新たな内部告発資料が示す

福島第一原発1号機第6回定検時のすさまじい放射能汚染
−マスクをしない場所にも高濃度のアルファ核種−


2002年12月1日 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
1.新たな資料が送られてきた
 「原発で働いたことのある人」から新たに、福島第一原発1号機の第6回定検時の放射能汚染を示すくわしい資料が送られてきた。そこには、1978年(昭和53年)9月1日から始まった第6回定検時における、原子炉建屋など管理区域内の、空気中アルファ核種濃度とガンマ核種濃度、同じく壁や機器に付着した放射能の程度を示すアルファ核種表面密度やガンマ核種表面密度が詳細に記載されている。それらの測定値は、この原発の管理区域がすさまじい放射能汚染状態にあったことを示している(ただし、この資料自体の公開は、告発者保護のためにできない)。
 もう一つは、東電とのやりとりによって若干の裏付けとなる資料が手に入ったこと。ただし、肝心の管理区域における放射能測定資料を東電は公開しないし、なぜアルファ核種が飛び出したかという説明資料も公開しないと言っている。

2.第6回定検時に働いていた人の話を聞くことができた
 別に、ちょうどその第6回定検時に福島第一原発1号機で働いていた人から、当時の様子をくわしく聞くことができた。原子炉建屋1階でマスクを取り、防護服を脱いでいたこと。その1階の大物搬入口(機器搬入口)には、トラックが積んでくる機材を受け取ったり運びだしたりするために作業者が待機していたこと。その作業者は通常誰もマスクなど着けていなかったこと。さらに当時アルファ核種が出ていたこと自体は聞かされたこともないなどである。

3.なぜ第6回定検が問題になるか?−この前の東電資料が示したものとその限界
 この前に送られてきた東電作成の資料では、次の点が示されていた。
(1)排気筒でのアルファ核種濃度について、1979年4月〜1981年10月までの測定値(1週間平均値)が示されていた。そのときの最高値は、管理区域許容濃度の1.5倍であった。この排気筒は、あまり汚染されていない2号機と共用であり、さらに1号機でもいろいろな汚染状態の箇所があるため、それらからの空気が混ざって平均化された濃度が排気筒で測定されることになる。それゆえに排気筒で許容濃度の1.5倍ということは、1号機の管理区域内に、許容濃度をはるかに越える状態の箇所があったことを示していた。
(2)床、壁、機器などに付着している放射能の程度を示す表面密度測定値は、原子炉建屋地階でもっとも高い値を示し、ベータ核種で許容表面密度の約14%、アルファ核種では2%だった。しかしこれは、すでに除染をした後の1981年10〜11月の測定値である。燃料棒のひび割れが確認された第6回定期時にはずっと高い密度になっていて、アルファ核種密度でも許容密度を超えていたに違いないと予測された。
 そして、第6回定検時には、6本の燃料棒のすべてで長さ10cmを超えるひび割れのあることが確認されており、アルファ核種はこれらから放出されたものと予測された。これらの点から、時期については第6回定検時における測定値、場所としては排気筒だけでなく、管理区域内の汚染されている箇所(原子炉建屋や格納容器内)における測定値が公開される必要があった。このときのひどい汚染状態は、被ばく線量の急激な高まりからも予測できる(下のグラフ参照、ただしここには内部被ばくは含まれていない)。今回の新たな資料は、まさにちょうどこの要請に応えるものである(下図参照)。


            被ばく線量推移グラフ(全国と福島第一のグラフ、内部被ばくは含まれていない)



4.法的な許容濃度と許容密度
 この当時の原発管理区域における放射能の法的規制は、ちょうど第6回定検中の1978年12月28日に公布された「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和53年12月28日)」及びその細則である通産省告示第665号(昭和53年12月28日)である。これらの条項は次のように集約できる。ただし、これらは法的規制値ではないと東電は考えており、マスクさえ着用していれば、いかに労働環境が悪くても問題はないと考えている。

◇許容濃度と許容密度についてのまとめ(許容濃度については放射能の「種類が明らかでない場合」で、3ヶ月についての平均値。許容密度についてはそのような制約はない。遊離係数=許容濃度/許容密度)。
  許容濃度(μCi/cm3) 許容密度(μCi/cm2) 遊離係数(1/cm)
アルファ核種
非アルファ核種
2×10^(-13)
1×10^(-9)
10^(-4)
10^(-3)
2×10^(-9)
1×10^(-6)
管理区域の最低値 0.75×許容濃度 0.1×許容密度  
              (注:遊離係数は許容濃度と許容密度の値から上記式で計算したもの。
                  また、例えば10^(-13)は10のマイナス13乗を表す。1μCi=37,000Bq)

