関西電力のプルサーマルに関する新聞広告のデタラメ


 関西電力は、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料をウラン燃料用原発で使うプルサーマル計画を福井県・高浜原発3・4号機で2007年度までに開始しようとしています。そのために今年3月中に海外のMOX燃料製造会社と製造契約を結ぶことを表明しています。
 このプルサーマル計画に対しては、危険な原発をさらに危険なものにすると地元住民や周辺地域から不安の声が出ています。関西電力には、当然ながら、プルサーマル実施会社として、正確で具体的なデータや情報、あるいは事実に基づく広報・宣伝活動が社会的に要求されています。
 しかし、関西電力のプルサーマル計画に関する新聞広告では、事実とは違う内容が誇張されて表現されていたり、具体的な情報を示さずにデタラメな結論が書かれていたりします。とりわけ安全性が問題とされる原子力を扱う企業が一般消費者に虚偽の広告を行うことは問題であり、ただちにその姿勢が正されるべきです。

1.福井新聞2004年2月14日号掲載の広告について

1.1 「<エネルギー資源の可採年数> ※プルトニウムの利用によりウランは数倍から数十倍利用年数が延びます」について

 広告冒頭で「エネルギー資源の有効活用をめざすプルサーマル」とキャッチフレーズが入り、グラフ<エネルギー資源の可採年数>の中で、「※プルトニウムの利用によりウランは数倍から数十倍利用年数が延びます」と書いています。読者がこのグラフと説明を見れば、プルサーマルを実施すればウランの利用年数が数十倍にもなるかのように思うでしょう。

 しかし、このグラフは、グラフ下に小さな文字で「※高速増殖炉での利用を含む」と書かれているとおり、「高速増殖炉での利用」を前提に、ウラン資源の利用年数が延びることを示しているのであって、プルサーマルによってウラン資源の利用年数が延びることを示すものではありません。「プルサーマル」の有用性についての宣伝なのに、関係のない「高速増殖炉」を持ち出して、「エネルギー資源の有効活用」を示すのは、事実に基づかない誇大宣伝です。

1.2 MOX燃料の利用実績について

 関西電力(株)若狭支社長の藤谷氏が対談の中で、「プルサーマルはフランスやドイツで30数年の豊富な実績があり現在でも安定的に行われています。わが国でも、美浜発電所などで実証実験が行われ安全性が確認されています」と述べ、グラフ「MOX燃料の海外での利用実績(装荷体数)」を掲載して、関西電力がプルサーマルを実施するための実績が国内外で十分蓄積されていることをこの広告は伝えようとしています。

 しかし、そもそも、プルサーマルの実績を示すための指標としては、燃料の装荷体数だけでは不十分です。
(1)全体の燃料集合体数に対するMOX集合体数の割合
(2)燃料に占めるプルトニウムの割合(富化度)
(3)燃料が取り出されるまでにどれだけの熱を産み出したかの程度(燃焼度)
を抜きにしては実績が語れないのは常識です。
ところが、この広告では装荷体数のみのデータしか示されていません。これでは、プルサーマルの実績を示したことになりません。関西電力は(1)〜(3)の具体的なデータも示すべきです。このように高浜原発でのプルサーマルの安全性を保証する国内外の具体的な実績が示されていないのに、「実績がある」と広告するのは誇張です。

 例えば、国内の実績について以下に具体的に事実を示します。
広告のグラフ「MOX燃料の海外での利用実績(装荷体数)」では、日本での実績としては6体となっています。この6体とは、美浜1号で4体、敦賀1号で2体です。このような微々たる実証試験までも「実績」といわざるを得ないくらい、現実には国内での利用実績はないのが実情です。
 以下の表は、実証試験での実績値と高浜原発プルサーマルで計画されている条件を比較しています。

MOX集合体数比 集合体平均富化度(核分裂性) 燃焼度(MWd/t)
美浜1号※1 4/121=3.3% 3.11% 24,000
敦賀1号※1 2/308=0.65% 3.18% 26,400
高浜4号※2 40/157=25.5% 6.1% 45,000
※1 「わが国におけるMOX燃料の照射実証および照射後試験(1997)」(日本原子力学会誌vol.39,No.2,pp.93〜111)より
※2 1997年11月11日付関西電力作成「プルサーマル計画について」より

