2000 年2 月16 日
東海村JCO 臨界事故被曝線量評価に関する要請書
 私たちは、東海村JCO 臨界事故に関して発生した従業員、周辺住民らの被曝線量について科学技術庁が示した見解及びその評価に関して、次の通り要請する。
原子力資料情報室
臨界事故被害者の会
福島老朽原発を考える会
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
(連絡先:原子力資料情報室 電話03- 5330- 9520 )
科学技術庁長官
     中曽根弘文殿
原子力安全委員会委員長
     佐藤一男殿

                        要 請 の 趣 旨

1 .200 ミリシーベルト以下の線量は安全であるという見解の撤回と地元住民への謝罪を求める。
2 .12 月11 日の線量見直しについて科学的再検討を求める。
3 .線量評価に当たっては、法令に基づいて1 センチメートル線量等量で評価するか、科学的知見に基づいて国際放射線防護委員会(ICRP )の現在の中性子線のリスク評価に従った実効線量で評価することを求める。
4 .住民の健康診断は、放射線従事者の健康診断項目に準ずること、350 メートル以遠の
住民についても行うことを求める。住民に健康管理手帳を交付することを求める。


                       要 請 の 理 由

 現在東海村の周辺住民の最大の懸念は一人一人の住民が正確にどれだけ被曝したのか、その被曝によってどれだけの健康リスクが発生しているか今後十分な健康診断が受けられるかである。この点に関して科学技術庁が地元住民に対して行っている説明は、少なくとも以下の点でこのような切実な願いに到底答えるものとなっていない。

1 .科学技術庁が振りまいている200 ミリシーベルト以下の線量は安全であるという見解は誤りである

 科学技術庁は事故調査対策本部11 月4 日付け資料「ジェー・シー・オー東海事業所の事故の状況と周辺環境への影響について」において「がんの増加に代表される確率的影響も、一般的には実効線量で約200 ミリシーベルト以上の線量でのみ現れるとされている。従って、今回の事故に関連しては、直ちにがんの増加などの健康影響を懸念する必要はないと考えられる。」とし、200 ミリシーベルト以下であれば、がんの増加などの健康影響の懸念はないとの見解を示している。科学技術庁はこの「200 ミリシーベルト」の根拠は「ICRP Publication 60 (1990 )パラグラフ64 」にあるとしている。(上記資料【参考4 】注3 並びに2000 年1 月31 日科学技術庁交渉での発言)しかしICRP 文書のこの部分は、確率的影響を評価する上で疫学的調査が必要な情報を提供できず、日本の広島・長崎のデータですらさまざまな制約があることを指摘している箇所である。200 ミリシーベルト以上でないと統計的に有意ながんの過剰のデータが得られないこともその制約の一つに挙げられており、ここから「それ以下であればがん増加などの健康影響の懸念はない」などと読み取ることはとてもできない。

第3 章 放射線防護の生物学的側面
(64 )確率的影響に関する結論を導く道すじは単純ではない。というのは、疫学的調査は、まさに必要とされている情報を提供することはできないからである。疫学的調査は統計的な関連を示すことができるのみであるが、この関連が明らかに線量と関係があり、かつ、対応する実験データにより支持される場合には、強固なものとなる。日本のデータは欠くことのできない、かつ広汎なものではあるが、調査対象者の約60 %が生存中であるので、最終的な確率的影響の総数は推定によらなければならない。そのうえ、今後現れるがんの大部分が、被曝時に20 才未満であった人々に生ずるであろう。そして、これらの人々の単位線量あたりの放射線の寄与による生涯致死確率は、もっと年齢の多い人々よりもおそらく高いであろう。調査対象集団は大きい(約8 万人)が、95 %レベルで統計学的に有意ながんの過剰は約0.2Sv 以上の線量でのみみられる。もっと低い有意なレベルならば0.05Sv ぐらいの線量で過剰がみられる。また、忘れてならないことは、これらの日本人調査集団の線量はすべて、きわめて高い線量率で与えられたことである。ところが、急性被ばくでも遅延性被ばくでも、放射線防護の立場から必要とされているのは、ほとんど常にもっとずっと低い線量率での影響に関する情報である。しかしながら、この集団についての調査は、他の調査に比べていくつかのすぐれた点がある。すなわち、この集団は男女両性およびすべての年齢層の人々を含んでおり、しかも、ほとんどゼロから致死量に至る非常に広範囲の線量を全身ほぼ均等に受けたと言う点である。(日本アイソトープ協会の翻訳より。下線は引用者)

