平成一一年(ヨ)第二五六五号 MOX燃料使用差止仮処分命令申立事件 主 張 書 面 (二) 債 権 者 小 山 英 之、外二一一名 債 務 者 関西電力株式会社 一九九九年(平成一一年)一二月一三日 債権者ら代理人 弁 護 士 冠 木 克 彦 同 岡 田 義 雄 同 武 村 二 三 夫 大阪地方裁判所 第一民事部 御中 記 債務者の平成一一年一二月一〇日付主張書面について、特に争点にかかわる重要な点について、以下のとおり指摘して反論する。 第一、安全評価の前提たる仕様値の保証 一、ペレット外径の仕様値八・一七九〜八・二〇四oが安全評価の前提となっている事に争いはない。問題は、現実の製品が右仕様値を満足しているか否かの品質保証が全数測定なのか抜取検査なのか、という点である。この抜取検査が品質保証である事は、本裁判に提出された証拠によって明らかであるのに、債務者があえて争っているため念のため以下のとおり指摘する。 二、同じ大量に製造するウランペレットは全数測定がなく抜取検査だけであるのに、MOX燃料は全数測定をして、かつ、抜取検査をするのは、MOX燃料は外径調整が難しいため、まず、工程管理上全数測定をしてこの段階で仕様外と計測されたペレットを除外するが、この全数測定の方法上、なお、仕様外のペレットが含まれるため、さらに、抜取検査でJIS規格に従った検査で品質保証がなされる。 最終報告書(甲第一一号証、乙第一号証)の「3−1−1ペレット外径測定について」の項末段で「MOX燃料ペレットの外径研削は、臨界管理等の観点より、国内PWRのウラン燃料ペレットの湿式研削と異なり、乾式で行われることから外径調整が難しいため、全数自動測定を行い、外径仕様外のペレットを除外し、この工程での歩留まりを向上させるために実施している。抜取検査は、検査データを採取するために行われているものであり、全数自動測定と抜取検査の目的は異なるものである。」と述べ、全数測定が「工程での歩留まりを向上させる」目的であることを明記している。甲第一〇号証の三頁はこの関係を図示してより明確にしている。一見して明確なことはウラン燃料との差であり、MOX燃料は「外径のばらつきが大」、「工程管理検査」で「全数検査」、「品質管理検査」で「抜取検査」とあり、ウラン燃料と区別して外径検査を厳格にしていることである。抜取検査の数もウラン燃料とは比較にならないほど多い。 三、また、全数測定後、抜取検査で新たに「仕様外」が発見される事実は最終報告書表3−(1)〜(7)の品質管理認定書をみれば明らかである。債務者の平成一一年一二月一〇日付証拠説明書に別紙として添付されているのがわかりやすいが、「Result」の欄が仕様外のペレット数を表示している。 なお、全数測定の後もなぜ抜取検査で仕様外が存在するかについて一言すると、最終報告書図3−1の図(甲第一〇号証の五頁も同じ)のようにレーザーマイクロメーターで測定するが、ペレットを発光体と受光体の間を通すとき、ぐるぐる全周囲をまわして測定するわけではないから、影に含まれてしまう側は計測されない。この部分が膨らんだり縮んだりしている場合、例えば形状で考えると楕円形、エンタシス形、逆エンタシス形等が「影」の中に入ってしまってあらわれないことがあるため、抜取検査ではじめて発見されることがある。 四、したがって、安全評価の前提となる仕様値を現実の製品ペレットにおいて満足しているか否かは抜取検査による要件を合格しなければ確定しない。右検査を合格しなければ当該ロット全体が不合格とされる。右原則は自明のこととされてきたし、債務者の答弁書でも同趣旨の記載があることは、債権者らの第一回主張書面でも指摘している。 五、しかるに、債務者は主張書面五頁で「抜取検査によりペレット外径を測定し、その測定データがロットの合否の判断基準内であれば、安全評価の前提である仕様値を満たしていることは当然であるが、それは全数自動測定による結果でも満たすことは明らかである」との暴論にエスカレートさせ、以後の論述をその線で統一するようになった。明らかに債務者は抜取検査データが適正であることを証明できなくなったため論点回避の小細工をしている。後に指摘する英国ガーティアン紙(甲第四二号証の一)がいみじくも「のちにBNFLは立場を修正し、日本に輸送された燃料はすべて危険を伴わず原子炉に装荷しても大丈夫だということに顧客の関西電力は満足していると主張した。これが関西電力の裁判での言い分である。なぜなら、安全記録は捏造されていないということを主張すれば負けるからである」(訳三頁、三段目)と指摘した。 なお、債務者は今回の主張について、従前から主張しているとして最終報告書3−1−3の(1)末行を引用しているが、ここで全数測定で仕様値を満足していると書いているのは、全数測定の数値は自動的に仕様値外を除外しているのであるから当然のことを書いているのであって、それが、安全評価の前提たる仕様値を保証しているものではない。 