玄海3号機プルサーマルに関する2004年5月変更申請書では、制御棒飛び出し事故の解析について、前回解析と異なる重要な変更がなされている。それは安全余裕を大幅な切り縮める操作というべきものである。
現在のMOX燃料使用に関する安全判断は、原子力安全委員会の1995年(H7)6月付け「発電用軽水型原子炉施設に用いられる混合酸化物燃料について」(以下、MOX指針)に基づいている。しかし、そこでの反応度事故に関するMOX燃料の安全判断は、新品の(つまり燃焼度ゼロの)MOXペレットを用いた実験結果を基礎にしている。 ところがその後、大飯1号や高浜3号から取り出した高燃焼度ウラン燃料(約50,000MWd/t)を用いた反応度事故模擬実験が日本原子力研究所のNSRR炉で行われた結果、高燃焼度燃料は予想外にもろいことが証明された。例えば大飯1号では、燃料エンタルピ(燃料1g当たりの保有熱量)の増分が60cal/gという低い値で、燃料が粉々になり、被覆管は縦に大きく裂けて、粉々燃料の全量が冷却水中に飛び出した。 このような新たな実験的知見を踏まえて、燃焼度の違いに応じて「燃料ペレット−被覆管の機械的相互作用による破損」(PCMI破損)の閾値を定める必要が生じた。そこで原子力安全委員会は、1998年4月初めに「発電用軽水型原子力施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取扱いについて」(RIE報告書)という事実上の新指針を出して、燃焼度に応じたPCMI破損閾値を定めたのである。高浜3・4号プルサーマルの変更申請(1998年5月11日)が出される直前のことであった。
さて、玄海3号機に関する制御棒飛び出し事故解析に移ろう。次図は、中性子束と燃料エンタルピ(保有熱量)の解析結果を九州電力の今回(2004年)と前回(1999年)の申請書で比較している。この事故では、ある一つの燃料集合体中に挿入されている1セットの制御棒が突然飛び出す。すると、その集合体と周辺集合体で急激に核分裂が進み中性子が急増して出力が増え、燃料エンタルピが急増する。しかしその後出力は自然に下がるという様子がグラフで示されている。 まず、中性子束のグラフを見ると今回の方がいくぶん低い値になっているが、これはそのように解析の仕方を変えたためである。次に、エンタルピのグラフを見ると、前回より著しく低下しているのが分かる。この結果は、ウラン炉心がMOX炉心に変わったためではなく、解析の仕方を都合よく変更したためである。 中性子束がピークになっている時点に注目しよう。前回のエンタルピグラフのままだと、燃焼度が25,000以上の燃料はPCMI破損閾値を超えているのが分かる。それらの燃料はすべて粉々になって冷却水中に飛び出すと想定しなければならないが、そのような場合の安全性は保証されていない。そのため、どうしてもエンタルピの解析値を引き下げる必要が生じたのである。本来なら、燃焼度ゼロ実験に基づくMOX指針の方を再検討すべきなのに、このように解析方法をごまかすとは、何という姑息なやり方であろうか(どのように安全余裕を削りとって解析値を下げたかは、第95部会資料で説明されているが、ここでは割愛する)。 もっとも前回解析でも、高燃焼度燃料に関する古い破損の目安値85cal/gを超えて破損する燃料棒数が全燃料棒数の約6%あると計算されている。ただし、この場合の破損は、それほど大きな破損ではない。RIE報告書後は、燃料の粉々破損を想定しなければならない点が質的に異なる。 これまで行われた高燃焼度燃料の反応度事故模擬実験は、まだウラン燃料を用いたものだけであり、高燃焼度MOX燃料を用いた実験は日本原子力研究所においてこれから行われるのである。MOX燃料の方がより厳しい結果をもたらすと一般的に予測できることから、実験結果が出れば、PCMI破損閾値もより厳しくなる可能性が高い。そうなれば安全性は、さらに解析値を下げる操作にゆだねられるだろうが、このような方向は破滅への道であると言うべきである。 |