「一番おいしいキノコはベニテングタケ。甘みがあってナッツのような
コクもあって、どう食べてもおいしいですよ。私の観察会に参加した人には必ず一切れ食べてもらいますが、
その後の勉強会を端から見ると、一人ひとりは何ともないんですけれど、場が妙に盛り上がっているんですよね(笑)。
興奮状態になるキノコですから、やはりそういう効果はあるのでしょう。是非皆さんも一切れ食べてみてください」
長野県の一部には、毒抜きをして常食しているところもあるという。しかし、ベニテングタケは誰もが知っている毒キノコ。
皆さんは、ちゃんと分かる人といっしょに、節度を持って対処していただきたい。それはそうと、自然と共に生きる会
キノコサークルリーダーの大舘さん、キノコの話になると、もう止まらない。
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都立高校で物理を教えていた大舘さんだが、30代の頃にキノコと出会い、
徐々にハマっていった。キノコを知り、キノコの視点で自然を見るにつれ、自然観が変わっていったという。
「私達は自分自身が光の当たるところで生活していますから、森といえば光の当たっている森をイメージしますよね。
しかし、植物がつくる有機物の生産量の40%近くは、光の当たらないところの生物が利用しているんです。
例えばムラサキシメジを採ってその周辺の落ち葉をはがしてみると、薄紫色の菌糸がびっしりと張っています。そこには
森の下の森、光のない世界の森があるんです。キノコを見ていると、そんな世界を実感できますね」
高校生を連れて富士山の原生林にキノコ採集に行くと、最初は森に入ることさえ怖がっていた子供達も、最後には
「もう少し、もう少し」と言って森から出てこなくなるという。キノコは自分で養分をつくることが出来ない生物であり、
動き回ることもない。自然や生態系の仕組みを学ぶには、キノコは格好の教材なのかも知れない。
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森とともに暮らす社会とはなにか。
「自然と共に生きる会でも、なにが自然と共に生きるということなのか、悩んでいるところなんです」という大舘さんだが、
キノコを考えることの中にも、そのヒントはあるという。 「キノコがどう進化してきたかを考えると、最初は生物に
とりついて殺していたわけです。ところがそういう生き方では先がないので、たぶん1億年くらい前から、植物と共生する
キノコが現れました。このキノコは相手を殺さないで養分をもらい、そのかわりに水分や無機物を供給するキノコです。
生物の世界を見てみると、結局みんな共生関係なんです。また、生物の世界では、太陽エネルギーによってつくられた有機物を
有効に利用し、リサイクルして暮らしています。ひとつの切り株が完全に土になるまでに、実に多くの種類のキノコが次々と
ついて分解しますが、これは省エネなんです。省エネというのは、エネルギーを最大限無駄なく使うということです。
ひとつの菌類がいろんな成分を分解するとなると多くのシステムを持たなければならず無駄が出ますが、多くの種類が
つくことによって、そこにあるエネルギーを無駄なく使うことが出来るのです。こう考えると、共生システム、循環システム、
省エネシステムを可能にするには、多様じゃなければならないんです。もし私達がキノコに学ぶとすれば、
そういう社会じゃないかなと思います」 21世紀を人間が生き抜くためのキーワードである共生、循環、省エネ、多様性。
これらは、生物の世界では最初から確立しているのである。
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共生といっても、生物の世界は仲良しこよしの世界ではない。ともに暮らしながらもせめぎ合いがあり、そこに微妙な
バランスが生まれている。 「森の魅力が語られるときに、入ったときの安心感や安堵感とか言われますが、私はある種の
緊張感を感じます。でも、それが心地よいんですよね。その感覚を安堵感と表現するのかもしれませんけれど」 (編集部)
OODATE KAZUO
1930年東京都生まれ。都立高校で物理、時には生物を教え、
今年退職。自然と共に生きる会キノコサークルリーダー。一番好きなキノコは「やはりフウセンタケの仲間ですね。
形がいいんです。とくにオオカシワギタケ亜属という仲間は立派です。またこれが、おいしいんですよ」
森の列島に暮らす・目次
森の列島に暮らす・02年8月
森の列島に暮らす・02年6月
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