六、本件は高浜三号機用MOX燃料における抜取検査記録捏造から端を発しているところ、債務者が現在裁判で述べるが如く、抜取検査データに捏造があろうとなかろうと、全数自動測定で安全性は保証されているというのであれば、甲第一一号証(乙第一号証)の膨大な報告書を作成する必要もないし、そもそも大問題にもなっていないし、同報告書で高浜四号機用燃料について抜取データ不正があるかないかなど論ずることもなかったはずである。そして、なによりも、現在債務者が本件MOX燃料を装荷して使用しようとする方針を推進せしめたのは、資源エネルギー庁や原子力安全委員会が同報告書に書いてあることを妥当としたからであって、同報告書に書かれていないことが承認されたものではないという事が重要である。同報告書に、抜取検査データに不正がないことは確認できないが、すでに全数測定で仕様値を満足しているから問題がないと、債務者が現在述べているように書いていたら、妥当と判断されなかったことは明らかである。また、一一月二日の福井県議会でも、同報告書が妥当であるという説明しか資源エネルギー庁は行っていない。 第二、拡大する検査データ捏造疑惑 一、英国の全国紙ガーティアンは一二月九日付で、同紙環境特派員ポール・ブラウンの記事を掲載した(甲第四二号証の一)。同記事は「火曜日(一二月七日)には、日本に輸送された燃料(高浜四号機用MOX燃料)もまたデータ捏造されていたという、大いにBNFLに不利な新しい証拠が明るみにでた。これは『データ捏造された疑いのある燃料はひとつもカンブリアの工場から出荷されていない』というBNFLの以前からの主張を直接否定している」と報じている。この中で「核施設査察局(NII)の職員が、事実調査のため派遣された。そして、BNFLの主張は本当ではなく、いくつかの捏造された燃料集合体は確かに日本に行ったようだと政府に報告した」と述べている。同記事における「報告」は未だ公表されておらず今後いかような問題にまで及ぶかは不明である。 二、甲第四三号証は英国原子力施設検査局(NII)の一九九九年七月一日から同年九月三〇日までの第3四半期報告書であるが、その中でBNFLについて中間報告を記載している。つまり「今日までBNFLは燃料ペレット二二ロットで抜取検査データの捏造があったものの、それらは最近日本に輸送された燃料集合体にはいっさい含まれてないと報告していた。しかしながら『異常』と分類されたデータを持つロットが一つあり、そのロットのペレットが最近日本に送られた八体の燃料集合体のうちの二つに入っている」と述べ、英国原子力施設検査局の独立の検証の一環として統計学者が詳細な分析に入ることになっていると報告している。さらに、同報告は原因調査に入るとも述べており立入検査等の調査も考えられる。 三、債権者らはこれまで、本件MOX燃料の抜取検査データに不正捏造があると強く疑わしめる証拠を数多く提出してきた。債権者らは全数測定データと抜取検査データを統計学上の手法を使って検証し、抜取検査データに不正があると疑わせる証拠を示してきたが、前記NIIの検証作業も統計学者が行っていると伝えられており方法論は同一であって誤っていない。 四、以上から、本件MOX燃料について、安全評価の前提たる仕様値が、現実の燃料ペレット外径において保証されていない事が強く推認され、債務者はデータが適正であることを証明しえず、そればかりか、その証明の必要がないかの如くに全数測定で安全評価の保証があると主張するに至ってはデータ適正の立証を放棄したに等しく、データに不正があるものと認定されるべきである。 五、よって、本件MOX燃料におけるペレット外径仕様は安全評価がなされていない規格外ペレットを含んでおり、安全性の保証が存在していない。 第三、安全性に係わる問題 安全性に係わる問題については既に主張書面で述べた通りであり、ここでは燃料設計に係わる基礎的事項を簡単に再確認した後、制御棒飛び出し事故と原子炉冷却材喪失事故時の問題について簡潔に指摘する。 一、安全設計審査指針に適合するための設計方針 債務者は燃料の安全設計に関して、設置変更許可申請書(甲第五号証の二)の中で、8(3)−8頁に「適合のための設計方針」として次のように記述している。「燃料集合体・・・の設計、材料選定、製作及び検査については、・・・等の法令、規格及び基準に基づくとともに、原則として以下に示す法例、規格及び基準に準拠するものとする」として、その法例、規格及び基準の中に(4)日本工業規格(JIS)を含めている。ペレット外径の抜取検査において適用されている「(5、6)判定」はJISZ9015を課したものであると桑原氏は述べている(乙第三四号証一一頁)が、これからも抜取検査こそが設計方針に則ったものであることがわかる。 なお、安全設計の中で燃料棒のペレット及び被覆管の仕様が第3.2.1表に示され、ペレット直径が約八・一九oであること(8(3)−57頁)及びペレット−被覆管間げき(直径)が約〇・一七oであること(8(3)−58頁)が規定されている。そして、この間げきを設けるのは「ペレットから放出される核分裂生成ガス、ペレットと被覆管との熱膨張差、燃焼に伴うペレット密度変化等により被覆管やシール溶接部に過大な応力が加わるのを防止するため」(8(3)−39頁)なのであり、ペレット外径が仕様外となった場合は、このような安全性が保証されない。 