映画『ジョン・ラーベ』の上映を
                              ベルリン  梶村太一郎
                             
 昨晩、4月24日金曜日の夜に、ベルリンで「ジョン・ラーベ」が本年度の第59回ドイツ連邦最優秀映画賞を授賞しました。その他、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀時代考証賞など全部で4つの部門賞もさらいました。文化大臣より賞が贈られました。
 ここでドイツ第一公共テレビ放送のニュースがビデオで見れます:   
 http://www.tagesschau.de/inland/filmpreis106.html
来週から中国でも57カ所で上映が始まるとのことです。
 さて、目下この映画はベルリンだけでも7つの大小の劇場で上映中すが、昨日やっと、わざわざ小さい映画館でじっくり見て来ました(ゆっくり見るためです)。
 
 わたしの評価ですが、以下のことが言えると思います。
 まず、2時間ほどの比較的長い映画ですが、短く感じるほど面白い映画です。
上海郊外に大規模なセットを建設して大金をかけ、また出演俳優が一流そろいですので史実を背景にしたフィクション映画としては成功しています。ただ、視点がやはり「欧米」からのものです。つまり中国人の視点が比較的弱いように思えます。ですからこの点では中国での反応が待たれます。
 日本軍の描写は、「捕虜の大量虐殺」も「百人切りの現場」も、いずれも脚色ですが強烈に、これでもかと出しており、これらの蛮行の背景にある皇軍のイデオロギーについては、皇族軍人も登場させ、真っ向から描き出しています。他方で、皇軍にも塩を送った脚本にしており、日本軍が糖尿病のラーベに切らしたインシュリンを提供したり、また戦争法規違反に苦悩する日本軍将校が、秘密情報をユダヤ系ドイツ人外交官ローゼに伝える脚色もあります。
 わたしのように南京の史実を比較的知っている者からは、台本の脚色がよく判りますので、これは良くできた「ジョン・ラーベ物語」として位置づけてみるべきだと思います。しかし、核心である実在のラーベのヒューマニズム・人間性の演出は立派に成功しているので、「フィクション=物語」としては成功しているというのが、わたしの感想です。
国際委員会のメンバーの個性も実に見事に演じられています。史実が芸術になっています。また南京攻略の流れには当時のニュースのフイルムも巧みに組み込んでいます。
 注意すべきは、ドイツの公共テレビは映画の公開に並行して歴史家や関係者のインタヴューを基にしたジョン・ラーベに関するドキュメント番組を二年前から準備、作成してすでに放映しています。すなわち、史実と物語を同時に全社会に伝えているわけです。
 映画の終わりに字幕で「国際保護地区は20万人の中国人の命を救ったが、しかし少なくとも30万人が虐殺された。いまだに日本政府はこの規模を承認していない」と出て来ます。
 監督以下が大変望んでいるにもかかわらず、この映画を堂々と上映しようとしない日本は、そのことで「日本はやはり、そんななさけない社会なのだ」と国際世論に確信させる証拠を、行動で提供していることになります。片方の眼と耳が病んでいるのに、それに気付かないのはあわれでもあり、また危険なことです。日本でも是非上映すべきでしょう。