日朝国交正常化交渉再開の歓迎と要望書
総理大臣
小泉純一郎 様
私たちは、この度の小泉純一郎首相の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)訪問の結果、日朝国交正常化交渉の再開が合意されたことを歓迎します。日朝国交正常化の推進は朝鮮半島及び北東アジア全域の平和と安定に寄与します。
私たちはこの間、朝鮮半島の平和統一及び日本の植民地支配の清算と日朝国交正常化への取り組みを視野におきながら、微力ではありますが北朝鮮との民間レベルでの交流を進めて来ました。特に、1995年の洪水被害以降、国内外のNGOとも連携しつつ、朝鮮基督教連盟(KCF)を窓口として、食糧支援を中心とした人道支援活動を継続的に展開してきました。しかし、私たちは、国交がない北朝鮮への民間レベルでの人道支援において、現地に駐在しての中・長期の支援ができないことなど、多くの課題と壁に突き当たることを経験しました。1990年代に入り、日朝国交正常化交渉が開始されましたが近年、政府間交渉自体が開かれていないことに、私たちは危惧の念を強くしていました。
私たちは、この度の日朝首脳会談にて、新たな日朝間の対話と歴史の窓口が開かれたことを歓迎します。また、極めて深刻な結末として明白となった拉致問題に関して、死亡された被害者のご家族の方々に哀悼の意を表すとともに、今後の正常化交渉のなかで真相が究明されることを願っています。しかし、同時に日本が過去に行った朝鮮半島への侵略と植民地支配及び強制連行による被害者及びその家族に与えた痛みを思い起こさねばなりません。北朝鮮への補償は、1965年の日韓国交正常化に伴う「経済協力方式」に習うのではなく、真摯な国家補償がなされることを求めます。また強制的に「慰安婦」とされた被害者への国家の誠実な謝罪と補償がなされねばなりません。私たちは拉致問題の最終的な解決として、北朝鮮に対する制裁や正常化交渉の中止という手段がとられないことを要望します。首相が会談直後に述べているように、このような問題が二度と起きないようにするためにも、20世紀の初頭から続いた不正常な関係を正常化する対話の継続が重要です。
私たちはまた、今回の首脳会談の結果として出された共同宣言の中で、従来北朝鮮が難色を示してきた六か国協議(日、米、中、ロ、韓・北朝鮮)による安全保障に関する多国間の枠組みの可能性が示されたことを評価します。六か国協議による枠組みを具体化することは、現在の米国を中心とした二国間の軍事同盟による枠組みと比較して、北東アジアの平和と安全に寄与すると考えます。また、多国間による対話と信頼醸成の枠組みの構築は、北東アジアの緊張を緩和し、もはや有事法制が有効性を持たないことを意味しています。
日朝の国交が正常化するまでには多くの解決すべき課題と難問が存在します。しかし、私たちは始められた対話が中断されることなく、日本政府が日朝間の問題を対決ではなく平和と和解の精神に立ち解決することを強く要望いたします。
2002年9月26日
日本キリスト教協議会 議長 鈴木伶子
総幹事 大津健一