入管法の改悪に反対する緊急声明(案)


日本で働く外国人は、在留資格取得が困難なため、日本での滞在が非合法の状 態で放置されています。そのため賃金未払い、労災もみ消し、突然の解雇、など 就労上の問題や、売春の強要、医療、結婚、離婚、育児、教育などさまざまな面で 差別や人権侵害に直面しても、自ら声を上げる道さえ閉ざされた状態で放置さ れています。私たちはいずれもこのような外国人の人権問題に関心を寄せ、取 り組んでいる団体です。

さて1997年初頭より、船による密航事件、それを手配する蛇頭の存在が声高に 喧伝され、あたかも大陸から外国人犯罪集団が大挙して押し寄せてくるかの 様なイメージ作りが、マスコミの手によってなされています。一方、船による 密航者の増加に危機感を抱いた、法務省は、こうした密航を手助けするシンジ ケート、ネットワークをターゲットにした「出入国管理、及び難民認定法(入管 法)」の「改正案」を提案しています。同「改正案」は4月4日には閣議決定され、 衆議院の審議に付されようとしています。

しかし同「改定案」の案文を見ると、以下のような点で、非常に危険な問題をは らんでいると考えざるを得ません。

1、「第74条、不法入国者蔵匿・隠避罪」の新設や、関連条項の処罰規定の強化 に関して

今「改正案」によれば、外国人支援団体のスタッフ、難民者の支援団体のス タッフ、外国人の支援をしている教会の神父や牧師、また外国人の友人・恋 人や、外国人に住居を提供したアパートの大家もたとえば人道的な動機 がもとであったとしても「不法入国者等蔵匿・隠避」したものとして罪(5年 以下の懲役、300万円以下の罰金)に問われる可能性がある。

今回の処罰規定の新設や強化は、当該外国人自身が摘発をおそれ、自ら受 けた人権侵害を訴えることがさらに難しくなり、彼らの受ける人権侵害の 救済活動を極めて困難にし、人権侵害をさらに潜在化させるおそれがある。

2、「第24条、退去強制事由」の追加に関して

「改正案」では、新設された新しい罪により、刑を処せられた外国人を退去 強制の対象とする、としている。しかし、外国人は、同国人どうし居住し、助 け合っている例が少なくないが、日本人の配偶者など、在留資格のある外国 人が「不法入国者等蔵匿・隠避罪」や、「密航にかかわる罪」に問われた場合、 退去強制の対象となり、家庭崩壊を招く例が多くなるだろう。同国出身者の 間に、大きな楔が打ち込まれ、在留資格のある者と、無い者の間に分断や差別 が持ち込まれるだろう。

3、新しい「罪」の認定に関して

「改正案」の案文は「退去強制を免れさせる目的で(74条)」とか「上陸許可の 証印、または上陸許可を受けないで本邦に上陸する目的で(第3条)」などと し、密航や蔵匿・隠避が未遂で終わった場合や、「目的」を持ったものも処罰 や退去強制の対象にしている。また「改正案」74条では集団密航について「予 備罪」の新設も行っている。このような罪の認定に関しては、歯止めのない 拡大解釈の危険がある。

4、難民認定手続きの問題に関して

「改正案」の3条によれば、正規の手続きを準備せずに(出来ずに)日本にやっ て来る外国人を港や空港の上陸審査を受ける前に拘束し、処罰する、あるいは ただちに本国に送還することが出来る。しかしそうした外国人のなかには、 やむを得ない事情で緊急に入国しようとする人々、つまり難民も含まれてい る。現状でも難民認定の適正な手続きが実体として保障されていない中で、 今回の「改正案」はさらにその権利を制限している。

5、棚上げされた現行法問題点

また入管の退去強制手続に関連して、入管職員による収容外国人に対する 暴行やセクシャルハラスメントなどの行為が多発(93〜94年)した後、法務省 は私たち外国人支援団体に対し「外国人の人権を保障する方向で入管法の改 正を考えている。」との発言をしていたが、今回の「改正案」ではこの点が まったく欠落している。

《排外主義をあおる「改正案」》

このような「改正」は外国人支援団体の弾圧に利用されるばかりでなく、外国 人一般に対する日本人の偏見を助長する効果をもたらすでしょう。また、現 状でも超過滞在者の結婚や子どもの認知に関連して、行政窓口が届け出を受け つけないなどの事例が跡を絶たたず、こうした行政の態度をさらに萎縮させる 効果をも生み出す可能性もあります。

《密航の多発を招いた日本の鎖国政策》

空港では、多くの外国人が「就労目的」とされ、入国審査での入国拒否がここ数 年日常化しており、現在日本列島はまさに鎖国状態になっています。しかし、 超過滞在者は減少傾向にあるとは言え、およそ28万人と、高水準を維持してい ます。最近の密航や、正規の手続きなしでの入国の増加は、むしろここ数年の 以上のような、入国拒否の日常化による「水際作戦」の結果導かれた、必然的な結 果であることに、法務官僚は気がついていないようです。日本の入管政策は、 『法』という薬を強めることでしか、現状政策を維持できないところまで追い つめられてきた証拠です。

《「改正案」ではなにも解決しない》

私たちは人々の出稼ぎ熱や、密航熱をあおり、人々から金をまきあげようとす る、シンジケートやネットワークの存在を容認するものでは、もちろんありま せん。しかし私たちはこうした現象の裏に「海外に出稼ぎに行かざるを得ない 実情を抱えた人々。」すなわち「第三世界の貧困」に思いを馳せざるを得ない のです。法務官僚は『法』を強めることで、何を守ろうと考えているのでしょ うか。

《入管法の改悪に反対する》

私たちは以上のような観点から、今国会に提案されている同法の「改正案」は 明らかに、難民支援者、移住労働者支援者、人権団体、そして当該外国人を見か ねて助けた一般の日本人や在日外国人をも罪におとしめようとするもので、「改 悪」以外の何ものでもないと考え、同法案を速やかに廃案とするよう強く求めま す。

1997年4月X日

団体名
アジア人労働者問題懇談会
移住労働者と連帯する全国ネットワーク、関東準備会
外登法問題と取り組む全国キリスト教連絡協議会
神奈川シティユニオン
カラバオの会(寿・外国人出稼ぎ労働者と連帯する会)
京都YWCA・APT
在日アジア労働者と共に闘う会
女性の家サーラー
女性の家HELP
すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク・RINK
全統一労働組合
全労協、全国一般東京労働組合FLU
滞日外国人と連帯する会
滞日外国人と連帯する会、長野
難民・移住労働者問題キリスト教連絡会
新潟ヘルプの会
入管問題調査会
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