 科学技術庁は交渉において、
・確率的影響にはしきい線量はないとの立場をとっており、しきい値が200 ミリシーベルトであるとは考えていない。
・「200 ミリシーベルト」はこれより低い線量では臨床症状はなく、疫学的調査で95 %レベルで統計的に有意ながんの過剰が200 ミリシーベルト以上の線量でのみ現れる、と理解している。ただこれではわかりにくいので「一般的には」と表現した。
と述べている。
 しかし科学技術庁の表現は、普通に読めばそれがしきい値であるとしか受け取れないものである。
 そして科学技術庁は上記資料のみならず、東海村に新聞折り込みで全戸配布した12 月13 日付けニュースレター第2 報においても「がんの増加に代表される確率的影響も、一般的には約200 ミリシーベルト以上の線量でのみ現れるとされており、今回の事故に関連して直ちにがんの増加などの健康影響を懸念する必要はないと考えられます。」とし、200ミリシーベルトがしきい値であるかのように広報している。
 今回のこのような科学技術庁の姿勢は、各所に200 ミリシーベルトがしきい値であるかのような誤解を生じさせている。実際、11 月4 日の文書が発表される前後から、新聞、テレビ、地元での広報を通じてこの200 ミリシーベルト論が宣伝されている。
 例えば、
・東海村広報誌「とうかい」11 月号…科学技術庁の説明会で200 ミリシーベルト論が披露されている様子が報告されている。
・11 月5 日付毎日新聞…放医研の同趣旨のコメント。
・NHK クローズアップ現代に出演していた広島大学教授…ガンが増えるのは200 ミリシーベルト以上。これは原爆被曝者のデータに基づいている。12 万人40 年以上のデータ。
・朝日新聞科学部は東海村臨界事故について、被曝の影響は少ない旨の報道を続けていることに対する抗議に答えて、200 ミリシーベルト論を持ち出して回答している。(インターネット上でやりとりが公開されている)

 科学技術庁は自ら原子力施設の周辺住民の被曝線量限度は1 ミリシーベルトと定め、これを事業者に遵守させることを自らの責務としている。職業上の被曝限度は50 ミリシーベルトであるが、これも新しいICRP 勧告では20 ミリシーベルトに切り下げられている。白血病の労災認定の基準は年間5 ミリシーベルトであり、これまでに白血病で労災認定された原発労働者のケースの被曝線量は発病までの積算線量で40 ないし60 ミリシーベルトであり、200 ミリシーベルト以下の被曝が安全であるとは到底言えない。
 科学技術庁のこのような言明はこの機関が真に事故を防止し、被曝を防止するための熱意をもっているかどうかについて深刻な疑問を引き起こすものである。直ちにこのような非科学的な宣伝を中止し、このような宣伝を行ったことについて地元住民に謝罪すべきである。

2 .科学技術庁の被曝線量評価の変遷

 科学技術庁は事故による周辺環境における中性子線とガンマ線の線量の評価についてこれまでに4 つの表を発表している(便宜上各表の350m 地点の10 月1 日午前6 時15 分までの積算線量で表示する)。
A 11 月4 日付資料中の周辺環境の線量評価(1 センチメートル線量当量)  350 m で4.1mSv
B 11 月4 日付資料中の周辺環境の線量評価(実効線量当量)         350 m で2.1 mSv
C 12 月11 日付資料中の周辺環境の線量評価(1 センチメートル線量当量) 350 m で2.4 mSv
D 12 月11 日付資料中の周辺環境の線量評価(実効線量当量)        350 m で1.2 mSv
 そして、この最後の評価に基づいて家屋などの遮蔽効果を入れて計算した値を1 月末に東海村の周辺住民に告知した。
 この右端の数値は、350m の地点で事故発生時から臨界が終息したとされる6 時15 分までの積算線量であるが、これを見てわかるように、科学技術庁の手法により実効線量当量で評価した場合、線量は実測値である1 センチメートル線量当量の約半分になる。また12 月11 日には線量評価の見直しがされたが、それにより、線量は11 月4 日付資料の評価の約半分になっている。最終報告に採用され、被曝評価の基礎資料に使おうとしているのは最後のD の数値である。

