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部落差別問題に関するキリスト者への訴え


 日本キリスト教協議会(NCC)は、第26回総会(1976年3月)において、部落差別問題に関する決議を行ない、これに基づいて部落差別問題特別委会を設置しました。その後3年間の取り組みを経て、本常議員会及び委員会は、以下のように基本姿勢を明らかにするとともに、それをすべてのキリスト者に訴えます。

教会の歴史の中で

 明治以降のキリスト教の歴史を顧みる時、幾多の信仰の先輩たちが、福音宣教のために大きな働きをして来たことは確かです。しかし部落差別に関しては、教会あるいはキリスト者は、差別の本質に気づかず、したがってこの問題への取り組みを自らの課題とすることができないまま、かえって差別的な対応をして来ました。

 このことは、戦後30余年を経ても、基本的に変わっていません。むしろ教会やキリスト者の差別的体質は、今日までそのまま保持され、NCC加盟教団、団体の中にも差別的発言等が続発しています。

 私たちはこのことを直視し、改めて部落解放に真剣に取り組む決意を新たにしなけれぱなりません。


差別の実態

 部落差別は、近世封建制度下の分断支配政策としてつくられた身分制度に由来します。それは幕藩体制の動揺・崩壊期に、体制側によって、支配秩序維持のために強化、拡大されてきたものであります。すなわち部落差別は、支配の手段として人為的に巧妙につくられた点で、他に類例のないものです。それは明治の「解放令」以後も、天皇制資本主義体制の形成、発展過程において、支配者層の利用するところとなり、国民もこれにすすんで加担することによって、今日まで温存されてきたのです。

 ようやく11年前に、同和対策事業特別措置法が制定されましたが、それさえ一部の被差別部落の生活条件・環境をいくらか改善したにとどまっています。住居・教育・職業・結婚等に関する市民的権利が保障されないだけでなく、心理的感情的な要素も加わって、差別は厳然として続いています。

 このような部落差別を撤廃するためには、今後一層、法律の整備・拡充、行政的施策の充実が必要とされます。しかし、さらに重要なことは、私たち一人々々が部落解放を自らの課題として担い、差別に立ちむかう者へと変えられることであります。

 日本においても国際人権規約が批准された今日、人権を侵害する部落差別がなお存在することは、国際的に到底許容されないことです。このような意味においても、部落差別と取り組むことは、国民的課題であり、急務であります。

聖書的理解

 イエス・キリストは、その地上の生活の間、社会的、宗教的に無資格者として差別されている人々の側に立ち、彼らにこそ注がれる神の愛をあらわされました。このことによって、彼らを差別する人々にはげしく挑戦し、ついにその人々の手によって十字架にかけられました。しかし、神はこのイエスをよみがえらせ、イエスの闘いの勝利を明らかにされたのです。それゆえに、主イエスの生涯と十字架の死と復活は、すべての人間差別に対する最も根源的な挑戦であり、審きであります。

 私たちは部落差別の現実に対し、被差別者の苦悩に対して無感覚であったことを、この主の前に言い表わさなければなりません。これは、単にキリスト者の倫理の問題であるばかりでなく、信仰の質に深く関わる問題です。私たちは差別者として、主の審きの下におかれています。

 しかしこの審きは、私たちを、ひとを差別するという非人間的行為から解放し、他者の苦しみにあずかり、他者と共に生きる喜びを知るように招く、恵みにみちた招きであります。

 部落解放の行為は、非人間的な差別者としての自己を解放する行為です。私たちはこの行為において主を仰ぎ、主に従う者でありたいと願っています。すべてのキリスト者がこのような認識と行動を、私たちと共にして下さるように訴える次第です。


  付  記

  1.  NCC部落差別問題特別委員会は、キリスト教会、団体、学校に、部落差別問題を自らの問題として自覚し、部落解放を自らの課題として担うよう、働きかける。
  2.  本委員会はすべての差別されている人々の側に立ち、部落解放のために働く社会の団体や個人はもちろんのこと、他の差別・抑圧と闘う団体や個人とも協力し、連帯する。
  3. 本委員会は、人間に対する差別・抑圧と闘う海外の諸教会と連絡をとり、国際的連帯を打ち建てていく。
  4. 以上の目的で、本委員会は、協議会やセミナーの開催、講師派遣、パンフレット発行、署名運動、情報交換、連絡等を行う。

1980年1月17日

日本キリスト教協議会(NCC)常議員会

  同    部落差別問題特別委員会

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