2000年8月3日(改訂:8月11日) 作:小山 |
1.当事件に対する当社の基本的立場の誤り 昨年9月に高浜3号用MOX燃料でデータ不正が発覚したとき、当社としては、これを単なる偶然ではなく、BNFL社の体質がもたらした結果と捉え、やはり高浜4号にも不正があるに違いないとの視点に基本的に立つべきでした。BNFL社のMDF工場には様々な問題のあることを、それ以前から当社としも把握していたからです。 しかし、そのときすでに高浜4号用MOX燃料は日本近海に近づいておりました。もしその不正を認めた場合、当社のメンツは丸つぶれになるばかりか、一緒になってプルサーマルを推進してきた通産省、原子力安全委員会、福井県当局に多大のご迷惑をおかけし、ようやくこぎつけたプルサーマルの実施が打撃を被ることは必定でした。また、多くの国々の反対を押し切って、ようやくにして運ばれてきたそのMOX燃料の措置も頭の痛い問題となることでしょう。 このような恐ろしい状況が思い浮かんだため、当社としては、基本的に高浜4号の不正は認めないとの立場に立つことになり、その立場の範囲内で調査を行うことになりました。現地に社員を派遣してもBNFL社の調査範囲を逸脱せず、その調査結果を無条件に全面的に信頼することを基本としました。BNFL社の検査員の言い分を全面的に容認し、コピー以外の不正を行う動機はあり得ないなどとしたのはそのためです。 こうして、9月14日に先発調査員を現地に派遣してからわずか1週間目の9月21日には早くも、高浜4号用にはデータ流用なしとの記者発表を行い、24日には急いで中間報告をまとめてしまいました。なにしろ、高浜4号用MOX燃料が9月27日には高浜港に到着する予定だったからです。このようにデータのまともな統計解析もなしにまとめた結論を、その後どんな不利な情報が入ってもけっして曲げないことにしたのです。 2.ロットP824とP783の不正を隠そうとしたことについて この2つのロットの不正疑惑は、もっぱらNII(英国原子力施設検査局)からもたらされたものです。盟友BNFL社はこの不正疑惑を否定していたため、当社としてはBNFL社を全面的に無条件に信頼する立場をとって、NIIの見解を否定する立場に立つことにしました。 P824については、恥ずかしいほどの統計的説明まででっちあげて、不正を否定することにやっきになりました。昨年10月20日にグリーン・アクションと美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会から統計的分析に基づく疑義を受け取りましたが、もちろんこのようなものを認めることはできません。しかし、この指摘は福井現地の新聞で大きく取り上げられ、通産省も内々に無視しないという態度を示したため、これに対しては異例のくわしい文書回答をつくって記者だけでなく、福井県や通産省にも内々で提出しました。また、通産省技術顧問である飯塚東大教授から10月末に、P824には統計的疑義があるとのご指摘を受けましたが、それも無視することにしました。また、抜取検査で上・中・下の外径データを公表せよとの要求も頑なに拒みつづけてきました。この3点のデータを公表した場合、統計的異常が一目瞭然になって困るからです。ところが、NIIはこの3点のデータをBNFLから入手したため、残念ながらもろくも異常がばれてしまったのです。 次に、P783については、10月20日にNIIが異常ありと判断しているとの通知を当社は受けたものの、BNFLの問題なしとの判断を鵜呑みにして、規制当局たる通産省に報告することさえせず、11月1日付け最終報告でもこの問題を完全に無視しました。11月13日には、NIIの疑義の根拠となる統計解析をBNFLから受け取りましたがどこにも知らせませんでした。 他方、12月9日になると、今度は通産省からP783に関するNIIの疑義を知らされました。しかし、10日に再度BNFLから不正なしとの連絡を受け、11日には当社としても独自にデータの評価をして不正なしとの結論に達し、同日にその旨を通産省に報告しました。同日通産省よりこの件で現地に調査員を派遣するよう指示を受けましたが、12日には福井県と高浜町にP783は問題なしと通知したのです。 しかし、12月15日には、NIIから長時間かけて説明を受けた通産省から、P824とP783を含む燃料について輸入燃料体検査の合否判断を留保するとの強い意向が示され、さらにその通産省の意向を受けた福井県から、「電力として自主的に使用しない方向で検討すること」との指示までがありました。こうしてついに、これら2つのロットの異常を認めざるを得ないのかという状況にまで当社は追いつめられたのです。 当社は窮地に立ちました。なぜなら、もしP824とP783の不正を認めると、それまでそれらの不正を必死になって隠し否定してきた当社の責任が、さかのぼって厳しく問われるようになるのは必定となるからです。 また他方、もし不正をまったく認めない場合、12月17日に予定されていた大阪地裁の決定(判決)が目前に迫っており、そこで当社が敗北する見込みが非常に高いという事情に直面していたのです。