3 .12 月11 日の線量見直しについての疑問

 11 月4 日資料での線量評価は次のように行われた。
・まず、事故を2 つの時期に分けた。事故直後に爆発的に反応が起きた25 分間を「バースト部」とし、その後臨界反応が比較的安定的に持続していた約20 時間を「プラトー部」とした(なお、午前11 時を境にしたのは「きりがいいから」に過ぎない)。
・安定していた「プラトー部」については、9 月30 日20 時45 頃に原研がJCO 敷地周辺22 地点で測定したデータと計算式に基づいて、距離と線量当量率の関係式を決定し、続いて沈殿槽から約140m 離れた第1 加工棟のガンマ線エリアモニタ(3 つのうち粉末貯蔵室のデータのみを採用)の推移から20 時45 分を起点に「プラトー部」の出力変化を決め、これと上記の関係式から積算線量を求めた。
・「バースト部」については中性子線のデータがないことから、「プラトー部」での臨界の規模を、全体の規模から引き算し、「バースト部」対「プラトー部」の核分裂数比を求めることによって評価する手順をとった。
・臨界全体の規模については、採取したウラン溶液の分析から、核分裂数2.5 ×10 の18 乗個と評価した。これはステンレスの放射化分析による評価(2.4 ×10 の18 乗個)とよく合っている。
・「プラトー部」の核分裂数については、沈殿槽から約250m 離れた事務棟2 階に設置した中性子レムカウンタのデータを用い、9 月30 日20 時45 分の出力を約510 ワットと評価。これに基づき、「プラトー部」全体の核分裂数を1.3 ×10 の18 乗個と見積もった。
・ここから「バースト部」の核分裂数は差を取って1.2 ×10 の18 乗個。比を取ると「バースト部」対「プラトー部」の核分裂数の比が48 対52 になることから、この比に応じて「バースト部」の積算線量を決めた。

これに対して、12 月11 日資料での線量評価見直しは次のようにして行われた。
・見直しのポイントは「バースト部」対「プラトー部」の比率であった。12 月11 日資料では、当初からデータが公表されていたが11 月4 日の評価では採用されなかった、現場から1.7km および2km 離れた原研の那珂研究所の中性子計測データが比率の特定に使えるとし、これを基に線量比を48 対52 から11 対89 に変更した。その比率に基づいて周辺環境の線量評価をやり直し、積算線量が以前の評価の約半分になった。

 この時点で科学技術庁が変更したのは「バースト部」と「プラトー部」の線量比だけで、臨界の規模についてはは何も触れていないし、全体の規模についてはその後も変えていない。全体の規模が同じで比率を変えただけなら臨界終息までの積算線量は変わらないはずである。11 月4 日の評価では「計算結果と実測値はよく一致している」とされていた。全体の核分裂数が同じなのだから、「プラトー部」の核分裂数が大幅に増えることになり、この部分の線量は増えなければならないはずである。ところが科学技術庁は線量比を11 対89 にしたうえで、「プラトー部」の積算線量を変えずに、「バースト部」だけ減らすという操作をしている。変更前は「プラトー部」とほぼ同じ規模とされていた「バースト部」が変更後では、「プラトー部」の約9 分の1 になり、しかも「プラトー部」の規模を変えないのだから、結局「バースト部」の山だけが削られたのである。その結果積算線量は約半分にされてしまっている。

12 月24 日最終報告では2 つの評価の食い違いを次のように説明している。
・「プラトー部」の出力の評価で、計算条件のデータの精度に問題があったことを指摘し、12 月4 日資料の矛盾を計算ミスで済まそうとしている。敷地周辺での実測値と計算値が合うことを確認しての、自信を持っての計算であったが、それのどこをどう間違えたのか。詳細は述べられていない。
・「バースト部」と「プラトー部」のそれぞれ核分裂数も、線量比の見直しに合わせる形で数値が変わっている。全体の規模は2.5 ×10 の18 乗個で変更はない。

