平成十四年十一月二十一日提出
質問第一○号


関西電力の原子炉圧力容器上ぶた問題に関する質問主意書




提出者  北川れん子


関西電力の原子炉圧力容器上ぶた問題に関する質問主意書

 東京電力株式会社が、シュラウドのひび割れを隠し、「予防保全」の為として取り替えていたこと等が明らかとなり、地元立地県当局・周辺住民を初め、社会的に大きな批判が起きている。経済産業省の原子力安全・保安院は、他の電力各社に対して、自主検査の内容等に関する調査を行うよう指示を出した。
 このような中で、同じく「予防保全」の為として取り替えられた、原子炉圧力容器上ぶた(以下、上ぶたという)にひび割れ等が起きていなかったのかという問題が浮上してきている。
 関西電力株式会社は、2002年10月8日、関西の市民団体(グリーン・アクションと美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会)との交渉の中で、上ぶたのひび割れ問題に関して、「ひび割れやその兆候はなかったのか」との質問に対し、「ひび割れやその兆候が一切なかったとは言っていない」「問題となるような損傷はなかった」と答えた。これは、ひび割れ等が存在していた事を強く示唆している。
 よって以下、関西電力の上ぶた問題について質問する。

一 関西電力の「問題となるような損傷はない」との見解について
 関西電力は、別紙一にあるとおり、大飯3・4号炉を除く9基の原発で、1993年から1995年にかけて、上ぶたの検査を行っている。関西電力が10月8日に公表した資料[別紙二]では、「損傷本数」はいずれも「ゼロ」となっている。また、このうち、美浜1・2・3号炉、高浜1・2号炉、大飯1・2号炉の7基については、1996年から1999年にかけて取り替え工事を開始し、現時点では、これら7基全てで上ぶたは取り替えられている。関西電力は上ぶた取り替えにあたって、1990年代初頭にフランス等で上ぶたにひび割れが多発する事故が起きており、関西電力の原発上ぶたに損傷はないが、念のために「予防保全」として取り替える旨発表している。
 しかし、上記のとおり、本年10月8日の市民団体との交渉では、「ひび割れやその兆候が一切なかったとは言っていない」「問題となるような損傷はなかった」と繰り返し答えている。関西電力のこの回答は、損傷を「問題となるような損傷」と「問題とならないような損傷」に区別しているものと考えられる。また、「問題となるような損傷」の定義を明らかにするよう問うても、関西電力は何ら明らかにしていない。また、関西電力は、政府に対しては「損傷本数ゼロ」と報告している事も認めた。
 ひび割れ等の発見は、検査機器の精度と密接な関係をもっている。上記交渉で、検査に使用した機器の精度について質問したところ、関西電力は「十分な精度」と一般論を繰り返すばかりであった。円周方向の割れも見つけることができるような回転式コイルを使っているのか等の具体的質問に関しては、一切回答していない。
(一) 政府が報告を受けた「損傷本数ゼロ」の内容は、「問題となるような損傷ゼロ」という趣旨で報告を受けたのか、それとも、「ひび割れやその兆候はない」という趣旨で報告を受けているのか、明らかにされたい。
 (二) 政府は、「問題となるような損傷」の定義について、関西電力から報告を受けているのか、明らかにされたい。
 (三) 政府は、関西電力が上ぶた検査に使用した機器の精度について報告を受けているのか、明らかにされたい。

二 「予防保全」のための上ぶた取り替えについて
 関西電力は、上ぶた取り替えについて、「損傷はゼロ」だが「予防保全」のために取り替えたと述べている。美浜2号炉の場合、取り替え工事を開始したのは1999年である。上ぶたの最後の検査は1995年12月である。この間の約4年間、一度も上ぶたの検査は行われていない。
 そもそも、「予防保全」とは、「現時点」で損傷はないが、将来損傷の発生が予想されるため、予防的に機器の健全性を確保する観点からとられる措置である。しかし、関西電力が最後に検査を行ったのは、取り替えの4年前である。これでは、最終検査から取り替えまでの4年間にひび割れ等が存在していたのかどうかは分からない。すなわち、ひび割れが存在していたことも十分予想される。事実、アメリカのスリーマイル島原発1号炉では、1999年の上ぶた検査では損傷がゼロだったにもかかわらず、2年後の2001年の検査では損傷が8本も見つかっている[「PWR Materials Reliability Program Responseto NRC Bulletin2001-01″-Electric Power Research Institute August2001」、「Public MeetingBetween NRC and NEI and PWR Licensees to Discuss Bulletin 2002-02″-Nuclear RegulatoryCommission August 23 2002」より]。このように、関西電力の言う「予防保全」の為の取り替えは、ひび割れ等を隠すためのものではないのかという疑念がつきまとう。
 (一) 政府は、関西電力から、上ぶた取り替え時の損傷の有無に関する報告を受けているのか、明らかにされたい。
 (二) 報告を受けていないのであれば、どのような根拠で「『予防保全』のための取り替え」に許可を与えたのか、明らかにされたい。
 (三) 許可の根拠が「関西電力が『予防保全』のためとして申請したのでそれを信じて」というのであれば、東京電力事件の教訓から、上ぶたにひび割れなどが存在しないことを確認するための措置をとる必要があると思うが如何か。また、その予定があるのか、明らかにされたい。