 MOX集合体数比、集合体平均富化度、燃焼度のいずれにおいても高浜原発での計画は、美浜1号、敦賀1号の実績値を圧倒的に上回っています。このような条件の全く異なるものを引き合いにだして、「安全性が確認されています」とは誇大広告にほかなりません。
 さらにグラフでは、「日本」の個所で棒グラフが点線状に大きく延びており、これでみると、フランス、ドイツについで日本は3番目の実績を持っているかのようです。この点線の棒グラフの上には小さな※印がついており、その※印の解説を見ると、小さな文字で「『ふげん発電所』での利用実績を含む」と書かれています。
プルサーマルとは、通常の軽水炉でMOX燃料を燃やすというものです。「ふげん」は新型転換炉であり、通常の軽水炉ではありません。このグラフで、「ふげん」での燃料装荷をあたかもプルサーマルの実績であるかのように載せることは場違いです(念のため付け加えれば、「ふげん」で使用されているMOX燃料の富化度は1.3〜2.1%にすぎません)。
 海外の実績についても同様です。詳しくは述べませんが、富化度や燃焼度の条件が異なるため、高浜原発でのプルサーマルの安全性を示すものではありません。

1.3 「発電所でできる電気の約30%はプルトニウムによるもの」について

 広告の中で久保寺昭子氏(東京理科大学名誉教授)は「発電所でできる電気の約30%はプルトニウムによるもの」と述べています。関西電力は、グラフ「ウランとプルトニウムによる発電量」を掲載して、通常のウラン燃料による運転とプルサーマルとで、「発電量」という量的な比較で、両者に質的に違いがないかのような印象を与えようとしています。

 この広告が示そうとしている事実は、通常のウラン炉心では、ウラン238は中性子を吸収してプルトニウム239になり、そのプルトニウム239も核分裂によって発電に寄与しているということです。
 しかし、肝心の通常のウラン炉心とMOX炉心では質的に大きな違いがあることについて全く触れていません。ウラン炉心では、ウラン238が変化して生じるプルトニウム239が均一に分布することになります。ところが、MOX燃料では、ウランとプルトニウムを燃料工場で人工的に混ぜるため、プルトニウムが均一に分布せず、いわゆるプルトニウム・スポットというプルトニウム濃度の高い部分が生じてしまいます。さらに、核分裂の度合いの異なるMOX燃料集合体とウラン燃料集合体をモザイク状に配置します。このため、プルサーマルではウラン炉心と比べて炉が不安定になり、制御が難しくなります。これはウラン炉心と異なるプルサーマルの本質的な特徴です。関西電力の広告では、この重要な点を意図的に隠しています。

1.4 「プルサーマルを行うことで、ウラン資源を約25%節約することができます」について

 藤谷氏は「プルサーマルを行うことで、ウラン資源を約25%節約することができます」と発言しています。
25%という数字は、資源エネルギー庁が公開している資料『核燃料サイクルのエネルギー政策上の必要性』の図51と同じで、単純な計算上の話です。それを前提とすると、再利用分のうち、MOX燃料は13%、回収ウラン燃料は13%と見積もられ、その合計が25%となっています。つまり、プルサーマルによる寄与は13%に過ぎないのです。
「プルサーマルを行うことで、ウラン資源を約25%節約することができます」と宣伝することは、明らかな虚偽宣伝、あるいは誇大広告というべきです。

1.5 「高レベル放射性廃棄物の量を半分以下に減らすことができます。」

 藤谷氏は「結果的に高レベル放射性廃棄物の量を半分以下に減らすことができます」と対談の中で述べています。
高レベル放射性廃棄物とは、「使用済み燃料の再処理工程において排出される放射能レベルの高い廃液、またはこれの固化体をいう」(原子力百科辞典 ATOMICA)。このような放射能は核分裂数または発生エネルギーに比例して産み出されます。それゆえに、使用済み燃料から再処理でプルトニウムを取り出し、それからMOX燃料をつくって燃料としても、その分だけ高レベル放射性廃棄物が増えます。その量は、同量のウラン燃料を使用した場合の発生量と基本的に変わりません。それゆえ、プルサーマルを行えば高レベル放射性廃棄物が半分以下に減るというのは虚偽です。

