当会は昨年10月に、この問題でリーフレットを発行したが、そこでの下北海域の放射能汚染は、ほぼ全面的に設置許可申請書の考え方・方法に基づいて計算した結果であった。しかし、この方法には、放出放射能を北の泊方面や海岸方面に近寄せないための細工が施されていた。そのため、この細工を取り入れないような方法を独自に開発して解析し直す必要があった。 その新たな解析の結果を、前回の結果と比較するように図示する(左が今回。海中放射能濃度は、放出口から毎秒1ベクレル放出される場合。実際の濃度は後掲の表から計算できる)。 前回と比較した特徴は、@放射能が海岸に沿って北に向かうようになり、図内一番北の泊地区も相当に汚染される。A前より海岸に放射能が近づいている。 ただし今回は、海流測定データのある範囲から余り出ないように計算領域を限っている(計算範囲を広げるのは今後の課題)。 |
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放出開始から360日後の海中放射能濃度(Bq/cm3)[左が今回、右が前回解析] ※東方向における計算手法の若干の修正に伴い画像を差し替えました(2/8) |
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■前回と今回の解析方法の違い 海中放射能濃度の計算には、設置許可申請書にも書かれている拡散式を用いるが、その式は海流速度を含んでいる。この海流速度(向きと速さ)をどう評価するかで、拡散の仕方が大きく違ってくる。 海流評価のため、21地点の水深5mと25mで観測が行われ、そのうち6月、8月、11月、2月の数値データが設置許可申請書に掲載されている。海流というものは、同じ地点でも時と場合によって絶えず向きを変え、同じ向きでも速さも変わる確率事象である。そのため測定データは、@海流の方向(北、北北東、・・・、南、・・・、北北西)がどのような頻度(確率)で出現しているか、A例えば北向き海流として、速さはどのような頻度(確率)で出現しているかというもの。これら実測データをできるだけ正確に反映させて拡散を計算する必要がある。 ◇設置許可申請書が採用した海流――泊地区に放射能があまり流れないカラクリ 設置許可申請書では、海流速度について具体的な数値データを掲載しながら、実際の拡散計算では、いきなりそれらを平均化したらしい表を作り、その表に基づいて拡散を計算している。具体的な数値データからどのようにしてその表が出てくるのか、説明が何もない。必要な部分だけに簡略化してその表を次に示そう。前回は我々もこの表の分類や数値をほぼそのまま採用した。 |
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設置許可申請書が採用した海流 (平成3年変更申請:第5.1-31表及び5.1-32表より作成) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
注:憩流とは、海流が止まった状態をさすが、なぜかここでは、秒速7cm(10〜5月)または1.6cm(6〜9月)で流れるように設定。秒速7cmでも1月に約180kmも進む。その向きは符号どおりなら北と東になるが、全体の傾向から見ると南向きにとっている可能性が高い。海岸方向の西には行かないし、全体的に北流の頻度は低い。 前回解析で、汚染が主に南と東向きに進んだのはほぼこの表を採用したためだった。 |
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この表が設置許可申請書の規定した下北海域の海流である。海流は平均化されているため、海域のどの地点でもいっせいに同じ向きに、同じ速さで動く。全体的に北向き流が起こる頻度は低く、西向き流は皆無で、なぜか止まっているはずの憩流が南北方向(符号からは北だが不明)と東方向にかなりのスピードで動くよう、勝手な想定がなされている。北方にある泊地区や海岸付近に放射能があまり行かないカラクリはこの表の設定、特に平均化操作に由来している。 ◇今回我々の解析で用いた海流――設置許可申請書の観測データに忠実に依拠 今回の我々の解析では、上記表の基になっているはずの観測データに戻って、それをできるだけ忠実に用いることにした。そのデータを見ると、沖合では南向き流が高頻度で出現するが、海岸に近い水深10m付近では北向きと南向き流がほぼ等頻度で出現している。その例を示そう。 下図右は、ちょうど放出口のある水深50m地点で、海面下5mでの、海流の向きの頻度を示している。左側の図はその西で水深10m地点での海流向き頻度であり、S(南)とN(北)がほぼ同程度の頻度で現れている。この傾向は放出口より北でも南でも同じである。 |
