2004年11月24日 ウラン残土の撤去を要求して17年目になる鳥取県湯梨浜町(旧東郷町)方面(かたも)地区の住民の悲願が、最高裁の撤去命令で実現寸前の最後の土壇場で、核燃料サイクル開発機構(旧動燃)と監督官庁の文部科学省の理不尽な策謀によって、どんでん返しの骨抜きの危機に直面しています。 最高裁は10月14日、方面地区自治会のウラン残土撤去訴訟で核燃の上告を棄却し、3000立方メートルのウラン残土の撤去を核燃に命じた一・二審の判決が確定しました。これを受けて自治会側は11月1日、ウラン残土の強制執行を鳥取地裁に申し立てました。 その内容は、約3億9000万円の費用でウラン残土を岡山県上斎原村にある核燃人形峠環境技術センターに強制撤去する代替執行、並びに、執行に強制力を持たせるため撤去完了まで1日300万円の制裁金を科す間接強制の2つです。 あわてた核燃は11月11日、ウラン残土を自主撤去すると称して、同じ湯梨浜町内の方面地区からわずか1キロ先の隣接地にある麻畑地区の核燃所有地にトンネルを掘り、ここに方面地区のウラン残土を埋設すると発表し、鳥取地裁に自治会側の強制執行の停止を申し立てました。 ■法の裏をかき地元にウラン残土を押付けて居直る核燃 これまでの核燃の言い分によると、ウラン採掘の主体たる岡山県上斎原村の核燃人形峠環境技術センターへのウラン残土の撤去は、「岡山県の同意が得られない」ので実行できないというものでした。 この決まり文句を念仏のように繰り返して、核燃は1990年8月の協定書で方面自治会に約束した放射能レベルの高い3000立方メートルのウラン残土の撤去を、ずるずると15年も引き延ばしてきました。 このため、自治会側は撤去訴訟に訴え、一審の鳥取地裁と二審の広島高裁松江支部とも、核燃の主張する「関係自治体の同意」は「協定書の停止条件」という言い逃れを否定して、ウラン残土の撤去を核燃に命じ、それが今回の最高裁の決定で確定したのです。 さすがの核燃もこれで自己の社会的・法的責任を観念し、法に従ってウラン残土を撤去すると誰もが考えた矢先、手のひらを返すように「関係自治体の同意は必要ない」と一転して開き直り、卑劣にも隣接地の麻畑地区に自らが密かに取得していた所有地に移転し、住民に一泡吹かせて懸案の撤去責任をなし崩そうとしてきたわけです。 この住民を小馬鹿にした右から左への事実上の地元押付けという、まったく唖然とさせられるような居直りの卑劣な仕打ちは絶対に許せません。これがはたして日本の原子力政策に責任をもつ国の機関のやることでしょうか。 ■ウラン鉱山を掘削して危険を倍増させる無謀な計画 しかも、核燃は5年前の1999年に旧東郷町別所地区で企画し住民の反対で挫折したウラン残土のトンネル保管案では、「ウラン鉱床が存在しない」を「安全性の条件」としていました。それが今回はウラン鉱床が存在する麻畑地区でのトンネル保管案なのです。 旧ウラン鉱山の麻畑地区にトンネルを掘削すれば、ここに埋める予定の方面地区のウラン残土3000立方メートルに倍する6000立方メートル以上のウラン残土が、ウラン鉱石それ自体とともに発生することは日を見るよりも明らかです。 すでに麻畑地区は野ざらしで放置されたウラン残土の影響により、水・土・植物・大気をひどく汚染されていることが、京都大学原子炉実験所の小出裕章氏と私たちの共同調査で明らかになっています。 そこに方面地区のウラン残土を持ち込み、さらに倍増するウラン残土を発生させれば、麻畑地区の周辺や下流の環境の放射能汚染がいっそう深刻になるでしょう。しかも、麻畑地区は県立自然公園内にあり、風景や環境を悪化させる計画は絶対に認められません。 ■暴走する日本の原子力政策に最後の歯止めをかけよう 鳥取地裁は双方の申立てと意見をすでに聴取し近く判断を示すはずですが、ウラン残土の麻畑保管案を拒否する鳥取県知事や湯梨浜町長の意思表明にもかかわらず、予断を許さない状況です。 日本の原子力訴訟は司法の体質を反映して敗北の連続でしたが、方面地区自治会のウラン残土訴訟は目覚ましい完勝の最初の実例です。これが骨抜きにされるとしたら司法の権威もゆらぎ、私たちは暴走する原子力政策への最後の歯止めを失いかねません。 逆に、今回の最高裁の決定を実際に貫徹できれば、各地の原子力訴訟や「もんじゅ」の行政訴訟、高レベル核廃棄物や使用済み核燃料の問題に取り組んでおられる各地の皆様にも、大きな励ましを与えると確信します。 そこで、私たちはこのアピールを皆様の友人・団体に伝達していただくとともに、核燃料サイクル開発機構と監督官庁の文部科学大臣に対して、無謀な麻畑保管案の撤回の抗議文を寄せていただくようお願い申し上げます。 |