またも関電の高浜原発MOXペレットに多数の不良品
不良品の内容やデータはいっさい非公開−BNFL事件の教訓はどこへ
関電は事実と原因を徹底調査しすべてを公開せよ
九電玄海MOXは大丈夫か−九電・保安院は直ちに調査せよ


2009.8.25 美浜の会

 高浜原発3・4号機プルサーマル用のMOX燃料ペレットについて、1つの検査項目に「目標値の範囲」を超えるものが見つかり、関西電力は燃料集合体4体分のペレットを廃棄にし、改めて作り直すことにしたと8月19日に発表した。両号機とも8体のMOX燃料を装荷する予定だったが、4号機は4体に減らし、あくまでも2010年度にプルサーマルを開始する。そのように輸入燃料体検査申請書の内容変更を行うという。
 しかし、その問題の検査項目とは何なのかさえ「企業機密で公表できない」。相手のメロックス社から「より詳細なデータの提供を拒否された」。許容範囲を超える事態が起こった原因については、メロックス社から情報を得ることができないという。BNFL事件のときには、仕様範囲や検査方法は公開されていたのに、それより明らかに後退している。これでもBNFL事件の教訓を踏まえて安全性の対策を立てたと言えるのだろうか。
 さらに、「メロックス社はこれまでの経験に基づき、当該ペレットはMOX燃料として採用が可能」だと主張したという(後掲の関電プレス発表)。ということは、他社用MOX燃料ペレットでは、このような許容範囲外でもすでに採用しているということではないか。
 このような姿勢のメロックス社では、その検査記録さえ疑わしいというべきだ。検査記録の正しさは、独自の検査によってしか確認できないが、関電の抜き取り検査は、ペレットについては3項目だけしかない。他はすべてメロックス社作成の記録をただ見るだけなのである。
 関電は今回の事態について、福井県民や国民が納得できるよう情報公開して具体的な説明をするべきだ。それができない限りメロックス社のMOX燃料は使うべきでない。保安院は、この問題を直ちに調査し結果を公開するべきだ。九州電力など他社について、同様の問題をもつペレットが採用されていないかどうか調査する必要がある。それまでMOX燃料の装荷をしないよう指示するべきである。佐賀県など自治体は、少なくとも県民に納得のいく説明がなされるまで、MOX燃料の装荷を了承すべきではない。

1.この問題をめぐる問題点・疑問点
 今回の問題は、MOX燃料ペレットの検査項目の一つで起きている。ペレットの検査項目には、国が定めている項目(最後に掲載の表左欄)と、関電等が自主的に定めている項目(同表右欄)がある。今回の問題は、今年6月の検査の際、自主検査の性状関連7項目のうちの1項目で起きている。その項目について、メロックス社の検査記録を元請けの原燃工が確認する作業において「一部のペレットで目標値の範囲内に収まらない測定値を示すものがあったため」、それが関電に連絡されたという。
 そのようなペレットが4体分あり、それらを関電は品質が確保されていないと判断して、使用しないことにした。そのことは、関電が8月19日付プレス発表で、「製造体数を、現計画の16体から品質が確保されているペレットを用いた12体に変更し」と述べていることから明らかである。
 しかし、これら以上のことは明らかでない。最大の問題は情報の非公開にあるが、それも含め以下で問題点・疑問点を抽出する。

(1)実際に起こった具体的な事実が公表されない
 自主検査の性状関連7項目のうち、どの1項目で不良品が出たのかさえ公表できないと関電はいう。どのような検査で、どのような量が、どれだけの「目標値の範囲」を、どの程度超えたのか。超えたペレットは検査したうちのどれだけの割合だったのか、すべてについて何も公表していない。
 また、なぜ4体分だけが不合格になり、他の12体分は合格なのか、その区別はどこにあるのかも明らかでない。
 BNFLの場合は検査項目とそれぞれの仕様(目標値の範囲)等が公表されている(1999年11月1日付最終報告書の表−1(1/3))。例えばペレット外径については仕様の範囲が8.179/8.204mm、検査方法は(5,6)判定(抜取200個中、不良品が5個までなら合格)などと書かれている。そのときは実際のデータも公表されたので、仕様の範囲を超えたものがどの程度あったのかが、誰の目にも明らかであった。ところが今回は、どの検査項目かさえ公表されないのだからすべてが非公開なのである。これでもBNFL事件を踏まえて安全性を確保する対策を立てたと言えるのだろうか。
 関電は具体的事実を公表しないことについて、「企業機密」だとしている。しかし、BNFLが公表したのと同様の情報がなぜ「企業機密」になるのか。これで、県民や国民が承知すると考えているのだろうか。

