<翻訳紹介>
米国の憂慮する科学者同盟(UCS)の新しい報告書
米国原発の危険な綱渡り運転

長期間の運転停止−原発が必要以上に危険で費用のかかるものであることを示す


 政府の「原子力立国計画」では、日本の原発の稼働率を米国並みに90%台にのせることが1つの大きな目標となっている。しかし、その米国で原発は危険な綱渡り運転をさせられている。このことを、憂慮する科学者同盟(UCS)の新しい報告書「原子力の綱渡り:1年以上の運転停止の教訓は生かされない」が具体的に示している。UCSは、原発が一年以上運転を停止した事例を過去40年間にわたって調べ上げて、米国の原発は深刻な問題を多く抱えており、危険な綱渡り運転をしていることを明らかにした。
 特に、原発の老朽化に伴って多くの機器が劣化しており、それへの対策を電力会社と国の規制当局がなおざりにしてきた。そのことに起因する原発の長期間停止が近年激増していることを明らかにしている。日本では、検査精度の改悪や稼働率至上主義の老朽原発にムチ打つ危険な運転がこれから進められようとしている。このことに反対していく上で大いに参考になる報告書である。報告書はUCSのホームページの下記から入手できる。http://www.ucsusa.org/clean_energy/nuclear_safety/unlearned-lessons-from.html

 以下に、新しい報告書に関するUCSのプレスリリースを紹介する。


憂慮する科学者同盟(UCS)の新しい報告書についてのプレスリリース
http://www.ucsusa.org/news/press_release/new-report-long-shutdowns.html
2006年9月18日
長期間の運転停止−原発が必要以上に
危険で費用のかかるものであることを示す
安全性の無視は電力消費者と株主に820億ドルを費やさせる


憂慮する科学者同盟(UCS)の新しい報告書によれば、深刻な諸問題によって米国の原発は1年以上の運転停止を51回引き起こしていた。これらの運転停止の70パーセント以上は、炉の構成部品の累積的組織的な劣化につながった「安全管理プログラム上の破綻」(programmatic breakdown)によって引き起こされた。要するに、原発所有者が問題を見出し対処することに失敗してきたために、原子炉の安全余裕が、運転を続けられないほどのレベルまで低下してしまっているということである。UCSの調査は、この劣悪な管理と有効でない規制当局の監視に起因する1年以上の運転停止による収益減として、電力消費者と株主が約820億ドルを失ったことを明らかにした。

「これほど多くの炉が1年以上停止しなければならないようでは、原発の安全性が十分だとは到底言えない」と、新しい報告書の執筆者で憂慮する科学者同盟の原子力安全プロジェクト長であるディビット・ロックバウムは言い、「原子力規制委員会は、無視することができないほど深刻になるまで、安全でない状況を見逃してきた。規制当局は、新規原発の建設を電力会社に許可する前に、稼動中の原発での安全性の問題を処理しなければならない」と続けた。

UCSの新しい報告書「原子力の綱渡り:1年以上の運転停止の教訓は生かされない」は1年以上続いた運転停止を全米の原発について分析した最初の調査である。調査によれば、1年以上の運転停止51回のうち36回は、充分早期に問題を特定せず有効に対処しなかった原発所有者に対する原子力規制委員会(NRC)の「度を超した寛大さ」によって引き起こされた。1年以上の運転停止の22パーセントは大規模な構成部品の取替えと修理のために必要とされ、8パーセントは原発に大規模な損傷を与えた事故の結果であった。1年以上の運転停止は、原発の総停止期間のうち約135炉年(あるいは3.4炉寿命)を占めている。

「三つに一つの確率で原発が1年以上の運転停止を起こすことは、これらの原発の建設、認可時の契約では想定されていなかった」とロックバウムは言い、「原子力の推進者たちは、1979年以来米国の原発はメルトダウンを起こしていないと主張して、これらすべての安全性問題は対処されていると弁明してきた。これは誤った推論に基づいており、ハリケーン・カトリーナが来る以前の、1980年と2004年の間には同じような大惨事がなかったことを指摘して、ニューオリンズを防護する堤防は充分適切であると主張するようなものである」と続けた。

連邦規制当局は原発所有者に、問題を敏速に見出し対処する品質保証(QA)プログラムを要求している。しかし、1年以上の運転停止が繰り返されることから、QAプログラムの不備が論議の主題となってきた。 NRCがQAプログラムの欠陥に気付かないでいたこと、あるいは、知っていても改善を要求しなかったことも合わせて論議されるようになってきた。

「1年以上の運転停止が始まる直前の幾週間か幾月間、周辺住民は放射能を放出する事故の危険に不必要に強くさらされる」とロックバウムは言い、「原子力規制委員会は根本的な変更を行わなければならない、そうでなければ、さらなる原発が1年以上の運転停止に追い込まれるのは、もっと悪くすると原子炉事故を招くのは、時間の問題に過ぎない。」と続けた。

報告書は公衆の安全を防護する6つの勧告を含んでいる。その中で、UCSは、適時に問題を特定し対処するとの連邦規制にNRCが従うことを要求している。さらに、NRCが原発所有者に非ハードウエア問題について警告し、「安全管理プログラム上の破綻」が確認された場合には監視の努力を広げることを要求している。