大飯3号では、既に2月25日に実施されていた「定例の1次冷材中よう素濃度のサンプリング分析」で通常値を上回る値が確認されていたが、関西電力は運転を継続した。その放射能レベルは下がらず、3月2日には「燃料集合体に漏えいが発生した疑いがあるものと判断した」としている。関西電力は「運転上の制限値に比べ十分に低い」ことをあげて、「安全上問題はありません」としているが、1970年代に頻発した漏えい事故から数十年が経ち、克服されたかのように見えていた燃料被覆管問題を再度クローズアップし、その信頼性に大きな疑問を抱かせる漏えい事故である。燃料と燃料被覆管を酷使する高燃焼度化の影響を強く疑わせる事故である。 4月20日から第10回定期検査が行われているが、1体の燃料集合体からの漏えいがシッピング検査によって確認された。そのうちの1本の燃料棒が漏えいを起こしていることが超音波を使った検査によって特定されたが、「ファイバースコープにより詳細な観察を行った結果、漏えいの原因となるような有意な傷等は認められませんでした」とされている。別の「3体の燃料集合体下部ノズル部に異物が確認された」ようであるが、漏えいした集合体には異物は見つかっていない。したがって、どうしてこのような漏えいが生じたのかは全く不明である。しかし、「今後、当該燃料集合体は使用しないこととし、健全な燃料集合体に取り替えます。」としており、取り替えるから問題はないという姿勢を打ち出している。 漏えい集合体の燃焼度を関電は公表していないが、その装荷位置が炉心中央であったことから、現在で最も高い範疇の燃焼度に入ると見られる。燃焼度が高くなると被覆管外部の酸化が進み、冷却材と接する表面には脆い酸化膜が形成され、それは次第に厚くなる。そしてその内側にはやはり脆い水素化物が形成されることが知られている。この高燃焼度化が今回の漏えいのきっかけになったとすればその安全上の意味は重大である。関西電力は漏えい集合体の運転履歴を公表すべきである(燃焼度や線出力履歴を含めて)。そして、燃料被覆管自体の詳細な化学的・金属組織学的分析を行うべきである。 関西電力は、漏えいした「被覆管表面3箇所で局所的に、ごくわずかな膨れが確認」されたとしている。そして、「この膨れは、漏えい発生後に燃料棒内部に進入した水により、被覆管内面の局所水素化が生じたものと考えられます」との解釈を与えている。そのような「膨れ」が3箇所で生じたということはその原因となる「漏えい」も3箇所で起こったということになるだろう。関西電力は、この3箇所の「膨れ」の位置とサイズとを明らかにすべきである。通常の運転でも被覆管に膨れをもたらす程の水素化が生じるとすれば、出力異常時や事故時に燃料が浸水すると、さらに激しい水素化がもたらされるということを意味する。高燃焼度になっても(設計基準事故を含む)事故時に被覆管が破損せず、健全性が維持されることを証明する義務が原子炉の運転者である関西電力にはあるだろう。 燃料ペレットと被覆管は、それぞれ、放射能を閉じこめる第一と第二の壁であると宣伝されてきた。大飯3号では第三の壁である原子炉圧力容器の蓋でも漏えいが同時期に生じていた。関西電力は今後さらに高い燃焼度まで燃料を燃やそうとしている。それだけでなくMOXを用いても高燃焼度を実現させようとすらしている。そうであれば、今回で装荷が終了するはずであった燃料を「取り替えるから」などと姑息な言い訳でお茶を濁すのではなく、漏えい燃料体を徹底的に分析し、原因究明すべきである。そして、その結果を公表すべきである。燃料の燃焼度や履歴を即刻公表すべきである。3箇所の「膨れ」については、直ちに映像や相互の位置関係、「膨れ」についての定量的な情報が公開できるはずである。今回の漏えいに関してこのようなあたりまえの対応が取られないとすると、今後同様な、あるいは更に大規模な放射能漏えい事故が関西電力の原発で頻発することになるだろう。 関電は1996年から、大飯4号機で試験的に55,000MWd/tの高燃焼度燃料を先行導入してきた。さらに今秋からは、各原発で高燃焼度燃料を使用するという。今回の事故は、高燃焼度燃料の危険性を警告しているのではないだろうか。 (2004年5月14日) |