(2)メロックス社は「これまでの経験に基づき」採用可能と主張
 関電のプレス発表では、メロックス社は「これまでの経験に基づき、当該ペレットはMOX燃料として採用が可能」と主張したという。
 同じものについて、メロックス社は合格だと判断し、関電は不合格だと判断するような事態がなぜ生じたのか、契約上ではどうなっていたのかが問題になる。
 また、「これまでの経験」とは、このようなペレットをメロックス社は他では採用してきたということではないか。例えば、九電や四電などに対しては、これで押し通したのではないかとの疑いが当然生じてくる。

(3)なぜ多数の不合格が起きたのか、その原因を関電はつかむことができない
 8月20日付福井新聞記事によれば関電は、このような多数の不合格が生じた事態の原因については、「メロックス側でほぼ推定し改善策を講じると聞いているが、十分な情報を得ていない」と説明するにとどまったという。このようなことでは、ペレットの信頼性について関電は責任がもてないということではないか。これでは安全性が保証されないことになる。

(4)メロックス社のMOX燃料に信頼性はあるのか
 メロックス社は仕様範囲外でも採用可能だとの態度を押し通そうとした。しかも、前記福井新聞記事によると、関電はメロックス社から「より詳細なデータの提供を拒否された」という。このような、データの提供を拒否するというメロックス社の姿勢そのものに基本的な問題がある。
 これでは、メロックス社の作成する検査データが一般的に疑わしいと見なさざるを得ない。そして、現行ではメロックス社のペレット検査データに対する独自の抜取検査チェックは、国の検査項目のうち3項目(直径、密度、外観)だけでしか行われていない。後は記録確認だけなのだ。
 メロックス社作成の記録に不正はあり得ないという判断が前提になって安全性が確保されているはずだが、今回のメロックスの姿勢を見る限り、この前提に疑問が生じるのである。

2.関電、保安院、県は直ちに事実を調査し、情報を公開せよ
 上記の問題点・疑問点からすれば、関電や保安院、地方自治体は当面直ちに次のような調査をし、情報公開して説明するべきである。MOX燃料の装荷は当面中止するべきだ。

1)関電は、BNFL事件の責任を自覚し、今回の問題についてすべてを明らかにし公表せよ。自主検査の性状関連7項目のうちのどの項目かさえ「企業機密」で公表できないなどというのは一般に通用しない。メロックスから「より詳細なデータの提供を拒否された」ことに甘んじるような姿勢で、どうして安全性に責任をもつことができるのか。
 BNFLのときはペレット外径で問題になったこと等や、その内容や基準などが公表されている。今回、それより明らかに後退した姿勢で、どうしてBNFL事件を踏まえて安全性を確保するという対策を立てたと言えるのだろうか。

2)保安院は、今回の事態について、何が起こったのか具体的に把握せよ。九電のペレットは大丈夫か調査せよ。メロックス社に調査員を直ちに派遣して事実を調査するべきだ。
 保安院はまず、関電のペレットに多数の不良品が出たという事実そのものについて、原因も含めて徹底調査するべきである。問題がないという12体を検討するのではなく、不合格になった4体分のMOX燃料について調査するべきだ。
 メロックス社は「これまでの経験に基づき、当該ペレットはMOX燃料として採用が可能」と主張したと関電は公表している。「これまでの経験」の中には九電のMOXペレットなども入り得るのではないだろうか。九電は今回問題の検査項目をどう処理したのか、さらにすべての検査項目について問題はないのか、高浜MOX問題に照らして具体的に調査するべきである。
 2008年2月1日に九電が発表した製造管理用部品を製品に使用したという問題が発生したときは、関電はその問題が自社MOXで起こらないための措置をとっている(同年3月17日付関電報告書)。つまりこの問題では事実上の水平展開が行われている。MOXペレットのデータ問題という重要問題では、なおさら水平展開がなされて当然である。

3)福井県など自治体は、関電が詳細を公表できないような姿勢では、とうてい県民は納得できないという立場を堅持し、具体的な情報の公開を迫るべきである。情報が公開されない限り、MOX燃料の装荷を了承するべきではない。

