−5月18日 経産省交渉報告− |
経産省への質問・要望書を全都道府県420団体で提出 |
使用済MOX処理の検討も現実も遅れているのに、なぜMOX装荷だけを急ぐのか |
「第二再処理工場を建設するかどうかは確定していない」(エネ庁) |
第二再処理工場の準備的検討は |
「最終報告も中間報告も出せていない。 |
なぜ遅れているかも説明できない」(エネ庁) |
(2009年5月20日 文責・美浜の会) |
5月18日午後3時から1時間半、参議院議員会館第6会議室において、プルサーマル計画について国と交渉をおこなった。交渉には、プルサーマルが計画されている佐賀、島根、愛媛、関西、名古屋、静岡、北海道の各地及び首都圏から約50名の市民が集まり、会場は熱気に包まれた。 国からは、資源エネルギー庁、原子力安全・保安院、原子力委員会、原子力安全委員会、文部科学省から12名が出てきて対応した。関係省庁がすべて登場することなどかつてないことである。使用済MOX燃料の問題は、単にそれだけの問題だけではない。日本の核燃料サイクル政策の根幹にかかわる性格を持つ。今交渉における国の異例の対応ぶりは、そのことを端的に示すものであった。 交渉当日は奇しくも、浜岡4号機プルサーマル用のMOX燃料の搬入日ともなった。早朝、フランスからのMOX燃料輸送船が御前崎の中電ふ頭に着岸した。これに対してプルサーマルに反対する住民・市民は御前崎港に結集し、抗議行動をおこなった。早朝の抗議行動に参加した人たちも交渉に駆けつけ、交渉前の打ち合わせで、抗議行動の様子についてライブ感あふれる報告があった。 交渉は、二階経産大臣に対する質問・要望書(以下、質問書)の提出からはじまった。要望書の提出団体は420団体に達し、47都道府県すべてを網羅するものとなった。これほど数多くの団体が名を連ねるとは、画期的なことである。反プルサーマル運動の広がりと大きさを示すものとなった。 交渉全体を通じて明らかになったのは、使用済MOX燃料の処理の方策として国が説明している「第二再処理工場」とは、建設するかどうかも確定しておらず、検討のための準備作業も一切進んでいないということだった。なんの実体もない幻影の「第二再処理工場」という言葉だけで、人々を惑わし、プルサーマルを強行しようとする無責任極まりない国の姿勢だった。MOX燃料が装荷されれば、核のゴミである使用済MOXは現地に溜まり続けることになる。 交渉では、あらかじめ提出していた質問事項と要望事項について一通り回答を聞いた後、市民側で準備した確認を求めるべき事項に沿って一つひとつ確認するように進めていった。その結果の重要な確認事項は下記の番号付き小見出しに要約されている。 また、この交渉に向けて、及び交渉当日や翌日にも国会議員への働きかけが意欲的に行われたし、今後も継続されることになっている。 1.松江市長が経産大臣に会いに来たが「質問への回答は変わらない」(エネ庁) 資源エネ庁に対する島根県松江市の質問書(06年10月)は、使用済MOX燃料を処理する第二再処理工場の操業が確実に実施される具体的な計画を示すことを求め、さらに、その操業が遅れた場合、使用済MOXの処理をどう処理するのか具体的説明を求めている(◆資料1参照)。しかし、エネ庁の回答(08年12月)はこの質問に答えていない。2005年の原子力政策大綱をそのまま引き写し、「使用済MOX燃料の処理の方策は・・・2010年頃から検討を開始する」としているだけである(◆資料2参照)。この回答を受け、松江市長は経産大臣に面会を求め、使用済MOX燃料が原発内に置かれたままにならないよう再度要請を行っている。国の回答が回答になっておらず、これでは到底、住民の不安は解消されないとの認識があるからだ(3月16日付松江市長から経産大臣への要請書)。 質問書では、改めて松江市の質問にどう答えるのか聞いている(質問事項1参照)。これに対して今交渉に出てきたエネ庁原子力立地・核燃料サイクル産業課の田岡課長補佐は、原子力政策大綱の該当部分を読み上げただけであった。「それでは回答になっていない」「質問に答えていない」と追及しても、「2010年頃から検討」と言うだけである。 島根現地からは、「永久に使用済MOXが置かれ続けることになるのでないかという住民の不安があり、それを踏まえて松江市の質問書は書かれている。六ヶ所や『もんじゅ』といった現実の状況を踏まえて遅れが生じたらどうなるのか具体的に聞いている。