緊急通信 1998年12月11日

安田好弘弁護士に対する逮捕に抗議し、
12・16即時釈放を求める緊急集会に参加を

組織的犯罪対策法に反対する全国弁護士ネット事務局
(事務局弁護士 海渡雄一 鬼束忠則)


全国弁護士ネットの皆さん

1 恣意的な逮捕は違法

 12月6日警視庁捜査二課は、強制執行妨害被疑事件について安田好弘弁護士を逮捕しました。株式会社住宅金融債権管理機構は逮捕後、安田弁護士を告発しました。この逮捕は弁護士の業務上の会社経営に関する助言を内容とする弁護士活動を犯罪被疑事実とした異例なものです。事件についての安田弁護士自身からの主張は身柄拘束が解かれるまで待つほかありません。しかし、私どもは新聞で報道がなされている事実関係には深刻な疑問をもっています。
 加えて、逮捕手続きにも疑問があります。安田弁護士は既に3回におよぶ任意の事情聴取と捜索へも協力しており、逃亡したり、罪証を隠滅することなど全く考えられない状況にありました。また、債務者と管理機構の間で債務弁済のための話し合いも行われていたということです。住管機構による弁護士の告発は今回で二件目とされますが、一件目は身柄を拘束されることなく、在宅で起訴されています。このように、今回の逮捕は極めて恣意的なものであるといわざるをえません。

2 逮捕は死刑廃止運動と麻原弁護への報復

 いうまでもなく、安田さんは死刑事件弁護の第一人者であり、死刑廃止運動の名実共にリーダーです。私どもは、弁護士活動の活動の目的を共通にすることもあり、常に死刑廃止フォーラム90の活動の中心であった安田さんの活躍ぶりを間近に見てきました。死刑求刑のなされた事件で無期懲役の判決を得たり、一審死刑事件を高裁で無期懲役に逆転したり、その活躍は人権活動とりわけ、死刑廃止運動にかかわる市民の広く知るところでした。
 安田さんは一つ一つの事件弁護を決しておろそかにしない、徹底して誠実な事件処理で依頼者から深く信頼されていました。とりわけ、麻原被告人の主任弁護人として、刑事訴訟法の原則に忠実な弁護活動を繰り広げ、緻密な反対尋問を通じて事件の真相が検察官の主張するシナリオ通りのものではないことを具体的に示してきました。しかし、検察官は安田主任弁護人を中心とするこのような麻原弁護団の弁護方針を、些末なことにこだわり、裁判に時間がかかり過ぎるなどとして強く批判していました。
 また、さる10月末に行なわれた規約人権委員会の政府報告書の審査において、日本の死刑制度、死刑確定者の処遇の問題は切実な関心事項となっている事が示され、死刑廃止に向けた具体的な努力と死刑確定者の処遇の改善が勧告されました。しかし、そのわずか半月後には法務大臣は死刑を執行しているのです。この死刑執行に対する今回の逮捕はこのような状況の中で行なわれたものであり、極めて政治的な意図に基づくものであることは明らかです。

3 犯罪収益収受罪の先取り的な逮捕

 組織的犯罪対策法はいわゆるマネーロンダリング対策として犯罪収益収受の罪を広範な犯罪に拡大しています。私たちは、この犯罪収益収受罪が弁護活動を著しく困難にする可能性があると警告してきました。今回の逮捕は強制執行妨害罪の共犯とされていますが、この組織犯罪対策防止法が成立すれば、共犯者としてではなく、依頼者が一定の犯罪に基づいて取得した金を違法に取得された金であるという「未必的な認識」がありながら受領すると、それだけで犯罪収益収受罪となります。法務省はこの規定を弁護士に適用する可能性を否定していません。
 このような法律が制定されれば、私選弁護は極めて困難なものとなることでしょう。
 今回の逮捕には、組織的犯罪対策法の制定を待たずに、これを先取り的に実施し、法成立後に布石を打っておく意図も感じられます。

4 警察権力の濫用に対する歯止めを失った住専管理機構

 私たちは確信することができます。もし安田弁護士が麻原弁護団の一員でなければ、もし死刑廃止運動のリーダーでなければ、今回のような形で逮捕されることはなかったでしょう。金融機関の不良債権の回収の過程で債務者側の執行妨害が行なわれることは決して珍しいことではありません。むしろ日常的といっていいでしょう。しかし、そのような事件の多くは民事事件として「物上代位」「詐害行為取消」「処分禁止仮処分」「売却決定前の保全処分」などの方法で解決が図られてきました。金融機関が捜査を求めても警察はこのような事件の多くについて「民事不介入」として、積極的に取り上げてこなかったのです。強制執行妨害が、刑事事件とされるようになったのは、金融機関の債権回収が国家的関心事となったごく最近のことにすぎないのです。住管機構にコミットしている弁護士も中坊弁護士をはじめとして人権弁護士と呼ばれた人たちです。しかし、彼らは債権回収の手段として時間のかかる民事手続きよりも手っ取り早い警察機関を利用するうちに、権力の恣意的な濫用に対する歯止めの感覚・意識を失ってしまったのではないかと思われてなりません。自らが警察を使っているつもりで、知らないまに警察の恣意的な捜査権限の濫用にからめとられてしまっているのです。公的な機関の業務執行にかかわる弁護士の最大の使命は権力の恣意的な法執行をチェックすることにあったはずです。この人権の基本を忘れているのはむしろ住管機構にかかわる弁護士の方ではないでしょうか。
 なぜ、安田弁護士の関与したとされる事件だけが弁護士の逮捕という極端な取り扱いを受けたのかを冷静に考える必要があります。この逮捕は決して債権回収を求めたものではないでしょう。警察・検察は、死刑廃止運動の中心的リーダーを逮捕し、運動の社会的評価を傷つけ、死刑関係事件の弁護を物理的に困難にしてしまうことを目的として、安田弁護士の逮捕という手段に踏み切ったのだと考えます。そして、事後的なものとはいえ、中坊弁護士を社長とする住管機構の告発をてこにすれば、弁護士会・弁護士の反発も押さえ込めると見ているのでしょう。このような狙いすました攻撃に対して、今こそ全国の心ある弁護士はしがらみを断ち切って、立ち上がって声をあげるべきです。
 私たちは、今回の逮捕は「人権擁護活動家に対する攻撃」であると考えます。…〔中略〕…

5 安田弁護士の即時釈放を求める

 私たちは検察官に対して直ちに安田弁護士の身柄を釈放することを求めます。そして裁判所に対しても勾留決定を取り消し、また勾留延長決定を出さないよう求めます。
 すべての人権活動にかかわる皆さん、そして、弁護士の皆さん。「どんなに暗い夜であっても、明けない夜はない」といわれます。私たちは近い将来に、真実が明らかとなり、私たちの戦列に安田弁護士を取り戻すことを確信し、そのために共に闘うことを心から呼びかけます。

6 緊急集会に参加を    日時 12月16日 水曜日 午後6時から       *場所 弁護士会館10階 第二東京弁護士会 会議室    主催 安田弁護士救援集会実行委員会(準備会)   関係者からの報告が予定されています。一人でも多くの弁護士の参加を呼びかけま す。 ----転載ここまで---- <注!> *会場の場所は、この声明が出たのちに、弁護士会館2階の大会議場(クレオ)に 変更になっていますので、ご注意ください。 <今井>