5.第6回定検時の放射能汚染に関する大略
◇定検時の放射能の付着、遊離、拡散
 定検時には、燃料の取り替えのため、ダルマ型の格納容器の上部ふたを取り除き、圧力容器の上ぶたを取り除き、さらに圧力容器内で燃料集合体の上に置かれている蒸気乾燥機やシュラウドヘッドなどが取り除かれて、これらは原子炉建屋5階に置かれる。その後、圧力容器内の上部から格納容器上部にまで水を張り、その水の中を通すようにして燃料集合体を引き上げ、原子炉建屋5階にある燃料貯蔵プールに運ぶ。
 このとき炉心の冷却水内の放射能が格納容器上部の壁や機器の表面に付着する。この作業が終わって水抜きをした後、付着した水が乾燥するとアルファ核種などが空気中に舞い上がる。さらに、人や物が動くたびに、また作業によって、壁から放射能が遊離して空気中を漂うことになる。 さらに、それら放射能は空気の流れによって、あるいは人や物の移動に伴って広がり、別の場所に付着し再遊離する。こうして定検が進むとともに空気中濃度は高まり、かつ拡散が進む。

◇アルファ核種の空気中濃度と表面密度
 第6回定検ではそのウエル水抜きが1978年10月2日に行われており、このとき 空気中アルファ濃度が上昇している。例えば、原子炉建屋5階の空気中アルファ核種濃度は、水抜きの直後は瞬間的に許容濃度の500倍のオーダーまで急上昇した。格納容器内では、作業中は全域で常時許容濃度の5〜50倍程度であった。特に高い場合は、許容濃度の約5万倍程度にまで達した。作業者の待機場所であった原子炉建屋1階の大物搬入口(機器搬入口)前でも、アルファ核種濃度は高いときで許容濃度の約350倍にもなっていた。
 他方、アルファ核種表面密度は格納容器内では、高い場合に許容密度の約20倍程度であった。原子炉建屋5階では高い場合、許容密度の約200倍程度に達した。定検終了時(全域除染後)でも、密度測定値は、定検中の値とあまり変わらず、除染がそれほど徹底していないことを示している。

◇ガンマ核種の空気中濃度と表面密度
 格納容器内でのガンマ核種濃度は、高いとき許容濃度の約400倍程度であった。測定値のほとんどは許容濃度を超えている。原子炉建屋1階・大物搬入口前でも、高いときは許容濃度の約3倍程度であった。
 ガンマ核種表面密度については、格納容器内で高いときは、許容密度の約200倍程度であった。原子炉建屋のある壁面では許容密度の約400倍程度に達している。定検終了時(全域除染後)でもなお、格納容器や原子炉建屋内のガンマ密度測定値のほとんどは許容密度を超えている。

◇アルファ核種の遊離係数
 前掲の表(第4項)に遊離係数があるが、これは、空気中濃度=遊離係数×表面密度 によって濃度と密度を結ぶための係数である。表面密度が同じであっても、遊離係数が高いと放射能が空気中に舞い上がる度合いが大きい。その表では、非アルファ核種の遊離係数は10^(-6)だが、アルファ核種のそれは2×10^(-9)と3桁も小さく、アルファ核種はあまり遊離しないと仮定している。
 ところが、第6回定検において、原子炉建屋でのアルファ濃度とアルファ密度の測定値から割り出された遊離係数は、上記非アルファ核種のそれと同程度であった。この事実を重視するなら、アルファ核種の許容表面密度を3桁程度下げて厳しくすべきだということになる。3桁程度も甘い許容表面密度を法的に認めて、アルファ核種による高度な汚染を許していたのである。

◇冷却水浄化系逆洗水の逆流
 水位が下がっていた12月25日に予期せぬできごとが起こった。冷却水浄化系のフィルタの逆洗を行ったときに、逆洗水が炉内に戻り、炉水を再び汚し、水位が再び上がって格納容器内上部壁面を汚染したのである。1月16日に水抜きが行われた後、原子炉建屋5階のアルファ密度やアルファ濃度は再び上昇している。

