玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への5つの意見


2005年3月24日 小山英之

玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への意見(1)

 玄海3号機MOX炉心に関する九電の昨年5月28日付申請書は、今年2月10日付で貴委員会に諮問され、2月14日の第9回委員会にかけられました。貴委員会はこの審査のために専門部会を設けることもなく、国民の意見募集もしない方針だと事務局から聞きました。結論を急ぐからですか。これでは事実上、具体的な審査をしないのと同じです。
 高浜3・4号MOXのときは、第95部会が設置されてクロスチェックも行われ、一般からの97の意見それぞれに回答が出されました。福島第一原発3号機(78万kW)のときは第96部会が設置されて約3ヶ月半の第2次審査がなされ、意見募集も行われました。同じBWRながら出力が110万kWと大きい柏崎刈羽3号機のときは第97部会が設けられ、福島を上回る約7ヶ月間の第2次審査がなされ、意見募集も行われました。
 貴委員会の「原子力安全委員会の当面の施策について」によれば、「当委員会は、行政庁の行う設置許可等に関する安全審査について、最新の科学技術的知見に基づいて総合的に審査するが、特に(1)既に設置の許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用、(2)新しい基準又は実験研究データの適用、(3)施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連等に関する安全上の重要事項を中心に審議する」とされています。さらに、「ダブルチェックのための体制については、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会に学識経験者を配し万全を期すこととしているが、更に日本原子力研究所、放射線医学総合研究所等の研究機関の機能を活用する方策を考える」としています。
 高浜3・4号の審査から6年半が経過し、しかも高浜MOXの不正事件を受けて2000年7月に制度が変わっています。MOX燃料に関する新たな実験的知見も得られています。これらを踏まえ、専門部会において慎重な審査を行い、意見募集もすべきだと考えます。


玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への意見(2)

 玄海3号機MOX炉心について、貴委員会はダブルチェックすべきであるにもかかわらず、専門部会を設けず意見募集もしないということです。安全委員だけによる審査とは、審査の作業は何もしないということです。このことは誰に目にも明らかです。
 その理由は、事務局によれば、高浜MOX審査の経験があるからとのこと。しかし、(1)高浜3・4は3ループ87万kWに対し、玄海3は4ループ118万kWと高出力で、それに応じてプルトニウム量やMOX集合体の炉内配置なども異なり、重大事故時の影響も異なります。高浜ではMOX16体中8体を2サイクルで取り出すのに対し、玄海ではすべて3サイクル燃焼させます。一般に、80万kW級審査の経験があれば120万kW級審査は省略が許されるのですか。(2)フランスでは、20機のMOX炉がありますが、それらはすべて80万kW級に制限されています。外国での経験を強調し、それを安全判断の重要な根拠としながら、フランスでも採用しない120万kW級MOX炉の安全審査を事実上省略してよいのですか。(3)日本では、1986年6月段階の計画では、80万kW級での実証実験を、1988年から97年にかけてBWRとPWRでそれぞれ1機ずつ実施してから、実用に踏みきることにしていました。その場合当然、最初の実用には80万kW級がくることが想定されていました。ところが外国での経験などを理由に80万kW級実験を取りやめ、いきなり実用に進むことにしましたが、今度は、高浜3・4や福島T−3という80万kW級の実用がとん挫したために、いきなり玄海3号で120万kW級の実用に踏み切ろうとしています。すべてがなし崩し的ではありませんか。
 その上、ダブルチェックとなるべき第2次審査まで事実上省略するのは、余りにも安全軽視の性急なやり方です。専門部会を設けて審査し、一般からの意見募集もすべきです。


玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への意見(3)

 玄海3号MOX炉心の審査を省略すべきでないという点について、また別の観点から述べます。高浜プルサーマルの審査は1998年秋で、それからすでに6年半の歳月が流れていますが、その間にプルサーマルへの住民や国民の不信感は高まったというべきです。それゆえ貴委員会はこの点にも十分配慮して慎重な審査をするべきです。
 まず、1999年に高浜3号MOX燃料についてデータ不正が起こり、私たち市民がデータ分析を通じて不正を指摘したのですが、関電ばかりか通産省も貴委員会までもが高浜4号MOXには不正はないと頭から決めつける立場をとりました。その後関電は、不正は認めたものの、安全性には問題はなかったとの信じられないような立場をとっています。このような姿勢が美浜3号機事故を招いたことはいまでは周知の事実というべきです。同時にこの不正問題の過程で、MOX燃料の製造・検査にはウラン燃料にはない大きな困難があることが明らかになりました。この点が98年以降に明らかになった重要な一つです。
 次に、福島第一3号機のMOX燃料をめぐる裁判では、東電が具体的なデータの公開を拒んだことに対し、福島地裁はデータ公開をすべきであると判決で述べています。東電の姿勢はプルサーマルに対する大きな不信感を呼び起こしたというべきです。そのためもあって、刈羽村住民投票では、プルサーマル反対の人々の意志が多数を占めました。その後東電の不正事件もからんで、新潟県と福島県ではプルサーマルの事前了解は白紙に戻されました。さらに、高浜MOX燃料については、美浜3号機事故によって安全性全体に不信感がもたれた結果、福井県知事の強い意向によって製造は暗礁に乗り上げています。
 貴委員会は高浜審査当時と異なるこのような不信感の高まりを十分に斟酌し、玄海プルサーマルについては、慎重にも慎重を重ねて厳格で具体的な専門的審査を行うべきです。


玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への意見(4)

 玄海3号MOX炉心について貴委員会の具体的な審査を省くべきではないという点について、さらに別の、安全判断に関する観点から意見を述べます。
 制御棒飛び出し事故に関する今回申請書の解析では、ウランもMOXも燃料エンタルピ(燃料の保有熱量)の最大値が84cal/gとなっています。ところが、平成11年9月の変更申請書の解析ではこの同じ量の値が140cal/gとなっています。今回は、以前の60%しか熱が発生しないよう、解析上のある種の操作が行われたということです。この操作はすでに高浜プルサーマルの時点でなされたことで、公表された第95部会資料でその内容が説明されてはいますが、ここに基本的な問題があります。
 MOX炉心の安全判断は、平成7年6月の「・・・混合酸化物燃料について」(以下、MOX指針)に基づいていますが、制御棒飛び出し事故時の安全性判断の根拠となっているのは新品の(つまり燃焼度ゼロの)MOX燃料を用いた実験結果だけです。ところが、その後高燃焼度燃料を用いた実験が進み、高燃焼度燃料と燃料被覆管の意外な脆弱性が判明したため、貴委員会は「・・・燃焼の進んだ燃料の取り扱いについて」を策定し、安全判断の新たな「基準」を採用しました。ところがこの新基準に従うと、制御棒飛び出し事故時の安全性が成り立たなくなるため、事故解析の方を変えるという姑息な方法が採用されたのです。その結果が前記の燃料エンタルピの引き下げです。本来なら、まだこれから原研で実施予定の高燃焼度MOX実験結果を踏まえて、MOX指針自体の根拠が再検討されるべきです。
 また、この問題に関するP.Blanpainらの新たな論文(TopFuel 2001)では、高浜プルサーマル審査時点にはなかった重要な実験的事実が提起されています。それゆえ、せめて専門部会を設置して、この事実も含めた慎重な検討を行い、広く意見を聞くべきです。



玄海3号機プルサーマル審査に関する原子力安全委員会への意見(5)
 玄海MOX炉は基本的に高浜MOX炉と同等との判断で、審査コストを節約し、予定のスケジュールに合わせるとのお立場のようなので、念のため少し立ち入った意見を述べます。
 第1に、ペレットからのFPガス放出率ですが、これはウラン燃料との差異を典型的に示すものです。高浜MOXの第95部会資料では、FPガス放出割合をウランのそれぞれ1.3及び2.5定数倍とするFINEモデル及びFPACモデルが実測値と比較され、これらモデルは妥当だと結論されています(Q3−9への回答)。また、項目6への回答では、フランスの照射データでは、燃焼度が4万(MWd/t)を超えたところでFPガス放出率の大きな増加が見られるがこれは3サイクル目の出力が高かったせいだとされ、4サイクル目で出力を下げて5万2千まで照射しても放出率の増加はなかった例が指摘されています。しかし、P.BlanpainらのTopFuel 2001によれば、MOXのFPガス放出率は燃焼度が4万付近でウランの定数倍ではなく約5倍にも達する異常な挙動を示しています。燃焼度がさらに高まるといったんは下がるものの5万付近で再び4倍程度に上昇しており、前記回答とは異なります。また、出力との比例関係は燃焼度4万以下で成り立つ関係だと新たに指摘されています。回答の基礎である第95-1-8号には、P.Blanpainらの論文は引用されていません。
 第2にプルトニウムスポットですが、Q3−7への回答は余りにもお粗末です。濃度30%のスポット1個が存在する場合の温度上昇を計算しただけで、FPガス放出率への影響は89年の論文を基に「小さいと考えられる」と予想しているだけです。原子力発電技術機構の2001年(H13)3月公表資料では、MIMAS法によるPWR用MOXに濃度25〜30%のスポットが河原の石のようにゴロゴロと存在するのに、そのような状況が検討されていません。
 ずぶの素人でもこれだけの疑問をもつ以上、専門家の会議による詳しい審査が必要です。