校正されたのだが、その後に訂正がなされた箇所がある。 私は、ドイツ語風の表現や、文法的誤りあるいはスペルミスによって意図した意味合いが変わらないよう希望します。皆さんの表現や文法の感覚が、これらのテキストを読むことにより損なわれるかもしれないことにお許しをいただきたい。
本報告の概観
この研究の第1章は、非暴力、紛争、紛争の激化、介入、平和戦略に関連するいくつかの主要な概念を紹介する。 ここの目的はいくつかの定義を規定することにある。その理由として二つだけ例を挙げると、介入や平和構築というような中心的用語が、関連する文献の中でかなり異なった意味に使われているために生じやすい誤解を避けるためである。そして、その誤解が紛争介入の合法化という問題を引き起こす。この章は簡潔な、したがって確かに完全な概観ではないのだが、市民による/非暴力の紛争介入の歴史と経験で終わる。
第2章は、非暴力的な市民による介入の成功しているやり方を説明し、明確にすることを目的としている。 第1章に記述した活動の全範囲を簡潔に表記すると、活動団体のタイプはいくつかにまとめられる、すなわち、平和チームと平和サービス、人道的組織と開発組織、より大規模な国際的民間派遣団および軍事的介入者である。 本章では、非暴力的介入が軍事的介入にとって代わることができるのかどうか、という問題も扱かって、非暴力介入が失敗した過去の事例を思い起こさせている。
第3章は、実行問題、特に、チーム自体の中において、あるいは、他の政府組織や非政府組織との間で、そして非暴力平和隊を統轄するメンバーとの間で、建設的で有効な関係をどのように作り上げ組織化して行くか、について調査している。本章は、1) 類似の使命を共有してはいるが、NPの大規模な介入活動に直接転換するにはあまりにも小規模な平和チームとの現地における関係。2) 同規模あるいはさらに大きい組織ではあるが、その目的と経緯の点ではそれほど類似していない組織との 関係、という2項目からいくつかの結論を導き出そうと試みている。
第4章は職員問題、すなわち、この分野における人材管理について最善のやり方をどのように規定するか、を取り扱っている。
最後の第5章は、現在採用されているいろいろなトレーニングのモデルと比較しながら、トレーニングの問題を取り扱い、非暴力平和隊のためにいくつかの提案、たとえば、トレーニングと評価を切り離すこと、一般的なトレーニングと派遣準備トレーニングの両方をおこなうこと、などを提案している。
クリスティーネ・シュバイツアー
2001年9月、ハンブルクにて
<目次に戻る>