◇原則に反する格納容器内の正圧状態
 前記のように、格納容器内に付着した放射能は人や物の移動及び空気の流れに伴って拡散する。そのため原発では、空気の流れで放射能が外に出るのを防ぐため、内側になるほど負圧に保って、外から内方向に空気が動くようにするのが原則である。
 ところがこの定検時には、格納容器内をその外の原子炉建屋よりも負圧に保つための装置が改造工事のために停止しており、格納容器内の方が正圧(高い圧力)になってしまった。そのため格納容器内の汚染した空気が原子炉建屋内に流れ出し、原子炉建屋を汚染した。

6.原子炉建屋1階の待機場所で作業者がアルファ核種を吸入した可能性
 第6回定検時には全面マスクの着用基準はガンマ核種だけで決められていた。それゆえ、ガンマ核種濃度が全面マスク着用基準を下回っている場合は、作業者は基本的にマスクをしていなかったと考えるべきである。しかもその場所でアルファ核種濃度が許容濃度を超えている場合があり、作業者は相当量のアルファ核種を吸入したに違いない。
 そのような場所として、作業者の待機場所にもなっていた原子炉建屋1階の大物搬入口前がある。そこでは数例の測定値で、ガンマ濃度が10^(-10)のオーダーで全面マスク着用基準を下回っていながら、アルファ濃度は10^(-12)のオーダーで許容濃度を超え、高い場合では許容濃度の30倍以上もあった。この場所の他の数例ではすべて、ガンマ濃度はマスク着用基準を、アルファ濃度は許容濃度をともに超えており、高い場合は許容濃度の約350倍もの値を示している。
 しかも、マスク着用基準とは関係なく、この待機場所にいる作業者はマスクをしていなかったと、当時の作業者は私たちにくわしく状況を説明してくれた。そればかりか、当時アルファ核種が周辺に漂っているなどということは聞いたこともないというのである。作業者は知らないうちに、大量のアルファ核種を吸い込んでいたことになる。
 プルトニウムなどアルファ核種は吸入されると肺に沈着し、さらに骨に移行して沈着する。寿命がきわめて長いためほとんど衰えることなく、しかも容易に体内から排泄されない(生物学的寿命も長い)。ゆえに、20年以上も前に吸い込んだアルファ核種が今でも肺や骨などに破壊的影響を与えていると考えるべきである。こんなことが許されてよいのだろうか。

                            マスク着用基準(内部情報による)
  第6回定検当時 83年頃(?)から
  濃度(μCi/cm3) 密度(μCi/cm2) 濃度
全面マスク
エアラインマスク
10^(-9)〜10^(-8)
10^(-8)以上
10^(-4)〜10^(-3)
10^(-3)以上
MPC〜MPC×10
MPC×10以上
                  注:ベータ・ガンマ核種−GM汚染サーベイメータでの測定による。
                    濃度のMPC表示はアルファ核種が問題になってから(MPC=最大許容濃度)

7.1号機はそれ以前からアルファ核種で汚染されていた−第5回定検時
 1号機は、その前の1976年の第5回定検時にも、相当にアルファ核種で汚染されていたことが今回の資料で明らかになった。例えば原子炉建屋内で、機器表面のアルファ密度が、許容密度の約10倍程度のところがある。また、ガンマ密度も高く、例えば原子炉建屋の機器表面の密度で、許容密度の約千倍にも達しているところがある。このような傾向にあることが分かっていながら、第6回定検時にさらにひどい汚染を引き起こした。しかも第6回定検では、格納容器内を負圧にする措置をしないという実にずさんな管理をしている。

8.第6回定検時に排気筒から許容濃度の5倍のアルファ核種が放出された
 下のグラフに示す東電の今回回答によると、第6回定検中の1978年10月に最高で1×10^(-12)μCi/cm3のアルファ核種が排気筒から放出された。これは水抜きが行われた10月2日の少し後の10月18日〜25日の1週間の平均値である。この値は管理区域における許容濃度の5倍である。汚染されていない2号機の空気と混ざり、1号機でもさまざまな箇所の空気が混ざった結果でも、これだけの高い濃度を示したということである。
 また、そのアルファ濃度グラフにはそれより前の期間の値が示されていないが、「下図のよう素−131の変動状況よりS53.8以前も同じレベルと推定される」と書かれている。これによって1971年(S46年)の運転開始のときから高い濃度のアルファ核種を放出していたことを東電自身が認めている。
          福島第一原発1・2号機共用排気筒からのアルファ核種の放出(東電作成資料)

