「申告」(内部告発)資料に関する原子力安全・保安院の見解

福島T−1アルファ放射能放出問題
形式的でずさんな保安院の調査報告
アルファ核種放出の重大性を意図的に隠している


 本日(12月4日)、原子力安全保安院は、「申告」(内部告発)のあった案件についての見解を発表した。その案件の中に、当会にも告発のあった福島第一原発におけるアルファ核種放出の問題が、9月24日付け電子メールでの申告として含まれている。
 この申告について原子力安全保安院は、「東京電力に対する任意調査及び報告徴収を実施」した結果、福島第一原発1号機で、「1979年〜81年に1、2号機共用の主排気筒においてα放射能が計測されたとする申告内容は事実であることを確認。確認された事実からは、法令違反、安全上の重大な問題のいずれもなかった」とする見解を公表した。
 しかし同時に、「なお、当院への申告の内容に含まれていないが、1978年頃に原子炉建屋内で法令違反の濃度限度を超える汚染があったとの報道が行われたことに関し、申告調査とは別に、保安院として1978年頃の主排気筒からの放射性物質の放出状況、及び、原子炉建屋の汚染の状況につき事実関係の調査を行うこととする」と述べている。
 これはすなわち、当会が12月1日に新たな内部告発資料に基づいて公表した内容を踏まえたものであり、今後の課題として残されている。
 
 この「申告」に対する原子力安全保安院の見解は、次の点できわめてずさんなものである。
1. 保安院は「1979年度から1983年度までの間に、福島第一原子力発電所1、2号機の共用排気筒において、α放射能が計測されており」としてこの間しか問題にしていない。ところが、実際に最も問題になるのは、1978年の第6回定検の時であることは各種の資料からまったく明らかであった。そして事実、私達は、東電が公表した1978年9月からの主排気筒におけるα放射能の測定値をもっている。東電公表の資料では、この第6回定検時の排気筒からのアルファ核種放出は、「79年から81年」の放出濃度を約3倍以上上回っている。しかし、保安院は、上記の引用記述からすれば、このことすら把握していない。きわめておそまつである。
保安院への内部告発が「1979〜81年」の期間を問題にしているのに対し、保安院の調査は「79年度から83年」と、一見すると期間を広げて調査を行ったように見える。しかし、肝心の、高い濃度が放出されている1978年(第6回定検時)を意図的に外している。

2. なぜ容易に出るはずのないα放射能が放出されたのか、その原因を当然調べるべきであるのに、その点をまったく問題にしていない。この原因に関しては、第6回定検時に発表された燃料棒のひび割れが大きく関係している。保安院の調査結果は、なぜアルファ放射能が放出されたのかについての関心すらうかがえない、極めてずさんなものである。約10pのひび割れがおきた6本の燃料棒は、今現在も、福島第一原発の使用済み核燃料プールに保存していると東電は私達に回答している。保安院は、この燃料棒を徹底調査すべきである。

3. 排気筒で管理区域の許容濃度を超えるほどのα放射能の放出があったということは、原子炉建屋や格納容器などで許容濃度をはるかに超えるほどの箇所があったと見るべきである。なぜなら、排気筒は汚染されていない2号機と共用であり、1号機のさまざまな場所からの空気が集まるからである。そうすると、管理区域の中で作業者の被ばく環境が直ちに問題になるが、そのような視点は何も書かれていない。

4. 「保安規定においてα核種の計測につき規定がないことから、保安規定遵守義務違反には当たらない」と書いている。しかし実際には、α核種がまさか放出されるとは思いもよらなかったから規定がないだけではないのか。アルファ核種が放出されているのに、アルファ核種に関する「保安規定」を作らず放置した事そのものについて、東電に対する何の批判も行っていない。

5. 周辺監視区域境界外で最大濃度を推定し、濃度限度を超えていないとしているが、その計算では「設置許可申請書添付書類に記載された大気拡散の係数に基づき」として東電の計算方法に依拠している。その方法で「地上」空気中濃度を計算しているが、どうして「地上」の濃度をとるのか、その法的根拠が示されていない。

6. 東電は、私達への電話回答で、アルファ放射能放出に関しては、「1982年から報告している」と述べている。既にその当時、アルファ核種の放出を知っていながら、何の対策・指導も取らなかった自らの責任については、一言もふれていない。

 我々は、この保安院が課題として残したまさにそのもの、すなわち1978年頃の原子炉建屋における高レベルアルファ放射能汚染とそれによる労働者の内部被ばくを問題にして、東電と政府の責任を問題にしていくであろう。



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