声明「NHKの『戦時性暴力』番組改変問題について」
1月12日の朝日新聞の記事と、翌13日のNHKチーフプロデューサー長井暁氏の記者会見は、4年前に起こったNHKの『戦時性暴力』番組の改変問題を明らかにしました。改変は以前から外部の圧力によることが疑われていましたが、今回の報道と会見は、日頃過去の侵略戦争を正当化し、周辺国への侮蔑と敵意を表わしている与党政治家たちが干渉したことを、露わにしました。NHK上層部と当の政治家は干渉を否認するので、個々の事実はなお問われなければなりません。しかし基本的な問題はすでに明らかです。 (1) 表現の自由の侵害 NHKは国民の受信料によって運営する公共のメディアであり、国民に公正な報道をする責任があるのに、その上層部が政治家に放映内容を前もって説明し、指示を受けていました。このことは責任放棄であり、国民を欺く行為です。政治家も国民に仕える身でありながら、国会のNHK予算承認権を悪用して圧力をかけました。これは憲法21条の表現の自由保障と検閲禁止に違反し、国民を愚弄する行為であるというほかありません。 表現の自由は民主主義の根幹を成すものです。私たちはこの自由の侵害を見過ごすことができません。これを見過ごす人、ましてや国民の自由権を犯す人は、周辺国に見られる言論抑圧を批判する資格はありません。 私たちはNHK上層部と関連政治家たちに、つよく反省を求めます。また国会およびNHK に対し、放送の適正を見張る第三者的機関を設けるなどの改善を要求します。 (2) 日本軍性奴隷制と天皇の責任 今回改めて問われた番組の改変は、2000年12月の『女性国際戦犯法廷』の二つの主要な成果を隠蔽するためになされました。一つは‘従軍慰安婦’と呼ばれてきた日本軍性奴隷の制度を人道に反する罪として明らかにしたこと、もう一つはこの国家的犯罪について天皇と司令官たちを有罪と宣告したことであって、これらの事実を国民の目から隠すためにいくつもの大きな変更と削除がなされました。このような隠ぺい工作は、民衆法廷で苦痛に満ちた証言を行なった元‘慰安婦’の方々をまたもや辱めることであり、人類普遍の道義と国際的法秩序に悖る行為です。私たちは人間としてこれに怒りと恥ずかしさを覚えないではいられません。改変を引き起こした政治家たちとNHK上層部は、この女性たちに心から謝罪すべきです。 私たちは、苦難を負わされた方たちが人間として尊厳を認められ、名誉を回復すること、またこの国が罪を悔い改めて道義に立ち帰り、平和の国になることを切望してきたので、民衆法廷とその成果を心から支持してきました。近年この国では、悔い改めどころか、歴史の検証を権力によって封印し、自国史を美化して他国を非難する動きが強まるばかりです。しかし他面、女性たちの国際連帯による民衆法廷や、今回の朝日新聞の報道および長井チーフプロデューサーの行動は、このような動向に対抗する良心を示し、さらに多くの人々を勇気づけています。私たちもまた各々の場で真理に従い、然りを然りとし、否を否とする自由を実践していきます。 2005年1月29日 日本キリスト教協議会(NCC) 総幹事 山本 俊正 同 平和・核問題委員会 委員長 小笠原公子 |