中性子線に限っても深刻な被ばくがあった 中性子線に限っても深刻な被ばくがあった JCO東海事業所で発生した臨界事故によって、その従業員のみならず、周辺住民にも重大な被ばくが強要されました。臨界とはウラン235の原子核が中性子を媒介として次々と核分裂を起こし放射性物質と新しい中性子をつくりだす過程です。したがって今回の事故によって住民は、(1) 臨界によってつくられ外部に漏れ出た放射性物質によって、(2) 臨界時に発生する強い中性子線とガンマー線によって、そして、(3) (2)のうち、臨界開始当初の即発臨界による爆発的な中性子線によって、被ばくさせられました。(1)と(3)の影響についてはあまりにもわずかな情報しか公表されていませんが、(2) の影響だけを見ても住民に深刻な被ばくが強要されたのあきらかです。 JCOの職員が測定したガンマー線と中性子線の線量率のデータを用いてある距離での被ばく量を算出しました(図参照)。 それによると、臨界が継続した20時間の間に、臨界現場から100メートル離れた位置では100ミリシーベルトの被ばくが起こることになります。これは放射線作業従事者の年間被ばく限度の2倍です。東海村が避難を要請した350メートルの距離では2ミリシーベルト、そして450メートル離れた位置でも1ミリシーベルトの被ばくがあったことになります。これらは一般人の年間被ばく限度の、それぞれ、2倍と1倍に相当します。中性子線は家の中にも飛び込んで人を被ばくさせます。避難が要請されず、むしろ屋内退避勧告によってそこにとどまることを強要された350メートル以遠の人達にも、被ばく限度を上回る被ばくが強要されたのです。 さらに深刻なことに、5時間後に避難をした場合でも、100メートルの距離では約50ミリシーベルトもの被ばくを受けたことになるのです。そして320メートルの位置でも1ミリシーベルトを超える被ばくがあったことになります。 サーベイメータでは被ばく量は測れない 事故後、ポータブルの放射線検出器をもった人間が東海村に集まり、住民の被ばくを検査する光景が何度もテレビに映し出されました。しかしあのようなサーベイメータでは被ばく量は測れません。まして測定している人間は医者でも看護婦でもありません、電力会社の社員なのです。もっと高価で大がかりな装置(ホールボディカウンター等)を使っても事故から日にちが経過するとよほど大きな被ばくがあっても検出は困難です。血液検査等をするにしても、通常の方法では250ミリシーベルト以上の被ばくがなければ臨床検査で異常を検知するのは困難です。 すなわち、住民の被ばく量を知るためにはここで推定したように、JCOの職員らが測定したガンマー線と中性子線の線量率のデータに基づいて判断する以外に方法がないのです。フイルムバッジ等の放射線線量計を持たない住民を被ばくを知る上でこれは唯一の方法です。 専門家のゴマカシを許すな 住民の被ばくは明らかです。しかし原子力の専門家らは既にゴマカシをはじめています。曰く、「大したレベルではない」、「私たち(放射線作業従事者)は50ミリシーベルトなんです」。 しかし50ミリシーベルトとは上限であって毎年これだけの量を彼らが浴びている訳ではありません。例えば原発の作業従事者の平均被ばく量は年間1.1ミリシーベルト程度です。周辺の近い所にいた住民はこれよりも高い被ばくを1日足らずの間に強要されたのです。 また、1979年米国スリーマイル島原発で発生した事故の補償を求めて電力会社を相手の2000件の訴訟が起こされていますが、その中の中心的な論点は1ミリシーベルトを巡る攻防です。事故前よりも事故後に、放射能雲の通った地域はそれ以外の地域よりも白血病やガンの発病のリスクは高くなっていることは疫学的に証明されています。しかし同事故の大統領委員会が「一般市民に対する最大の外部被曝線量は1年当たりの平均バックグランドレベル(約1mSv)よりも低く、健康への影響は認められないはずだ」と言い切っているためにこれを覆さないかぎり、因果関係の立証は困難です。そのため20年を経た現在も周辺住民らによる多大な労力が払われているのです。 政府の責任を追及しよう 以上よりあきらかなことは、住民は、事故発生直後の可能な限り早い時期に、可能な限り速やかに数キロ以遠の遠くにまで避難すべきであったということです。住民が受けた被ばくは、政府、科技庁、安全委員会の責任です。彼らは「臨界事故の可能性あり」と記された事故通報ファクスを受け取っても臨界は既に止まっていると勝手に決めつけてしまいました。そして臨界が起こっていることを確認するだけで6時間も要したのです。その直前まで「被害はこれ以上拡大しないと認識している」(野中官房長官)とテレビで公言してはばかりませんでした。臨界継続を確認し、現場周辺が高い中性子線レベルにあることを知った後にも彼らは住民にその事実を知らせませんでした。当然要請すべし退避をさせず、むしろ逆に屋内退避によって被ばくが避けられないものにしたのです。 被ばくを強要させた政府、科技庁、安全委員会の責任を徹底的に追及しましょう。彼らに住民の長期的な健康診断と万が一の場合の補償を確約させなくてはなりません。今後の事故調査のなかで、特に核分裂数を評価する過程で、彼らはできるだけ事故を小さなものに見せかけようとするでしょう。彼らの被ばく隠しを許さないために、大勢の目による厳しい監視をつづけましょう。 |