三 とりわけ、上ぶたを交換していない4基の原発での即刻の検査の必要性について
 関西電力は、上ぶたを交換していない高浜3・4号炉、大飯3・4号炉の検査について、「当面必要ない」と述べている。その理由は、上記4基は、炉頂部の温度低減化工事を行っているためだと述べている。関西電力による予測では、改良工事による温度低下は、高浜3・4号炉で310℃から294℃に、大飯3・4号炉で307℃から289℃であるという。運転時間は現時点で、高浜3・4号炉で12万時間超、大飯3号炉で8万時間超、大飯4号炉で7万時間超となっている。
 すでにフランスでは、これ以下の温度・運転時間で上ぶたにひび割れが生じている。また、これら4基の原発の上ぶたはインコネル600製である。今年上ぶたそのものに大穴が空いたアメリカのデービス・ベッセ原発等、損傷が起きているのはインコネル600製の上ぶたである。
 ところが、大飯3・4号炉では、これまで一度も渦電流探傷検査(ECT検査)が行われていない。また、高浜3号炉の検査は1993年11月、高浜4号炉の検査は1994年1月であり、それ以降8〜9年間検査は一切行われていない。
 (一) これらの実態に照らし合わせれば、インコネル600製の上ぶたをもつ上記4基について、ひび割れ等の検査を即刻行う必要があると考えられるが、監督官庁としての見解を明らかにされたい。
 (二) 政府として、関西電力が言うように、「検査は当面必要ない」との考えであれば、その根拠を明らかにされたい。また「当面」とは、どれほどの期間を考えているのか、明らかにされたい。

四 上ぶたの検査方法について
 関西電力は、上記に述べた「精度を明らかにしないECT検査」の他に、@耐圧による漏洩検査、A外観検査を行っており、上ぶたの健全性は確保されているという。この耐圧検査は、通常運転時と同じ157気圧をかける検査であるという。しかし、損傷が見つかったフランスのビジェ原発では、207気圧(運転時の設計圧力は155気圧)をかけた耐圧試験で水漏れが見つかっている。
 デービス・ベッセ原発の上ぶた損傷を受けて、アメリカの原子力規制委員会(NRC)は、外観検査、すなわち目視検査では損傷を見逃すとして超音波検査などの補足的検査を勧告している。
 また、関西電力では、上ぶたの検査について、何年に一度行うという、検査の期間についても定めがないという。海外で事故などが起きた時に、「水平展開」として「自主的」に検査を行うという。昨年から今年にかけて、デービス・ベッセ原発を初め、アメリカでは上ぶた損傷が頻発している。にもかかわらず、現時点では「検査は当面必要ない」と繰り返している。
 これらの実態に照らせば、関西電力の耐圧漏洩検査と外観検査は極めて不十分だと言わざるを得ない。
 (一) 通常運転時と同じ100%の圧力しかかけない関西電力の耐圧漏洩検査では、ひび割れ等は発見されないと考えるが、見解を明らかにされたい。
 (二) 目視による外観検査ではひび割れ等が見落とされると考えるが、見解を明らかにされたい。
 (三) 上ぶたの検査について、何年に一度行うというような、検査の期間が定められていなかったことを政府は知っていたのか。知っていたとすれば、検査の期間を定める必要がないことについて、妥当と判断した根拠は何か、明らかにされたい。

五 現在供用中のものに点検を限ることについて
 現在関西電力は、経済産業省の指示にしたがって、東京電力の不正事件のような不正等がなかったかどうか点検する作業にとりかかっている。ところが、この作業の適用範囲として「現在供用中の設備に限る」との原則を立てている。これは政府の点検指示の趣旨に反しているのではないか。
 東京電力の場合は、すでに取り替えたシュラウドの検査不正も問題になっており、けっして現在供用中のものに問題が限られているわけではない。
 (一) 今回経済産業省が関西電力に指示した点検は、供用中のものに限られているのか、明らかにされたい。
 (二) 点検を供用中のものに限るという関西電力の態度は、東京電力の不正に端を発している今回の点検指示の趣旨に反していると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 取り替えた古い上ぶたの検査について
 関西電力は、以前取り替えて現在保存されている上ぶたについては、取り出して検査する気はないし、「その必要性は認められない」と述べている。その理由は、現在供用中のものではなく、費用もかかるし被ばくもするというものである。他方、四国電力は、取り替えた古い上ぶたも検査の対象とすると新聞報道されている[2002年9月21日 毎日新聞]。
 取り替えた古い上ぶたに、本当にひび割れ等がなかったのか、関西電力が政府に対し虚偽の報告をしていなかったのかを確認するためには、原子炉サイトに保管されている取り替えた古い上ぶたを再検査する必要がある。また、古い上ぶたを破壊検査にかけてはじめて、渦電流探傷検査の精度も明らかになる。
 上記の観点から、取り替えた古い上ぶたを検査する必要があると考えるが、政府としての見解を明らかにされたい。

 右質問する。



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