裁判における当社の基本姿勢は、統計的疑義については、当社としても内々では認めざるを得ないと思っていたため、反論をいっさいせずに頭から無視すること。その代わりに、全数測定結果があるから「品質保証検査はなくてもよい」との主張で乗り切ることでした。ところが原告側から、全数測定選別された結果について、品質保証検査で不合格になったものが7ロットあることが指摘され、裁判官がここに注目して当社の側に求釈明書を出していたのです。裁判所が当社の全数測定論を否定する判断を下すことは必定と予測されました。 もし裁判で敗北すれば、単にMOX不正にとどまらず、日本で初めて原発裁判で推進派が敗北を被ることになり、原子力全体に及ぼすその影響は計り知れないものとなります。そのような事態になることは、原子力推進の全体的立場内に位置する当社として、到底許されることではありませんでした。 3.救いの神となったP814の不正 だが、まさにその瞬間「最良のタイミングで」12月15日に、盟友BNFL社からP814という新たなロットで不正が見つかったとの通知があったのです。当社はもちろん渡りに船とばかりにそれに飛びつき、この不正を理由にして当該MOX燃料の使用中止を急遽16日に発表しました。判決が出る予定のまさに前日のことで、まったく冷や汗ものでした。P814は本当に当社にとって救いの神となったのです。 実は、BNFL社は以前から外部調査機関に調査を依頼しており、その調査結果が12月7日にはBNFL社に報告されており、その中にこのP814も含まれていました。その後、この報告についてBNFL社はこの外部調査機関と協議していましたが、ついに「偶然にも」当社が窮地に陥った12月15日に、P814の不正を最終的に確認し、当社に通知してきたのです。もし仮に当社がこのような形で窮地に陥ることがなかったなら、P814の不正が日の目を見ることは永久になかったかもしれません。 残念ながら12月16日の当社の発表文書には、その直前の事態の進行を反映して、まだNIIの疑惑を認める記述が残されたままになってしまいました。そのためやむなく、そのときの福井と大阪の同時記者会見の場では口頭で、「P824とP783に関するNIIの疑義は認めない、NIIとの見解の相違だ」と説明せざるを得なかったのです(今年1月11日調査委員会設置時に発表した文書では、NIIの疑惑関係は完全に抹消しました)。 しかし結局のところ、今年になって、2月18日に出されたNII報告書でP824とP783の不正が確定した形となり、BNFL社も同日付けで報告書を出して、NII報告書の判断を認める方向を示唆しました。この盟友BNFL社の心変わりを受けてやむなく、当社としてもこれら2ロットの不正を認めざるを得ないことになりました。こうして、今年3月1日付け調査中間報告書でその旨を初めて正式に表明した次第です。 以上のように、当社は最初から高浜4号の不正は認められないという立場に立ったために、NIIの意向に積極的に反抗し、BNFL社を無条件に信頼して、不正を隠すために働いてきたことは事実であります。しかしこの2ロットの不正を認めたいまとなっては、過去の過ちを真摯に反省すべきであると考えています。 4.当社の社会的責任について 品質保証をなすべき品質保証検査(抜取検査)で不正があった場合、その製品の品質は保証されないことになり、その品質の保証に基礎を置く安全判断も保証されないことになるのは自明の理です。不正燃料の使用を中止したのは、契約違反の問題もありますが、やはり核心は安全上の判断からです。原子力の安全には念には念を入れても入れすぎることはないという、原則的な初心にいまこそ立ち返るべきだと、当社は肝に銘じるべきであります。 昨年11月裁判の答弁書の中では、全数測定があるので「仮に抜取検査を行わずとも何ら問題はない」などと記述しましたが、これは通産省の強い意向を反映したために判断を間違ったものです。事実、今年3月1日付け調査中間報告書の21頁では、BNFL社においては抜取検査を全数選別の後の「追加の検査」であるとの「誤解」を生んでいたと指摘しています。 しかしながら他方では、当社はいまだに、抜取検査を行わずとも安全上の問題はない、仕様の幅が今の10倍あっても安全性は保たれることが解析で示されているなどと公的な場でも主張しています。このような姿勢をとらない場合、本来の安全規制をそのまま認めることになりますが、それは当社の今後の経営状態に響くことになります。これからの原発の運転は、安全余裕をできるだけ切り縮めることを基本方針としない限り経営的にやっていけなくなるのは必定です。今回の品質保証検査不要論もこのような大きな流れに沿うものだとご理解ください。 ところで、すでに不正の確定したロットP824とP783について、当社はそれまで不正はないと主張し、不正を隠すために努力するという過ちを犯してきました。この不正燃料を強引に高浜4号に装荷しようとしてきました。装荷を強行した場合、雪印乳業の二の舞になるどころか、実際の被害としては比べものにならないような結果をもたらす可能性がありました。 このような態度は住民、市民、国民の安全などまったく眼中にないことから由来したものに違いありません。