MOX燃料はウラン燃料と基本的に同等の挙動をする、違いは質的なものではなく、量的でわずかなものに過ぎない、というのがプルサーマル推進の根拠になっている。例えば、以下で述べる重要な核分裂生成ガス放出率についてもそのように評価されている。 ウランやプルトニウムの核分裂によって生成される物質(FP)には、キセノンやクリプトンのような気体状のものがあるが、それらは核分裂生成ガス(FPガス)と呼ばれている。それらの大部分は燃料ペレットの内部に保持されるが、保持しきれない部分がペレット外部にしみ出てくる。FPガスの生成された全量に対する外部放出分の割合はFPガス放出率と呼ばれている。 そのFPガス放出率が燃料の燃焼度が高まるにつれてどのように変化するかは、安全性にとって重要な問題になる。FPガス放出率が高まるということは、それだけ燃料の内部にガスが充満して燃料をバラバラにしようとする力が溜まっていることを意味する。同時に、燃料被覆管(燃料棒のサヤ)との間の隙間に放出されたFPガスによって燃料棒内圧が高まるからである。 さて、プルサーマル推進をうたう人たちは、MOX燃料のFPガス放出率はウラン燃料より少し高い(せいぜい2.5倍)だけで、基本的に同等の振る舞いをしていると評価している。この判断が高浜プルサーマルを許可した根拠になっており、その趣旨は第95部会資料に書かれている。 しかし、この説が大ウソであることは、図1を見れば誰の目にも明らかである。図1はフランスのP.Blanpainらが2001年に公表したデータから数値を物差しで読み取って作成したものである。横軸に示す燃料棒燃焼度が40(GWd/t)とか50付近で、MOX燃料のFPガス放出率はウラン燃料のそれの2.5倍をはるかに超える異常な挙動を示している。このような事実があるにも係わらず、MOX燃料はウラン燃料と同等だと無理やり結論づけて、強引にプルサーマルを推進する原子力村の意識は異常だとしか言いようがない。 ここでは、MOXとウランのFPガス放出率の違いと挙動についてもう少し詳しく見ておこう。
このようにして図2で決めた2本の線(線形回帰線)を用いて元の関係に戻したのが、図1に示すMOX関係の2本の線である。これらの線は「指数関数」を表しているが、指数関数とは、要するに複利的な増え方をする関数のことである。 いま一つのモデル的イメージでFPガスの放出を描いてみよう。MOX燃料では、プルトニウム・スポットで核分裂が盛んに起こり、それだけFPガスがそこで発生する。そのFPガスは周辺のウラン結晶粒の隙間(結晶粒界)などに蓄積され保持されるが、やがて燃焼が進むにつれてペレット内部から外部へと通じる亀裂などが発生するために、そのルートを通って外部に出て行く。FPガスの外部への放出経路は亀裂だけとは限らないかも知れないが、ここでは放出ルート全体を代表して亀裂と呼ぶことにしよう。 さて、銀行にお金を預けた場合、複利計算では、利率だけでなく預金の現在高にも比例して次の利息が決まる。これが指数法則と呼ばれるものである。いま、ペレット内亀裂の数を預金の現在高に例え、亀裂の増える率を利率に例えると、指数法則では。次にどれだけ亀裂が増えるかは利率ばかりでなく現在の亀裂数にも比例するように決まる。こうして亀裂が増えるにつれ、それに比例するようにますます亀裂は増えることになる。このような法則にMOXペレットの亀裂数は従っていることを図1は示している。 図1の2本の線の差は、亀裂の始まる燃焼度が何かの理由で違うことを示している。また、燃焼度が40や50で点がバラつくのは、亀裂が確率的に起こることを示唆している。2本の線はそれぞれのバラつきの確率的平均値という意味をもつだろう。 次に肝心の、MOX燃料のウラン燃料との差異を確認しておこう。図2で、ウラン燃料の点は直線上に乗っているとは見なされないので、それを元の図1の関係で見れば、MOX燃料のように指数法則に従っているとは認められないことになる。そこで、図1のウラン点が2次関数または3次関数に従っていると仮定して、2次回帰線または3次回帰線を求めてみる。どちらでもほとんど変わりなくよく合うが、図1では3次回帰線を示している。いずれにせよ、3次回帰線と指数関数的挙動との間には本質的な違いがあるので、MOX燃料がウラン燃料と同等の挙動をしているなどと結論づけることはとうていできない。 このような素人にも分かる単純な事実が、どうして原子力村の人たちには見えないのだろうか。単に色メガネで眺めているだけなら害はないが、それで強引にプルサーマル推進となると人々の安全を脅かすことになる。推進派の人たちでも、真実については真摯な態度で接していただきたいと切に願う次第である。 |