九電は明日(15日)、MOX燃料の装荷を開始しようとしている

国のMOX燃料検査(輸入燃料体検査)は極めてずさん
国の検査に合格したから「安全」とはいえない


◆MOXペレットの「不純物」検査では、ウラン燃料と同じ4元素のみ
◆4元素以外に「不純物」検査でどの元素を取り上げるかは電力会社まかせ

佐賀県は、九電の自主検査に関する調査結果を公表し説明せよ
少なくともそれまでは、MOX装荷を認めるな


 九州電力は、明日15日に玄海原発3号機にMOX燃料を装荷しようとしている。本日14日に九電から県知事に連絡が入り、県知事は県議会議長にその旨を伝えた。県議会の最大会派自民党は、12日に総会を開き、「九電の自主検査結果の検討とMOX装荷は切り離して対応する」と決めた。その根拠は、「国の検査に合格しているから大丈夫」というものだ。しかし、以下で述べるように、国の検査がいかにずさんなものであるのかが明らかになった。佐賀県は、九電の自主検査に関する調査結果を公表し説明することを約束している。少なくともそれまでは、MOX装荷を認めるべきではない。

 10月7日の保安院と市民との交渉で、保安院検査課の職員は、「自主検査に合格する方がかえって安全性を損なう」という見解を披露し、「国の輸入燃料体検査で安全を確認している」として、自主検査の意義・役割を否定した。
交渉で問題になったのは、関電が自主検査で4体分のMOX燃料を不合格にした件だが、自主検査のどの項目で不合格としたのかは「企業機密、守秘義務」で言えないとした上で、保安院は検査項目の一つである「不純物」の項目に即して説明した。関電が不合格にした自主検査の項目が明らかになっていないため、ここでは、保安院が説明した「不純物」検査に関して取り上げる。
 保安院の説明は以下のようなものだった。国の検査では、不純物濃度について、不純物の種類ごとに上限値が設定されている。他方、電力会社は、この国の検査項目に加えて、自主検査で「不純物総量」という検査項目を設けて、総量規制も行っている。保安院は、「自主検査で不純物総量を少なく規制すれば、燃焼が進みやすく、燃料中心温度が上がり、かえって安全性を損なう」と述べ、自主検査に合格した関電のMOX燃料はかえって危険で、不合格にしたものの方が安全サイドに働くという。これは実に驚くべき見解だ。そして、国の検査で不純物濃度の検査を行っているのだから、輸入燃料体検査に合格していれば安全上問題ないとした。
 このような見解は支離滅裂だが、それ以前に、実は、国の不純物濃度検査そのものが極めてずさんなものであることが明らかになった。

◆電力会社によって異なる、国の検査での「不純物」の種類
 国の検査では、どのような不純物について、どのような検査が行われているのか。九電と関電の輸入燃料体検査申請書を比べてみる。すると、九電の不純物濃度検査は28種類、関電の場合は40種類と異なっている(九電の申請書関電の申請書)。なぜ電力会社によって異なるのか。保安院検査課に「不純物」濃度検査の内容について問い合わせた。以下は、その内容である。

◆国が定めているMOX燃料に関する不純物濃度検査の種類は、ウラン燃料と同じ4種類だけ
 燃料についての国の基準は、「発電用核燃料物質に関する技術基準を定める省令」によって決められている。
 <ウラン燃料の場合>
 ・ウラン燃料の不純物検査は、この省令の第4条で、4つの元素(炭素 、ふつ素、水素、窒素)について上限数値が決められている(仕様規定)。この4種類は、被覆管に影響を与えるために規制をかけているという。
 <MOX燃料の場合>
 ・MOX燃料の不純物検査は、この省令の第5条の1号で定められており、「各元素の含有量の全重量に対する百分率の値の偏差は、著しく大きくないこと」を満たせばいいとなっている(性能規定)。具体的数値で規定されているものではなく「著しく大きくないこと」を満たせばいい訳だ。
 ・MOX燃料の場合、国の規制としては、不純物の種類を示す元素はウラン燃料と同じ4種類だけで、それ以外は、何も規制はないという。電力会社が自主的に30項目程度を申請してくるため、それをみているだけだという。そのため、電力会社によって、申請してくる不純物の種類の数も異なっているということだ。

◆電力会社の自主判断に任せっきり。MOX燃料の安全性を判断する特別な国の基準はないに等しい
 それでは、電力会社は、「不純物」の検査項目として取り上げる元素を何によって決めるのかという疑問がわく。これは米国の基準である「ASTMのC833」の基準を根拠にしているとのことだ(ASTMは米国材料試験協会)。
 その場合、保安院としては規制する不純物の種類や値は、4元素以外関知しない訳だから、何を根拠に許可を出すのか。これもはやりASTMを基に判断するのだという。
 国の基準として採用している「性能規定」とは、「いちじるしく大きくないこと」「実用上差し支えがないこと」という極めてあいまいな規定の方法である。配管の肉厚規制の場合にも、この性能規定が使われている。以前は配管の厚みなどを具体的数値で規制していた(仕様規定)。しかし性能規定では、例えば、配管の一部に大きなくぼみがあっても、配管全体で「耐圧を満足している」と判断できれば合格となる。事実、大飯3号機の二次系配管に大きなくぼみがあっても、それでよしとした。このように、極めてあいまいな規制のやり方を、危険なMOX燃料の安全性判断に導入しているのだ。

◆佐賀県議会の自民党会派−「九電の自主検査結果の検討とMOX装荷は切り離して対応」「国の検査に合格しているから大丈夫」
 −ずさんな国の検査では安全性は確保されない。自主検査結果を検討すべき

 以上のことは、輸入燃料体検査として国が行う安全性確認とは、基本的にはウラン燃料と同程度のものだということを示している。いかに国のMOX燃料検査がずさんなものであるかを示している。国の検査がこのような体たらくなのだから、国の検査に合格しているから安全だとは言えない。それゆえに、電力会社の自主検査は事実上その不備を補う意味をもっていることになる。10月7日の交渉でも、国の検査が不十分だから自主検査をしているのではないのかとの疑問の声が上がったが、まさにそのとおりなのだ。
 とりわけ、玄海原発のMOX燃料には「関電が不合格にした燃料が入っている可能性は否定できない」と保安院が明言している以上、自主検査の結果が重要な意味をもってくる。
 佐賀県議会の自民党会派は、12日の総会で、「自主検査結果とMOX装荷は切り離す」として、九電の自主検査の結果を検討する前にMOX装荷を了承することを決めた。その理由として、「関電のMOX燃料は国の検査にまだ合格しておらず、既に国の検査に合格している九電のMOX燃料とは違う」ことをあげている。
しかし、問題になっているのは、関電の自主検査で不合格品が出て、それと同じレベルのものが九電MOX燃料にも入っている可能性があるということだ。これは、「国の検査に合格している」こととは別の問題である。さらに、上記で述べたように、国の検査そのものが極めてずさんであり、国の検査に合格したことで安全が確保されるとはいえないことも明らかになった。これは、不十分な国の検査を事実上補完する役目を果たしているのが自主検査であり、自主検査の結果を十分に検討する必要があることを一層強く示唆している。
 佐賀県は、9月議会で答弁した通り、九電のMOX燃料について、自主検査項目とその結果について、調査結果の全てを公開し、具体的に説明すべきである。それまでは、MOX装荷を認めてはならない。

(09/10/14UP)