自らが非難されないこと、何が何でもプルサーマルを推進することに留意する余り、人々の生命や生活に目を向けることを完全に忘れておりました。この点で、プルサーマル推進にご理解をいただいた方々に対してだけでなく、むしろ一般の住民、市民、国民のみなさまに深くお詫びを申し上げるべきでした。 当社としましては、このような本質的な反省がまだ何もなされていないことに、ようやく気づきました。事件にかかわった当の責任者を調査委員に加えていましたが、そのため報告書では「自分が座っている座布団はあげられない」という諺(ことわざ)どおりの結果になってしまいました。 それで、現在当分はこのような総括をやり直すことに鋭意努力する所存であります。規制当局である通産省からも、いまのままでは次のMOX燃料装荷など認められないとのお達しを受けています。まず根本的な総括を行い、その結果についてみなさまから再度のご批判をたまわりたいと考えています。 現在、BNFL社の不正燃料に代替物として、フランスのコジェマ社で昨年秋からMOX燃料を製造しすでにできあがっています。しかしこれは当社が高浜4号用での不正を認めるより前に製造を開始したものであるため、本来当然すべて廃棄すべきものであります。仮に使用するとしても、BNFL社の場合以上にすべてのデータをみなさまに公開し、厳しいご批判を受けた後になるのは当然であります。言葉だけでなく実際にこのような姿勢をとることこそが、当社が真に反省していることを示すメルクマールになると心得ています。 そして、少なくとも当社としての根本的な総括が終了し、厳しいご批判をたまわるまでは、プルサーマルの実施を棚上げにすることをここにお誓いする次第です。 |
◇9月13日高浜3号でのデータ不正関電に通知−−発覚はBNFL内部告発による。 ・このとき高浜4号MOXはすでに日本近海に接近。9月27日に到着予定。 ◇9月20日に猪俣氏の書簡−−高浜4号には不正なしとのNIIの判断の確認を求めるもの。 ・9月21日 NIIはその確認を否定、「異常なロットがあるので」。 ・9月21日に早くも関電は、高浜4号には不正なしとプレス発表。 ◇9月24日 中間報告で高浜4号には不正なしと断定。 ・その中で、P824には不正なしとの、きわめて奇妙な統計的説明を展開。 ◇10月20日 BNFLより”NIIがP783に関心をもっている”と連絡を関電は受ける。 ・BNFLの問題なしとの判断を無条件に信頼して問題にせず。通産省にも連絡せず。 ◇10月20日 グリーン・アクションと美浜の会は要望書を関電と福井県に提出(翌日通産省へ) ・通産省技術顧問(飯塚東大教授)が、P824に統計的疑義ありと判断⇒⇒その旨関電に。 ◇11月1日 最終報告:P824の不正を否定、P783には触れず。 ・同日に関電は、市民2団体要望書への反論文書を記者に配布。通産省、福井県にも届ける。 ◇11月8日付けNIIから猪俣氏への手紙−−12月15日に通産省がようやく公開。 ◇11月13日 NIIの疑義の根拠となる統計的解析を、関電はBNFLから入手。 ◇11月19日 福井・関西の市民212名が大阪地裁に、高浜4号MOX燃料使用差止処分申立。 ・関電は答弁書で、統計的疑義には反論せず、品質管理検査はなくても良いとの論を展開。 ◆12月7日 BNFL依頼の調査機関が、P814を含む複数ロットの調査結果をBNFLに報告。 ◇12月9日 NIIが通産省へP783の疑義を連絡。通産省より関電へ”NIIがP783について統計的疑義をもっている”と連絡。 ・11日に関電は、通産省よりNIIの疑義の件で現地に調査員を派遣するよう指示を受ける。 ・関電は12月12日に、P783に問題なしと福井県と高浜町に伝えた。 ◇12月13、14日 NIIが通産省にP824とP783に不正がないという確率はゼロに近いことを長時間かけて説明(NII報告2000.2.18)。 ◇12月13,14日 関電はP824,P783についてBNFL及び通産省との打ち合わせのために英国を訪問(BNFL報告書2000.2.18)。 ◇12月15日 関電は通産省から、P783とP824に関するNIIの判断を伝えられる。 −−「高浜4号2体の不正の可能性を否定できないので、輸入燃料体検査の合否判断を留保」。 ・同日福井県より、NIIの疑義あり燃料を「電力として自主的に使用しない方向で検討すること」との指示を受ける。 ◆12月15日 BNFLが、すでに12月7日に調査結果の報告を受けていたP814の不正を最終的に確認し、関電に連絡。 ◇12月16日(裁判判決予定日の前日) 関電、高浜4号8体の使用中止を発表。 ・午後5時からの記者会見で。口頭説明では、P814の不正だけを認め、P824とP783 の疑義は認めず、NIIとの見解の違いだと表明(大阪と福井の記者の話)。 ◇2000年1月11日 関電が調査委を設置−記者発表文書でP824とP783を完全無視。 2月18日 NII報告書でP824とP783の不正確定。同日付けBNFL報告書でも容認。 ◇3月1日 調査中間報告−−P824とP783の不正をようやく初めてしぶしぶ認める。 ◇6月14日 調査最終報告。 |