プルトニウムは9ヶ月間、床に流出した溶液の中で放置されていた
Plutonium was left lying in a puddle on the floor for nine months

カンブリアのソープ再処理工場で高レベル放射性溶液83,000リットルの漏えいを招いた原因は、「慣習」(complacency)だった。原子力の第2期を目指す政府計画を破綻させうるスキャンダルについて、フランシス・エリオット[訳注:インディペンデント紙の政治部副編集長]

2005年5月29日


http://news.independent.co.uk/uk/environment/story.jsp?story=642357


4月19日金曜日、国の注目はレオ・ブレアの給食の中身に向けられていた。ジャーナリストは、話題性のない選挙キャンペーンを活気づけようと必至で、ウエストミンスター小学校で首相の息子にポテトフライが出される回数を議論していた。

数百マイル離れた、吹きさらしのカンブリアの海岸では何かが起こっていた。そのとき知られていたとすれば、その選挙キャンペーンの話題は広がりホットなものになっていたであろう。

セラフィールドにおける問題の多いソープ再処理工場の管理者達は、ドイツの原子力発電所から送られてきたと思われるすべての使用済み核燃料の行方を明らかにできないことに気が付いた。それは再処理されていると思われていたのだが。

その日早く、彼らは遠隔操作のカメラを、人への被曝があまりに危険なプラント区域に送り込むことを決めた。そこでは、使用済み燃料が巨大な吊るされたタンクで重量を測定される。カメラが送ってきた映像は、彼らを恐怖に陥れた。そこには、タンクを収納するコンクリートのセルのステンレス製の床の上に、高レベル放射性溶液の巨大なプールがあった。

濃縮硝酸中に溶解された総計83,000リットルの使用済み燃料は、カメラの光の下で揺らめいた。それは20個の核兵器を製造するに充分なプルトニウムを含んでいた。

放射性溶液は、少なくとも1月から、おそらくはずっと以前の昨年8月から、設計ミスの配管から漏れていた。工場は現在閉鎖されている。

どうしてそのような大量の漏えいが起きたのか、何故9ヶ月間も気づかれなかったのか。これらは進行中の正規の調査の対象であり、やがては刑事訴追をもたらすかもしれない。

英国原子力グループの常務取締役であるバリー・スネルソンは、そのとき素早く行動を開始して、事故を軽く扱おうとした。

「皆様ご安心ください。工場は安全で安定した状態にあります」と、地方紙にのみ初めて報道されたプレスリリースで彼は述べた。

再処理工場の閉鎖は、2週間以上経ってからようやく全国紙で報道されたが、トニー・ブレアの再選がニュースの最も大きな部分を占め続けていたので、広範囲には報道されなかった。

ダウニング街やその外のホワイトホールでは、事故の規模が判明し始めるとパニックに近い状況になった。

「インディペンデント日曜版」(IoS)の調査によれば、原子力施設検査局(NII)は直ちに、当時の貿易産業大臣パトリシア・ヒューイットと環境大臣マーガレット・ベケットに情報を伝え、彼らは漏えいが深刻な故障であると確信した。

規制当局も即座に国際原子力機関(IAEA)に情報を伝えた。IAEAは今月初めに事故をレベル3―国際原子力事象尺度(INES)における「重大な異常事象」―と分類した。レベルは0から7まであり、レベル7はチェルノブイリやスリーマイル島事故規模の大惨事に対する尺度である。

英国(セラフィールド)でのレベル3の最近の事故は1992年9月にあった。この1年に世界中でレベル3の事故は他に一つだけであった。最近のレベル4の事故は、1999年日本の核施設で3人の労働者が放射線障害で死亡に至ったものである。彼らはバケツで核燃料を混合していた。[訳注:1999年のJCO事故で亡くなったのは2名]

再処理工場を運転する英国原子力グループ(BNG)−以前のBNFL−によって召集された調査委員会の予備的な調査結果が少数の主要な大臣や官僚に回覧されたとき、動揺を抑えることはほとんどできなかった。

会社は、金曜日[5月27日]の午後遅く、その報告書のコピーを配布した。その内容は衝撃的なものである。

漏えいの直接的な原因は、計量タンクとして知られている吊るされたタンクへ通じる配管の一つにあった設計の欠陥から生じた「金属疲労」にある。技術者は、このタンクは上下動して「予期されたよりも大きな応力を連結した配管に及ぼす」ということを見過ごしていたようである。

