12月5日、午後5時から約2時間半にわたり、市民15人で関電広報部の課長3人と交渉を行った。前回10月8日の交渉に引き続き上蓋問題を追及した。前回交渉後に出した追加質問書に加え、11月15日に公表された上蓋報告書(「原子炉容器上蓋の保全対策」)についての見解を質した。また、交渉前日に発表された保安院の内部告発報告書(「個別申告案件の処理について」)に書かれている関電の事例についての釈明も求めた。 ●上蓋未交換の4原発について「検査の必要性は感じない」から大きく方針転換。次年度以降検査を実施する。関電は事実上インコネル600製管台の損傷の危険性を認めた。 今回の交渉を通じて明らかになったのは、関電の大きな方針転換である。高浜3・4号機、大飯3・4号機は上蓋を交換しておらず、応力腐食割れに弱いインコネル600製の管台を使い続けている。そのため損傷発生の可能性が高い。そこで前回の交渉では「4基の原発について即刻検査すべきではないのか」と厳しく追及した。しかし関電は「定検時の漏洩検査で十分であり、ECT検査の必要性は感じない」と言い続け、検査をかたくなに拒み続けた。ところが今回の交渉で関電は、「米国での議論を踏まえ次年度以降計画的に検査を行っていく」とした上で、高浜3、4については次回定検でECT検査を開始、高浜3については第15回定検(平成15年12月)で実施するとの具体的な計画を明らかにした。次年度以降計画的に検査を実施するという方針は、11月15日に出された上蓋報告書にも書かれており、今回の交渉ではさらにその具体的な内容が明らかになった。方針転換の理由について関電は、「皆様や地元の方々の意見も踏まえたもの」と率直に認めた。批判・追及の結果、関電はインコネル600製管台の損傷の危険性を認めざるを得なくなったのである。 (三菱重工は、損傷が続く欧米の原発で、上ぶたを次々と受注し、上蓋交換ビジネスに生き残りをかけている) ●関電は、高浜4号機、大飯3・4号機も即刻検査せよ。 高浜3号機については検査の実施時期が明らかになった。しかし高浜4号機、大飯3・4号機については具体的な検査時期はまだ明らかにされていない。これら3原発についても、いつ損傷が起こってもおかしくない状況である。関電は、高浜4号機、大飯3・4号機についても即刻検査を行うべきである。 ●取り替えた上蓋についても軌道修正−旧上蓋も総点検計画の最終報告には入れる予定。 関電は、取り替えた旧上蓋についても軌道修正をおこなった。前回交渉では「総点検は供用中のものに限るので旧上蓋は点検対象には入れない」と、「旧上蓋を総点検に入れろ」という要求を拒否し続けていた。ところが今回の交渉では「取替物品については記録を保管することとなっていないため可能な範囲での調査」との限定付きではあるが、「供用中のものに限らず取替廃棄した旧上蓋を含む主要なものの工事報告の調査について、中間報告の延長線上で総点検計画の中で今後最終報告までに行う」との方針を明らかにした。上蓋未交換4原発の検査方針に続く軌道修正である。この軌道修正にも「皆様や地元の方々の意見」が強く働いている。 ●高浜2号で見つかった0.25ミリの「肌荒れ」は傷であるとはっきり認めた。関電は、旧上蓋の破壊検査を実施せよ。 関電の上蓋報告書は、高浜2号機の旧上蓋から管台を取り外し金属組織観察を行った結果を示し、「内表面にわずかな肌荒れ(深さ約0.25mm)が認められ」たとしている。「肌荒れ」とごまかしているが、応力腐食割れの始まりを示す傷であることは明らかである。今回の交渉では、この「肌荒れ」について「明らかに傷ではないのか」と確認すると、関電は「見て頂くと分かるように確かにひび割れです」とあっさり認めた。「損傷ゼロ」と宣伝しながら、実際にはひび割れを見つけていたのである。高浜2号の旧上蓋でこのような傷が見つかったことは極めて重要である。他の原発でも同じか、あるいはそれ以上の傷が発生している可能性が高い。さらにこの点を追及すると関電は、他の管台や旧上蓋でもひび割れが見つかる可能性についても認めた。しかし、旧上蓋の破壊検査については、前回同様今回の交渉でも認めようとはしなかった。他の管台ではどの程度の傷が発生しているのか、他の6原発の旧上蓋ではどうなのか。関電は旧上蓋の破壊検査を実施すべきである。 ●管台のひび割れを放置したままでの運転を容認する「判定基準」を撤回せよ。 関電上蓋報告書は、「検査の判定基準」と称して「維持基準」を先取りし、管台のひび割れを放置したままでの運転を容認するような方針を打ち出している。今回の交渉では、この「判定基準」に対する釈明を求めた。そもそも「判定基準」とは何かという質問に対して関電は、検査の合否を判定する基準であると説明した。これに対し私達は、検査の合否の判定基準は国が決める事なのに、指導される側の関電が、そのような事を持ち出すのはおかしいではないかと批判した。 次に「管台部の健全性に影響を及ぼすような傷」とは何かと聞いたが、それについてははっきりとした定義は言わずに、「例えば米国の基準で行けば深さ10ミリの傷まで容認される」と述べた。 