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図:海流向きの出現頻度(申請書データより作成) 左図:放出口西、水深10m地点(海岸から約750m)、 右図:放出口のある水深50m地点(海岸から3km) |
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このような水深(または場所)による傾向の違いを(平均化せずに)そのまま生かすような解析が必要となる。そのためには、21地点での観測データ、すなわち海流の向きの頻度と向き毎の速さの頻度を基にして、どの地点でもそれらの量が分かるように予測する必要があるが、これは補間法という方法を用いて実現できる。 このようにして計算した結果が初めの図左側の示す放射能濃度である。 ■実際の海中放射能濃度 初めにも述べたように、最初の図で示しているのは、放出口から毎秒1ベクレル(Bq)の放射能が放出された場合の海中放射能濃度(海水1cm3中に何ベクレルの放射能が含まれているか)である。実際に毎秒放出される放射能をそれに掛ければ実際の濃度が計算できる。 その放出口からの毎秒放出量は、年間放出量を1年間の秒数で割ることによって得られる。その値を下表の一番右の欄に示す。 |
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設置変更許可申請書(平成3年)第5.1-33表(p.7-5-114)による海中放出放射能
ヨウ素129とアルファ線を出すプルトニウム(α)で約5倍)。例えば、10^8=10の8乗の意味。 |
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例えば、最初の汚染図の黄色部分は約5×1E-10Bq/cm3、すなわち1cm3中100億分の5ベクレルであることを示している。そうすると例えばトリチウムで見ると、毎秒5.7×10^8(5.7億ベクレル)放出されるから、これを掛けると黄色部分には1cm3中にトリチウムが0.285ベクレル含まれることになる。1リットル中では285ベクレルということになる。これは非常に高い値である。 この表から、他にも重要なことが読みとれる。 ◇膨大なプルトニウム放出量 アルファ線を出すプルトニウム(α)は、年間に海中に42億ベクレル放出される。これは原発から 最大級の重大事故で放出されるプルトニウム(α)量の約23倍にも相当する。別にある大気中への放出量3.3億ベクレルを合わせると年に原発重大事故25回分のプルトニウムが放出されることになる。すなわち、プルトニウムに限れば、再処理工場では2週間に1回の頻度で原発重大事故が起こることになる。 ◇異常に高い放出口での放射能濃度 上記表で★印をつけているのは、放出濃度が原発などの場合の濃度規制値を越えているものである。 その規制値とは原発などに適用される通産省告示による「周辺監視区域外の水中の濃度限度」である。トリチウムで350倍、プルトニウム(α)とヨウ素129で約5倍も濃度が濃度限度を上回る。ところが、再処理工場の場合にはこのような濃度規制が見あたらない。原子力安全委員会の「再処理施設安全審査指針」では、指針7で「放射性廃棄物の放出管理」について記述しているが、「濃度及び量を合理的に達成できる限り低く」と書かれているだけである。結局、再処理工場の場合は、原発の濃度規制値を下回るように、合理的に低くすることが不可能だということである。規制を厳しくすれば運転できなくなることが、すなわち「合理性」だということになる。 ■問題点と今後の課題 ここでは設置許可申請書に記載されている海流データをできるだけ忠実に反映させるようにしたが、そこにはいろいろな制約がある。 ・観測された場所が放出口から北に20km、南に20kmの範囲に限られている。 ・海流の向きの頻度については北、北北東などと細かく分けているものの、速さの頻度のデータの場合は、方向を東西南北と4方向だけに限ってしまっているために、結局はこれに制約されてしまう。そのため、南ではなく南南東に流れている風な傾向がうまく実現できていない。 ・データの記載されているのが6月、8月、11月、2月だけである。 それでも設置許可申請書よりは、はるかにリアリティのある解析結果を出すことができたと自負している。 今後の課題としては、何と言っても解析範囲を広げることである。第1に八戸港まで広げ、八戸港付近の放射能汚染を詳細に検討したい。新基準に基づく八戸港海図が1月20日過ぎには販売される予定になっているのでそれを活用したい。ただし、この付近の海流データがないので、もっぱら理論的予測に頼らざるを得ないのが残念な点である。その後できれば三陸海岸付近まで解析範囲を拡大・延長したいが、そのためには何とかして海流データを入手したいものである。 また、このような海の汚染とは別に、大気中への放射能放出問題が控えている。 |