そのような欠陥は心配だが、最も衝撃的なのは、報告書の次の調査結果である。報告書は「配管は2004年8月に破損し始めたかもしれないことを示す証拠がある」ことを認め、今年1月までには「相当量の溶液が漏えいし始めた」ことを付言している。

「2005年1月と2005年4月19日の期間に、物質が流出していることを示したはずの・・・何回かの機会が見逃された。これらの機会を捉えておれば、漏えいした溶液の量を著しく減らすことができたであろう。」

報告書は溶液が環境への放出を防止する「第2の閉じ込め壁内」に溜まっていることを強調している。いかなる人にも害を与えていないことを。

報告書と同時に出された声明で、会社は警告の兆候が見逃された事実の責任を「慣習」のせいにした。

2004年8月1日からセラフィールドにいるバリー・スネルソンは「どんな慣習にも取り組むことを保証するために私は行動していくでしょう」と述べ、ソープ再処理工場は「安全かつ安定」であると付け加えた。

公には言わないが、ソープの余命はいくばくもないかもしれないことを会社は知っている。4月1日から所有権は新たな政府の特殊法人、原子力廃止措置機関(NDA)にある。

NDAは英国の老朽化した核施設のあとの汚染除去という、やっかいで非常に費用のかかる仕事をする。今後12ヶ月でおよそ5.6億ポンドを稼ぐと見積もられていたソープからの収入は、今年は22億ポンドとされている汚染除去費用を、部分的に相殺すると想定されていた。

金曜日の夜遅く、NDAはウエブサイドに注意深い言いまわしの声明を発表したが、それはソープの将来が危険にさらされているとの推測を引き起こした。

新型の原子力発電所を建設するか否かの問題は、トニー・ブレアの第3期政権における最もデリケートな問題の一つである。

大臣たちは選挙直後に、炭酸ガスを放出しないエネルギー源の擁護論を攻撃的に唱え始めるであろうと予想されていた。彼らがソープの漏えいの全体像を知ったことは、そのような行動が何故始まっていないのかを説明する。

影の通商大臣であるダビット・ウィレッツは、下院が来週開かれるとき、事故についての緊急の質問に大臣が返答するよう要求すると述べた。

「この事故は、ホーマー・シンプソンがしでかしそうな手順の基本的失敗のようである。我々は原子力の状況を合理的に考えなければならないが、このような事故は大衆の信頼を損なう。」

自由民主党の通商スポークスマンであるノーマン・ラムは次のように述べる。「これは唖然とさせる事故であり、我々がそもそも原子力から何故撤退したのかをタイミング良く思い出させてくれる。人的ミスを原子力産業から取り除くことは決してできないというのが真実である。」

ラム氏は大臣らに、ソープを永久に閉鎖することを真剣に考えることを強く要求した。

貿易産業省(DTI)のスポークスウーマンは次のように述べた。「運転上の慣行を改善し、流出した溶液を回収するようにとの調査勧告を、BNGが緊急に実行に移すことが肝要だ。」

「ソープの大部分は閉鎖されていて、NDAとその会社[BNG]の監査委員会は、なお最良の方策を模索している。我々は将来の進路を決める前に専門家の助言を受けるだろう。」

会社の情報筋によると、ソープの閉鎖は財政的に巨大な影響を与える。50億ポンドに値する未処理の再処理契約があり、引渡し不履行に対するかなりの違約金が国庫から支払われなければならない。未処理の使用済み燃料をドイツ、カナダおよび日本などの国の顧客へ戻すための費用も、政府は引き受けなければならない。

高レベルの放射性溶液をポンプで回収しシステムの中に戻す作業が月曜日に開始された。しかし、英国の原子力エネルギーの将来への損害を回復するには、はるかに長い時間を要するであろう。

訳注:complacencyは、「惰性からくるルーズな感覚」のことを意味し、ここでは「慣習」と訳した。

参考:ホーマー・シンプソンは、アニメ「The Simpsons」の主人公。シンプソン一家を支える大黒柱の38歳。超楽観的主義者で怖いもの知らず。地元にある「スプリングフィールド原子力発電所」の安全監視担当。一見、重要な職務に就いているように思えるが、実は全く仕事らしいことはしていない。仕事中はほとんど寝ている。