8月29日、原子力安全・保安院は、 東電の損傷隠ぺい・検査記録ねつ造を発表した。その前後から、原発の定期検査を簡略化するという記事が新聞紙面に掲載されだした。8月25日毎日新聞は、保安院が、これまでの「予防保全」から「事後保全」の概念を導入しようとしていると一面トップで大きく報じた。そして東電の不正発表以後、ひび割れがあってもかまわないという「維持基準」、「民間技術基準の導入」等々、原発検査を簡略化する動きが表面化しだした。東電社長は「基準が厳しいからウソをつく」と記者会見で平然と語った。保安院は批判するどころか、「そのとおり」と、待ってましたとばかりに検査制度の改悪を打ち出している。専門家達も一斉に「傷があるから止めるとはおかしい」等とエールを送っている。 この異様な動きは一体何なのか。インターネット上で公開されている資料を調べてみる。すると、今年2月から、保安院が検査制度の抜本的改悪を準備していたことが判明した。その中心部隊が「検査の在り方に関する検討会」(以下検討会という)である。 この検討会には、柏崎刈羽原発所長時代にひび割れの存在を知りながら握りつぶした、あの東電の榎本總明副社長までが「特別委員」として参加している。 今年2月と言えば、保安院は既にGE社員からの内部告発で東電を「調査」していたとされる時期である。そんな中で、保安院と東電が同席して、「検査は事業者の自主性で」「検査の合理性の追求」等々を議論しているのである。全くもって人を愚弄している。この点だけからでも、この「検討会」は即刻解散すべきである。 公開されている資料によれば、6月に「中間報告」を出し、その後も検討を続けている。 検討会の中では、委員達が欺瞞に満ちた言葉で、あるいはあけすけな言葉で、検査の簡略化等々を切望している。議事録や資料が公開されているが、膨大な量となっているので、シリーズにわけて、「検討会」の内容を紹介し、原発の検査制度全体を抜本的に改悪しようとするその内容と狙いを明らかにしていきたい。 今回は、第一回(2月12日)と第二回(3月6日)の議事録を中心に紹介する。 (検討会の資料は→http://www.nisa.meti.go.jp/00000004/04a00000.htm) ■ 検討会は、経産省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会のもとに置かれ、第一回会合が今年の2月12日から始まっている。事務局は保安院。 委員長は、東大の斑目春樹氏、委員は近藤俊介氏をはじめ13人。別に特別専門員として電力・日本原燃・三菱重工などの5名で構成されている。 [委員名簿はこちらhttp://www.nisa.meti.go.jp/text/kichouka/no1-1-1-secchiyoko.pdf]。 ■ 委員長の斑目氏は、第一回目の会議の冒頭挨拶を「究極の責任を持っているところの事業者の自主性をとことん引き出すというところが一番大事なんじゃないかと思っております。どういうふうにしてそれを達成していったらいいかについて、ぜひ活発なご議論をお願いしたい」と結んでいる。キーワードの一つである「事業者の自主性・自立性」である。 ■ 次に事務局を代表して原子力安全・保安院長の佐々木氏の挨拶。これまでも定期検査の検査項目、対象の範囲等について検討してきたが「実は途中でいろいろ挫折を繰り返してきたという歴史でございます」とことわりを述べ、「今回は保安院でございますので、原子力施設全体について、使用前検査や定期検査の在り方についての検討を開始するということで、この検討組織を設けた」と目的を述べる。そして「検査システムにつきましても、リスク・インフォームド、あるいはパフォーマンス・ベースといったような合理性を追求する中で、何をどこまできちんと物事を整理していくかということが非常に大切」とし、「検査の合理性の追求」が関心の中心であることを強調する。 ■ そして事務局の中村主席統括安全審査官が資料の説明を始める。 まず現在の検査制度の枠組みが紹介され、検査の対象として、燃料体検査・溶接検査・使用前検査・定期検査・保安検査・立入検査等を含み、検査制度全般を作りかえることを説明。