二、制御棒飛び出し事故に関する安全余裕の切り縮め 1.この問題について、「安全余裕を切り縮めている」との債権者らの主張の意味は以下のとおりである。 乙第三七号証8−15−25頁図6に、これまでと違う今回の解析手法が集約的に説明されている。一番下のCエンタルピ変化を見ると、従来の解析手法でのエンタルピ値(燃料の保有熱量)と比べて今回手法でのエンタルピ値は大幅に下がっている。そのおかげで、本来ならRIE報告書の新たな基準によって以前(約一〇%)より破損燃料棒の割合が大きく増えるはずのところ、逆に大きく下がったのである。 そのエンタルピの低下をもたらした最も本質的な要因は、AのFQの変更である。制御棒(実際は制御棒クラスタ)の飛び出しはひとつの燃料集合体で起こると想定されているため、その制御棒が飛び出した付近の出力が急激に高まるような出力分布が生じる。FQは、制御棒が飛び出した付近の局所的出力が炉心全体の平均出力に比べてどの程度高くなるかを表す量である。従って@の平均出力にAのFQをかけた量がBの局所出力になり、それからCが導かれている。 エンタルピ評価の解析で使われるそのFQは、Aの実線の「制限値」として表されているが、これを従来の細い実線から、太い実線の値に変更している。時間的に一定の値をとっていたものを、ちょうど制御棒飛び出しによって出力が上る付近で急速に引き下げるようにした。それが下がった分だけ局所出力も下がり、従ってエンタルピも下がったのである。 2.問題は太い実線の下がり方にあり、その下がり方があまりにも急激で、「実現象」を模擬した解析値(点線)にほとんど接近するまでになっている。いくら解析技術が上がったとは言え、「制限値」をどう設定するかは安全余裕をどう見込むかという問題を含んでいるため、自動的に決まる話ではない。点線から相当に離すように「制限値」を決めるならまだしも、点線に急激に接近させている。このことを「安全余裕を切り縮めた」と、債権者らは批判しているのである。 三、原子炉冷却材喪失事故時における被覆管酸化量の評価について 1.原子炉冷却材喪失事故(大LOCA)に関する債務者の解析において、通常運転中の酸化量がまったく考慮されていないと、米国NRCの文書を引き合いに出して指摘したところ、このNRC情報通知書(NRC Information Notice)は「もともと拘束力のあるものではない」などと債務者は抗弁している(主張書面三〇頁)。通常運転中の酸化も被覆管の劣化をもたらすものである以上、事故中の酸化に加えて考慮すべきなのは当然のこととは思わないのだろうか。米国ウエスティングハウス社の技術者が一九九八年四月のNRC会合において、ウエスティングハウス社としては、通常運転中の酸化も考慮してきたと証言しているのと余りにも対照的である。 2.他方、同じく三〇頁において、「ちなみに、高浜四号機において、通常運転中の酸化量を原子炉冷却材喪失事故時の酸化量に加えたとしても、いずれの燃焼度においても判断基準である一五%を十分下回っていることを確認している」として、乙第三七号証を挙げている。この資料に係わる第九五部会は、原子力安全委員会のもとに高浜原発プルサーマルを審査するために設けられた専門部会であり、「コメント回答」は一般から募集した意見に対する安全委員会回答の作成をも含む専門的な検討資料である。通常運転中の酸化量をも考慮したQ8−12はそこで検討された結果であって、債務者が検討した結果ではない。いわば、本来なら債務者が設置変更許可申請書できちんと解析して審査を求めるべき内容を、なんと審査する側の原子力安全委員会の専門部会が親切にも肩代わりして実施したものなのである。 それではそのQ8−12で、通常運転中の酸化量も含めた評価がきちんとされているのかと言えば、それは不明であるといわざるを得ない。なぜならまず、この評価にもっとも必要な「燃料棒外面酸化膜厚変化」(8−12-8頁図5)が、「商業機密に属するので」白紙状態で公開されているからである。資料が公開されずに安全といわれても検証するすべがない。このような「白紙」はこの第九五部会の公開資料の中に極めて多数存在する(甲第四六号証)。 3.次に、これに代えて債務者は8−12−12の添付図を挙げている。しかしここで考慮されている「通常運転時酸化量」がいったいどういうものなのか、何も説明されていないし、他のウラン燃料被覆管の酸化膜厚さの実測データと比べて低すぎるように思える。なによりもMOX燃料被覆管の場合の実測データがあるのかどうかさえはっきりしないが、おそらくほとんどないと思われる。以上により、債務者が引用している添付図がどれだけ信頼に足りるものか、不明だとしか言いようがない。 以上、本件MOX燃料においてペレット外径が仕様値を満足している保証はなく、むしろ、抜取検査データに不正捏造の存在が強く推認されることが明らかであるから、安全評価における安全の保証がなされていないままで債務者が本件MOX燃料を装荷して運転することは、いかなる意味でも許されない行為である事が明らかである。 以上 |