これは、これまでの「予防保全」の立場からの大きな転換であり、大問題ではないかと追及すると、中間報告に書かれている「テープSCC」の例を持ち出し、これまでも新たな維持基準的なやり方でやってきた。従って方針転換ではないとごまかそうとした。しかし追及の結果、最終的には「傷があってもそのまま運転を続けるという、これまでとは違う考え方に変えるという選択肢を考えている」のだと認めざるをえなくなった。 現行法の下では、運転中の原発は常に設計段階の状態を維持しなければならない。どんな傷であっても見つかれば補修しなければならない。これが原則である。だからこそ関電はこれまで、「新品同様だから安全」と主張・宣伝してきたのではなかったのか。新しい「維持基準」の導入はこの原則を投げ捨てるものである。そして関電は、上蓋問題にかこつけてこの「維持基準」を先取りしようとしているのである。このような危険な安全性切り捨ては許されない。これまで散々「新品同様だから安全」と宣伝し続け、老朽化が進んだ今になって「新品同様という基準は厳しすぎるのでやめます」とはあまりにも虫が良すぎるではないか。関電は、「判定基準」を撤回するべきである。 ●ECTの検出性試験は、2カ月たっても「実機条件かどうかは確認できない」。 上蓋報告書の説明図では、ECTの精度を確かめるための検出性試験は、サーマルスリーブや上蓋といった構造物が付いていない状態で実施されていることになっている。しかし実際の検査の場合、サーマルスリーブや上蓋といった構造物が存在するので、この試験よりもさらに検出精度は劣ることは明らかである。関電に対して、どのような状態で精度を確かめたのかについて訊くと、最初は「試験片を作ってやった」と答えてきた。そこで、試験片のような実機条件と異なる状態での実験では、実機での精度については分からないのではないかと追及すると、「スリーブ等の影響が雑音として信号に乗ってくる」ということは認めたが、実験条件についてはあやふやな発言を繰り返し、最後的には「実機条件かどうかは分かりません。答えを持っていません」と最初の発言を翻す結果となった。実機条件で精度を確認したのかどうかについては、すでに2ヶ月前、前回交渉翌日10月9日に出している追加質問書で訊いている事項である。「分からない」とはどういうことか、2ヶ月もの間なぜ調べていないのかと重ねて追及すると、何も答えられない。非常に不誠実な態度である。どのような状況で精度を確認したのかについては、調査の上、回答することを関電は約束した。 ●ECTの精度は深さ3ミリ。しかし3ミリの根拠については分からない。 その上で関電は、ECTの精度については上蓋報告書の通り、深さ3ミリだと述べた。また軸方向か円周方向かについては、方向性のないアニュラス・プローブなので、同じだと説明した。しかし報告書の検出性試験のスリット幅は100ミクロン、実際の亀裂の幅は10ミクロン以下である。傷の状況の異なる実験結果からどのようにして深さ3ミリという結論が導き出されるのか、報告書には何も書いていない。3ミリの根拠について説明を求めたが、公報部課長の誰一人としてはっきりした説明ができない。「私は専門家でない」といいわけした上で、「スリーブ等の影響が信号に乗ってくることも含めて3ミリではないか」などとも言ったりする。結局、3ミリの根拠については何も分からないと言う状態であった。「3ミリには具体的な根拠はないのですね」と確認すると、「詳しいことは分からないので....」と言うばかりであった。深さ3ミリというECTの精度の根拠についても、調査の上再度回答ということになった。 ●「問題となるような傷」とはECTで明らかな欠陥信号がないような傷のこと。従って3ミリより小さい傷が入っている可能性はあると関電は認めた。 前回交渉で関電は、損傷ゼロの損傷とは「問題となるような傷はなかったということ」と主張し、「傷やその徴候は一切なかったのか」という質問に対しては答えなかった。今回関電は、「問題となるような損傷」とは「ECTで明らかな欠陥信号がないような傷」だと説明した。つまり損傷ゼロとはECTで見つからなかったというだけのことであり、3ミリより浅い傷については見逃している可能性があるのである。そこで傷が一切ないとは言えないのではないかと追及した結果、関電は「3ミリ以下の傷があった可能性は否定できない」と認めざるをえなくなった。さらに関電は、このECTは9〜10年前のものであることも認めた。来年に高浜3号の検査に使用するECTは、このECTではないと示唆した。古くて性能の低いECTで検査した結果が「損傷ゼロ」だったのではないかと疑わせるものだった。 ●上蓋未交換原発について関電は、今後20万時間(20年間)応力腐食割れが発生しないという予測は十分なものではないと認めた。 上蓋報告書で関電は、炉頂部の温度低減化工事を施した高浜3・4、大飯3・4については、温度低下によって「SCC(応力腐食割れ)発生予測時間」が延長されたため、今後20万時間(20年以上)運転してもSCCは発生しないとしている。