東京電力株式会社社長 勝俣恒久様 2003年7月18日 貴社は、1981年12月に作成した文書「スタックからの放出放射能の低減に関する検討結果について(松葉作戦)」(以下、「松葉作戦」として引用)において、福島第一原発でα核種が放出されたことを調査確認していながら、その事実を20年間にもわたって隠し通してきました。そこで働いていた労働者も、労働環境がα核種によって汚染されていたという事実を、まったく知らされていなかったのです。そのために、どれだけ多くの人たちがα核種による内部被ばくを蒙ったか、そのことを私たちは強く懸念するものです。これに関連する問題について、以下の質問をしますので、真摯に文書で答え、かつ説明してください。 1.α核種放出を長年隠してきた事について なぜ貴社は、福島第一原発でα核種が放出されていたという事実を、長年にわたって隠してきたのですか。 線量評価上重要な希ガスや放射性のヨウ素については従来から測定し国に報告している。アルファ放射能については国の指針が整備されたS53年9月から測定を実施し、S57年度から国へ報告を開始している。したがって事実関係を隠していた訳ではありませんのでご理解いただきたい。 2.冷却水中のα核種濃度について 「松葉作戦」2頁には、「2号機は1号機に比べ炉水中のα濃度が約1桁低い」と書かれています。そのときの1号機と2号機の冷却水のα核種濃度を公表してください。 当時のデータが残っていないというのが事実です。したがってご回答ができないのが答えです。 3.α濃度測定にあたって、検出限界値を引き上げた事について (1)「松葉作戦」には、「全α放出濃度の経年変化」というグラフが付けられています。そこには、1・2号機共用主排気筒でのα濃度だけでなく、2号機タービン換気系のα濃度なども記されています。また、その元になった数値データが原子力安全・保安院を通じて公表されています。 その2号機タービン換気系(2TS)データに基づいてつくったのが添付グラフです。これを見ると、1981年3月末と6月初めでα濃度が測定された頃以外では、α濃度の検出限界値が高くとられています。これではα核種が放出されていても見えません。なぜこのように検出限界値を変えたのですか。 検出限界値について一般論から申し上げると、測定する試料の量や測定時間、測定する機械が変わる、こういったことによって変動をするということがある。ご指摘のところですが、なぜこれらの変動が、当時あったのか、検出限界値が変わったのかという原因は残された書類がなくて調べられないというのが状況です。したがって正解をこちらの方から申し上げることができない。なおグラフにある測定値は測定指針で定められている検出限界値1×10−14[マイクロ]キュリー/cm3を満足している。指針で要求している測定精度としては問題がないということを我々は思っている。 (2)「松葉作戦」8頁には、α核種濃度について、国の検出限界値は1×10-14μCi/cmであるが、東電の場合は実質上約4×10-15μCi/cm3になる。さらに「排気筒からの放出放射能にα核種が一度でも検出されないようにするため」、当時の最大値の1/10程度、すなわち約1.5×10-15μCi/cm3にすることを目標にするとの趣旨が書かれています。この目標はその後どうなったのですか。 前記(1)の内容からすれば、α核種が出ないようにして検出されないようにしたのではなく、検出限界値をわざと引き上げることによってα核種が見えないようにしただけではないのですか。 これについては、松葉作戦の書類がそちらの方にあると思うんですが、この記載にはその目的は環境への放出を低減することということで書いてある。要は排気筒からの放出が検出限界値以下になることを目標にしたものであるということで、これを目標に対策を講じて松葉作戦が展開されたんですけども、その結果S59年11月以降は検出されていないということです。先ほど申し上げた検出限界値1×10−14マイクロキュリー/cm3については満たしている。ということで、精度としては問題ないと思っている。 4.原子炉建屋内、タービン建屋内のα核種測定を開始した時期等について (1)貴社は、排気筒から放出されたα核種濃度については、昭和53年9月から測定を開始しています。原子炉建屋内、並びにタービン建屋内のα核種測定を開始したのはいつからですか。 これについては昨年美浜の会さんの方には口頭でお伝えをした部分ですが、そうはいっても我々は過去の資料で調べられる部分はみてみました。その結果測定記録は残っていませんでした。したがっていつから開始されたというのは確認はできないという状況です。なお、排気筒からのアルファ濃度は先ほど申し上げたようにS53年から測定を開始したわけですけども、建物内のアルファ放射能の測定についてはさらにその前から実施しているということだけは申し上げておきます。 (2)福島T−1、並びにT−2号機について、原子炉建屋内、並びにタービン建屋内のα核種に関する密度と濃度の測定値をすべて公表してください。 (1)に関連するが、過去の資料を調べたんですが、記録は残っていませんのでお答えできません。 (3)同原発について、βとγ核種についても、密度と濃度をすべて公表してください。 アルファ核種というのは排気筒は別として建屋内については自主管理記録として記録をしているが、こちらについては保存期限がきちっと決められている記録です。ただし保存期間10年となっている。