1.6 「使い終えた燃料には、資源として再利用できるウランやプルトニウムという物質が90%以上も含まれています」について

 藤谷氏は「使い終えた燃料には、資源として再利用できる物質が90%以上、燃えないで残っているのです」と述べ、それに続けて、「そのなかのプルトニウムとウランを混合したものをMOX燃料と言います。これを再利用して発電することで有効に活用していくのです」としています。
 また、広告最下段の「プルサーマルとは」の囲みの中でも、「使い終えた燃料(これを使用済燃料といいます)には、資源として再利用できるウランやプルトニウムという物質が90%以上も含まれています。この使い終えたウラン燃料からプルトニウムを取り出し、再びウランと混ぜ合わせてMOX(モックス)燃料という新しい燃料にして、再び原子力発電所で使用することを『プルサーマル』といいます」と、同じ主旨の記述があります。
これらの発言や記述を通じて、関西電力はプルサーマルを実施することで、使用済み核燃料の中に90%以上残っているウランやプルトニウムが再利用できるかのごとく宣伝しています。

 しかし、このような関電の広告内容は明らかに虚偽です。なぜなら、例え使用済み燃料中のウラン235やプルトニウムを回収し、新たなMOX燃料として使用することができたとしても、余分なウラン238は再利用不可能な劣化ウランとして廃棄される以外になく、ウラン238を全量利用することは不可能だからです。
 事実、関西電力は現在、ウラン濃縮工程を米国USEC社(民営化されたDOEの濃縮部門)等に委託しており、濃縮工程で生み出された劣化ウランをUSEC社に無償譲渡しています。無償譲渡の理由について関西電力は、「(劣化ウランは)不要なものだから」としています(2003年4月28日−関電広報部)。関電の広告通り、使用済み燃料の90%以上、つまりウラン238全量を資源として、プルサーマルで再利用できるのであれば、劣化ウランは「不要なもの」ということにならないはずです。劣化ウランのアメリカへの無償譲渡という関電が実際に取っている行動は、関電の広告内容と明らかに矛盾しています。

1.7 「原子燃料サイクル図」について

 広告の「原子燃料サイクル図」は、「原子力発電所→再処理工場→MOX燃料工場→原子力発電所」の循環が何度も繰り返されるような印象を与える図になっています。しかし、
 これは現実と全くかけはなれたものです。使用済みMOX燃料は再処理できません。サイクルとして何度も循環するのではなく、現実には一度きりです。このような「サイクル図」は誇大広告です。


2.福井新聞2003年11月26日号掲載の広告について

 「MOX燃料の製造過程から原子炉への装荷まで、すべての工程で厳しいチェックを確実にする『人のチカラ』。そのレベルアップのために、品質保証に関する専門教育の充実、監視員・検査員の資格制度の導入など、社内体制の強化を行いました。」とあたかも品質保証体制が十分整っているかのような印象を読者に与える文章になっています。(下線は引用者)

 この広告を出した11月時点では、関西電力の品質保証体制について国が審査をしている最中でした。関西電力はBNFLデータ不正事件の反省に立って、2003年10月23日付報告書「海外MOX燃料調達に関する品質保証活動の改善状況について」を国に提出したのです。それなのに、品質保証体制があたかも確立しているかのような広告を一方的に出したのです。国の審査中なのに品質保証体制があたかも確立したかのように宣伝するのは虚偽宣伝にあたります。事実、2004年2月5日に出された国の評価では、下記のように、関西電力の品質保証体制の不十分点を指摘しています。

原子力安全・保安院の評価(2004.2.5)より引用(下線は引用者)

4.2.3. 品質を維持するための従業員の力量管理や教育訓練の体系化の不足
 関西電力の改善報告書では、社内体制の整備により、品質保証組織や独立品質監査部門を設置強化したとしている。
 これに対し当院としては、関西電力改善報告書が提出された時点において、審査、承認を行うべき地位にあるマネージャー以上の者が有すべき力量の設定がなされておらず、これらの者による的確な社内意思決定を行うには不十分であると判断した。例えば、品質保証担当が基礎的名知識を具備するために必要なISO9001審査員研修が十分になされていなかった。これらの理由から当院は、力量設定と教育訓練が体系化されていないことを指摘した。
 この指摘に対し、関西電力は、新たに本年1月9日に「原子燃料部門品質保証通達」を定め、この中で、力量管理及び教育訓練に関する必要事項を定めたとして、当院に報告した

立入り検査後の評価
5.2.2. 品質保証体制の構築状況について
一層の改善を行うべき点
4)品質保証体制を実行あるものとして定着させるためには、チーフマネージャーを含む管理職の力量が重要であり、早急に品質保証体制に関する理解度のばらつきをなくすとともに、全員の理解度を高めることが必要である。