9.第6回定検でなぜアルファ核種が放出されたのかは明らかでない
 なぜ第6回定検で特に多くのアルファ核種が放出されたのか、この大問題はいまだに何も明らかになっていない。このときの定検で、22体の燃料棒集合体から放射能漏れが見つかっており、そのうちの6体の各1本ずつの燃料棒にはすべて10cmを超えるひび割れが見つかっている。
 我々の質問に対する東電の回答によれば、6本のひび割れは炉心外周部にある最も新しい燃料集合体で起こっており、それら集合体の位置はかなりばらついている。ひび割れの原因はPCMI破損(ペレットと被覆管の相互作用で起こる破損)だとされている。しかし容易に出ないはずのアルファ核種がなぜ放出されたのかはまったく謎のままだ。今回の回答用に急遽つくられた、ひび割れの例として描かれた一つのひび割れのポンチ絵では、長さが約5cmしかなく、巾もきわめて細いものでまるで信用できるものではない。
 東電はこれ以上の資料を公開することははっきりと拒否している。


10.「作業環境の汚染がいかにひどくても、マスクさえしていれば問題はない」−東電
 当会は、他の12団体とともに、第6回定検時の生データを出すよう東電に要求した。しかし東電は、マスクをしていたから法的に問題になるような被ばくはない。だから資料を出す必要もないと主張している。
 この問題について、以下の4つの観点で、新たな資料に基づいてこの問題を考えたい。
(1)作業環境自体の汚染は大量の被ばくをもたらす
 許容被ばく線量だけでなく、許容濃度や許容密度が設定されているのはいったい何のためか。被ばく線量というのは、放射能汚染の結果であって、被ばくを蒙った人は取り返しのつかない悲惨な状態になる。そのような結果になるのを予防するために、許容濃度や許容密度を法的に設けて作業環境自体の汚染を防ぐのではないのか。作業環境自体の汚染は、作業者個人の被ばく線量を高めるだけでなく、非常に多くの作業者を被ばくさせる。

(2)マスクを着用しない場所でも高濃度のアルファ核種
 第6回定検当時、全面マスクの着用基準はガンマ核種の濃度や密度で決められていた(ガイガーカウンタでガンマ線を測定した結果)。従って、ガンマ核種の濃度などがマスク着用基準を下回れば、マスクをしなかったであろう。そのような場にアルファ核種が存在するとは予想外のできごとだったのである。実際には、例えば原子炉建屋1階大物搬入口前では、通常作業者はマスクをしていなかった。そこでは作業者は、何も知らずに、高濃度のアルファ核種を吸入していたことになる。

(3)アルファ核種の放出原因が不明−何度もアルファ放出を繰り返す
 アルファ核種が管理区域に高濃度で存在することはまったく予想外であったが、実は第5回定検時にすでに高い濃度で存在したことが今回の資料で初めてわかった。しかも今回の東電の回答では、運転開始当初からアルファ核種を放出していたことを東電自身が認めている。しかしこのような状態がこれまでずっと隠されてきたために、社会的に批判を受けることがなかった。
 東電は今回やむなくアルファ放出を認めたが、いまだにその放出原因については何も明らかにせず、資料ももっていながら公開することを拒んでいる。このような姿勢では、繰り返しアルファ核種が放出されるのを防げなかったのも当然である。
 
(4)実態を隠し、責任を隠すという相も変わらぬ姿勢
 多くの作業者を被ばくの危険にさらしておきながら、長年にわたってその実態を隠してきた。今回の内部告発によって初めて被ばくの資料的裏付けが明らかにされたのである。ところが今になっても東電は、汚染の実態資料をもっていながら出さないし、燃料棒のひび割れ原因を示す資料も出そうとしない。このような姿勢は厳しく糾弾されるべきである。

11.東電と政府は被ばくの責任を明らかにせよ
 作業者を過酷な被ばく環境に置いて働かせてきた東電の責任は明らかである。建屋1階で高濃度のアルファ核種が存在しているのに、作業者に知らせることもせず、マスクの着用を指示することもなく、大量のアルファ核種を吸うがままに放置した。またそのような実態は、定検報告として政府にも報告されていたはずである。これを隠し放置した政府の責任も厳しく追及されるべきである。
 政府は直ちに、福島第一原発1号機の放射能汚染の実態とアルファ核種による過去の作業者被ばくの実態を詳細に調査し、その資料を公表すべきである。実態を詳細に調査し、その結果を公表すべきである。アルファ核種を吸入した可能性のある作業者の健康状態を、本人の意向を尊重しながら調査し、補償措置を講ずるべきである。ガンマ・ベータ被ばくしか考慮していない被ばく統計を、アルファ被ばくを考慮して改訂するべきである。
 東電と政府は手持ちのすべての資料を即刻公開すべきである。



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