原発だけでなく、核燃料サイクル施設も含む。まさに壮大な計画である。 第一回会合で最も重要な資料として「検討の視点と課題」[資料5]を説明。強調点をいくつかあげてみる。 ・「30年以上の原子力発電所の運転実績あるいはそれを踏まえたデータの蓄積、さらには技術革新の進展、技術進歩といったようなことを反映しながら、この科学的合理性に基づいて検査制度を検討する。」 「経年変化などを考慮した維持基準としての位置づけを検討すべきではないか。これは、今の供用後検査の技術基準は、新品として完成したときの基準ということで、それが使われた時の基準、維持基準という内容を含んでいない、そういったことを検討すべきではないか」 ・「施設ごとのパフォーマンスの結果を評価して検査に取り入れていく」「現行の制度では安全の実績、トラブルの実績、あるいは経年変化といったようなことにかかわらず、一律の検査が適用されている。他方、アメリカでは、発電所あるいはその施設ごとにパフォーマンスベースでの検査が適用されている」 ・原発の技術基準に民間の技術基準を適用する。 ・定期検査については、国の定期検査項目、事業者に義務づけられている自主検査、事業所が行う検査に分かれているが、それぞれの検査・点検対象の整理 ・定期検査の間隔について、実用炉は13ヶ月ごと、サイクル施設は実質1年に1回となっているが、「長年の運転実績、あるいは科学的な知見の蓄積といったようなことから、個々の系統とか設備ごとに最適な保守点検間隔の考え方の整理」 ・「もんじゅ」などの研究開発段階の炉については、すべて原子炉等規制法と電気事業法の「双方の規制がかかっている、二重適用されており、より合理的な検査の在り方を検討すべきではないか」 ■ そして議論の中での際だった発言を2、3紹介しよう。 まず、あの東電の榎本副社長(柏崎原発のひび割れを隠した張本人)は、「事業者が検査の直接的な実施主体であることが効果的」と述べる。すなわち傷があってもなかったことにしてしまう自らのやり方が「効果的」だと推薦する。「(定型化された国の検査に)合格することで安全が確保されているとの錯覚に陥ることがある。・・・(検査の)実施時期や頻度の選定といった点まで柔軟性がなく、・・・効果的・効率的とは言えない」と電力会社の「自律的検査」の必要性を説く。関電の松村氏もあけすけである。検査を「安全上重要なもの」と「運転の維持・継続上重要なもの」とに区別するよう主張し、「運転継続だけに必要なものについては、もう事業者に任せていただく。そういった割り切った考え方を取り入れて明確に打ち出して」と要求する。 ■ 他方、敦賀の河瀬市長は、「(定検が)やはり短くしていくということになりますと、やはり安全性に不安を抱くことも考えられます」と述べた後に、遠慮がちに、リアルなところを力説する。「当然短くなるということは、宿泊においてもその期間が短くなってくるというようなことも現実にございますし、(定検が)24時間体制でありますと、夜出る人は当然昼に寝たりしますので、そうしますと、実は近辺に民宿がありまして、民宿ではとても昼に寝られんというようなことで、そこを避けて他のところへ行ってしまうというような例があったり、・・・できれば地元を使ってほしいというのは、これはもう私の立場でありますので」「ほんとうに詰め込み式で、・・・金を使う時間がないというんですね。要するに宿泊して、敦賀の町の中で食事をしたり、余裕があれば一杯飲みに行こうかなと、そういうことをする時間的余裕がないということで、非常に地元といたしますと、そういう経済的効果は落ちてくることも事実でありますので・・・」と。これに対しては、東電の榎本氏が「アメリカではもう24ヶ月サイクルで運転している。プラントの停止期間というのは平均38日です」とアメリカに比べて日本は出遅れているとたしなめる。 ■ 第2回目では、第一回の議論を踏まえて「検査の視点と課題(再整理)」が出されている。アンダーラインが新しく付け加わった部分である。より露骨なものとなっている。 (再整理)版はこちらを参照 http://www.nisa.meti.go.jp/text/kichouka/no2-1.pdf |