 このような一連の報告は「現場から1.7 および2km 離れた原研の那珂研究所の中性子計測データ」だけを推測の根拠とするもので、その科学的な根拠に乏しく、線量を切り下げることだけを目的として操作がなされた疑いが強い。総核分裂数から計算した理論的な被曝評価や周辺で採取された亜鉛、金、塩等の同位体組成からの被曝計算などとの対比を行い、計算結果の検証を行うべきである。

4 .現行法令に従うならば外部被曝に基づく実効線量当量は1 センチメートル線量当量としなければならない

 「1 センチメートル線量当量」は測定器で測ろうとする線量で、ガンマ線や中性子線用の通常の測定器では体の表面から1 センチメートルの深さの組織に相当する被曝線量を測ることになっている。それに対し「実効線量当量」は、1977 年にICRP が77 年勧告で取り入れたもので、体の各臓器に、骨髄は0.12 といった荷重係数を決め、臓器ごとの被曝線量に組織荷重係数を掛け、それらを足し合わせることによって全身被曝に換算するやり方である。「実効線量当量」は荷重係数の取り方や対象臓器の取り方に問題があり、また死に至らないガンのリスクが無視されているといったこともあって、上記の数値でも明らかように、結果的に被曝線量は低く見積もられる。推進側にとっては被曝線量を低く見積もるための格好の評価方法となっている。科学技術庁は今回の線量評価に当たり1 センチメートル線量当量から実効線量当量に換算する際に約半分に切り下げた手法について、77 年勧告は日本の現行法令に取り入れられており、科学技術庁もそれに従って実効線量当量を算出したとしている。しかし、これは事実に反している。現行法令上、周辺住民及び原子力施設の従業員の被曝に関しては、1 センチメートル線量等量をもって実効線量等量と扱うことが明記されている。
 原発については、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める件」(通産省告示)第10 条第2 項第1 号に「外部被ばくによる実効線量当量は、一センチメートル線量当量とすること。」とされており、今回のJCO のような核燃料加工事業については「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則等の規定に基づく線量等量限度等を定める件」(科学技術庁告示)第11 条第2 項第1 号にやはり「外部被ばくによる実効線量当量は、一センチメートル線量当量とすること。」とされている。(なお、労働安全衛生関係の法令においても「電離放射線障害防止規則の規定に基づき労働大臣が定める限度及び方法」(労働省告示)第3 条第1 号で「実効線量等量の算定は、外部被ばくによる一センチメートル等量を外部被ばくによる実効線量等量とし、」と明記されている。)
 今回の評価の対象となっている中性子線、ガンマ線による被曝は明らかに外部被ばく
であり、法令に従うなら、測定値である1 センチメートル線量当量をそのまま実効線量当
量として評価すべきである。

5 .中性子線の危険率の見直しが全く反映されていない

 「実効線量当量」は今から23 年も前のICRP 1977 年勧告に基づいて、現行法令に組み入れらたものである。その後中性子線については、これまで考えられていた以上に危険性が高いことが発見されている。しかし科学技術庁は、この点については77 年勧告とそれに基づく現行法令にしがみつき、中性子線の危険性を過小に見積もっている。

1977 年…ICRP 1977 年勧告。「実効線量当量」の導入。一般公衆の線量当量限度は年間5 ミリシーベルト。中性子線の線質係数は約10 倍。
1985 年…ICRP パリ声明。一般公衆の線量当量限度を年間1 ミリシーベルトに。中性子線の線質係数を77 年勧告の2 倍に。
1986 年…広島・長崎原爆の中性子線量の見直しまとまる。危険率がより大きいことが発見された。
1988 年…77 年勧告の国内法令へ取り込み。パリ声明については前半の年間1 ミリシーベルトの部分についてのみ取り入れた。
1990 年…ICRP1990 年勧告。「実効線量」の導入。中性子線の危険率を知見に合わせて上げ、さらに臓器別に荷重平均を取る際の対象臓器や組織荷重係数の見直しがあり、線量を評価すると「実効線量当量」の約2 倍になる。
2001 年…4 月に90 年勧告の国内法令への取りこみ作業が終わり、法改正がなされる予定。