予測の根拠は、蒸気発生器(SG)伝熱管の試験結果である。今回の交渉で関電は、20万時間について、やはりSG伝熱管を根拠に説明した。しかし、SG伝熱管と上蓋管台では同じ600合金でも組成が異なること、とりわけSG細管には溶接箇所がないが、上蓋管台では溶接箇所で損傷が多発している。にもかかわらずSG細管での実験結果を上蓋管台に適用している。この上蓋報告書の予測は、極めてずさんであると追及した。 応力腐食割れの発生・進展の速度は、材質や応力、温度といった要因が複雑に絡み合って決まってくる。傷の進展予測のためには少なくとも現実の材質と環境から得られたデータが必要である。上蓋報告書のベースとなっているINSSの論文も、「今後の課題」として予測精度の向上のために実機に近い模擬材を用いる必要性を強調している。しかし、上蓋管台の場合、現実の上蓋管台を用いたデータの分析は、ほとんど行われていない。SG伝熱管のデータから上蓋管台の損傷を予測するのは相当に無理があると言わざるを得ない。事実、上蓋報告書自身「この実験はインコネル600合金でも蒸気発生器伝熱管を用いたものであるため、上蓋管台材料を用いた試験でデータを拡充していく予定です」と限定を付けざるを得ない状態なのである。 これらの点を追及した結果、関電は応力腐食割れの発生予測の精度は十分なものではないと認めざるをえなくなった。 ●上蓋未交換原発について、フランスと違って何故関電の原発で損傷が起こらないのかも「定性的にしか説明できない」。 高浜3・4、大飯3・4よりも運転時間が短く、炉頂部温度が低いフランスの原発で実際に損傷が発生している問題について関電は、報告書にある通り「製管法や内面加工が異なりフランスの方が応力が高かったと考えられる」ことを理由に日本ではフランスのような損傷は発生しないと説明した。しかし、これは「フランスの方が応力が大きいだろう」という推測に過ぎない。このような単なる推測が、日本で損傷が起こらない根拠になりえるはずもない。この点を追及すると、「フランスのデータが全て公開されているわけではなく、詳細な比較調査はできないのだ」と言い訳した上で、フランスとの違いについては「確かに定性的にしか説明できず、定量的な評価はできない」と認めた。 ●「ECTの検査記録については破棄、三菱重工も持っていない」と主張。しかし翌日になって「訂正したい」と申し入れ。 前回交渉でも、それ以降の追加質問書でもECTの検査記録を明らかにするよう関電に要求してきた。これに対して関電は、上蓋を交換したものについては交換時に検査記録を破棄しており、保管期間の5年以上たっているものも破棄したと回答してきた。さらに、メーカーである三菱重工に問い合わせた所、ECTの検査記録はないとの返事だったと述べた。つまり、ECTの検査記録についてはどこにも残っていないというのである。メーカーも含めて検査記録が一切破棄されているというのはあまりにもおかしな話である。特に上蓋を交換していない高浜3・4の検査記録も残っていないというのは不自然過ぎるのではないかと追及したが、その場では、「とにかく検査記録はない」と繰り返すだけであった。しかし交渉翌日になって関電は、高浜3・4については「検査記録がないというのは訂正したい。調査させて欲しい」と申し入れてきた。高浜3・4まですべて記録がないというのは、非常に不自然であり、まずい対応だと考えたからに違いない。 ●保安院の内部告発についての報告書は、「今朝初めて知った」を繰り返し「この問題については別段語るようなことはない」と居直る関電。 12月4日に保安院が内部告発について出した報告書「個別申告案件の処理について」には、関西電力の内部告発の事例も載せられている。そこで今回の交渉では、この内部告発についての釈明を求めた。これに対して関電広報部は、「今朝保安院のHPを見て中身を知った所」と述べ、書かれている内容以上のことは言えないと主張した。しかし匿名の電話は9月2日に保安院に入っており、10月8日の前回交渉以前に国から関電に問い合わせがあったことも確認している。前回交渉時の「東電と同様の不正は一切ない」という主張は虚偽ではないかと追及したが、「知らなかった」と言う。「国の調査が入っている段階でこちら側から何かコメントできるような立場にない」とも言う。ではやはり知っていたのではないかと訊くと「知らないのは事実です」と繰り返す。11月15日の関電中間報告にも記載されていないのはどういうことかと追及すると、答えられない。「社を代表しているはずの広報部が何も答えないとは異常ではないか」と何度も追及しても、「知らない」を繰り返すだけ。最後には「この問題については別段語るようなことはない」と居直る始末である。すでに国が公表している事実について「知らない」ではすまされない。関電は保安院報告書の内部告発について、詳しい事実関係を明らかにし、この問題について釈明すべきである。 |