当時の記録になると、当時は20年以上前ですので、この辺の資料の有無の部分については調べられないということでご回答したい。 5.福島第一原発の排気筒からの放出放射能測定データについて 昭和53年9月〜54年3月の間の、福島第一原発各排気筒からの全α放射能濃度測定値を公表してください。 1・2号の共用排気筒については昨年美浜の会さんからの要望があって、時間はかかったがグラフにしてデータをお渡ししている。各排気筒という希望でして、それをさらに拡大したような要望ですが、何回も申し上げて恐縮ですが、これ20年以上前のものだというところで今回ご容赦頂きたい。なぜかというと1・2号炉については確かにアルファ核種が出たというところという部分でお出しした経緯がある。ただ、データがなかったり、作業も膨大で大変だったということもあって、このデータを出したということで他のデータもということですが、それ以下というようなデータについてはご勘弁いただくということでございます。 6.燃料棒破損の形態等について (1)福島T−1の第6回定検時に明らかになった6体の燃料集合体の破損事故に関して、破損燃料のひび割れの写真を公表してください。 写真があるかないか、必ず写真をつけないといけないと決まっているわけではない。写真があるかないかということも、これについては検査の結果の保存期限が10年という部分と、公開資料というのは我々の情報公開法などございますが、美浜の会さんの方から出たんですけども、これ以上についてさらに調べるということが実質上不可能に近いのでこれについてもご容赦いただきたいという部分です。 (2)上記破損事故に関して、冷却水中の核種分析結果を公表してください。もし核種分析を行っていないとすれば、それはなぜですか。α核種が放出されているのに、核種分析なしに、どのように労働者の被曝管理を行うつもりだったのですか。 S53年当時については原子炉冷却水について核種分析の実施はしていません。被曝管理についてはまず、外部放射線についてはガンマ線をもととして、必要に応じてベータ線の測定を行って作業環境を把握していた実態がございます。そういう意味でアルファ線は外部放射線としては特に問題とならないというところが1点です。またアルファ核種は体内に取り込む、取り込まないというところに気を遣わないといけない部分ですね、そういうことを防止するためには管理区域をきちっと定めて区画をして、その中で作業する方に、適当な・・適切な、マスクの着用ですとか、そういった防護をしてもらう、そういったことで取り組んできたということです。それがなぜですかというところの回答です。 (3)福島T−2ついても、1997年3月に6体の燃料集合体で燃料破損があったことが明らかになっています。そのひび割れの写真を公表し、核種分析の結果を公表してください。 先程の写真の件のご回答と同じです。写真については調べられないという部分と核種分析については77年当時実施していないということです。 7.マスク着用について 労働者はすべていつもマスクをしていたと考えていますか。もしそうなら、マスク着用の実態を具体的にどのようにして把握していたのか明らかにしてください。 汚染レベルの高い箇所については原子炉施設の保安規定があってこれに基づいて適切に区分、域区分をしている。その上で、衣服の更衣、手袋の着用などによって汚染防止、拡大防止に努めている。また必要に応じて、全面マスクによって体内への取り込みを防止している。また実態をどのように把握していたという部分ですが、放射線作業許可書というものにチェック欄があってマスク着用が必要な作業では作業部員、マスクを着用していたかどうかについては作業班長がチェックをするとということと、当社においても作業状況、マスクをつけているかどうかのパトロールを行っているということで、そういったことで実態を把握していいるところです。 8.内部被ばくの測定について (1)貴社はα核種による内部被ばくについてどのような測定を行いましたか。バイオアッセイによる尿検査は行ったのですか。 測定記録について現在すでに残っていないという部分で確認はできないが、ホールボディーカウンタで体内への放射性物質の確認をされ、かつ作業していた場所にアルファ放射能が確認された場合には糞・尿についてバイオアッセイを行ったと思われる、こういったちょっと推測のご回答になるが、そういうことです。 (2)これまで福島第一原発で、β・γ核種による内部被ばくは何人の人で生じたと確認していますか。あれば、その内部被ばく線量を各人について示してください。 当社において内部被曝で異常が認められたということはこれまでにありません。なお、個人の放射線量は内部被曝と外部被曝を合算して評価しているが、現在まで法令に定める線量限度を越えた方はないということです。 (3)同じくα核種による内部被ばくは何人の人で確認されていますか。またそのための検査は行ったのですか。 これも記録はないんで確認はできないが、内部被曝で異常が認められたことはないという部分と線量限度を越えた方もいないということです。 関西労働者安全センター 東京労働安全センター 神奈川労災職業病センター 全国労働安全衛生センター 双葉地方原発反対同盟 ヒバク反対キャンペーン 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 被曝労働研究会 原水爆禁止日本国民会議 福島県平和フォーラム 脱原発福島ネットワーク 全造船石川島分会 原子力資料情報室 |