答えるべきだ」と追及があった。エネ庁は「永久に貯蔵するとは予定していない」と一般的に答えることしかできなかった。 「昨年松江市に出した回答の域を出ていないということで良いですね」と確認を求めると、「はい。基本的には変わらない」と答えた。「その後、松江市長が経産大臣に会いに来て、わざわざ国の回答を確かめにこられているが、国として前の回答のままということで良いのか」と重ねて聞くと、それでもエネ庁は「回答は変わりません」とした。 ※松江市の質問は原子力立国計画に基づいて質問しているが、なぜかエネ庁の回答は政策大綱に基づいて答えている(◆資料1、2参照)。そこで、「なぜ、立国計画ではなく、政策大綱に基づいて回答しているのか」と聞いた。これに対して資源エネ庁は、「原子力立国計画は政策大綱の方針に基づいて作っており、基本的な方針に立ち戻ると大本は政策大綱になるからだ」と答えた。さらに「立国計画は第二再処理工場と明確に書いているが、政策大綱には第二再処理工場という言葉が出てこない。第二再処理工場ということを明確にしたくなかったということではないのか」と聞くと、「そういうことでない」と否定した。 また、大綱に書かれている「『処理のための施設の操業』の『施設』とは第二再処理工場のことか」と聞くと、「その通りです」と答えた。 2.「使用済MOX燃料の処理の方策は決まっていない」(エネ庁) エネ庁回答によると、使用済MOX燃料の「処理の方策は・・・2010年頃から検討を開始する」というものである。これに即せば、現時点において「処理の方策」は決まっていないということになる。質問書ではそう理解してよいか聞いている(質問事項3参照)。 エネ庁は、この質問にきちんと答えず「2010年頃から検討を開始することになっている」と言うだけであった。そこで、「使用済MOXの処理の方策は現時点で決まっていませんね」と確認を求めた。これに対してエネ庁は、「使用済MOXを具体的にどう処理するということは今後の技術的知見とか経済性等を踏まえて検討していくということで、個別具体的には決まっていない云々」とあれこれごまかそうとした。しかし最後には「その通りです」と、現時点で「処理の方策」について決まっていないことを認めた。 3.2010年頃からの検討開始にあたって、原子力政策大綱が「踏まえ」るとしているのは、「六ヶ所の進捗状況や『もんじゅ』の状況といった大綱からの変化を考慮に入れて検討開始の時期を決めるということ」(原子力委員会事務局) 原子力政策大綱は、使用済MOX燃料処理の方策の検討を2010年頃から開始するにあたって、@六ヶ所再処理工場の運転実績、A高速増殖炉及び再処理技術に関する研究開発の進捗状況等を「踏まえ」るとしている(◆資料2参照)。原子力立国計画では、六ヶ所再処理工場は2007年に操業を開始し、「もんじゅ」も2007年に運転再開することになっていた(◆資料5参照)。しかし、六ヶ所はガラス固化で完全に頓挫し、「もんじゅ」運転再開のめども立っていない。質問書では、このような状況を踏まえれば、第二再処理工場についての検討に入ることはできないのではないかと質している(質問事項4参照)。 これに対して、今度はエネ庁にかわって原子力委員会事務局の牧参事官補佐が答えた。最初の回答は、質問に直接答えず、政策大綱の該当箇所をそのまま読み上げるというものだった。そこで質問にきちんと答えるよう、「大綱にある『踏まえて』というのはどういう意味なのか説明して欲しい」と追及した。しかし牧氏は、「踏まえるということは踏まえるということ。それ以上でも以下でもない。言葉の通り」などと木で鼻をくくったような回答を続けた。「お役人の答弁以外言えないのですか」と声があがった。「『踏まえ』るとは、六ヶ所の進捗状況とか『もんじゅ』の状況とかの予定からの変化については考慮に入れて検討開始の時期を決めるということでよいですか」と噛んで含めるように、何度も確認を求めると、最後には「それはその通りです」と認めた。 4.大綱が使用済MOXの処理について「柔軟性にも配慮」とし、その「柔軟性」の中には直接処分の政策選択が含まれているにもかかわらず、頑なに認めようとしなかった原子力委員会事務局 また政策大綱では、使用済MOX燃料の処理の方策の「検討」は、再処理を基本としつつも、「柔軟性にも配慮して進める」とされている(◆資料2参照)。