 1977 年勧告の後、広島・長崎原爆における中性子線量の見直しが行われた。原爆線量の再評価により、原爆の放出放射能のエネルギー計算が間違っており、従来推定されていたものよりもはるかに弱いものであることが明らかになった(爆心地2km で中性子線は10 分の1 以下)。…より小さい線量で同じ影響が出る、ということはより危険だということである。
 ICRP のリスク評価は主要に広島・長崎のデータに依拠しており、見直しが迫られた。1985 年に出されたパリ声明では、一般公衆の基準を下げることと並んで、中性子の線質係数を暫定的に従来の2 倍にすることが修正勧告された。(1986 年のICRP コモ会議で正式に合意した)中性子線は、吸収エネルギーが同じでも、ガンマ線に比べ人体に与える影響がはるかに大きいので被曝線量を見積もる際には、危険率にあたる線質係数を掛け算する。ガンマ線1 に対し、従来は10 倍とされてきた中性子線の線質係数をさらに2 倍の20倍にせよ、というのがパリ声明の後半部である。
 しかしその後行われた、日本国内法令への77 年勧告取り入れの作業で、パリ声明は前半部しか取り入られなかった。事故時に中性子線量を測定した機器に組み込まれていた線質係数は現行法令に従い77 年当時の知見のままであったと思われる。その後の「発見」を考慮するならば少なくとも、この数値を2 倍にして線量の評価を行うべきである。
 中性子線量の見直しはICRP 1990 年勧告に取り入れられ、中性子線の危険率はエネルギー分布によって1.5 〜4 倍になっている。これを国内法令に取りこむ作業は現在進行中で、来年春にはその作業が終わる予定である。
 実効線量当量については法令に取り入れられていない概念を用いて、線量を過小評価し、中性子線の危険率については法令に取り入れられていないことを根拠に、新しいICRP 1990 年勧告の取り入れを拒む科学技術庁の姿勢は線量を切り下げるためにはどんな手段も用いるご都合主義と評価するしかない。中性子線の危険率について新たな勧告に基づく線量を住民に告知すべきである。

6 .ICRP 勧告に従うのであれば、「実効線量当量」ではなく、「実効線量」で評価すべきである

 ICRP の1990 年勧告ではこれまでの「実効線量当量」に変わり、「実効線量」が導入されている。大きな変化の一つは、中性子線の危険率の見直しで、エネルギー分布によって1.5 〜4 倍となっている。さらに、臓器別に荷重平均を取る際の対象臓器や荷重係数についても見直しがあり、死に至らないガンもリスクに入れるなどしている。結果線量を評価すると「実効線量」は「実効線量当量」の約2 倍になる。
 「実効線量」は事故調査委員会に提出される科学技術庁の資料にたびたび登場する。200 ミリシーベルト論に登場したくだりも
       …一般的には実効線量で約200 ミリシーベルト以上の線量でのみ…
としており、「実効線量」である。また、11 月4 日付資料では、ホールボディカウンターの測定値からの線量評価では、「実効線量当量」とならんで「実効線量」も評価しており、「実効線量」が「実効線量当量」の約2 倍に評価されることが示されている。科学技術庁は「実効線量」を当り障りのない箇所にだけこっそりもぐりこませている。しかし住民の被曝を評価する上で肝心の周辺環境の線量評価には「実効線量当量」しか示さない。このまま「実効線量当量」だけで評価し、来年の春になったらどうするつもりなのか。ある日突然被曝線量が2 倍になり、被曝者も突然増えるという奇怪なことが起こりかねない。ICRP 勧告に従うのであれば、法令化を先取りして今から「実効線量」での評価を行うべきである。

