請求の趣旨及び訴訟に至る経緯(訴状より要約)



請 求 の 趣 旨
1. 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地上にある別紙フレコンバッグ目録記載のフレコンバッグを収去し、別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。
2.被告は、別紙ウラン残土目録記載のウラン残土を撤去せよ。
3. 被告は、原告に対し、金160万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。
4.訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言を求める。
      
被告による本件フレコンバッグの放置による本件土地の不法占拠
 被告は、核原料物質の探鉱、採鉱、選鉱に伴って発生した、放射能を帯びたウラン鉱石を含む堆積残土のうち、貯鉱場跡地に放置されていた、特に放射能の高いウラン鉱石を含むウラン残土をフレコンバッグ552体に収納し、本件土地上に仮置きした。
 被告は現在も、本件土地上にフレコンバッグを放置し、もって、本件土地を不法に占拠している。
 被告側の測定によれば、本件フレコンバッグの表面から放出される年間放射線量は、最大値で4.20マイクロシーベルト/時間(=36.8ミリシーベルト/年)、最小値でも、0.17マイクロシーベルト/時間(=1.5ミリシーベルト/年)、平均値で0.70マイクロシーベルト/時間(=1.5ミリシーベルト/年)であり、一般人の年間許容線量(1ミリシーベルト/年)も1.5〜36.8倍となっている。ちなみに、放射線管理区域の設定基準は15ミリシーベルト/年であるから、フレコンバッグ表面の放射線量の最大値はこれを上回っている。被告は、かかる危険なフレコンバッグを本件土地上に、何らの権限もなく放置しているのである。
 よって、原告は被告に対し、本件土地所有権に基づき、本件フレコンバッグを収去し、本件土地を明け渡すよう求める。

被告によるウラン残土の放置−本件土地の利用に対する妨害
 被告は、本件土地に隣接する土地上に、核原料物質の探鉱、採鉱、選鉱に伴って発生したウラン残土のうち、ウラン鉱帯部分を含む放射能を帯びたウラン残土を野ざらしのまま放置している。本件ウラン残土から環境中に放出されるラドン等の放射能による被爆のおそれがあることから、原告は本件土地周辺に長時間滞在することはできず、本件土地の十全な利用を妨げられている。
 また、隣接土地に放置されたウラン残土中に含まれる放射能を持つウラン崩壊生成物が、本件土地まで浸出するおそれがあり、この点においても、本件土地の十全な利用を妨げられている。
 よって、原告は、本件土地所有権に基づく妨害排除請求権として、本件ウラン残土の撤去を求める。
訴 訟 に 至 る 経 緯
 本件土地及び隣接する土地周辺において、1958年に燐灰ウラン鉱が発見され、同年、被告の前身たる動燃のさらに前身である「原子燃料公社」がウランの探鉱を開始した。以後、原子燃料公社は、同所で、ウラン鉱山・方面1号坑、同2号坑を掘削してウランの探鉱・採掘を行い、1963年にこれを終了した。
 原告自身も、上記ウラン鉱山において、坑夫として、ウランの採掘、探鉱、選鉱作業に従事した。当時、原告や方面地区住民の多くが、「国策」とされてきた国産ウランの採鉱、探鉱、選鉱に貢献できるものと信じ、村を上げて、原子燃料公社の事業に協力した。
 現在は、方面鉱山は閉鎖され、方面1号坑・下1号坑も2号坑も崩落しているが、原子燃料公社は、同鉱山におけるウラン探鉱、採鉱、選鉱のために発生した、放射能を持つウラン鉱石混じりの土砂(「ウラン残土」)をそのまま本件土地を含む鉱山周辺土地に放置した。
 1967年、動燃が発足し、前記鉱山の安全管理等の義務を原子燃料公社から継承した。
 1988年8月、動燃が本件土地を含む鉱山周辺土地にウラン残土を野ざらしのまま放置していることが明らかとなり、社会問題となった。原告を含む方面地区の住民は、支援団体の動燃人形峠放射性廃棄物問題対策会議とともに、再三にわたって、ウラン残土の撤去を動燃に対して要望し、さらに東郷町及び鳥取県に対しても、ウラン残土の撤去に向けて努力するよう強く要望した。
 このような努力の結果、1990年8月31日、原告の居住する東郷町方面地区自治会と動燃との間で、方面1号坑及び2号坑のウラン鉱帯にかかわる堆積残土を全量撤去する旨の協定が締結された。また、同日付覚書をもって、撤去協定に基づくウラン鉱帯にかかわる堆積残土の堆積量が、約3000m3であることが確認された。
 その後、1993年11月から1994年3月までに、動燃は、撤去協定に基づき、全量撤去を約束したウラン鉱帯部分を含むウラン残土のうち、特に放射能レベルの高い、貯鉱場跡地にあったウラン鉱石残土約290m3を、本件フレコンバッグのうち546体に収納し、これらを本件土地上に仮置きした。さらに、その後、動燃は、1994年5月から6月までに、試験選別のために使用したウラン鉱石残土を、本件フレコンバッグのうち6体に収納し、これらについても土地上に仮置きした。
 動燃は現在に至るも、本件土地上からウラン残土を含むフレコンバッグを一向に撤去せず、本件土地上に権限無く仮置きしたまま放置している。
 また、被告は、撤去協定にもかかわらず、現在に至るも、本件ウラン残土(撤去協定及び覚書で全量撤去を約束したウラン鉱帯部分にかかる堆積残土3000m3からフレコンバッグに収納した残土を除いたもの)を撤去せず、本件土地の隣接土地上に放置している。
 動燃は、撤去協定にも関わらず、本件フレコンバッグ及び本件ウラン残土を全く撤去しようとしないので、原告ら方面地区自治会の住民は、長年の間、これらのウラン残土からの放射能による生命・身体・財産への危険性を感じて暮らしてきた。原告ら方面自治会の住民は、ウラン残土の撤去問題に重大な関心を抱いているところ、殊に、原告は熱心にウラン残土の撤去を求め、住民の中でも中心的に活動してきた。
 1998年10月、動燃は被告に移行し、本件フレコンバッグの撤去義務も被告が継承した。しかるにその後も被告は、本件フレコンバッグを本件土地に放置したまま、撤去していない。原告は再三に亘り、被告に対し、フレコンバッグの撤去及び本件土地の明渡し、並びに本件ウラン残土の撤去を求めて申し入れを行い、万一、それが実現しなければ、自主撤去乃至法的手段に訴えて本件を解決せざるを得ない旨通告してきた。しかし、被告は具体的な撤去の時期を明示せず、かつ、未だに撤去を実行していない。
 そこで、原告は被告に対し、やむなく本件土地所有権に基づき、本件土地からのフレコンバッグの撤去及び本件土地の明渡し、並びに隣接土地上にある本件ウラン残土の撤去を求め、さらには、被告が本件フレコンバッグ及び本件ウラン残土の放置により、原告を長年に亘って放射能の恐怖に晒し、かつ原告の土地使用を妨げたという、人格権及び土地所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料金100万円、弁護士費用金60万円の合計160万円の支払い、及び遅延損害金の支払いを求めて、本件訴訟に至ったものである。



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