4)特に差し迫っている玄海3号機へのMOX燃料装荷については、以下の点が問題になる。
関電と同じ自主検査項目がどうなっているのか、そのデータがどうなっているのか九電は調査して公表するべきである。
佐賀県は九電に対し調査をするよう指示または要請するべきである。少なくともこの問題が明らかになるまで、MOX燃料の装荷を了承するべきではない。
九電のMOX燃料については、別に製造期間の問題がある。輸入燃料体検査申請は製造開始の30日前には提出しなければならない。九電が申請を出したのが2007年9月3日なので、製造許可が下りたのは30日後の10月3日となる。その6日後の10月9日に九電はペレット成型を開始している。ところが、九電用のMOX燃料製造は実際にはプルトニウムとウランを混ぜる2次混合から始まるのである。2次混合の開始はペレット成型よりかなり前であるはずだ。それがいつかははっきりしないが、わずか6日前ということはないと思われる(ちなみに、九電は10月1日に社員を派遣している)。九電は製造許可が下りるより前に2次混合を開始していた可能性があるのではないだろうか。九電はこの疑問に答える必要がある。



<資料>(下線は引用者)

■関電のプレスリリース

2009年8月19日
関西電力株式会社

高浜発電所3、4号機でのプルサーマル計画における
MOX燃料の製造状況について

 当社は、高浜発電所3、4号機への導入を目指して製造中のプルサーマル用(MOX)燃料について、品質の確保を最優先に厳しく対応した結果として、製造した燃料ペレットの一部を採用しないこととし、今回の製造期間における製造体数を16体から12体に変更することとしました。
 これに伴い、今後、経済産業省に対し、輸入燃料体検査申請書の内容変更を行う予定です。
 当社は、今後とも安全を最優先に、一歩一歩着実にプルサーマル計画を進めてまいります。
 当社では、今年1月30日から行っている仏国メロックス社 メロックス工場での燃料製造について、製造期間を通じて社員を常駐させ、品質保証活動の確認を行うなど、品質が十分に確保できるよう、慎重に進めています。
 また、より高い品質を確保するために、国の輸入燃料体検査項目に加え、当社と元請会社である原子燃料工業株式会社(以下「原燃工」という)、メロックス社の3社で各種の自主検査を行っています。
 その一環として、今年6月、原燃工とメロックス社がペレットの性状を確認するための自主検査の一つを実施したところ、一部のペレットで目標値の範囲内に収まらない測定値を示すものがあったため、その連絡を受けた当社はこれまでの間、原燃工、メロックス社の両社とともに検査の結果を慎重に確認してきました。
 メロックス社はこれまでの経験に基づき、当該ペレットはMOX燃料として採用が可能だとしていますが、当社と原燃工では最終的に厳しく対応することとし、当該ペレットを採用しないこととしました。
 このため当社では、今回の製造期間における製造体数を、現計画の16体から品質が確保されているペレットのみを用いた12体に変更し、慎重に製造を進めることとしました。
 なおこれに伴い、高浜発電所への装荷体数を、3号機8体(変更なし)、4号機4体(8体で申請済)に変更することとしています。
以 上


■ペレットに関する検査項目(2009.8.19関電記者発表)
検査で「目標値の範囲内に収まらない測定値」を示したのは、下表の右側欄の性状関連7項目のうちの1項目だが、それがどの項目かは公表できないとのこと。

ペレットに関する輸入燃料体検査項目 ペレットに関する自主検査項目
輸入燃料体検査は、電気事業法第61条に基づく検査の合格基準である「燃料体の技術基準に適合していること」を確認し、燃料が健全に使用できることを確保するための検査。 自主検査は。当社、原燃工、メロックス社の三社が、輸入燃料体検査項目に加え、より高い品質の燃料を調達するため、各製造工程で自主的に行っている検査。
<性状に関わる検査項目>
 ・プルトニウム含有率
 ・プルトニウム組成
 ・U235濃度
 ・不純物
 ・水素含有率
 ・ボロン当量
 ・(U+Pu+Am241)含有率
 ・O/M比
 ・プルトニウム均一度討開
<性状に関わる検査項目>
 ・核分裂性プルトニウム含有率
 ・全不純物総量
 ・蒸発性不純物
 ・介在物
 ・結晶粒径
 ・空孔分布
 ・熱的安定性
<その他検査項目>
 ・外観
 ・寸法(直径)
 ・密度
<その他検査項目>
 ・プルトニウム含有率識別マーク
 ・ペレット高さ
 ・端面形状
 ・端面直角度


(09/08/26UP)