7 .放射線の影響を調査しない健康診断では意味がない

 被曝線量の大幅な切り捨てを行い、「住民の健康に影響はない」「だから健康診断も通常の診断でよい」というのが、今回の事故についての、国の結論である。
 すなわち原子力安全委員会健康管理検討委員会「中間とりまとめ」1 月25 日付P4 では「健康管理の必要性放射線の身体的な影響の有無を確認するための特別な健康診断は考えられないが、周辺住民等の健康に対する不安に適切な対応をとることが必要であると」
 同P4 「健康診断・健康相談の内容@健康診断については、健康に関する一般的な助言に資するという目的から、・・・中略・・・ 検査は、地域保険や学校保険及び産業保険において行われる検査項目の範囲でよいと考えられる。また、周辺住民等が市町村等で健康診断を受けている場合には、その診断結果をもって代替することができるので、改めて健康診断を受ける必要はない。」
 科学技術庁1 月31 日付報告書P9 でも「健康管理検討委員会の『中間とりまとめ』を踏まえ、・・・」としている。
 国の姿勢は、被曝があったという事実から目をそらし、住民を投げ捨て、責任を逃れようとするものでしかない。通常の健康診断や学校保険では、放射線による健康への影響等を調べることはできない。血液検査(「血液像」の検査)は放射線の影響を調べる上で重要なものだが、通常の検査項目にはない。周辺住民に対しても放射線従事者に準ずる健康診断が必要である。また検査範囲を350m 以遠にも広げるべきである。



参考資料1
原発・核燃料施設労働者の労災申請・認定状況                           
労災申請日 可否決定の日付 認定の可否 疾病名 被曝線量 労基署 備考
1975 年3 月19 日 1975 年10 月9 日 不支給 皮膚炎    福井・敦賀 岩佐嘉寿幸さん
1982 年5 月31 日    不支給 白血病性悪性リンパ腫    島根・松江   
1988 年9 月 2 日 1991 年12 月26 日 支給 慢性骨髄性白血病 40 ミリシーベルト 福島・富岡 1988 年2 月死亡
1992 年12 月 1 日 1994 年7 月27 日 不支給 急性骨髄性白血病    兵庫・神戸西   
1992 年12 月14 日 1994 年7 月27 日 支給 急性骨髄性白血病    兵庫・神戸西   
1993 年 5 月 6 日 1994 年7 月27 日 支給 慢性骨髄性白血病 50.63 ミリシーベルト 静岡・磐田 嶋橋伸之さん(1991 年10 月20 日死亡)
1996 年5 月27 日    不支給 再生不良性貧血    福島・富岡   
1997 年5 月16 日    不支給 慢性骨髄性白血病     福島・富岡    
1999 年1 月 1999 年10 月 支給 リンパ性白血病 60 ミリシーベルト 茨城・日立    
1999 年10 月20 日 1999 年10 月26 日 支給 急性放射線症 1 〜4.5GyEq 茨城・水戸 横川豊さん(医療費・休業補償)
1999 年10 月20 日 1999 年10 月26 日 支給 急性放射線症 6.0 〜10GyEq 茨城・水戸 篠原理人さん(医療費・休業補償)
1999 年10 月20 日 1999 年10 月26 日 支給 急性放射線症 16 〜20GyEq 以上 茨城・水戸 大内久さん(医療費・休業補償)
  (2000 年1 月24 日) 支給 急性放射線症 16 〜20GyEq 以上 茨城・水戸 大内久さん(1999 年12 月21 日死亡:遺族補償年金ほか)
(2000 年1 月9 日) 申請中 急性骨髄性白血病 74.9 ミリシーベルト 福島・富岡  
                      (2000 年1 月末現在、原子力資料情報室調べ)


電離放射線に係わる疾病の業務上外の認定基準                        
急性放射線障害   急性放射線症 数日以内に250 ミリシーベルト
急性放射線皮膚障害 10 数時間以内に1 回ならば5 シーベルト
その他急性局所放射線障害  
慢性被ばくによる電離放射線障害  慢性放射性皮膚障害 3 カ月以上の期間に25 シーベルト
放射線造血器障害 1 年間に50 ミリシーベルトまたは3 カ月に30 ミリシーベルト
電離放射線による悪性新生物   白血病 5 ミリシーベルト×(被ばくをうける業務に従事した年数)。
被ばく開始後、1 年以上後発生、骨髄性白血病またはリンパ性白血病
外部被ばくによる悪性新生物
(皮膚がん、甲状腺がん等)
 
内部被ばくによる悪性新生物
(肺がん、甲状腺がん等)
 
電離放射線による退行性疾患等   白内障 3 ケ月以内・2 シーベルト、3 ケ月以上5 シーベルト
再生不良性貧血  
 



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