July 20, 1999掲載
今井恭平です。
フィラデルフィアの無実の死刑囚・現代アメリカのすぐれた黒人ジャーナリスト、ムミア・アブ・ジャマールに対して、新しい攻撃が加えられています。現在、彼が請求中の再審請求に対して、連邦最高裁の決定が今秋にも出ると予想されており、新たなネガティブ・キャンペーンは、最高裁の決定になんらかの影響を与えようと意図されたものと考えられます。
ことの次第は、以前「ムミアと友人だった」と自称するフィリップ・ブロックという白人男性(47歳)が7月13日にラジオ番組に生出演して記者会見を行い、7年ほど前に、ムミアが自分に対して、殺人を告白したと語ったもの。
彼は「Vanity Fair magazine」という雑誌でも同様のことを述べているそうですが、この雑誌は未見のため、詳しい内容は分かりません。のちに、この雑誌を入手して記事を読みました。詳細は、「ムミア告発者の信用性」「Vanity Fairへの抗議行動」なども参照してください。8/16/1999付記
この記者会見の模様などを、フィラデルフィアの地元の新聞 Philadelphia Daily News が悪意に満ちた記事にしています。この記事は、以下のURLで読むことが出来ますが、「警官を殺したことを後悔しているか?」と尋ねたら、ムミアが「Yes」と答えた、というブロック氏の言葉だけから、なにかしら新しい証拠でも出てきたかのように書き立て、ムミアをcop killer(警官殺し)と呼んでおり、バイアスを隠そうともしないひどい記事です。
これらの記事からは、ブロック氏は高校の代用教員で、何年か前にペンシルバニアで監獄訪問のボランティアをしていたことがあり、その際にムミアとあっているというくらいしか分かりません。ただ、彼が数年前にこのボランティア活動を辞めさせられている理由について、ボランティアを通じて知り得た囚人やその家族の情報を、他にもらしてはならない、という規約に違反したためだ、という説があるようです。ただし、本人はこれを否定し、看守による囚人への暴力を告発しようとしたら、辞めさせられた、と主張しています。
ブロック氏は、自称死刑廃止論者で、「ムミアが死刑になることは望まないが、モーリン・フォークナーと知り合って、彼女に同情したために、長く胸におさめておいたこの話をした」と述べているそうです。
ブロック氏の記者会見から数日後に、あるラジオ局がこの問題をとりあげ、グリーン刑務所の死刑囚監房にいるムミア本人に電話でインタビューを行ったようです。このとき、ムミアはブロック氏は公的な訪問者であって、彼が主張しているように個人的に親しい友人であったことはない、と否定しました。もちろん、ブロックに向かって「殺人を告白した」などということは一笑に付しています。
フィラデルフィアの弁護士で、かつラジオで自分のトークショーをもっているマイケル・スマーコニッシュという白人男性も、このことで、悪意に満ちたキャンペーンを行っています。彼はがんらいFOP(白人人種主義の警察官団体)の強力な支援者であり、モーリン・フォークナー(殺害された警官の未亡人で、ムミア死刑キャンペーンの先頭に立っている)のWEBサイトの立ち上げに協力した人物でもあり、彼がこうしたキャンペーンの先頭に立つことは予想できる事態ではあります。
7年前に個人的に聞いた、などというなんの裏付けもない話であれ、キャンペーンに利用せざるを得ないほど、反ムミア勢力は見境がつかない状況にいるとも言えますが、警察、白人人種主義者と結びついたこうした勢力の動きは軽視できません。すでに、ムミアを支援している黒人組織MOVEに対しても、1985年のときの大弾圧(11名が殺害された)の直前を想起させるようなかたちでの圧力がかかっているとも言われています。
Philadelphia Daily News の関連記事URL
http://www.phillynews.com/daily_news/99/Jul/14/local/
これらの動きに先立ち、7月3日4日には、フィラデルフィアの観光名所であるリバティーベルを占拠して、ムミア支援の集会が行われ、95名の逮捕者を出しています。