この配慮されるべき「柔軟性」であるが、これは、当該項目に続く項目である「不確実性への対応」に出てくる「政策選択に関する柔軟な検討」に対応している。そして、この「政策選択に関する柔軟な検討」については、それを可能にするために使用済燃料の直接処分技術についても調査すべきだとされているのである(◆資料3参照)。つまり、大綱を素直に読むと、使用済MOXの処理の検討にあたっては、直接処分も視野に入れた「柔軟性にも配慮」しなければならないということになる。 この「柔軟性」について、「基本は再処理だが、それ一本だけではないという理解で良いか」と国に確認を求めた。これに対して原子力委員会の牧参事官補佐は頑なに認めることを拒んだ。聞いていることに直接答えず、「基本方針は再処理」という言葉を何度も繰り返した。参加者からは「基本方針は分かりましたから柔軟性とは何か答えてください」と声があがった。それでも牧氏はよほど認めたくなかったのか執拗に「基本方針は」「基本方針は」と言い続けた。その挙げ句、使用済MOXの検討で出てくる「柔軟性」と、その後に出てくる「柔軟性」は異なっており、前者には直接処分は含まれていないというようなニュアンスの発言まで飛び出した。「政策大綱とその説明は違う」「いいかげんな事は言わないで欲しい」との声があがる。結局、大綱における「柔軟性」が何を意味しているのか「確認の上、回答ということにさせて欲しい」ということになった。 ※質問書では、使用済燃料プールにおける「一定期間」の冷却期間はどの程度か、使用済ウラン燃料と使用済MOX燃料の各々について聞いている(質問事項6参照)。エネ庁は、一律には決まっていないが、およそ半年〜6年程度であり、決めるのは事業者だとし、使用済MOXと通常のウラン燃料で相違があるとは聞いていないとした。交渉の中では、直接処分を念頭に置いた場合の使用済MOXの冷却期間についても質問が出たが、エネ庁は「わからない」とのことで、この質問についても宿題として後日回答になった。なお、質問事項2の質問に対しては、使用済MOX燃料は「当面発電所構内におく」と答えた。 5.「第二再処理工場を建設することは今現在、確定しているわけではない」「電気事業者が主体になるのか国が主体になるのか、どういう技術を採用するのかも決まっていない」(エネ庁) 次に、エネ庁に対して「第二再処理工場を建設することは今現在、確定しているわけではないということで良いですか」と確認を求めた。これに対してエネ庁は抵抗することもなく、「確定はしていないです」と明確に答えた。さらに、「第二再処理工場について事業者が主体になるのかあるいは国が主体になるのか、どういう技術を採用するのかも決まっていません」とも認めた。 6.「原子力立国計画に書かれていた時点から、六ヶ所やもんじゅについて少なくとも2年以上遅れていることは事実」(エネ庁) さらに、立国計画に書かれている六ヶ所再処理と「もんじゅ」について、計画と現実にはギャップが存在し、予定通り進んでいないことについての事実確認を求めた。「六ヶ所やもんじゅについて少なくとも2年以上遅れていることは事実ですね」と聞くと、エネ庁は「はい」と認めた。 7.第二再処理工場等に関する五者協議会での準備的検討は「最終報告も出せていない」し、「中間報告も出せていない」(エネ庁)。その上、「最終報告がいつ出せるかも分からない」し、「なぜ遅れているのかも言えない」(エネ庁) 松江市の質問書に対するエネ庁の回答では、「現在、2010年頃からの検討を円滑に開始するため、必要な準備を行っているところ」とある(◆資料2参照)。これは基本的に、原子力研究開発機構を筆頭に、経産省、文科省、電事連とプラントメーカーからなる五者協議会で進められている準備的な検討作業のことである。五者協議会は2007年6月に設置され、第二再処理工場に関しては2007年12月6日に「第二再処理工場に係る2010年頃からの検討に向けた予備的な調査・検討について」という非常に簡単な報告書を出している。 質問書では、この報告書以降、準備的検討の進捗状況を聞いている(質問事項5参照)。これに対して、エネ庁は当初の回答で「現在、五者協議会の関係者間で検討を進めているところ」とだけ答えた。 五者協議会が2007年3月に出した資料に添付されたスケジュール表によると、「2010年」に向けた第二再処理工場等に関する準備的検討は、2008年度末、つまり2009年3月末には終了し、「最終成果報告」を出すことになっていた。