現在ヨーロッパで食用されているイギリス産の何千トンもの甲殻類が、あたらしい国際的な放射能の安全制限値のもとで食用禁止になる可能性があると、イギリスの食品安全管理局(Food
Standards Agency、FSA)が警告を発している。 イングランドの北西部やスコットランドの南西部で獲れたロブスター、トリ貝、ホタテ貝は、カンブリア州のセラフィールドの核総合施設からのプルトニウムによってひどく汚染されているため、2005年に国連によって導入される予定の制限値に抵触するだろう。 放射線の専門家達は新たな制限値の導入について歓迎しているが、FSAはこの制限値を「実際の危険性に見合ったものではない」と考えている。また何百万ポンドもの利益を得ている甲殻類漁業界はこの制限値に怒っている。 スコットランド甲殻類養殖者協会(the Association of Scottish Shellfish Growers)の会長ダグラス・マクラウドは、(放射能の)制限値は、信頼のおけるリスク評価に基づく確固とした科学的知見を基礎としている場合のみ設けられるべきものであると述べた。「現実的なリスクがないとすれば、何故この業界が不必要に迫害されるのか?」と彼は問うた。 ガンのリスク 世界保健機構(WHO)と国連食料農業機関(FAO)が共同で設置した国連のコーデックス委員会は、食物中のプルトニウムについてキログラムあたり1ベクレルという安全上の制限値を提案している。食物摂取が原因でガンにかかる長期的なリスクを100万分の1以下に減少させることがその狙いである。 この提案は、人体内での少量のプルトニウムが引き起こす健康リスク関して、科学的知見が定まっていないことが明らかになりつつある状況を考慮に入れている。ならびに、他の規制機関によって、国際的に、またイギリスやアメリカにおいても勧告されている放射線の安全制限値に一致したものである。 イングランドのチェシャー州(訳注:イングランド北西部の州)出身の放射線に関するコンサルタント、イアン・ジャクソンはこの提案されている制限値について、「合理性のあるものだ」とみなしている。彼は、セラフィールドの再処理工場は、フランスや日本の再処理工場よりも多量のプルトニウムを海中に放出してきたことを指摘した。 採取されたタマキビガイ FSAが、プレストンのリッブル川の河口と北ソルウェーの沿岸地方のカークーブリの間で2002年に標本調査を行ったところ、全甲殻類におけるプルトニウムや同類のアイソトープの汚染の濃度は、1キログラムあたり1ベクレルを上回っていた。セラフィールドの隣のセント・ビーズで獲れたタマキビガイの値は66ベクレル/キログラムであった。 これらの地域には、モアカム湾にある、ヨーロッパでは最も大きなものの一つであるトリ貝の養殖場がある。モアカム湾では、2004年には1万トン以上のトリ貝が生産されると予測されている。この地域で収穫された甲殻類のほとんどが、スペイン、フランス、オランダに輸出されている。 規制機関である、北西イングランド海洋漁業委員会のジム・アンドリューによれば、新たな安全上の制限値は、多大な経済的影響を与えるであろう。「しかし、公衆の健康にリスクがあるのであれば、それが最優先になる」と彼は述べた。 ロブ・エドワーズ |