さらに、その前、およそ2007年度末には「中間成果報告」も出すことになっていたのである(◆資料6参照)。 そこで、「五者協議会の最終報告はどうなっているのですか」と追及した。エネ庁は淡々と、「まだ出ていません」と答えた。「2008年度末に出す予定だったというのはその通りですか」と聞くと「その通りです」と答える。「いつ最終報告を出せるのか目途を示して欲しい」と追及すると、「遅れているのは事実ですが、いつ出せるかも決まっていない」と無責任な回答であった。 「FBR関連だけで年間500億もの税金が使われている。税金を使って報告書のひとつも出さないとは許されない」「なぜ報告書が遅れているのか説明すべきだ」と参加者からいっせいにワッと追及の声があがった。しかし最後まで、エネ庁は、五者協の報告が大幅に遅れている理由については説明しなかった。「今は説明できない」と繰り返し、最後には「遅れているのは事実で、お叱りは甘んじて受ける」などと居直った。「準備体操的な検討を進めているので、あれもこれもと検討しているところ」といった言い訳めいた発言も出た。「六ヶ所が行き詰まっているからじゃないのか」と市民から声が飛ぶ。しかしエネ庁は、「しかるべき時には国民のみなさまに説明できるようにしたい」と繰り返すだけで、なぜ遅れているのか一切説明しようとはしなかった。 最後に、「最終報告の前の中間成果報告は出ているんですか」と聞くと、驚くべきことに「中間報告も出ていません」とのことであった。2010年に向けた検討は、まったく行われていないに等しい状況なのである。 8.現実も検討も著しく遅れているのに、なぜMOX装荷だけを急ぐのか 五者協の報告すら出せず、遅れている理由も説明しようとしない国に対し、静岡現地からは住民の不安を訴える意見が出された。「六ヶ所も進んでいない、第二再処理工場の検討もまったく進んでいない、そんな中でMOXを装荷する、プルサーマルを始めるというのは見切り発車だ。不安でたまらない。使用済MOXの処理の予定が立たず、検討が遅れているんだったら、プルサーマルそのものも、まずは凍結するのが当然ではないですか」。これに対してエネ庁は「そういう意見もしっかりと承って」とあしらおうとした。すかさず「きちんと住民の声に答えてください」と声があがる。「再処理もすべて遅れているのに、なぜプルサーマルだけ進めるのか」「五者協の検討が遅れている理由すら説明できないのに、プルサーマルだけ計画通り進めますというのは許されない」と口々に怒りの声が続く。 島根現地からは、「現実が遅れている、第二再処理工場の建設も確定していない。現地に永久に使用済MOXが置かれ続けることにはならないということについて、住民には何の説明もないし、何の保障もない。その下で、なぜプルサーマルだけを強引に進めるのか」との意見が出された。 「使用済MOXがとどめ置かれるという住民の不安についてはどう答えるのか」と追及の声が上がる。しかしエネ庁は、「政策大綱は国の閣議決定で決まっているのでご理解いただきたい」と言い、「引き続き地元住民に対する説明に努める」と官僚答弁を繰り返すばかり。「装荷せずに置いておいたとしてどのような不都合があるのか」と聞いても、質問には答えず「プルサーマルは計画通り着実に進めていく」と言うだけだった。 交渉の中で国は、住民の不安の声、真摯な訴えにいっさい耳を傾けようとしなかった。とにかくプルサーマルだけは何が何でもスケジュール通り進めるという姿勢を頑なにとり続けるしかなかった。 一方、今回の交渉を通じて、国側から重要な確認をいくつも取ることができた。特に、六ヶ所再処理と「もんじゅ」の実態面が遅れている上に、第二再処理工場に関する準備的な検討も大幅に遅れており、なぜ遅れているのかの理由すら説明できない状況にあることが具体的な形で明らかとなった。使用済MOX燃料の処理の方策=第二再処理工場は、実体も何もない幻影のようなものに過ぎないということがより一層明確になった。 この結果を各地で報告会等で広く知らせていこう。「現実も検討も著しく遅れているのに、なぜMOX装荷だけを急ぐのか」という声を集め、それぞれの地域で国・電力に対し改めて説明を求めよう。その活動をベースにして、自治体や地方議会に再考を迫ろう。各地の運動の連携した力でMOX装荷を中止させ、プルサーマル凍結を勝ち取ろう。 |
(09/05/20UP) (09/05/23 参考資料へのリンクを追加) |